36.
満ち潮というものは、コップに水を注いだ時のように、目に見えてどんどん水位が上がってきたりはしない。 波は飽くことなく寄せては返しを繰り返しており、波が引くときは波打ち際も下がる。しかし、徐々に全体としての「波打ち際」が、どんどん陸側に迫ってくる。 女性のセックスに対する興奮度もこれと同じで、絶頂に至るまでの間に、何度も何度も小さな「寄せ」と「返し」を繰り返す。 真理子のような処女の女性の場合、この「引き」の度合いが大きい。下手をすればそれをきっかけに何もかも醒めてしまうコトだってあるだろう。だから真也は、ここまで丁寧に運んできたつもりである。 「さ、おきて」 真也は真理子の上半身を起こした。彼女の口に自分のモノが来るように、膝の曲げ具合を調整する。 真理子の眼前に真也の巨根が迫ってくる。 真也は気づいていた。真也の大きな男性器をありありと見せつけられて、真理子がショックを受けたことに。 流れの中で挿入されてしまえば真理子も平気だったかもしれない。しかし真也は、真理子に対して、男というものを、そして自分というものを、染みこませたかった。そのためには、たとえ恐怖心を抱かせたとしても男根を脳裏にやきつかせ、それでも「これに貫かれたい」という気持ちにさせたかったのだ。 真理子も、真也とひとつになりたいと思っていた。真也に抱かれたい、その一心で、あっという間に雨を吸い込む乾いた地面もように、これまで全てを受け入れてきた。 そして、「口でして」と請われたときも、そうするつもりだった。 そういう行為が男性を喜ばせることも知識として十分知っていたし、自分もそうするだろうとわかっていた。 真也に感度を高められ快感に溶けてゆく自分を感じながら、もっともっと凄いことになっていくという期待に、ゾクゾクしていた。 なのに、唇が開かない。 大きさに驚いた、そのせいだけではなかった。 真理子にはわかっていた。 真也が好きなのではない。 だから、むしゃぶりつけないのだ。 それなりの好感を抱いてはいるし、もちろん嫌いではないのだけれど、溢れんばかりの想いにどうしようもなくなって、抱かれなくてはいられない、というのではないのだ。 ではなぜ真也に抱かれたいのかというと、真也に愛されてよがり狂うふたりの女性に対する憧れだった。 セックスに対する興味でもあった。 真理子の心が揺らいでいることが真也にはわかった。 決して真理子は顔を背けようとはしなかった。けれど、唇が開かない。いきりたったソレはまるで異界の物体のようで、手で触れることはできても、体内に直結する口に含むことはどうしても憚られた。 真也が腰を前に出し、先端部が真理子の唇に触れる。 真理子は思わず目を閉じ、とうとう顔をわずかにそむけた。 |
「さあ、舐めてごらん」 唇の間に自分のモノをあてがった真也は、わずかにソレを真理子の口内に進める。しかし、決して無理矢理ねじ込むようなことはしない。 真理子は真理子で拒否こそしないが、自ら受け入れようともしない。 一線を越えることに躊躇ったまま、しかし口でなら構わないという感覚をもった処女がたくさんいることは真也も承知している。逆に、多くの経験を持っているにもかかわらず口ではできない女性が存在することも知っている。 だが、真理子はそのどちらでも無いだろうと真也は感じていた。 愛してもいない男に、処女を捧げようとしている罪悪感……、でも、それ以上に膨らんだセックスへの興味と期待感……。 このせめぎ合いを、真理子は目の前に新しい行為が現れるごとに、クリアしていかなくてはいけない。身も心も愛した男と肌を合わせるなら、一気にのめりこむこともできるだろうが、どうしてもことあるごとに後ずさりせざるを得ない。 だとしたら、真也はひとつひとつ、真理子の垣根を取り払ってあげなくては、と思う。 いや、それだけではない。むしろ真也は、真理子を自分好みの女の子にしたてあげたいという気持ちの方が強かった。ミコという恋人がいて、さらに祥子とも関係を続けるようなこんな男に、処女を捧げたいという女性が現れたのである。また抱かれたいと思わせるようなセックスをするのは当然のこと、その上で自分も存分に感じさせてくれる女になってくれれば最高である。 