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蒼く熱く喘ぐ

第3章 温もりと鼓動

 

 その日の授業が終わり、加奈と優美は音楽室へと向かった。
「加奈、さっきの事だけど」
 音楽室のある階へと続く外階段を上りはじめた時に、優美が少し不安気な口調で加奈に言った。
「えっ」
 加奈は今日の休み時間に、優美が一哉と付き合ってくれるということを聞いて、表面にはださなかったものの、心の中ではひどく喜んでいた。
 部活の時間が、くるのが待ち遠しく、授業もろくろく聞いていないような状態だった。
 その浮ついた喜びの心は、優美の一言でかき消されてしまった。
「あのね、やっぱり私」
 優美が再び不安気な口調で言う。
「どうしたのよ、優美」
「私、やっぱりやめとく」
「やめとくって、そんなぁ、さっきはいいって言ったじゃん」
加奈はひどくあせった。

 加奈と優美は同じ中学校の出身。クラブ活動も同じで、ブラスバンド部に所属していた。高校に進学した今もふたりしてブラスバンド部を選んだ。そこで出会った成山雅人にやはりふたりして恋心を抱いてしまったのだ。
 雅人が選んだのは加奈だった。だが加奈は告白されてもストレートにそれを受け入れる事が出来なかった。優美の気持を知っていたからだ。
 一方、雅人と同級生の一哉は優美に思いを寄せていた。
 そこで加奈は、雅人と付き合うのにひとつの条件を出した。それは、優美と一哉が付き合ったら、自分達も付き合ってもいいというものだった。加奈が優美の事を思う友情からでた言葉だった。
 しかし、それは加奈の勝手な心から出た条件でもあった。
 加奈は自分で考えた条件なのに、優美に対して少し腹を立てた。
「加奈、怒らないでよ」
 加奈が少しふくれたような表情を浮かべたの見て、優美が申し訳なさそうに言う。
 優美は一哉と付き合う事を了承し、今日の休み時間に加奈にそのことを告げた。たが、授業を受けている間に少し心変わりした。
(やっぱり、本当に好きな人と付き合いたい)
 という思いが、湧いてきたのだった。
 しかし、本当に好きな雅人は、加奈と付き合う事になっている。自分は、今回は親友の為に、雅人を諦めるのはいいが、一哉とは付き合えないと思った。

「加奈、ほんとにごめんね」
優美が手を合わせて言う。
 二人が階段の途中で立ち止まっていると、下の方から談笑しながら、階段を上ってくる男子生徒の声がした。
 雅人と一哉だった。
「おー、お二人さん、なにをしてんの?」
にこやかな笑みを浮かべながら、雅人が二人に声をかける。
 雅人は声をかけながら、加奈に
(どうだった?)
というような感じの目線を送った。
「あっ、いえなんでもないです」
返事をしたのは優美だった。
 加奈はまだ少しふくれたような表情を浮かべ、無言で横を向いたままだった。
(どうしたんだろ)
加奈の表情を見て、雅人は少し心配になる。
「さぁ、さぁ、急いでくれよ」
今日、雅人に優美ときっと付き合えると聞かされていた一哉は、にこにこしながら二人に言った。
「は、はい」
 優美は別段好きでもない一哉ではあったが、自分の事を好きだと聞かされていたので、少し照れくさそうに答える。
 その照れくさそうな表情を浮かべる優美を見て、一哉はてっきり、自分と付き合ってくれるんだと勘違いをした。
 一方の雅人は、さっきは、加奈の表情に疑問を抱いたが、まだ、機嫌の悪そうな加奈を見て、
(だめだったのかな)
と思いはじめていた。

