第４話 スーベニール「未来の子供達のために」 ＝９＝
|
僕と清花が事務所に着くと、杉橋が訪ねてきていた。彼はコンピューターの前に座って、キーボードを叩いたり、腕を組んで画面を睨んだり。 相変わらず彼はヒゲダルマだ。もみあげから顎にかけてびっしりと髭で埋め尽くされている。口ひげは生やしていない。今日はスーツを上下ビシッと決めているので、不敵で有能なサラリーマンという感じだ。身長１６０あるかないかだが、今日のいでたちだと、背が低いのが幸いして、動きの軽い敏捷な男に見える。もっともこれで作業服を着れば立派な労働者に早変わりだから、大したものだと思う。有田社長よりよほど探偵っぽい。 「例のヤツやってくれてるの？」と、清花。 「そうです」と、杉橋は甲高い声で言った。 どうも清花は僕の知らないうちに何かを杉橋に依頼していたようだ。 「立華サンが言ってたのは、こんなページのことではないですか？」 杉橋は僕たちにコンピューターの画面を見るよう促した。 |
|
|
「なに、これ？」と、清花。 「爆弾の作り方を教えるホームページですね。あなたが探して欲しいと言ってたのは、こういうページのことでしょう？」と、杉橋。 「なんか、色々前書きがしてあるけれど、『こんなに簡単に爆弾は作れるから、じゃんじゃん作って世の中を混乱させなさい』って、書いてあるみたいだな」と、僕。 「そのとおりですよ」と、杉橋は言った。 「世の中には多かれ少なかれこういう人種は存在しますが、インターネットの怖いところは、ほとんど経費をかけずに情報公開できて、自己顕示欲を満たすことが出来るところです。 閲覧者に良識を求めるような、それらしいことを最初に書いておけば、こういうコンテンツも社会的に許される、そんな勘違いをしている人も多いですね。こういう書き方がかえって興味をひくことを知ってやっている場合もあります。 １８禁と書いてあれば、見たくなる。それと同じです」 「な、何のために、こんなページがあるのよ」 清花は眉を曇らせる。 「先ほども申し上げたように、自己顕示欲。そして、おもしろ半分でしょう。そして、このページが元で事件が起こったりすれば、ひそかにほくそえんだりする・・・」 「で、これがどうしたのさ」と、僕は清花と杉橋を交互に見ながら言った。 「三田駅前の爆発事件」と、清花が答えた。 「え？」 「わたしたちが取り組んでる案件、どうしてもあの爆発事件と無関係とは思えなくて」 「随分、突飛な発想だね」 「そうかしら。わたしは和宣がやたらと時刻表を気にしているのが、なんかひっかかったの。和宣の神経に何かが触れたわけよね。それと同じで、わたしは爆発事件がなんだか気になるの。『具体的な根拠はないけれどどうしても神経に触れる』っていうのは、意外と核心に近かったりするものよ。見過ごしちゃいけないわ」 「で、どこがどう気になるの？」 「依頼者の青山さん、それから迎えに出た葵さんと榊原さん。この３人が、爆発のために足止めを食った。そして、その間に弥生さんが殺されたわ。それが気になるのよ」 「つまり、爆発事件と殺人事件は無関係じゃないと？」 「かも知れない、と思ったの」 「でも、だとしたら、彼らの行動を知っている人、つまり青山さんがリストアップしてくれた人の中に爆弾犯人がいるってことになるじゃないか」 「そう考えるのが普通よね。ひょっとしたら爆弾の専門家が彼らの中にいるのかも知れないけれど、素人の手作り爆弾と考えた方が現実的だわ。そしたら、三田駅前の見境のない爆発も説明がつくと思うの。おそらく駅前をちょっと混乱させるだけのつもりが、量がよくわからなくて大騒ぎになってしまった。 じゃあ、威力もよくわからないような素人が簡単に爆弾なんか作れるのかしら？ 作れるとしたら、どうやって？ そう考えていたら、もしかしてインターネットかなって思ったの。