ヨウシャがその日やって来たのは「売札交換所」である。 ゴールドの売札を手に入れてから2日が経っていた。 森の街道をひたすら歩き、森の中の街では随一の大きさを誇る「ロンギニ」の町に着いた。森の中で売札が交換できるのはここだけだ。ここにはとても大きな泉があり、泉を中心に町が発達してきたのだった。当然のことだが泉の真上には木々が茂っていないので、泉のほとりに立てば存分に太陽の光を浴びることもできた。 水と光。 これらに惹かれて森中から人々がやってくるのだ。 こうして道が拓かれ、整備された。道が整備されるとますます多くの人がやってくるようになり、人が集まれば町が栄える。今では町の中心で8本の道が合流する。そこは大きな広場になっていた。広場を取り囲むように商店や宿、食堂、芝居を見せる小屋などが建ち並び、人々が行き来し、また馬車も往来した。 いつの頃からかこの広場には10日に一度、市が立つようになった。この日ばかりは馬車は乗り入れることが出来ない。また、祭りが月に一度行われた。満月の日である。祭りは唯一の娯楽であり、男女の出会いの場でもあった。全ての仕事は休みとなり、娼婦達も身体を売らない。そのため売春宿の部屋は不要となる。そこで、祭りの日は売春宿がラブホテルになり、恋人達に開放されるのだった。 この国の性は周辺諸国に比べて比較的あけすけなのだ。 ヨウシャがやってきたのは祭りとは関係のない日だったが、それでも賑やかなことに変わりはない。 森を切り開いて出来た町なので、随所に立派な木が立っている。町が発展していく過程で、切る必要の無かった木はそのままにされたのだ。だから町のあちこちにはこかげという恵がある。風が吹けば枝や葉がさざめいた。枝振りのいい木の下にはさりげなくベンチなども置かれている。 |
「売札交換所」は広場の裏手とでもいうべき場所にあった。広場から8方向に伸びる道のひとつを進み、2度右に曲がる。Uターンしたような格好だが行き止まりで広場には戻れない。 表通りから直接視界に触れないその路地の一番突き当たり、ふくよかという表現がぴったりくることさら枝葉を発達させた大木に抱かれるように、「売札交換所」はひっそりと立っていた。 この路地には何件かの売春宿がある。 売春宿は祭りの日にはラブホテルになるので、娼婦や男達だけでなく、普段は縁のない普通の女性もこの場所のことについては良く知っていた。女を買う時間にはまだ早いのだろう、通りは静かだったが、短い行列の出来ているところがある。そこが交換所らしかった。並んでいるのは女が3人。うち1人は老婆だ。あんな年齢になっても身体を売って暮らしているのか? さらに、男が1人。男娼らしかった。 売札交換所の建物から中年男と若い女が出てきた。本当に若い。ヨウシャとさほど変わらないだろう。肌はピンと艶やかで目がぱっちりと大きく、顎のラインにあどけなさが残っていた。女はそのまま歩き去り、男は列の一番前にいる女を中へ招き入れた。どうやら建物の中には1人づつしか入れてくれないようだった。 なるほど、ここには持ち込まれた売札も払われる現金も大量にあるはずだ。保安のためには仕方のないことなのかも知れない。 けれども並ばされる娼婦達はみじめだ。明るい太陽の下、「私は身体を売っています」と宣言させられているのと同じなのだから。事実、何の用があるのかさっきからじっとこちらを見ている男が1人いる。売春女とはいかなるものかと見物しているのだろうか。 ヨウシャはそっと列の最後についた。 「あ、さっきの子」と、列の中の女が振り返って言った。年の頃は30代前半だろうか。アブラがのっているという表現がぴったり来る。妖艶とはこの女性のためにあるような言葉である。彼女がサービスしてくれる、そう思うと大抵の男はゾクゾクするだろう。 ヨウシャもこの妖艶女につられて後方を見た。 つい今し方「売札交換所」を出た若い女と、じっとこちらを見ていた男が話をしている。やがて若い女は男の腕にしがみついた。二人して去ってゆく。 「現金ね」と、老婆が言った。 ヨウシャはこの時まだ知らなかったのだけれど、「売札」でやりとりされるべき売春の対価が、現実として現金で支払われるのは珍しいことではなかった。もちろん当局に隠れて、の行為である。