「雅人、いこうぜ、二人もはやくはやく」
何もわかっていない一哉がただ一人にこにこしながら言う。
「お、おう」
雅人が慌てたように言う。
 雅人と一哉はそのまま階段を上り始める。
 加奈と優美はそのまま立っていた。
「ねぇ、加奈、ごめんね」
「でも、さっきはいいって言ったじゃん」
「確かに、さっきはいいって言ったけど、やっぱりやめとくよ」
「もー」
 雅人と一哉が、去った後も、加奈と優美は押し問答をする。
「とりあえず、部活にいこうよ、後で話するからさ」
「いやだ、行きたくない」
 加奈と優美は喧嘩のようなことをしたのは、これが初めてではなかたった。
 中学時代にも数度であるが、喧嘩のようなことをした。その度に、折れてきたのは優美のほうだった。
 どちらかというと、優美がお姉さん的タイプで、加奈は、わがままな妹的タイプであったかもしれない。
 少しの沈黙の後、
「じゃ、わかったよ、取り合えず、付き合うっていうか」
「えっ」
「付き合うっていうか、友達感覚で始めてみるから」
「ほんと」
「友達感覚だよ」
「いいよ、それで、いいよ」
加奈の表情が一転して明るくなった。
 一哉と優美の関係が、友達関係であろうが、恋人関係であろうが、加奈にとってはどうでもいいことであった。
 自分が言い出したしまった条件の、体裁をつくろえればそれでよかった。
「それじゃ、部活にいこ」
「うん」
 加奈と優美はようやく階段を上りはじめる。
「優美、また心変わりしたら、いやだよ」
「わかってるよ、大丈夫だよ」
階段を上り終えると二人が言葉を交わした。
 優美は心の中で、取り合えずは友達ということにしておいて、改めて一哉本人に断ろうと簡単に考えていた。

 二人が音楽の入り口にくると、いつものように先に来ている部員達が、楽器などの手入れをしていた。
 当然その中には雅人と一哉の姿もあった。
 二人が音楽室の中に入る。二人が入ってきたのに先に気づいたのは、雅人とほうだった。さっきの機嫌の悪そうな表情とは一転した、いつものような笑顔を浮かべる加奈の表情を見て、少し安心する。
 自分を見る視線に加奈が気づく。
 加奈は、雅人に微笑み掛けると同時に、大丈夫だったことを、目線で雅人に送る。
「えー、それでは、はじめましょうか」
 ざわついていた音楽室の中が、一哉の言葉で静かになる。
「今日は、全体練習からはじめたいと思います」
 練習がはじまると、その音を聞いてか聞かずか顧問の鈴木教諭が、隣の準備室から入ってきた。
 鈴木教諭は、いつものようにあまりやる気のなさそうな顔で椅子に座ると教室全体を見回す。
 鈴木教諭は無論、音楽の教師であったが、授業以外の部活動等の指導にはあまり熱のはいらないほうであった。
 時計の時刻が午後5時にさしかかろうとした頃、
「それではみなさん、今日はこのこの辺で終わりにしましょう、では部長さん、後はお願いしますね」
 普段の部活と同じように一哉に後をたくすと、鈴木教諭は準備室へと消えた。鈴木教諭は準備室に入ると、すぐに自分の荷物をもって職員室に向かい、帰宅する。
 後を任された一哉は、部員達に後片付けをするように言った。
 部員達が後片付けを終え、次々に音楽室を出て行く。
 音楽室には、雅人と一哉、そして加奈と優美の4人が残っていた。それは、申し合わせたわけでもなく、自然とそうなった。
「ねぇ、帰りにみんなで何か食べていこうか」
 雅人が口を開く。
「はーい、いいよね優美」
加奈は優美の方を向いて雅人の問いかけに答えた。
「うん」
優美も加奈の表情に合わせて、自分も少しだけだが笑顔を浮かべると、軽くうなづきながら返事をした。
「どこに行く」
それを見て、一哉が嬉しそうに言う。
「そうだな、ほらあのバイク屋の隣にある所、なんていう名前だったっけ」
雅人が言うと、
「あそこならいいや、結構いろんなもの置いてありそうだし」
一哉もその店にいくことに賛成した。
「じゃ、校門のところで待ってるよ」
 4人は音楽室を出ていった。

