Boy Meets Girl
「side KYRIE」

2.前夜

 ニュースの時間。
 テレビを見てると、どうやら明日はレプリカ(新地球)から "ヴィジター"が到着するらしい。あちらでは、卒業試験をトップで通過すると自由選択で オリジナル(つまり、あたしのいる元々の地球)へ観光可能」などというオプションがあるらしい。

 あたしが生まれて十五年の間、噂だけで実際渡航してくる物好きなんて、見たことなかったけど。二十一世紀も後半、ますます錆びれてきたこの星に、一名のお客サマがくるなんて。だからこんなに、連日報道されてるのかもね。まさに化石並みの奇特さ。

「ねぇ、おかあちゃん。あたしと同い年みたい。明日来るって」
 ニュースをそのまま繰り返したが、おかあちゃんは何も答えない。
「うるさいねぇ。疲れてンだから、話しかけないでよぉ」
 おかあちゃんの口からは安いウイスキーの、いや、さらに発酵でもさせたような匂い。昨夜の情事を引きずったままの、どろンとした、あの腐った魚のような眼。あたしはそれでもこのヒトを「おかあちゃん」と呼ばなくちゃならない。

 生きる意味ってなんだろう? 子供を愛する親だなんて、もはやマヤカシか、遠いおとぎ話なんだろうか? あたしがおかあちゃんといる意味ってなんだろう?

 どうして、こんなに絶望を撒き散らすの?

 ポケットウィスキーがなくなったらしい。瓶を逆さにして、盛んに手の平でトントンと打ちつけてみるが舐める程も残ってなかった。諦めたおかあちゃんは、力任せに瓶を床に投げつける。勢いあまった瓶は、あたしの額めがけてバウンドしてきた。
 予想以上の痛みだったけど、おかあちゃんのヒステリーには、慣れっこだった。あたしは、なんともなかったように、床に転がる瓶を拾って台所に片付けた。

 ねぇ……おかあちゃん。昔はもっともっと……やさしかったよね?

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