ヨウシャはサナとの二人旅を続ける。2人だけではない。2人と一匹だ。白猫のハックンが付かず離れず彼女達に寄り添っていた。 宿を出て歩くこと二日。途中でいくつかの道が合流し、多くの旅人が目立つようになってきた。往来で人とすれ違うことはこれまでほとんどなかったが、今はひっきりなしである。 すれ違うだけではない。ヨウシャたちと同じように都へ向かう人も多い。前方にも人、振り返っても人。茶屋や宿屋はひっきりなしにたっており、集落も多く、怪しげな露天商も徐々に増えてくる。 奇術を演じる大道芸人がいるかと思うと、その道具の販売などをはじめたりする。笛一本で猛毒を持つ蛇に演技をさせる蛇使いや、明らかに自分の身体よりも小さいと思われる箱に入って見せる者など様々である。立ち止まってそれらを見物する者は、小銭を芸人に投げ与えてからその場を立ち去る。 人気のある芸人のところには人垣が出来ており、何をやっているのかすら外側からではわからないほどだった。 「ああいうのはサクラだよ」と、サナは言った。 「サクラ?」 「金で見物人を雇うのさ。大きな人垣が出来てると、中を覗きたくなるだろう?」 「うん」 「カモが人垣の外側に取り付く。背伸びをしたり、身体をずらしたりして、なんとか中を見ようとする。そうすると、人垣は巧みにそいつを中央部に招き入れる。人ごみを掻き分けようとしている見物人に、上手く合わせてやるんだよ。最前列にたどり着いたところで、やっているのはつまらない芸だったり、ひどいときは休憩中で芸人は座りこんでタバコなんぞ吸っている。なんだつまらんと回れ右した途端に、人垣に取り囲まれて外へ出ることが出来なくなっている自分に気がつく。そして、有り金巻き上げられるんだ」 「ふうん」 世の中色々な商売があるものだとヨウシャは思った。 |
往来する人はどんどん増えて、やがて行列になった。そうすると、自分のペースでは歩けなくなる。前も後ろもその行列のペースで歩を進めており、それに従わなければならない。軍隊の行進でもないのに....。人の流れが2人の歩みを導いている。 もと騎士で特殊能力者のサナには造作ないことだろうが、ヨウシャにとってそのペースはすこし早かった。これまで大自然に包まれて旅をしていたせいもあり、人いきれにもヨウシャはあてられてしまった。 「辛そうだな」と、サナ。 「うん、ちょっと」 「今夜は宿に泊まろう」 「はい。でも、少しでも先に進んでおかないと」 「あまり時間がない?」 ヨウシャはコクリと頷いた。その瞳は悲しげな彩りを宿している。タイムリミットが近いことをヨウシャの本能が知らせていた。 「都の城壁はそう遠くない。だが、検問を受ける前にしっかり休んで体力をつけておかなくてはな」 「体力?」 「そう、すぐにわかる」 人々の歩く速度が極端に遅くなってきた。 「そろそろ限界。これ以上先へ進むと、検問を並んで待つ行列と区別がつかなくなる。そうしたら、抜けることも、途中から入ることも出来なくなる。ほら、ちょうどそこの宿に泊まろう」 |
「酒があんたの呪いには効果があるようだな」 サナは夕食にあわせて酒を持ってくるように注文した。 食事が済むと、「抱いてください」と、ヨウシャはサナに頼んだ。 「もちろん、そのつもりだ。一方的に奉仕するのは好みじゃないが、あんたの愛撫もたいしたものだからな」 サナは両手で自分の胸を中央に寄せながら持ち上げて、胸の谷間を窪み状にした。 そして、残してあった酒をそこに注ぐようにヨウシャに言った。 「こんなところにお酒を入れて、いったいどうするの?」 「ヨウシャ、あんたが飲むんだよ」 「え?」 「ほら、あたいのオッパイから、唇で酒を吸い取るんだ。一滴も残すんじゃないよ。吸い尽くした後は、舌で綺麗に舐めるんだ。そう、一滴の雫も残さないように」 サナが言い終えないうちに、ヨウシャはサナの胸にむしゃぶりついていた。