エピソード1 去り行く命 生まれる命 |
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冬がやってきた。 |
この日は、週末でもないのに、二組の客が重なった。 |
「杜の庵」を終点とする一日3本のローカルバスが無くなって、かわりに都市間連絡の特急バスが止まるようになった。一日7本。おかげで、バス廃止による客の減少は心配しなくても済んだが、これまでには無かった悩み事ができた。 |
一人旅の20代女性と中年男性は、ひとつのテーブルに向かい合って座っていた。これは中年の余裕、というものであろうか。男から女を誘ったのである。 |
「実は私、妻の母親の葬儀の帰りでしてね」 |
「妻の実家は壮絶な田舎で、新幹線とローカル線を乗り継ぎ、さらに1日数本というバスに乗って1時間と25分、さらに歩いて20分はかかるんですよ」 |
「そんな葬式、そういえば久しく出ていませんねえ」と、主が言った。「セレモニー会場に時間通りに行って、型どおりの式典を済ませて……そう、だいたい1時間くらいですね。で、そのまま帰る、と。これなら、子供を連れて行く必要もありませんし、去る命を感じることは出来ても、次世代の命を感じることはありません」 |
「いやあ、ここに来て良かった」と、男は言った。「葬式の話をしているのに、全然しめっぽくならない。しかも、私の感じたそのままのことをしゃべれて、実に気分がいいです」 |
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続きは当分おまちください。