「キオト」
■INTERVAL-2-
 康之と私の距離は、ぴったりと寄り添わない。
 けれど、手を伸ばせば届く距離。そんな感じに似てる。すごく。

 何度となく、お互いの家を行き来する生活を続けていた。周りの女友達は「それって、不経済じゃない?」 と飽きれていたけど。

 私は康之とどうしたいのだろう? 笑ったり泣いたり抱き合ったり。未来ってどう思い描くの?
 ううん、遊んでるんじゃないの。大事な人……きっと誰よりも。言葉にすれば逃げるほどに。だからこれ以上近づくのが怖い。たったそれだけ。居心地の良いソファを奪われるのが怖い猫のように。見え始めたとしても瞼を閉じる。
 なんてサイテイ。今まで気がつかずにいた。いや、目をそらしてただけで。こんなに私は醜い。

 結婚退職していく同期の中、お互いの営業所が変わってますます会えるタイミングが減ったとしても。苦しい恋なんて思ったことはない。一人の部屋を寂しいと思ったことはない。
 ううん、それは嘘。 寂しいけれど、一人でいられる時間も手放せない。 それだけ。すごくワガママ。
 抱かれたくなると彼の家に。
 抱きたいときには彼が家に。
「ねぇ、恋の神聖化ってバカげてる?」
 私、肉欲だって立派な愛情って信じてた。
 はははは……康之が見事なバカ笑いをみせた。
「響子、理由付けなんていらないんだよ」
「理由付けじゃないわ。思ったコトいっただけよ?」
「卵が先か? 鶏が先か?って俺にきいてどうするんだ?」
「うーん……」
「どうしたいんだよ? お前?」
「……ううん、どうもしない、どうもしないの」
 私の視線はブラインドの先。まだ、熱波が残る夏の最中。月の光を押さえ込むのは真夏特有の太陽。慣れればどうってことのない年中行事。あたりまえ。夏が暑いのはあたりまえ。


 

モクジニモドル//ススム