 4人は店で談笑しながら軽い食事をとった。
 話の内容はたわいもないことで、一哉と優美のことなどは、話題にはならなかった。
 優美は内心ほっとしていた。
 しかし、どうしてか一哉と目を合わせて話すことができなかった。
 一哉のほうは、しきりに優美に話題を振ったり、優美の方を見て話をしたりしていた。
「そろそろでようか」
雅人が言う。
「うん」
加奈が答えると一同は鞄などを手に持ち店を出た。
「たまには、違う組み合わせで帰ろうか」
店の外に出たとたん雅人が言った。
「そうだね」
加奈がにこにこしながら言う。
「えっ」
それを聞いて優美がびっくりしたような声を出した。
「じゃ、俺は加奈ちゃんと帰るから、一哉、優美ちゃんの事は任せたぞ」
「う、うん」
一哉の心が少し勇んだ。
 4人は二組のカップルにわかれて帰る事になった。
「一哉、それじゃまた明日な」
「優美、また明日ね」
雅人と加奈が先に歩きだした。
「優美ちゃん、俺達もいこうか」
一哉に言われて、優美も歩きだす。
 前方には雅人と加奈、その後に一哉と優美が続いた。
 四つ角の所にくると、なぜか雅人と加奈が左に曲がった。それは加奈の家とはまったく関係のない方向で、優美にとっても関係のない方向であった。
 それを見て優美は、
「あれ、なんで加奈あんなほうにいくんだろ」
とつぶやく。
「あっ、多分、雅人の家にいくんじゃないのかな」
加奈のつぶやきに一哉が答える。

「ところで、優美ちゃん、俺達って、これから付き合うってことでいいのかな」
一哉が聞いた。優美は返事に困ってしまった。
 一方の雅人は、四つ角を左に曲がって、一哉と優美がいないのを確認すると、
「加奈ちゃん、ところで優美ちゃんの事だけど、よかったんだよね」
と聞いた。
「うん、でも」
「でもって?」
「なんでもない、きっとうまくいくよ」
「まっ、うまくいくように頼むよ」
「大丈夫だよ」
「別に、俺はいいんだけど、加奈ちゃんが出した条件だからさ」
「優美はいい子だから、きっと一哉さんとお似合いだって」
「ならいいけど」
 二人はそんな話をしながら、今度は少し細い道に入った。
 その道は少し前まで商店街のような所になっていたところだったが、今はほとんどの店がシャッターを降ろしており、人気もまばらな状態だった。
 その道を真っ直ぐに進むと、さっき曲がった四つ角ある道路とつながっており、雅人が気を利かせて、そっちのほうに遠回りしたのだった。
 太い道路に後10mというところで、
「加奈ちゃん、加奈ちゃんと付き合える事になって、俺すごく嬉しいよ」
と雅人が言った。
「雅人さん、私もすごく雅人さんの事好きだし、嬉しいよ」
「じゃ、この辺で」
「うん」
 加奈は返事をしたら、急に淋しいような気持ちに襲われた。
 別に明日もあさっても会えるのに、それまでのわずかな時間を別々に過ごすことが悲しいほどだ。
「そんな、淋しそうな目をするなよ」
雅人が言う。
「だって」
「じゃ、明日ね」
「待ってよ」
「なに?」
「えーと」
「なになに?」
「えっと、キスして」
「えっ」
「いや?」
「いやであるわけないだろ」
「じゃしてよ」
 少しの沈黙。
「じゃ、するよ」
その一言に加奈は背筋を伸ばす。
 雅人は、加奈の前髪をかきあげて、加奈のおでこに軽く口付けをした。
「えーっ、なんでおでこなの」
「だって、いいのかよ、じゃ口にするぞ」
 雅人は加奈の背中に片手を回して、口付けをした。
「これでいいか?」
「うん、ありがと」
「それじゃ、気をつけて帰えんなよ」
「はーい、じゃ」
 二人は別れると、加奈は大通りを、雅人は、今きた細い道をまた戻って行った。
 優美と一哉はすでに、別々の道を歩いていた。
 加奈は自分の家の近くまでくると、携帯を取り出して、優美に電話をした。
「あっ、優美、どうだった」
「うん、別に普通だったよ」
「で、結局どうするの?」
「付き合ってもいいかなぁって」
「よかった」
「でもまだわかんないよ、友達からってことで」
「いいよ、いいよ、じゃ明日ね」
 優美は、一哉と二人で歩いている時、一哉から自分達の関係について聞かれた。
 優美は友達なんていう表現はとても使えなかった。
 だから、一応は、付き合っているような、仲のいい友達という、微妙な表現で一哉に答えた。
 一哉はそれでも嬉しく思った。
 それでもというより、すっかりその気になったといったほうがいいようであった。