葵さんがエッチなページを作れるんだから、誰かがそういうページを作っていても不思議じゃないわ」 「で、探したら、あったと」 「そうよ」と、清花は自分が探したわけでもないのに、胸を張る。 「武器マニア、戦争マニア、爆弾マニア。いろんなページを見て回りましたが、おそらく素人が爆弾を手作りするならこのページでしょう」と、杉橋は画面を指差す。 「ページをめくりますよ」 杉橋はマウスを操り、クリックをした。 画面表示が切り替わった。そこには、爆弾を手作りする課程が解説図入りで細かく説明されていた。 さらに杉橋がクリックする。 材料の入手先一覧がそこにはあった。 一覧の中にも、リンクの付いているものがあって、そのページへ飛ぶと、それらの販売店のホームページになっている。オンラインで申込みが出来るようになっている所まである。 いかにも怪しげな所もあれば、通常の通信販売のページもあった。ともかく「爆弾の作り方」のページとそのリンク先だけで、目的が達成できるように構成されている。 「ま、ここまでは誰でも出来るわ。杉橋に頼んだのは、そのページに誰がアクセスしたか調べられないかしら、ってことなのよ」と、清花は腕を組んだままうんうんと頷く。 「もし、同窓会のメンバーがアクセスしていたとしたら・・・、爆弾事件と殺人事件は、関連がある、ってことか」と、僕は言った。 「そうよ」 「だけど、ホームページってのは世界中に向けて発信されてるんだから、誰が見たかなんて、わからないんじゃないのかい」 僕の疑問には、杉橋が答えてくれた。 「何の仕掛けもねければ、そうですね。でも、このホームページにはアクセス解析のプログラムがＣＧＩで組んでありました。これである程度わかります。普通はページの管理人本人しか見れないようになっています。爆弾ページのアクセス解析は、どこからもリンクはされていませんでしたので隠しページを探すような按配ですが、パスワード制限がなかったので中身を見ることが出来ました」 「杉橋さん、悪い」と、僕はさえぎった。「意味が全然分からないよ」 「わからなくて大丈夫です。どうしてテレビが写るのかわかって見ている人なんてわずかです。それと同じです」 「じゃあ、結論だけ教えてよ」 「簡単に言うと、どこからアクセスされたかがわかる解析プログラムが用意されていて、その結果が表示されるページを見つけた、ということです」 「じゃあ、ミニ同窓会のメンバーの誰かが、このページを見たかどうかがわかるのね？」と、清花。 「残念ながらそこまでは簡単にはわかりません。『誰が』ではなくて『どこから』しかわからないのです。つまり、どのプロバイダのどのアクセスポイントからつないだか、ということですね。ログが残っていました。ログというのは記録のことですが、これをプリントアウトしてきました。ミニ同窓会とかのメンバーのメールアドレスと照らし合わせれば、おおよその判断が出来るかも知れません」 「そういえば青山さんからもらった名簿に、メールアドレスが・・・」と、僕。 「うん。載っていたよね。全員の分ではないけれど、おそらくメルアド持ってる人については網羅されてるはずよ」 杉橋が打ち出して持ってきた紙には、アルファベットと数字などが細かく並んでいた。 「それを、ひとつひとつ照合するのですか？」と、社長が覗き込んでいった。「なんだか、うんざりしますね」 「検索機能を使えば一発ですよ。一覧表はフロッピーにテキストファイルで落としてありますから」と、杉橋は答えた。 テキストファイルというのは、文字と改行だけのファイルである。 杉橋の説明によると、アクセスログとメールアドレスは同じものではない。だが、共通する部分があり、うまくすれば照合できるという。照合するのはプロバイダ名だ。メールアドレスにはプロバイダ名が含まれている。 