黄金門。 それが、都から王宮のある山へのとっかかりに儲けられたガードの名である。 もう一晩「最後の店」に泊まり、若い店主のガズーからいくつかの武器を貰った。もちろん、激しいセックスと引き換えだった。そうして丸1日かかって、ヨウシャは黄金門に辿りついた。 道中、ヨウシャは性器の疼きがちっともおさまらなかった。 それは時おり、ヨウシャの全身を包み込むほどに強く襲って来る。 「いやな、余韻ね・・・」 意識がボーっとなり、視野がぼやけて、その度に昨夜のことが思い出される。それはさしてアブノーマルなセックスではなかった。いや、むしろ、単調とさえ言えた。だが、単調な一方で、とても力強かった。 体位も変えず、なんの小細工もせず、テクニックもさほどない男が、ただひたすらに強く激しく突いてくる。ヨウシャはされるがままで、ガズーのリズムにあわせて声をほとばしらせるだけだ。 けれど、それがまたいい。相手に身体を開いて身を任せているだけで、「好きだ」「やりたい」って気持ちががんがん伝わって来るからだ。 にゃお、にゃおん。 頭の中で昨晩のことを反芻していると、細胞に刻まれた快感の記憶が呼び覚まされ、歩みが止まる。そうすると、白猫のハックンが「おいおい、何をやってるんだよ。目的を忘れちゃダメだぜ」と言わんばかりに、身体を摺り寄せて来る。それでも現実に戻らないヨウシャ。ハックンは仕方なくヨウシャの足首を舐めたりする。 しかしもちろんこれは逆効果。感じ始めたヨウシャは全身が性感帯と化す。ハックンの足首舐め攻撃にいよいよ泉は溢れ出る。 ヨウシャは立っていられなくなりその場にうずくまる。ハックンを下腹部に導く。そしてそのまま、ハックンの舌でアソコを舐められ、イッてしまうのだった。 ネコのくせに、いったい人間のヴァギナのどこがいいのか、ヨウシャに注意を促すという当初の目的を忘れたハックンは、いつものようにヨウシャの性の処理をしてあげるのだ。 |
こうして何度も歩みを中断したヨウシャとハックンだったが、それでもなんとかその日の内に黄金門に辿りついた。しかしそれは、その威厳のある名称からは想像も出来ないシロモノだった。 |
王宮への道はやがて険しい山肌に遮られた。ほとんど垂直に近い壁。見上げれば所々オーバーハングしている。このガケをよじ登ることはほとんど不可能だろう。しかも、そのガケのあちこちには小さな祠のようなものがある。そこから何らかの攻撃を加えられれば、ガケを登ろうとする者などひとたまりもないだろう。 しかし、その祠まで、兵隊はどのようにして辿りつくのか? そう思って、ヨウシャははっとした。この山の内部にトンネルが掘られているに違いない。祠へは山の内側から辿りつくのだ。 現に、自分が進もうとしていた王宮への道も、この先がトンネルになっている。その入口が「黄金門」である。扉が開放されているので、この先トンネルとして続いているということが認識できた。 トンネルは狭い。人が二人、並んで歩くのが精一杯だろう。ただし、天井は高い。馬に乗ったまま通過するためだろう。 黄金門はその名のとおり、扉の表面が金箔で覆われていたが、無残にも所々剥がれ落ちている。木に微細な彫刻が施されているのはわかるが、それすらも欠けていたりして、手入れが全くされていなかった。 黄金門の入口手前の右手に、岩石やらなにやらが崩れ落ちた跡があり、瓦礫が積み上げてあった。門の番人の詰所が破壊され、そのまま放置されているのだ。そのすぐ横にテントが張ってあり、傍らで軍服を着た警備兵が、疲れきった顔をして焚き火をしている。軍服も破れ、汚れていた。男が一人、女が一人。 入口の左側には、おそらく王宮を訪ねて来たらしい老婆と、もうひとり年齢が良くわからない男が、座りこんでいた。地面を見つめ、時々空を見上げたり、トンネルの中を覗き込んだりしているが、すぐに諦めたような表情になって再び地面を見つめた。 |