 それから1週間ほどたった、日曜の部活の帰り道。この前と同じように、二組のカップルに別れて帰った。
「加奈ちゃん、俺ん家よってかない?」
「いいよ、でも家の人大丈夫なの?」
「なにが?」
「女の子連れてきてもいいのかなーっと」
「別に、変なことするわけでもないし、大丈夫だよ」
 二人はこの前通った、昔の商店街には入らず、そのまま真っ直ぐに進んだ。
 しばらく歩くと、
「俺ん家、あそこ」
 雅人が一軒の家を指さす。
「へーっ、結構いい家だね」
「そんなことないよ」
 二人が雅人の家の玄関前に来る。
「ただいまー」
 雅人が家の中に声をかけると、奥から母親の声がした。
 二人が雅人の部屋がある2階へ続く階段を上ろうとした時、奥から母親が出てきた。
「あらっ、お客さん、かわいらしい娘さんね」
雅人の母親は笑顔で、二人に語りかける。
「おじゃまします」
加奈も、笑顔で挨拶した。
 二人は階段を上り終えると、廊下のつきあたりにある、雅人の部屋入った。
「へー、すごくキレイにしてるんだね」
部屋へ入るなり、加奈が感心したように言った。
 雅人の部屋はいつもはお世辞にも、キレイな状態と言えなかった。
 しかし、今日は加奈を自分の部屋に連れてくるつもりで、昨日の内にキレイに片付けていたのだった。
「まあね」
 雅人は、さもいつも部屋をキレイにしているような返事をした。
「まっ、その辺に座わんなよ」
「うん」
 加奈が、ベットのすぐ側に座りこむと、部屋のドアがノックされた。
「はーい、どうぞ」
 雅人がそのノックに返事をする。
「ジュースもってきたから、飲んで頂戴」
入ってきたのは雅人の母親だった。
 雅人の母親はジュースをテーブルの上に置くと、
「じゃゆっくりしていってね」
と、一言だけ言うと、すぐに部屋を出ていった。
「優しそうなお母さんだね」
「まあね」
 二人はその後、部活や芸能界の話題など、取り止めのない話をして過ごした。
「私、そろそろ、帰ろうかな」
 会話が一旦途切れたとき、加奈が言い出した。
「そっか」
雅人は何事なく返事をする。
「また、してくれる?」
加奈が聞いた。
「いいよ、してあげるよ」
 雅人は、加奈の問いかけの意味がすぐに理解できたようで、腰を上げると、加奈の側によって行った。
 加奈は目を閉じる。
 雅人は、この前と同じように、加奈の背中に手をまわすと、唇を重ねていった。
 しかし、雅人には、付き合ってから、まだ日が浅いことも手伝って、舌ほ加奈の唇の中にいれようとはしなかった。
 加奈は、何もエッチなことを求めていたわけではなかったが、それが少し不満だった。
 加奈は、当然今まで交際関係もあったし、キスぐらいはしたことがあった。
 しかし、舌と舌とからめるような口付けはしたことがなかった。
 加奈は、少しだけであったが、それに憧れていた。
 だから、少し不満が残ったのだった。

「ねぇ、舌とか入れないの?」
思わず聞いてしまう加奈。
「えっ、舌って、舌をいれてほしとか?」
驚く雅人。
「別に、ちょっと聞いてみただけだよ」
少しふくれる加奈。
 雅人は女性の舌に自分の舌を絡めた経験はあった。あったといっても一人だけだったが。
 それは、この4月に別れたばかりの留美との体験だけだった。
 留美との口付けは、どちらかというと、留美が主導権を握り、留美のほうから舌を絡めてくる事が多かった。
 雅人はもう一度、加奈の背中に手をまわす。ふくれていた加奈も再び目を閉じる。
 二人の唇が重なる。雅人の舌が柔らかくて薄い加奈の唇を割って入っていく。
 加奈が少しだけ、ほんの少しだけくぐもったような、甘い声をあげた。
 雅人の舌が、ちょうど加奈の舌の裏側に入り込む。
 すると、雅人の舌の表面に加奈の唾液が、流し込まれるように広がっていった。
 その唾液を受け止めながら、雅人の舌がくるっとひっくりかえったように、今度は、加奈の舌の上になる。
 雅人の舌全体に加奈の繊細な舌の感触が伝わってくる。
 加奈とそうしていると、雅人の脳裏にある光景が浮かんできた。それは留美との事であった。
 そんな事を思い浮かべていると、加奈の両腕が、雅人の背中に絡みついてきた。
 雅人の胸に、まだそんなに大きく膨らんでいない加奈の胸の柔らかさが、着ている物を通して伝わってくる。
 雅人の舌が、激しく加奈の舌に絡みついてきた。
 それは、かって雅人が留美に自分がしてもらっていたこと。留美の事を思い出しながらしていた。
 加奈の喘ぎが高く、押し殺したようではあったが、大きくなっていった。
 それと同時に加奈の両腕に込める力も、次第に大きくなっていく。それは、まるですがりつく子供のようでもあった。
 雅人は思わず、加奈の背中に回している手で、加奈の背中をさすり始めた。

