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その56歳の未亡人とは、映画館で知り合った。それも偶然隣に座って映画を見ているうちに、お互いの腕が触れ合い自然に愛撫に変わっていった。
映画が終わって、並んで歩きながら「来週も来るので、また会えませんか、1時半頃ここの前で待ってます」と言ってすぐ離れた。
少し警戒している様子だったので、あまり期待はできなかった。
当日15分位前に行くとまだ来てなかったので、待つことにした。間もなくこちらに近づいてくる婦人を見て驚いた。
こんな上品な人だったのかと疑ったが、向うがはっきり私と認めていることから間違いない。
こんな人によくも気軽に声をかけたものだと思った。
「どうもお待たせしました」
正面から顔を見るのも声を聞くのも初めてだが、服装や物腰からして私とは階級が違う。
「お待ちしてました」と答え、一緒に中へ入った。
どうやら私よりも先に来ていて、隠れて観察していたらしい。それが契機で、2、3回映画館で会ううちに親しくなった。
世間知らずの本当に良い人だった。
主人を亡くし、淋しさと孤独のなかで、気晴らしに一人で映画を見に来ていたのだ。
子供二人は結婚していて、一人で暮らしていた。ラブホテルでは失礼なのでシティホテルを使った。お淑やかに見えるが、体は淫蕩的だった。
初め慎ましやかだったので、優しく接していると慣れてきたので、より一層淫靡な世界へと誘うと、悪魔的な快感に耐えていたが、抗しきれずに遂に応えてしまい、そして肉欲の奈落の底へと落ちていった。
一度飛騨の高山へ行ってみたいと、予約して旅費まで出してくれ、一泊で出掛けた。
旅館ではゆっくりくつろぎ、解放感もあって、体だけでなく、心の底まで曝け出して、必死になって向かってきた。
自分でも知らない別の自分に支配されているようで、身も心も全開させ、命を懸けて快楽を追求し、生きようとする。深化するのにつれて欲情も強くなり、恥じらいながら誘うようになってきたので嬉しかった。
彼女の顔は、新しい喜びを知って充実した人生に輝いてきた。
この旅行で、二人の絆は固く結ばれた。私達の夫婦仲がよくないことを漏らすと、一緒になりたがったが、私は前の離婚で大失敗をしているので、それに懲りて躊躇した。
だが、彼女はすぐに息子と娘に打診した。そして反対された。子供らは急いで私に会いに来た。人のよい母に巧いこと言って近づき、財産目当ではないか、もう近寄らないでほしい、と一方的に激しく非難した。
私は腹が立った。色々と相談にのってあげただけで、何もそんな約束はしていないし、私には妻があり、離婚するつもりもない。お母様がなぜそのようなことを言われたかのかよく分からないと反論した。
子供たちが母親の騙されるのを心配する気持ちは分かるが、本人の気持ちを理解せずに、自分たちの意志を通したことは間違っている。
私たち二人は互いに身も心も許し合って固く結ばれていると思っていた。
彼女は子供たちから結果を聞くとすぐ会いに来た。
「子供にはよく話して、分かってもらうつもりです」と熱心に話し、必死になって哀願したが、無理をして、悪いことになった場合を考えて、反対に無理やり説得しようとしたが、「どうしても奥さんとは別れられへんのやねぇ」と泣いて別れた。
それから2日後に「相談したい」と言うので会うと、子供らは、どうしても許してくれない。
恥ずかしくて本当のことは言えないし、困っている。
そして、奥さんとの離婚も諦めるので、どこかでアパートを借りて逢うようにしたい。
私は前の彼女と同じことを聞かされて恐くなった。それで、隠していてもいつかは分かるので、その時には予想もしない悲惨な結果になるから、それはできない。と説得したが、駆落ちでも何でもするから、と言い出したので閉口した。
一時の感情で、一生を台無しにし、皆から笑われるようなことになったら、それこそ大変である。私も責任があるからそれはできない。あなたをこれ以上不幸にすれば、子供さんにも顔向けできない。
あなたをこんなことにしてしまった私が悪かったので、許してほしい。今までのことは無かったことと思って、元の生活に戻ってほしい。と涙ながらに説得した。
彼女も泣いて「もう一度よく考えてみます」と言ってくれたので助かった。辛い別れだった。
それからずーっと後になって気がついた。彼女は私を信頼して、すべてを投捨てて愛に生きようとしたのに、私は責任を取ろうとせずに逃げてしまった。
私の内なる声は叫ぶ「人殺し!」それも善良なる人を殺したのである。
時は止まってはくれない。それは、遙か彼方へ行ってしまい、もう取戻すことはできない。
(メールによる体験告白より 2012年3月28日)
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彼女との別れはさぞ辛かったことでしょう。しかし私は、それで正解のように思いますね。だって、遊びとまでは言わなくても、何も結果を求めず、ただ一緒にいる時間を楽しむ、程度には割り切れる人でないと、本当にあとでどんなことになるかわかりませんから。
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