もちろん、同一のプロバイダを使う人は大勢いる。この中にミニ同窓会のメンバーと同じプロバイダを使う人がいても不思議ではない。 しかし、アクセスログにはアクセスポイントが残る。アクセスポイントの名前の付け方はプロバイダによって様々だが、地名がそのまま使われている場合が多く、ミニ同窓会のメンバーの居住地の地名、およびプロバイダ名の両方が合致すれば、可能性は少し高くなる。 フロッピーをパソコンに入れてさっそく作業開始だ。といっても操作そのものは杉橋がしてくれる。 ほどなく、「これ、近そうですね」と、杉橋が示したのは、榊原チエだった。 |
|
榊原チエのメールアドレス chie_chan@yumeweb.ne.jp 該当するアクセスログ p32-as01.himeji.yumeweb.ne.jp |
|
ここからプロバイダ名は「yumeweb」と判断できる。また、アクセスポイントの「himeji」は姫路だろう。チエの居住地だ。 「でも、可能性よね？」と、清花が訊いた。 「もちろんそうです。該当有りになったからと言っても全く別人の可能性もあります。爆弾の作り方のページに接続したのが、ユメウエブというプロバイダの姫路にあるアクセスポイントからつないだユーザーである、ということだけです。だから、榊原チエさんが姫路在住のユメウエブの会員であるからといって、同じ人とは特定できません」 「この人が、榊原チエさんかどうか確認する方法はないんだろうか？」 僕は独り言のように言った。杉橋は聞き逃さなかった。絶好の依頼だと思ったのかも知れない。 「ま、何とかやってみましょう」と、杉橋。 「出来るの？」と、目を輝かせる清花。 「天才ハッカーの名にかけて」と言ったのは、僕だ。 「茶化さないで下さい。多分ハッキングなんかではなく、少し汚い仕事をすることになるでしょうけれど」 そこへ社長が口を挟む。 「犯人探しもいいですけれど、肝心の依頼の方をおろそかにしないで下さいよ。警察のお手伝いをする義理はありませんから」 「もちろんです」と、清花は胸を張った。「青山さんの案件に必要な調査だからするんです」 |
|
「もし、仮にだよ」と、僕は言った。 「うんうん」と、清花が相槌を打つ。 「榊原さんが犯人として、疑問はいくつかあるよね」 「なあに？」 僕は自分の頭の中を整理しながら言った。 ひとつ。榊原チエは葵双葉と一緒に、青山健二を三田駅まで迎えに行っている。とすれば、いつ、どうやって水野弥生を殺したのか。共犯者がいたのか、それとも何かの見落としがあったのか？ ふたつ。榊原チエはどうやって爆弾を爆発させたのか？ 爆発のあったとき、チエと双葉は現場にまだ到着していなかった。とすると、事前に爆弾をどこかに設置しておいたことになる。その爆弾を爆発させるには？ リモコンを使ったのだろうか？ しかし、それなら相当近くまで接近していなくてはならず、巻き添えを食う可能性がある。清花が言うようにインターネットから手作りで爆弾を製作する方法を得たのなら、チエは爆弾作りの素人だ。威力がどの程度かわからないのにむやみと近寄ることなど普通は怖くて出来ない。それとも、全くそんなことは思いつきもしなかったのか？ いや、犯罪は計画的だ。そんなに杜撰なはずはないだろう。爆弾の威力を予想できなかったのなら、少なくとも自分は安全を確保する確実な方法を考えるだろう。ならば、時限装置か？ しかしこれも非現実的である。なぜなら、車で現場に近づこうとするチエにとって、自分の身の安全を確保し、かつ爆発による渋滞で身動きがとれなくなることでアリバイを確保するわけだから、緻密な計算とそれを実行する分刻みの行動が必要になる。 僕の熱弁を聞いてるのか聞いてないのか、清花は事務所から僕の下宿に戻る途中で買ったテイクアウトのフライドチキンをむしゃむしゃと食べ、コーラをがぶがぶと飲んでいた。 「聞いてる？」 「聞いてるわよ」 「じゃあ、意見は？」 「待って」 清花は、口の中のかみ砕かれたチキンをコーラで飲み下した。 |