いうまでもなくこれは違法である。 男達の中には売札を使えない者もいる。例えば、他国からやって来た者、身分の卑しいもの。女を買ったことを隠しておきたい者。 売札を使うと男はその分の代金を給料からあらかじめ引かれるのだけれど、実際に女の手に渡る金額はそれよりも低い。差額は税金だ。この税金によって売春宿街の保安が保たれ、またこのシステムが維持される。だが現金でのやりとりならば、男達にとっては売札よりも安く女を買え、女達は売札よりも多くの収入を得ることが出来るというメリットもある。金額的な理由で現金売春が行われるのは、馴染みの客と娼婦の間で行われることが多かった。 また、売札を現金に交換するには、売春婦としての登録が必要だ。 登録自体は簡単だが、いったん登録されると足を洗った後も記録が残る。記録そのものが外部には漏れないとしても、交換所ではこのようにして並ばされるのだ。人々の目には明かである。どこそこの誰それは売春婦になったのよ、なんて噂はアッという間に流れてしまう。本格的にそれで食べて行くならそれも悪くない。いい女なら噂が噂を呼んで客がどんどんつくからだ。 しかし、ちょっとした小遣い稼ぎなら、記録に残ったり、うわさが流れたりするのは困りものなのだ。自分の将来に影響する。 セックスに鷹揚なこの国ではあまりこだわらずに色々な人と交わるし、金銭がそれに絡むことも珍しくない。 ただ、「誰だってやってるもの」「でも、売春婦の烙印を押されてしまうのはイヤだ」ということなのだ。 システムが整えば整うほど、はみ出す者が出てくるのは世の習いである。 だが売札の制度がなかった頃は3割以上の女が身体を売ったという記録が残っている。この中には職業人もあればたった一度の経験も含まれるわけで、全てが売春婦というわけではない。女を買わない男は同性愛者と不能者だけだと言われていた。 つまり、女を買うことが社会常識になっていたのだった。 |
「あら、見かけない顔ね。はじめて?」 妖艶女が振り返ったはずみに、ヨウシャと目があった。 「はい、初めてです」 「随分若いのに、覚悟のいいことね。ずっとこの商売でやっていくのね」 売札を現金に交換するのはプロ、ということなのだ。 「いえ、そういうわけでは。。。。」 おずおずとヨウシャが言うと、その場の雰囲気が変わった。 「あんた、ここがなんだかわかってならんでいるの?」 咎めるような口調に、バカにするんじゃないよというニュアンスを含んで妖艶女が言う。老婆の眼光が鋭くなる。男娼は「ほほう」という顔つきになり、ヨウシャをマジマジと見つめた。 「これ、」と、ヨウシャはゴールドの売札を差しだした。 「わたし、旅をしているの。で、ある人と寝たら、これをくれて。。。。」 「あ、あんた。。。。流しの娼婦かい? それにしても、その若さでゴールドもらえるなんて、すごいじゃない」 妖艶女の態度が変わった。「ガキのくせにわかってるの?」から「すごいじゃない」に。 「娼婦というわけじゃないんだけど、わたしにはこうするしかないから。。。」 こうするしかない。それは、湧き出てくる欲望を抑えるために適度なセックスを繰り返しながら、しかも溺れてしまわないように理性を保ちつつ、旅をする。そういう意味なのだが、一同は「身体を売るしかお金を稼ぐ術がない」と理解した。 「なにか事情がありそうね。でも、さっき、あんた始めてって言ったわよね」 「はい」 「目的を果たしたら、旅を終えたら、もう身体を売ることもない。そういうことかい?」 「多分、そうです」 「だったらこんなところで売札を現金にしたらダメだ。ここで換金するためには登録しなくちゃいけない。いいかい、登録するっていうことは、生涯この道でおまんまを食べるって事なんだよ」 「でも、お金もないんです。せっかくもらった売札だから。。。。 もしお金にするのに登録するしかないんだったら、わたし。。。」 「ばかね。抜け道なんていくらでもあるんだよ。ね、トコさん」と、妖艶女は老婆に向き直った。老婆はトコという名前なのだろう。 「わかっているよ、コリナちゃん」と、老婆トコが返事をする。 コリナちゃん、とヨウシャは喉の奥で繰り返した。わたしだったらコリナさんと呼ばないといけないな、などと考える。 