ヨウシャは誰かに何かを話し掛けようと思った。この状況が何を意味しているのかわからないからだ。しかし、誰も彼もが冴えない表情をしている。目が死んでいた。とても質問して答えてくれそうな雰囲気ではない。 ともあれ、門は開いている。このまま進むのに、何の躊躇が必要であろうか。 トンネルの奥深くに目を凝らすが、漆黒である。灯りがないらしい。ヨウシャはデイパックの中から一本の棒を取り出した。ガズーにもらったアイテムだ。ヨウシャの二の腕ほどの大きさで、乳白色の表面はツルリとしている。 「暗いところではこれがほんのり光ってくれるし、こいつで敵を殴ることも出来る」 ガズーの解説を思い出した。 老婆、年齢不詳の男、そして二人の番人。その誰もがヨウシャを見る。顔は下を向いたままで、視線だけをヨウシャに向けている。気味が悪い。ヨウシャは棒を右手にしっかりと持ち、ゆっくりとトンネルに向かって進んだ。 山の影に入ると、確かに棒はうっすらと光を放っている。暗闇のトンネルに入ればもっと光量を増して、しっかりと行く手を照らしてくれそうだ。 さらに、一歩、歩みを進める。 「やめときな」 声帯を石で砕かれでもしたのか、ひどい声で老婆が言った。 だが、ヨウシャを制したのはその声だけで、誰も何の行動もとらない。 |
ヨウシャは不意に寒気を感じて、身を縮めた。 (なに、今の?) ハックンは何かに怯えたように、ヨウシャの足首に身を摺り寄せて震えている。 しかしそれは、ほんの一瞬の出来事だった。妖気とでも呼ぶのがふさわしいそれは、じっとりと濡れた布で背中を撫でられたような感触を残し、すぐに去った。 「やめときな」 再び老婆の声がしたような気がして振返ったが、老婆は身じろぎひとつした様子すらない。自分の中から発せられた警告が記憶にあった老婆の台詞として蘇ったのか? 確かに「おかしい」とヨウシャは感じていた。 恐る恐るではあったが確実にトンネルに向かって歩いているヨウシャを、本来ならば門番が抑止するはずではないのか? そして、何の用があってお前はこの先に行くのかと、詰問すべきではないのか? そもそもどうして扉が開きっぱなしなのか? 王宮は荒れていると訊く。だとすれば、門番達は自分の職務を放棄して、ただそこにいるだけなのだろうか。そう考えれば、門番がヨウシャに無関心なのも説明がつく。しかし、ならば老婆と年齢不詳の男は、どうしてここに留まっているのか? 門番が何もしかけてこないのなら、さっさとトンネルに入ればいい。 いったい何があるというのか。 ヨウシャは立ち止まった。 さっきの妖気と言い、このトンネルはおかしい。 ・・・・けれど。 (わたしは、この先へ進まないわけには行かないのだ) 気持ちを奮い立たせて、ヨウシャは一歩、前に進んだ。 足元を見ると、ハックンもヨウシャに従っている。 (うん、大丈夫だ。ハックンが制止をしない限り、わたしは前に進もう!) 意を決して、ヨウシャは黄金門をくぐり、トンネルに足を踏み入れた。 |
何かと何かが激しくぶつかり合う音がした。 それが何か、確認する暇もない。 強烈な痛みを伴って、ヨウシャは弾き飛ばされた。 全身をもみくちゃにされて、細胞がバラバラになったような痛み。 |
気がついたら、ヨウシャは黄金門の10歩ほど手前にうずくまっていた。どうやら気を失っていたらしい。ふたりの番人はヨウシャを指差しながら、おなかを抱えてヒーヒー笑っている。 「またやりやがった!」 「門が開いてるからって、無防備に黄金門をくぐっちゃいけないわよねえ。思慮の足らない人間は王宮には辿りつけなくてよ」 遠慮のない罵声を浴びせ、そしてまた腹を抱えて笑う。 ヨウシャが弾き飛ばされたことを面白がっているのだから、気を失っていたのはホンの一瞬だったろう。 (それにしても、ひどい) ヨウシャは心底腹が立った。 「だったら、教えてくれたっていいじゃないの!」 「教える? 冗談じゃない。