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私が大学時代に住んでいたロフト付きのアパートは、壁の薄い物件でした。
そこにきて住人の大半が一人暮らしの大学生ですから、通路を歩いているだけで男女の切ない声が耳に入ってくるという、まだ童貞だった私にとってはあまりにも刺激の強い場所でした。
ある冬の日のこと、隣の部屋から男の話し声が聞こえてきました。その部屋の住人、女子大生のかよちゃんにも、とうとう彼氏ができたようです。
壁越しに聞こえてくる二人の話し声はとても楽しそう。普段はやや低く、落ち着いた感じの彼女の声も、今日は本当に嬉しそうに弾んでいます。
ふと気づいた時には、その二人の会話は途絶え、隣の部屋は沈黙に支配されてしまいました。
思わず聞き耳を立てた私の希望通り、壁の向こうでは、かよちゃんの途切れ途切れの吐息が聞こえてきました。
恥ずかしさの中で堪えようとしても堪え切れずに漏らしてしまう、少し鼻にかかったか細い吐息。作り物ではない吐息、ただの吐息が、これほどまでに男心と股間に響くものだったとは……。
「恥ずかしいよぉ……。もうやめて……。もう見ないで……。舐めないで……」
彼女の懇願に、彼氏のくぐもった声が答えます。
「大丈夫、コタツの灯りじゃよく見えないから」
やがて、コタツの中から出てきた彼氏がささやきました。
「上、行こうか?」
「うん……。もし『痛い』と言っても、この前みたいに途中でやめないでね」
まだ処女だった彼女と、その彼氏がロフトへの梯子を上っていきます。私も同じように、自分の部屋の梯子を静かに上りました。
隣室の壁際に置かれているはずのベッドから、チュッ、チュッ、ピチャ、ピチャという音がはっきりと聞こえてきます。しばらくすると、彼女に舌や唇の使い方を教える彼氏の声と、その気持ちよさそうなため息も聞こえてきました。
そして、いよいよ、かよちゃんが「大人の女」に変わろうとする瞬間がやってきました。
しかし、彼女と同じように固唾を飲んで身構えていた私の耳に飛び込んできたのは、「ダメだ、やっぱり入らない。」という彼氏の声と、「ごめんね・・・。でも幸せだよ」という彼女の声、そして重ねられた二つの唇と舌が奏でる愛の音色でした。
それからというもの、月に何度かは、隣の部屋から二人の声が聞こえるようになりました。
私が、かよちゃんの吐息を初めて耳にした日からほぼ1年が経とうとしていたある日、部屋のロフトで寝ていた私は、チュッ……、ピチャ……、という音で目を覚ましました。
悶々として暮らす男子大学生が、この音を聞いて寝ていられるわけがありません。早速息をひそめて壁に耳を当て、様子をうかがっていると、壁の向こうからは2種類の女声が聞こえてきました。一つは、かよちゃんの弱々しい吐息。もう一つは、男優の激しい指使いや舌使いに応えるAV女優のハイテンションな喘ぎ声。隣室の二人はどうやらAVを観ながら、繰り広げられる行為を実践しているようです。
しかし、その二人には画面を凝視するだけの余裕は既に無いようで、AVそっちのけで、二人の世界に入り込んでいるような空気が、壁の向こうから伝わってきます。
しばらくお互いの体を舐めあっていた二人が体勢を変えたようです。そして二つの腰が一つに重ねられたようです。
次の瞬間、二人の口からほぼ同時に、驚きと感激の入り混じったような声が漏れたのです。
「あ……、入った!」
「いつもみたいに壁に当たって、これ以上進めないかと思ったら、今日はズブッと入っていったよ」という彼氏の声と、「やっと入ったね……。ここまで長かったね」という彼女の声。そのどちらもが感慨深げな声でした。
二人の記念すべき一瞬に、壁越しに立ち会うことができた私も、これまでの二人の粘り強い頑張りを思い返して、感動を覚えておりました。
その後、彼女は少し痛そうな感じではありましたが、彼氏を無事、フィニッシュに導くことができました。
こうして、かよちゃんの「大人の女」への長い道のりが終わりました。
その翌日から2〜3週間、アパートを留守にしていた私は衝撃を受けてしまいました。
隣の部屋から、時に吠えるような、時に絶叫するような大きな喘ぎ声が聞こえてくるのです。
声を上げているのは、紛れもなくかよちゃんです。
そこには、恥ずかしそうに小さな声を漏らすだけだった彼女はもういません。僅か2〜3週間前の間にここまで変わってしまう「女」というものの成長の早さに驚くとともに、薄い壁を震わせるほどに激しい彼女の声と、乱れっぷりにも、男心を鷲掴みにされつつあった、その瞬間。
「いい加減にしろ!!」
かよちゃんの部屋の反対側の壁が激しく叩かれ、住人の怒号が響きわたったのです。
この日を境に、隣の部屋から彼氏の声が聞こえなくなりました。
そして、これが原因ということは無いでしょうが、最終的に二人は別れてしまったようです。
自分の彼女をこの部屋に連れてくるのであれば、余程気を付けないといけないな……。この一件で気づかされた私でしたが、そんな心配は無用でした。
大学での生活を終えるまでの間に彼女ができることなど無く、部屋に足を踏み入れる女性も、様子を見に来た母親以外にはありませんでしたから。
いっそ思い切って隣のかよちゃんにアタックし、激しく悶えるあの声を、他の誰よりも近い場所で聞くことができるように努力すればよかったと、しきりに後悔する今日この頃です。
(心に残る最高のセックス掲示板より 2013年5月25日 )
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しっかり観察……いえいえ、聞いていただけですから、観聴でしょうか。それにしても、ロフトまであるオシャレな部屋だというのに、壁は安普請だったみたいですね(笑)。かよちゃんへのアタックですか? 今ならきっと男の魅力で落とせるでしょうけれど、当時、そうしなかったのは、まだまだ男として未熟だったとの自覚が無意識下にあったのかもしれませんよ。そうですね〜、浪漫ならジャガイモか玉ねぎを抱えて、「田舎から送ってきたが食べきれないので」とか言いつつ、きっかけ作りをしたかな? え? ダサい?
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