ヨウシャは唇を尖らせて窪みに貯まっている液体をじゅるじゅると吸い込んだ。そして、舐める。 ヨウシャはサナの手をとって、そっと胸を開かせる。緊縛の重圧から開放されて、サナの胸はプリンと前にせり出した。窓から差し込む月明かりが、サナのオッパイのあちこちに散った水滴をキラキラと輝かせる。 ヨウシャはサナの腰を手で支えながら、下から上へと舌を這わせた。その度にサナは、ヒクヒクと腰を震わせる。 サナの喘ぎ声がヨウシャを刺激した。表面張力で乳首の先端に張り付いた一粒の水滴を、最後にヨウシャは舌ですくった。 「綺麗になりました」 宣言するヨウシャを、サナはゆっくりと押し倒した。 「本当に綺麗になった? あんたは見落としているよ、大切なところ」 床に横たえたヨウシャの両足を、サナはゆっくりと広げた。 「ほら、ここに飛沫が飛び散っている。いや、これは飛沫だなんて量じゃない。粗相をしてこぼしたとしか思えない量だ。ここは自分では拭けないだろう? あたいがきちんとしてあげるよ」 サナの舌がヨウシャの股間を前から後ろへ、後ろから前へと何度も往復した。 「あ! ひいいぃぃぃぃ」 単純に舌が行き来するだけじゃない。微妙な緩急に圧力を加味し、舌の前後を唇までが這っていく。時にそれはそよ風のいたずら、時にそれは重戦車の蹂躙。 「ほら、忘れてはダメよ。あたいにもこんな風にしてくれなくちゃ」 「・・・・は、・・いぃぃ!」 攻守交替と、サナは言った。どちらが功でどちらが守なのかわからないなと思いつつも、ヨウシャは言われたとおりにした。 今日のお酒は、深いルビー色だ。渋さと甘さの同居する独特の味は、この地方特産のぶどう酒だという。 お酒は確かにヨウシャの身体を浄化し、運命の時への進行を少しばかり遅らせる薬効があるようだ。 深い悦楽の淵と天上の恍惚の間を何度も往復しているうちにヨウシャは酩酊してしまった。お酒のせいもあるのだろう。 「ゆっくりお休み」と、サナは囁いた。ヨウシャは部屋の片隅で身体を丸めて寝息を立てていた。 |
勢いよく朝食を食べるヨウシャの姿を見て、サナは「まだ食欲は落ちていないようだな」と言った。 「都へ行くのかい?」と、人のよさそうな給仕のおばさんが言った。 ヨウシャは食事を頬張りながら頷いた。 「なら、たくさん食べておゆき。城壁の検問、いったいどれだけ待たされるかわかったもんじゃないからね」 「厳しいのか?」 サナがおばさんに向かって言う。 「それもあるけどね。なにしろ、入り口が一箇所しかないところへ、各地から色々な人間が殺到するからね。とにかく待たされるんだよ。それに、都は年々広がっているからね」 おばさんの説明は、こうだ。 城壁の入り口(検問所)へ向かう道には、あちこちから街道が合流している。たくさんの人が集まる。人が集まれば沿道で商売が始まる。都の中でなくては商いができないわけではない。税金や色々な制約を考えれば、都の外の方が商売がしやすい。 こうして沿道が賑やかになると、都が広げられる。従来の城壁の外側に新しい城壁が設けられるのだ。そうして、それまで都の「外」だったものが「内」に取り込まれる。 すると、新しい「都の外側の沿道」に、また人が集まり始める。そこそこ発展すると、また都が拡大される。こうして、この都は発展してきたのだ。 都の中は、確かに税金その他の制約が厳しかったが、上下水道が整い、商業だけでなく、学校、医術、娯楽なども発展しており、まさに住めば都で、外へ出ようとする者はほとんどいない。 豊かな都は侵略の脅威にさらされる。そこで、軍事や警備、そして特殊部隊なども精鋭を極めている。 「物流があってこその発展だろう? どうしてそんなに検問に時間がかかるんだ?」 「検問が多少厳しくったって、人や物の往来は盛んだよ。特権があるからね。その特権というのは実績に応じて与えられるのさ。