 背中に回した雅人の手の平に、加奈の身につけている、ブラジャーの背中の部分が服を通してであるが、伝わってきた。
 雅人はどうしようもない衝動にかられていく。
(このまま、胸にふれてもいいのかな)
 そう思うか思わないかのうちに、雅人は、手の平を加奈の腋のあたりに移動させる。
 加奈は抵抗する様子見せることはなかった。
 雅人は、加奈の両腕に包まれた格好のまま、手の平を胸の上に滑りこませた。
 加奈はまだ抵抗を見せない。
 雅人はゆっくりと、ゆっくりと、服の上から胸を揉んでみた。
「んっ」
加奈は少し驚いたようにしたが、一生懸命、舌を絡みつけてくる。
 雅人は、加奈の背中に回していたほうの手も前にもってくると、加奈の制服のボタンを外し始めた。上に羽織っているブレザーのボタンが完全に外れた。
 その時、お互いの唇が外れ、加奈が潤んだような瞳で雅人を見つめた。
「ご、ごめん」
雅人が謝った。
 その言葉を聞き、加奈は大きく数回首を横に振った。
「今日は、こんなつもりで呼んだんじゃないだけど」
再び、雅人が謝るように言うと、
「違うの、私が舌を入れてなんて言ったから悪いの」
加奈も申し分けなさそうに言った。
「でも、俺、図に乗りすぎて」
 少しきまづいような空気が、漂いはじめたが、加奈の次の言葉でそれはかき消された。
「いいよ、雅人さんが触りたかったら、触ってもいいよ」

 加奈は自らブレザーを脱いだ。
「加奈ちゃん」
「でも、初めてだから、どうしていいのかわかんないし」
「別に、加奈ちゃんの胸が触りたいわけじゃ」
 雅人の男性の部分は心とはうらはらに、すでに固く勃起状態であった。
 加奈の大事な部分も、先ほどの熱いほどの口付けで、潤みはじめていた。
「だって、雅人さんの事好きだから、いいんだよ」
「加奈ちゃん、そんなに俺の事を」
雅人はひどく喜んだ。
 雅人の手がブラウスのボタンに掛かる。
 一つ一つ丁寧にボタンを外していく。
 ブラウスのボタンが全て外れると、雅人の目に、加奈の身につけている、清潔そうな真っ白なブラジャーが入ってくる。
 雅人はその上から加奈の胸を包みこむように触って見る。
 温かく、柔らかい感触と供に、激しく鼓動する加奈の心臓の高鳴りまでもが伝わる。
 ゆっくりとゆっくりと、ブラジャーの上から揉んでみる。
 とその時、
「ご、こめん、今日はやっぱり、やっぱりここまで」
加奈が急に言い出した。
 加奈は、自分の胸を触る事を許したものの、急に怖くなってきたのであった。
 雅人の手が加奈の胸から離れる。
 加奈は慌てたように、ブラウスのボタンを自分でかけていく。
 それを見ながら、
「ごめんね、ほんとに、ごめん」
「大丈夫だから、気にしないで」
 ブレザーを羽織ると、加奈は一人雅人の部屋を出ていった。
 雅人も慌ててその後を追い、玄関で加奈を見送ったが、その夜は気まずい思いで眠ることもできなかった。
 加奈の方も、なぜか申し訳ないという気持ちで一杯になり、遅くまで寝ることができなかった。



 

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