「いい? お嬢ちゃん」と、老婆トコは手提げ鞄の中をヨウシャに見せた。そこには大量の売札が入っている。 「これはあたいが稼いだんじゃない。預かってきたのさ。この歳で買ってくれる男なんていやしない。買ってもらおうとも思わないしさ。でも、いったん登録したら結婚が出来るなんてまれな話さ。まともな仕事にもつけやしない。じゃあ、身体が売れなくなったらどうするね。自分で水商売でも始めるか、さもなきゃこんな裏稼業だよ」 「裏稼業?」 「登録したくない女達から売札を買い集めるのさ。あたいの取り分は3割。高いようだけど、これで少なくとも男の前では堂々と身を売れるのさ。登録しないままでね」 ヨウシャはなるほどと思った。 「あんたも、トコさんに売った方がいいよ。取り分は少なくなっても、絶対その方がいい」とコリナは言った。 そうかも知れない。ここで登録しておいたら各地の売札交換所で堂々と換金できるし、自分自身のことはどうでもいいやという気分になっていたヨウシャだったが、これから会おうとしているのはアスワンの王子、売春女というだけで逢えなくなってしまう可能性があるかも知れないと考えた。 制度上娼婦の身分が低いということはない。謁見も選挙も一般市民と同等の権利を有している。問題なのは世間の目なのである。 「わかりました。お願いします」 ヨウシャはゴールドの売札を老婆トコに渡した。 「じゃ、これね」 老婆トコががま口からとりだしてヨウシャにわたしたお金は、ヨウシャの想像を遙かに上回る金額だった。 「ここから、3割、払えばいいんですね」 「もう、抜いてあるよ。そりゃ全部あんたのものさ」 (これだけあれば!) ヨウシャの頬に赤味がさした。 「そうか、相場も知らなかったのかい」 コリナが呟いた。 「しばらくこういう生活を続けるんだろう? 色々教えてやるから、市場の食堂で待ってな。わたしも換金したらそこへ行くから」 ヨウシャはコリナが優しいお姉さんに見えた。事実この時のコリナはそんな気持だったんだろう。 「わかりました。待っています」 「この通りの出口で現金買いをしたい男達があんたを狙っているよ。無視するんだね。いずれも身分の卑しい男か、妙な事情のあるヤツばかりだからね」 この2日間ヨウシャはセックスをしていない。果たして誘いを断れるかどうか自信がなかったけれど、『わかりました』と答えるのだった。 |
ヨウシャがこの路地に入り込んだ時、この売春宿街と売札交換所の様子をうかがっていた男は1人だった。 その男は若い女と連れだって去っていった。 にもかかわらず、ヨウシャが滞在したほんのわずかの間に、新しい男がやってきてた。しかも3人。 こんな時間帯に女を買えるなどというのは、特殊な職業に就いているか、卑しい身分かのどちらかだった。もっとも特殊な職業であれば堂々と売札を使えばいいのだから、もっぱら卑しい方だろう。 ちなみにこの国で「卑しい」とされているのは、定職を自ら進んで持とうとしない者や、かつて犯罪を犯した人などである。売札が使えないのはもちろん、各種権利が制限されている。 3人の男は一定間隔の幅をとって道の脇に並んでいた。みんな食い入るようにヨウシャを凝視している。品定めをしているのではなく、牽制しあっている様子だ。 品定めなら必要はないだろう。ヨウシャの容姿なら充分客が取れる。 ヨウシャは道の傍らに立っている男達の前を順番に通り過ぎる。 誰か声をかけてくるだろうか。声をかけられたら断れそうにない。ヨウシャの性欲は爆発寸前の所まで来ているのだ。 適度にセックスをしながら旅を続ける。・・・・その大切さが身に染みてわかった。2日間の空白が、ちょっとした刺激でヨウシャを狂わせるところまで、飢えた状態に導いていた。いましもヨウシャを餌食にせんとする男達の視線を感じて、ヨウシャはもはやアソコがじれったくなってくる。 ひとり目の男の前を通り過ぎる。男は視線でヨウシャを追う。だが、声をかけてこない。ふたり目。やはり男はヨウシャをやり過ごす。 この3人の男達に上下関係でもあるのだろうか。最後の男が見初めたなら、後の二人は遠慮せざるを得ないのだろうか。 だが、3人目の男もやはりヨウシャに対して何らアクションを起こさなかった。 このことがかえってヨウシャを身もだえさせた。 