Boy Meets Girl
「side KYRIE」

8.約束

 タクトと昨夜の路地を戻ると、やがて幹線道路の前にでた。繁華街の終わりはあたしとタクトの"サヨナラ"
「じゃぁね。タクト」
 あたしは出来る限りの笑顔でバイバイと手を振って見せた。
「キリエ……」 何かタクトが喋っている。
 聞こえないので再びタクトのそばに戻る。

「一緒に……レプリカに行かない?」
 その言葉が聞こえたとき、あたしは立ち止まった。タクトの手が届かない微妙な距離。こんなに近くて永遠に遠い。

 あたしは微笑みながら首を左右に振った。
「なんで? 僕といると楽しいって言ってくれたじゃない?」
 タクトが言い終わる前にさらに激しく首を振った。
「できないよ……だって……だって……」
 あたしはひどく困った。そして答えられない焦りで俯いてしまう。すると、タクトがすごい勢いで、あたしの両肩をグッと掴んだ。
「なんで? なんでだよ?」
「だって……あたしたちは要らないんだもの。レプリカに行ける条件を満たしてないみんなは、ここから出られない」

「行ける条件って……なんだ? それ?」
 タクトが矢継ぎ早に問い詰める。
「オリジナルから優秀な人だけが、移住の権利が認められてるの。私とおかあちゃんは選ばれなかったの。だから……だから……」
「人間にそんな差なんてありえない。おかしいよっ! そんなっ!」
「タクトは民間人がめったに来れない"オリジナル"に来たんだからすごい優秀なんだよ……でもね、あたしとおかあちゃんは、移住の許可がもらえなかった。おとうちゃんは、おとうちゃんは……」

 タクトはあたしの肩からゆっくり手を離した。
「タクト、あたしも初めて会った気がしないの……」
 あたしは俯いた顔をあげて精一杯笑って見せた。そう、初めて会った気がしない理由も判ってる。あの"おまもり"の写真。あたしとタクトの惹かれあう理由。

「ねぇ……レプリカに帰るまでの間……一緒にいてくれる?」
「あたしが?」
「ん……今の僕じゃ、何もできないんだよね……だったらせめて……」
 タクトは再びあたしを抱きしめながらこう言った。
「残った時間をキリエと分かち合うこと。これもいけないコト?」
「いけないコトなんてないって、言ったでしょ? タクト……」
 タクトの背中に腕を回して、ぎゅっと抱き返した。あとは声になんて、ならなかったから。

 そう、あたしとタクトは同じ人間じゃないの。
 「生き残るモノ」と「滅びてゆくモノ」
 「選ばれたモノ」と「捨てられたモノ」

 それでもあたしは叫びたい。
「タクトと一緒にいたいの……もっともっと」

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