何の挨拶もせずに勝手に行こうとする者に、何かを教えなくちゃならない義務なんてないぜ。礼儀を勉強してきた方がいいよ、お嬢ちゃん」 したり顔で言った後、また門番の男は笑った。 ヨウシャは身体を起こした。若干痺れが残っていたが、身動きに不自由するというほどではない。 「人の失敗を笑うのは、礼儀知らずじゃないっていうの?」 ガズーから貰った棒を、門番の男の顔に突き付けた。 「おいおい、よせよ。自分の失敗を人のせいにするなよ」 かろうじて台詞は吐いたものの、声が震えている。門番ではあるが、喧嘩は苦手なのかもしれない。ヨウシャの迫力にたじたじとなった。 「まだ言うのね!」 ヨウシャが「ムカツク」という感情に支配されたのは、旅に出てはじめただった。ガズーの棒を頭の上に振りあげた。本気でヨウシャはこの男を打ち据えてやろうと思っていた。 「よしな」 後ろから音もなく近付いて来た年齢不詳の男が、ガズーの棒を掴んだ。 「この!」 ヨウシャは棒を持つ右手に力をこめたが、男に掴まれた棒はびくともしなかった。 「よしなって。こんな男、殴るにも値しない」 そう諭されて、そのとおりだわと、ヨウシャは思った。 棒を持つ右手の力を緩めた。するとなぜか、逆に棒も軽くなった。男が棒から手を離したのである。 「ここは案内人がいなくちゃ入れない。俺もこのばあさんも、案内人が来るのを待っている」 「え?」 「結界がはってあるからな。特殊な通行証を持った役人だけが自由に行き来出来る。門番達も気の毒なものさ。通行証は交代要員が持ってくる。それをもらわないと王宮へは戻れないのさ。自分たちが持っていた通行証は、先の門番に渡して返してしまったんだからな」 「ふん、いつ来るかわからない交代要員なんて、あてにしてないわよ」と、門番の女が言った。 |
「みんなは、いつからここにいるの?」と、ヨウシャが言った。 「へ、俺達は、もうかれこれ2ヶ月にはなるさ」と、男の門番が言った。 「本当は1週間で交代なのよ」と、女の門番が付け加える。 なるほど、それなら気持ちも荒れるだろう。誰かが結界を突破しようとして失敗するのを唯一の娯楽にするのも理解できないでもない。だからといって、許す気にはなれないが。 「俺は1ヶ月ぐらいだ。このばあさんは俺の3日後にここにやってきた」 時々「最後の店」に戻って食料や水を分けてもらい、それ以外はずっとここで待機していると男は言った。いつくるかわからない案内人を待っているのだ。 日が暮れると、「こっちへ来なよ」と、門番の男が火の傍へみんなを招いた。 火を囲んで、自己紹介をする。 年齢不詳の男は、ガブリエルと名乗った。老婆はトメと言った。門番の男は「俺は15号だ」とつぶやいてから、「こっちは127号」と、女の門番を指差した。 「門番は一般人と会話や交流することが許されてはいないのさ。どこで誰が監視してるかわからないからね。けど、一般人はここで火を焚く事もテントを張ることも禁止されてる。それで夜が越せるかい? こせっこない。だから監視が弱くなる日暮れ以降は、こうして情けをかけてやってるのさ」 15号は恩着せがましく言った。 「おっと、勘違いしてもらっちゃ困るぜ。監視なんてのは本来昼も夜もない。見つかったら、我々全員命がないからな。その覚悟がなければ、去ることだよ」 |
食事が始まった。あちこちへこんだ鍋が、火にかけられる。ぐつぐつとお湯が沸いたところで、なにかわからない肉のようなものが放りこまれた。 「食べよう。体力が無くなったら、死ぬだけだ」と、ガブリエルが言った。 「あたしゃ食べん」と、老婆がしゃがれた声で抵抗する。 「これは神聖なウサギだ。ウサギは王族のもの。15号が許可無く狩ってきたもの。こんなもの食えないね」 「ばあさん、いい加減にしろよ。死ぬぞ」 「王族のウサギを食ったら死刑。結果は同じ」 老婆トメは、傍らに生えている雑草をむしって、食べた。 |