だから、不意の旅人や流しの商人は苦労をするんだよ。けどね、旅人はそこが目的地だから待つし、商人はやがての特権を手に入れるため、我慢するのさ。もちろん、政治や宗教に関わるものは最初から特権がある場合もあるしね」 「ふうん」と、ヨウシャは興味なさそうに言った。自分は旅人であり、待つしかないのだと覚悟を決めたのかもしれない。 「人の歩みの速度は都に近づくにつれゆっくりになるよ。そして、やがて検問の順番を待つ行列になる。その横を、特権を持った者がすいすい通り過ぎる。けれど、行列を離れちゃダメだよ。じっと待つんだ。すいすい行き過ぎるのはあくまで特権のある人だけだからね。そんなのについて行ったら、結局都に入れない。だったらどうなる? 引き返すしかないのさ。そして、列の最後尾に並びなおさなくちゃならない。誰も途中に割り込ませてなんかくれないよ。だけど、正しくどこが最後尾かなんてわからないからね。つまり、ものすごく引き返さないといけないということなのさ」 「よくわかった。ありがとう」と、サナは言った。 |
視界の遥か先、右端から左端まで、黄褐色の蛇が地面に横たわっているのが見えた。これがヨウシャ達の遥か行く末に立ちふさがる、都を取り囲む城壁だった。 「ようやく見えてきたな」と、サナ。 視界の中の城壁の右端は、おそらくカーブして後ろに回りこんでいるのだろう。地平線の彼方に消えていた。さらに右は、海。どうやら海岸線までは城壁で囲まなかったようだ。 都の左側には、そびえる山。国境でもあり、天然の要塞でもある。その山腹に、城壁の左端は吸い込まれている。 ヨウシャはサナに、あれが城壁だと教えられ、身震いをした。肉眼で確認できるところまで目的地に迫りながら、まだまだその道のりは遠いと、本能的に察知したからだ。ざわざわと心が波打った。 (間に合うだろうか?) (ううん、間に合わせてみせる) 行列は遅々として進まず、日が暮れてきた。 「今日はもう一歩も進まんよ」と、すぐ後ろで並んでいた初老の男が言った。 ヨウシャは自分に話し掛けられているような気がしたので、振り返り「どうして?」と、訊いた。 「検問は日の出とともに始まり、日の入りとともに終わる」と、サナが答えた。 行列の人々は、思い思いに就寝の体制をとり始めた。地面にシートを敷いたり、布に包まったり。寝袋を用意している者もいた。 それら行列の横を、背中に荷物を担いだ人が走り去る。 「郵便配達人ね」と、サナ。 「あの人は、特権なの?」 「もちろんな。郵便制度を作ったのが王宮で、維持しているのが都だからな。最優先だ。夜中でも通過できる」 「世の中複雑なのね」 「そういうのを複雑と言うのなら、まさしくそうだろう」 |
ヨウシャはザックを枕にして眠った。その隣でサナは、昼間と同じ格好でごろ寝をしている。 サナは多くの荷物を持っていない。外から見てわかるのは、腰にベルト状に巻きつけたウエストポーチだけである。 しかし、身体のあちこちに武器を身につけているのを、ヨウシャは知っていた。サナの裸体を何度か目にしたことがあるからだ。 それは短い剣だったり、硬い棒だったりする。分銅を先につけた鎖を肩から腰にかけて巻きつけていたりもする。 それらの武器としての使い道はおおよそ計り知ることができるが、中には紛らわしいものもある。 例えば、ピアス。いや、ピアスを装ってはいるが、サナの耳たぶを貫通しているのは、針だ。自分の耳から抜き取り相手の急所に打ち込めば、あっさりと勝利を手にすることができる。 耳だけではない。サナの身体を彩るボディピアスの数々は、全て武器だと教わった。ヨウシャと交わるとき、サナは危険だからとそれらをすべて外してくれた。 ヨウシャが決定的に驚いたのは、サナの性器から、黒くて丸い塊が吐き出されたことだった。大きさは握りこぶしの半分くらい。それが三つ。 