|
「ええとね、まず一つ目の疑問。これは簡単に解けると思う。榊原さんは葵さんと一緒に車に乗った。けれど、何らかの理由を付けて水野さんの部屋に戻る」 「何らかの理由って？」 「トイレに行きたくなった、とか、免許証を忘れたとか。でもこの程度の別行動なら、普通は『一緒にいた』って言うわよね。葵さんにとって主観的には『ずっと一緒に行動した』のよ。だから疑いは持たれない。一方、部屋に残っていた水野さんは、さっきまで一緒にいた友達だから、部屋に戻ってきたからといって警戒心なんか抱かない。だから、まさか殺されるなんて思っていない。で、油断してるところをグサリ。かな？」 「かな、って。いい加減な」 「可能性よ、可能性。あとで電話で聞くわ。わたしと葵さんはもう友達なんだから」 「うん、一応確認して欲しいな」 「で、ふたつめの疑問。これは多分時限装置ね。目的地に計算通りに行くのは難しくても、特定の時間、つまり爆弾がセットされた時間よりも遅く行くのは簡単よね。出発を遅くすればいいんだから。安全運転と称してノロノロ走ったっていい」 「でも、現場から遠すぎたら、渋滞に巻き込まれなかったかも」 「彼女たちが路上でカンヅメになる必要はなかったのよ。さっさと水野さんのマンションに戻って、水野さんの死体の第一発見者になったとしても、ふたりはずっと一緒に行動していたのよ。お互いにアリバイが証明できるじゃない」 「そうか」 「ね？」 「あれ？ ちょっと待てよ。ならば何のための爆発だったんだ？」 「それは、青山さんと梶谷さんを足止めするためよ。 梶谷さんがトイレに行ったので予定の列車に乗れなかったのはアクシデントだとして、本当は二人まとめて足止めする予定だったんじゃない？」 「ええと、爆弾はどこに仕掛けられてたんだっけ？」 「駅前広場の花壇よ。新聞に書いてあった」 「威力が強ければ駅や鉄道施設まで巻き込んで完全に二人を足止めできる。でも、威力が弱ければ、ちょっとした騒ぎが起こるだけだ。その威力はどうやらロクに計算できていなかった。おかしいなあ。確実に足止め出来るとは限らないよ」 釈然としなかった。本当に清花が言うような適当な犯行計画だったのか、それともなにか見落としがあるのか。あるいは、僕たちは全く見当はずれのことを議論しているのかも知れなかった。 「そのへんはアバウトで良かったんじゃないかしら。榊原さんはチエさんとともに迎えに出る。駅前が混乱している。何事もなく予定通り青山さんたちを迎えて戻るよりも当然時間がかかる。時間がかかれば、死体の発見が遅れる。死体の発見が遅くなればなるほど、水野さんの死亡推定時刻の幅が広がり、あやふやになる。その程度で良かったのよ。最低限のアリバイは二人で行動することで確保できてるんだから、いわば保険みたいなものだったんじゃないかな？」 「そうだと仮定して、だよ。まあ、仮定しなくてもいいんだけれど、どうして榊原さんは青山さん達が三田駅に到着する時間を予想できたんだろう？」 「え？」 「時限爆弾はあらかじめ爆発するように時間をセットされる。その時間よりも早く二人が到着したら、爆弾の意味が無くなってしまう」 「だから、保険なんだって。爆弾の意味が無くなっても、最低限のアリバイは・・・。あれ？ 違うなあ。なんか、変。爆発前に青山さん達が到着すれば、爆弾の意味が無くなるだけで済むけど、これだと、爆発の時に二人が三田駅前にいる可能性だってあるし、そしたら大切な同級生が巻き込まれるかも知れない」 「迎えに行ってるんだ。自分だって最悪巻き込まれるかも知れない」 「あ、でも、待って。