じゅるじゅるとねばっこい液体が太股を伝い始める。 (ああ、誰かわたしをメチャクチャにしてえ!) ヨウシャの心の叫びが聞こえたのか、3人のうちの誰かがヨウシャに後ろからむしゃぶりつくように食らいついてきた。 (え? 何?) 恐怖心と同時に期待感が膨らんでくる。 前のめりになって体制を崩したヨウシャの、左手の肘の辺りを男が掴む。 体勢を崩しているから踏ん張ることも抵抗することもできない。もっともヨウシャにそもそも抵抗する気がない。ズルズルと引きずられるようにして、一件の空き家に押し込まれた。 空き家の内部は荒れていた。入り口の扉もきちんと閉まらなければ、窓ガラスもあちこちが割れている。床には何となく薄汚れた布団が散乱している。いかにも、はみ出し者がそのためだけに使っている、という荒れた雰囲気が感じられた。 ヨウシャはアウトドアでの経験はあったものの、そのためだけに使われている廃屋で半ば犯されるようにセックスしたことはない。 男は掴んでいた手を振り、ヨウシャはその場に膝をついた。 男はポケットからくしゃくしゃになったお札を取り出し、ヨウシャの胸の谷間に突っ込んだ。 こんなに荒っぽく胸に手を突っ込まれたのは初めてだった。プレイとしての乱暴なセックスは嫌いじゃないけれど、わたしそのものに対して粗雑な扱いを受けるのは悔しかった。 男はヨウシャの肩に手をかけて仰向けに押し倒した。スカートをまくり上げ、パンティを引きちぎるように取り去った。下半身がむき出しになるヨウシャ。 ニヤリと笑った男は、やはり下半身だけを脱ぎ、そのままヨウシャにのしかかってきた。 顔にかかる男の息が臭い。 廃屋で代金を受け取り、下半身だけをむき出しにした状態で、男と交わる。男の身分は卑しく、目は血走り、息が臭い。男の目的はただ射精することのみ。性欲の処理にのみ女の肉体を利用する。そこには性の悦楽を授けたり受け取ったりということもなければ、深く溺れるようなエロティシズムも、心がとろけるようなロマンティシズムもない。 女が性欲の処理物体におとしめられているだけ。 屈辱だった。金と引き替えに身体を差し出すというのはこういうことなのかと思った。 だが、身体は反応するのだった。 自分がただの物体におとしめられ、男はただ必死になってピストンしている。自分はただの性欲処理の道具なのだ。 そう思うと、悔しさと同時に、それ以上の奇妙な快感が押し寄せてくるのだ。 そう、わたしはお金と引き替えに男の中の本能を機械的に受け入れるだけの、穴。 ある種の自虐的な思いが興奮をもたらすことにヨウシャは驚きを隠せない。 何の技術も弄せず、ただただ突きまくる男の行為に、遅まきながらヨウシャは昇りはじめたのだった。 ヴァギナから子宮口にかけて走る快感があふれるジュースとなって滴る。 我慢できなくなったヨウシャは、男と自分の体位を上下入れ換えた。女性上位である。ヨウシャは腰を浮かせては、抜ける寸前のペニスをヴァギナの入り口で締めるということをいつの間にかやりはじめていた。 その瞬間の男の顔はなかなか見物である。 吸いかけた息が止まり、なおかつ口は半開きで、刺激と恍惚で目が不安定な状態になる。 そうしておいてヨウシャは、奥深くに突き刺さる感覚をむさぼるかのように、腰をどすんと落とす。 子宮口を突き壊してしまいそうなほどの強い圧迫にヨウシャは酔い、男は鬼頭に激痛を受けて悲鳴を上げた。 ヨウシャの膣がとりわけ短いわけでも、男性器が長いわけでもない。 腹筋を駆使してヨウシャは子宮の位置を上げ下げできるのだった。特別に筋力が発達しているのではない。セックスに関するいろいろなことが、あの日以来次々と目覚めるのだった。 ペニスが深く差し込まれたとき、ヴァギナの入り口は大きく開く。より深く挿入しやすくなるわけである。自分が上になって腰の上げ下ろしをするということは、ヨウシャが快感を自由にコントロールすることでもあった。さらにヨウシャは前後左右に腰をグラインドさせた。膣壁とペニスの摩擦具合がかわって実に刺激的だった。 |