暖かい食べ物をタップリと食べたせいだろうか。それとも、「案外悪い人たちではないのね」と油断したせいだろうか。ヨウシャはいつのまにか眠り込んでいた。 そして、やたら寒く、また身体が自由に動かないので、目が醒めた。 最初、金縛りかと思った。冷気と共に肉体を伴わない魂が枕元に立ち、それが原因で金縛りにあっているのかと思った。 だが、違った。 衣服を剥ぎ取られて、二人の男に抑えつけられていた。ガブリエルと15号だ。 「127号はもう女としては役に立たないからな。ひっひっひ。さんざん嬲ってやったら、壊れちまった」と、15号の声がした。 「ああ、セックスしようとすると、強暴になって、叫びまくって、やがて倒れちまう」 「ふん、夜中じゅう、交代で犯せばおかしくもなるさ。へっへ。あんたが強すぎるからだ」 「久しぶりだ。俺から先にやるぜ」 門番の15号はともかく、ガブリエルはそれほど悪い人には思えなかった。なのに、まるで人が変わったようだ。15号と結託して女を犯そうとするなんて。 ヨウシャは大の字に寝かされていた。両手は15号によって地面に抑えつけられている。頭の後ろに中腰で座っているせいだろう、先に雫をほとばしらせたペニスが、ちょうどヨウシャの顔の上にあった。 ガブリエルはヨウシャの開いた足の間にいた。そそりたったものが今にも挿入されようとしていた。 「さっきまで眠っていたのに、いきなりこのシチュエーションで濡れてる」 いやらしい笑いをかすかに含んだ台詞と共に、ヨウシャのヴァギナに先端があてがわれた。 ヨウシャは男のそれをスルリと、飲み込んでしまう。 「おお、おお」 ガブリエルは歓喜の声を上げた。 「まとわりつく! 絞め付ける! この女、名器だ」 ヨウシャは泣きたくなった。すっかりセックスの虜になってしまったこの身体。何者も拒否できない。何者も受け入れてしまう。男を悦ばせるために勝手に穴は収縮し刺激を与え、同時に自分の中にも快感が駆け巡る。 裸にされて寒さを覚えていたのに、もはや身体が熱くなっている。男が動く度に大量の愛液が分泌され、じゅぶりじゅぶりといやらしい音が鳴り響く。愛液は男のものをこってりと濃厚に包み込み、中での動きをスムーズにしてより深い恍惚をもたらす。 「あ、ああ、はああ〜」 耐えきれずに声が漏れる。 「いやらしい。ああ、なんていやらしいんだ。この目、この唇・・・・」 15号が感嘆の声をあげ、ゆっくりと腰を降ろしてきた。 (ああ、これを舐めるのね) 条件反射のようにフェラチオをするヨウシャ。 先端部分からはじめ、竿の前から後ろへ舌を這わせ、玉に吸いつき、やがてアナルのすぼまりを舌先で悪戯する。 「うおーーー!」 咆哮をあげ、15号はヨウシャの口の中にペニスをぶち込んで来た。喉の奥までつっこまれてえずきそうになるヨウシャ。だが、その一方で、そこまで深く差し込まれたそれに官能を憶える。バキュームしながら竿を舌で舐めあげる。 その間も休むことなく、ガブリエルの攻撃が続く。子宮までズドンと圧迫されるような激しい押し上げに、ヨウシャの血が逆流し、細胞がバラバラになって行く。バラバラになった細胞は、その一つ一つが歓喜の叫び声を発している。 上にも下にもタップリと濃い液体を吐き出されたが、男たちは行為をやめようとしなかった。たまっていたらしかった。 休みない攻撃にヨウシャもどんどんと昇り詰めていく。声をだそうにも口は塞がれている。精液がうまく呑みこめずにいるのに、15号は口の中をペニスでかきまわす。なんどかむせそうになった。 「馬鹿! 口を離すな」 その度に奥深くに突っ込まれる。 腰の上下動に飽きたのか、ガブリエルによってきつく胸を掴まれた。背中がぴょこんと跳ねた。胸を這う手が2本から4本に増える。 「かわいいよ、やわらかいよ、すてきだよ」 耳元をミミズが這うような声で、15号が囁く。吐き気のしそうな声だ。だが、そういう嫌悪感こそが興奮を高めてくれることをヨウシャは知りすぎていた。 夜はまだまだ長い。 |