もし葵さんが青山君達の到着時間を予想できたら？」 「できるもんか」 「予想は出来なくても、指示は出来るんじゃない？」 「だけど、青山さんは、何時の列車に乗ってくれと言われていたなんて、一言も言ってなかったぞ」 「だから、彼じゃなくて。もう１人の、梶谷さんが時間の指示を受けていたのよ。彼のその時の台詞を青山さんは教えてくれてたじゃない。確か、『７時１５分発。これだ、これだ、新三田行』だったわ。『東京から夜行バスで来るのね？ じゃあ大阪駅で一休みして、７時１５分発の新三田行に乗ったら？ 到着時間に合わせて迎えに行くわ』って、そんな風にあらかじめ榊原さんは梶谷さんに伝えていたのよ」 「あ、だから、携帯電話で遅れることを電話しようと思ったんだ」 「そうだよね。本当だったら時間通りの列車に乗った青山さんの口から伝えれば充分の情報なのに、わざわざ電話したのは、『打ち合わせした本人が遅れてしまう』というちょっとした罪悪感があったから」 こじつけのような気もしないでもなかったが、人間の心理なんてそうそう割り切った考え方が出来るわけでもないだろう。 推理小説などでは緻密な計画犯罪が行われたりするけれど、現実の人間の心理なんて、その場その場で微妙に揺れ動いて不思議はない。 |
|
「そこで、和宣、もう少し考えようよ」 「ああ」 「では、なぜ、７時１５分という時間を設定したのか？」 「清花は、答えがわかっているの？」 「多分。青山さんと梶谷さんの乗った夜行バスは、ダイヤ通りなら大阪駅に６時３０分に着くドリーム号だった。でも、バスなんて遅れることもあるわ。列車に比べたらはるかに正確さに欠ける。だから、４５分もの余裕を持たせたんじゃないかしら。そして、その列車に確実に乗ってもらう。爆弾は、その列車が三田に着く直前に爆発する。 梶谷さんは７時１５分発という約束があったから、乗り遅れに対処するためわざわざ駅備え付けの時刻表か何かで調べて、事細かに電話で自分が乗る列車はどれで、どこそこで快速に乗り換えて、何時に着くって伝えたのよ。 一方、チエさんがそれを正確に覚えていたのは、犯罪を計画するにあたって時刻表をあれこれ何度も調べたからじゃないかしら。前後の列車の時間もかなり頭に入ってたんだわ」 「そうか、そうかもしれない」 「きっとそうよ」 「きっとって、清花。これはもともと仮定の話だぜ」 「あ、そうだった」 「らしくないなあ」 「ごめんごめん。なんだか頭の中で糸がほぐれていくように理屈が通った気がしたから」 「そうかなあ。僕はますます混乱するけど」 「じゃあ、今日はこれぐらいにしておこうよ」 「そうだな。おっと、その前に、葵さんに連絡取ってよ」 「うん」 電話の結果は、清花の予想通りだった。 榊原チエと葵双葉は二人で車に乗り込んだものの、チエが免許証を取りに戻っている。免許証を入れたカバンを弥生の部屋に置いたまま出てきたのだ。 「じゃあ、やっぱり榊原チエが怪しい？」 僕は姫路城であったチエの姿を思い浮かべて、ぞっとした。人を殺していながら、あんなに平然としていられるなんて。 「もう、可能性でしかないってさっき言ったのは和宣の方でしょ。決めつけるのは早いわよ」 「そうだな」 「杉橋さんの調査結果も待った方がいいし」 「うん」 「ところでさ、もう一度大阪へ行かない？」 「そりゃあいいけど、またどうして？ 大田原さんは、まだ添乗から戻ってないはずだろ？」 「それはそだけど、何となく引っかかるの。あの日、青山さんが辿ったのと同じ行程で、一度三田まで行ってみようよ」 清花が何に引っかかっているのかわからなかったが、清花が感じるのだからきっと何かあるだろう。 「わかった。そうしよう」 「じゃあ、今日はもう帰るね」 「うん。気をつけて。お休み」 「お休み」 「もう遅いから泊まって行けよ」 とは、言い出せなかった。 |