「これも、危ないから触っちゃだめだ」とサナは言った。 「そ、そんなところに入れているの?」 「最終兵器だ」 「入れたままで歩いてて大丈夫?」 自分だったら異物挿入の触覚だけで何度もイッてしまうだろう。そういう意味だったのだが、サナは別な意味に受け取った。 「あたいはココの締め具合は自由にコントロールできるからね。不意に締め付けたりしてこいつにショックを与えると自爆する破目になってしまう」 こんなサナの身体だから、武装解除の出来ない屋外の路上で、2人が交わることは出来ない。ヨウシャは今夜は諦めて、周りに気取られないようにオナニーをしようと思っていた。 呼び寄せようと思っていたハックンは身体を丸めて眠っている。 幸いヨウシャは2枚の布を上半身と下半身にそれぞれ一枚づつ巻きつけるだけの衣装なので、少し体位を工夫するだけで自分の感じるところを慰めることができる。 そっとそこへ手を伸ばそうとしたとき、その手首を誰かにつかまれた。 サナだった。 「我慢できないんでしょう? してやるよ。今夜は返してくれなくていい。あたいが一方的にしてやるから、覚悟しな。ただし、声をあげるなよ」 |
ヨウシャはサナに背中を向けた形で横向けに眠った。少し身体を丸くする。隣のサナにお尻を突き出したような形だ。サナは布の裂け目から巧妙に手を差し入れ、ヴァギナからアナルにかけての部分を集中的に攻めた。 限られた動き。しかも、片手で。にもかかわらず、ヨウシャはぐんぐん昇りつめていくのを感じていた。周りにたくさんの人が野宿をしている路上で、こんないやらしい事を。そう思うと余計に興奮した。声が出そうになったので、自分の指をしゃぶることにした。今まで散々太いペニスをフェラしてきた口だ。ヨウシャのかわいらしい手などすっぽりと入ってしまう。指だけのつもりが手首まで飲み込んで、ヨウシャは必死で喘ぎ声を殺した。 その時。 ガガガガガガ! 遠くから聞こえてきた地鳴りが急に大きくなる。地面に耳をつけていたヨウシャの頭蓋骨を、その音が直撃をした。 サナの動きが止まる。ヨウシャの股間からサナの手が消えたと思うと、もう彼女は立ち上がっていた。右手には分銅が握られている。分銅からのびた鎖はサナの身体の中に消えていたが、分銅を投げればするするとそれはサナから解き放たれ、相手を殴打することだろう。 目を凝らすと、月明かりの下に、二頭立ての馬車が猛スピードでこちらへ向かってくるのがわかる。後方からやってきて、あっという間に行列の横を通り過ぎ、都へ突進する馬車。これもまた「特権」なのだろうか。 「急使の馬車か」 つぶやいて、サナは戦闘のための構えを解いた。 ガラガラガラガラ! 馬車の後ろには土煙が舞い上がっている。月明かりでさえそれが見て取れるのだから、馬車のスピードの速さは相当なものである。 お腹の奥を殴られるような爆音をたてて、いま、馬車が2人の横を通り過ぎる。 馬の後ろに連結された車は幌を被っていて、中を伺うことが出来ない。 「よし、この2人の女だ!」 野太い男の声が飛んだ。 「うわ!」 「きゃああ!」 悲鳴をあげたときには、もう既に2人の身体は宙に浮いていた。 恐怖感と浮遊感がごちゃまぜになって、ヨウシャは気が狂いそうになった。 次の瞬間、2人は幌馬車の中にいた。 いったいどういう技法だったのか、ヨウシャとサナは幌馬車の何者かによって吊り上げられてしまったのだ。 どん、と背中に衝撃を受けて馬車に着地した。背中を通してガラガラガラと、車輪が路面を駆け抜ける音が響いてくる。 「く、何者!」 サナの声がすぐ隣で聞こえる。 ボコ 「ぐっ!」 暗くてよく見えないが、サナは殴られたようだった。 ヨウシャは自分まで殴られないように、ソロリと体を起こし、後方を見た。 そこには土煙が湧き上がっているだけで、何も見えない。 ハックンはどうしているだろう? |