ようやくヨウシャはこみ上げるような恍惚の入り口に辿り着いた。 男は既に絶妙の腰の動きによる快感で、無意識のうちにペニスをヒクヒクさせているだけだ。口からは激しい吐息が漏れている。されるがままになっていた。 「いい。いい。お前は最高だ」 というようなことをハアハア言う合間に時折漏らすに過ぎない。 何度も何度も発射寸前になりながら、そんなときに限ってヨウシャがドンと腰を下ろすものだから、鈍くて強い痛みが男性器を駆けめぐるのだった。なかなかいかしてもらえない。それでも徐々に鈍い痛みがいいようのない心地よさに変化していく。 ヨウシャは自分で乳房を揉み、乳首をつまんだり引っ張ったりした。今まで出逢った男にくらべて明らかに物足りないのだ。だから自分でするより仕方がない。 ふと思いついて、ヨウシャは傍らに落ちていたぼろ切れを男の口に突っ込んだ。 一瞬男は目を剥いたが、そういうアブノーマルさにまた溺れていく。 そして男は、不意に手を伸ばしてヨウシャの首を絞めた。 「あふっ!」 頸動脈と気管を同時に拘束された。苦しい、という思いは瞬時に消え去り、脳の中から解けていくような快感がヨウシャを包み込んでいく。遠のく意識の中で、下半身を支配している快感だけが増してゆく。小刻みな痙攣が起こり、ドロドロと愛液がだらしなく垂れ続ける。 ヨウシャが白目をむく寸前に、男は手をゆるめた。 カーッと頭の中が熱くなり、意識の再生と共にヴァギナに突き刺さったペニスからくる刺激がより鮮明になる。 すると男はまた首を絞めた。 何度かそんなことが繰り返されるうちに、男は極度の興奮に陥り通常の能力を超えてペニスを怒張させ、ヨウシャは限りなく夢幻の世界に旅立とうとしていた。 朦朧と快感の虚空に放り出されたヨウシャ。男が手をゆるめる度に自分が惨めな状態であることを意識の片隅で認識する。 よだれ、おしっこ、大便。。。。 垂れ流し状態になっている。 だがすぐに男の手には力が入り、どこだかわから無いところを恍惚のなみに飲み込まれながら彷徨い始めるのだった。 (ああ、もう手をゆるめないで。このままいかせて) |
ヨウシャの脳細胞の働きは極端に低下していた。外界からの刺激はセックスによるもの以外は全て遮断され、無重力の中でひたすら深い快感に沈み込んでゆく。このまま最後までいくこと、それは脳細胞の働きが完全に停止してしまうことだった。 (いい、とってもいい、このままながされてしまいたい) 全ての間隔が溶け合い混ざり合って、やがてゼロになろうとしていた。 その時である。ヨウシャを死の淵から救い出す助けの手が現れた。売札交換所で出会ったコリナとトコだった。 「見つけた!」と、コリナが叫び、 「この男は、またやってるよ」と、トコが呟いた。 コリナの手には棍棒が握られ、トコは両手で重量感あふれる意志を抱いている。 男はとっさに逃げようとしたが、その身体の上にはメロメロになったヨウシャがいる。 口の中に詰め物をされ、能力以上に勃起させた男は、本人の気付かないうちに酸欠状態になっていた。 あふあふあふ、と声にならない声を上げているうちに、二人が駆け寄ってくる。逃げられない。 観念した男の脳天に棍棒が振り下ろされた。男が卒倒しているうちにヨウシャが助け出される。 トコがヨウシャに渇を入れ、コリナが垂れ流しの下半身をぬぐってやった。 徐々に現実に引き戻されるヨウシャ。 やさしく動くコリナの介抱の手に、ヨウシャが反応したのはこの時だった。 背中がエビぞって全身に激しい痙攣が走る。 驚いて後ずさるコリナ。 ヨウシャの顔に赤味がさし、うっすらと瞼が開いた。コリナの存在を確認して微笑みながらヨウシャは言った。 「いっちゃった」 |
この日ヨウシャはコリナの家に泊めてもらうことになった。 少なくとも普通に歩けるようになるまで滞在したらいいとコリナは言ってくれた。意識は戻ってもまだまだふらつき、まっすぐに進めないのだ。 コリナはヨウシャのために暖かくてふかふかの布団と、栄養たっぷりの料理を用意してくれた。 食事の用意が整う頃に、トコもやってきた。 そして、もうひとり。。。。。 男か女かわからない鋭くも美しい顔つきをした「月光」と名乗るもの。東洋系であることは確かだったが、まさしくその存在は東洋の神秘とも言うべきものであった。 この出会いが、ヨウシャの旅をまた一段とドラマティックに展開させることになるのだけれど、この時のヨウシャはまだ知る由もない。 |