最高といっても、たかがフェラチオである。自らむしゃぶりつき、快感を与えてくれるような女性でないとつまらない。 フェラそのもので女性が快感を得ることは無くても、相手の男を気持ち良くさせてやってるんだという歓びで自らも感じる。こうしてお互いに高めていくセックスを真理子にも覚えさせたい。 打算もあった。ミコは帰宅したし、祥子だって新学期が始まればそうそう毎日というわけにはいかないだろう。もう1人、セックスの相手をキープしておくのも悪くない。 そのためには、自分とのセックスに溺れさせたい。 「どうしたの? しゃぶってよ……」 真也は肉棒を震わせながら、言った。 |
真理子の唇が開く。 目は閉じている。 顔は相変わらずナナメを向いたままだ。真也のモノに正対できないでいる。 とはいえ微かな唇のほころびが、真理子の覚悟を物語っていた。すかさず真也は腰を突き出す。ゆっくりと挿れては止め、また少し先へ進める。 挿入の過程で何度か舌にあたったが、絡み付いてはこない。本能的に逃げているのだろう。 本当は喉の奥まで突っ込んでしまいたかったが、そのためには真理子の顔を正面向かせなくてはならない。それよりもと、真也はそのまま自分のモノを押し進めた。すぐに頬の裏側に当たる。真理子は眉をしかめたが、真也は構わず押し続けた。真理子の頬が膨らみ、その位置が真理子の動きに寄って微妙に変化してゆく。その度に真也は刺激を受けて、ようやく真理子の体内から快感を享受することができた。 「うぐ、むう……」 呻く真理子。 不快感もあるだろうが、それ以上に真也の大きさが苦しいに違いない。女の子が楽に咥えられるサイズではない。 頬の裏側からモノが離れない程度に腰を引き、そしてまた真也は押し込んだ。摩擦の感触が心地よい。 女の子への思いやりも大切だが、ここまで来たらある程度は自分のペースで進めるべきだろう。真也はなにより自分の快感を優先し、真理子の口の中でグニグニとペニスを律動させた。 「はが、うぐぐ〜!」 真也は真理子の顔を両掌で挟み、正面を向かせた。 そして一気に奥へと押し込む。 真理子はイヤイヤをするが、中央に心棒を打ち込まれているので、思うように顔を動かせない。 さあ、男に蹂躙される女の悦び、感じさせてあげるよ。 処女への気遣いなどとっくに失せている。 真也は自分の先端部が真理子の舌の付け根に近い部分まで到達しているのを実感しながら、「飲み込んで!」と言うのと同時に、さらに奥へとぶち込んだ。 「ぐがああ! むががが!」 嗚咽を漏らす真理子の頭をしっかりと固定してグイと引き寄せる真也。食道にまで達したソレは真理子を苦しめた。 |
自分の身体を売り物にする女性は、男性器を奥まで導く練習のために、ソーセージなど長い食べ物を挿入して耐えることを繰り返すという。そうしてようやく会得するディープスロートを、真理子は始めてのフェラチオで経験させられた。それも、無理やりに、だ。 「ゴ……! ぐ……!」 吐きそうになるが、真也に固定されて、身動きができない。 ゴホゴホと何かがこみ上げそうになる度に、空間ができるのか逆に真也のモノはジリジリと深く入ってくる。真理子の顔が猛烈に歪む。 最初、真也の腰の後ろを拳骨でトントンと叩いて苦しさを表現しようとしたが、すぐにそれは激しい抵抗となった。叩く力が強くなる。だが、真也は相手にしなかった。 膣とは違った締め付け感で走る快感に包まれながら、真也はじっとしていた。 やがて真理子は抵抗をしなくなる。表情が消え、脱力してしまったのがわかる。 それを確認してから、真也はゆっくりとペニスを引き抜いた。 「げほ、ごほ、げほ……」 真理子は何度か咳き込んだ後、はあはあと小刻みに息をしながら、肩を震わせた。 だが、息が整う前に、真也は再び真理子の顔を上向かせると、もう一度、肉芯を叩き込む。 「うぐ、げええ!」 脱力して弛緩した真理子。しかも2度目である。簡単に目的地まで到達する。 苦痛はいっきに頂点を極めた。いったん許されたと思った苦行の底に再度、追い詰められたのである。それがどの程度の辛さなのかを、今度は良く知っている。真理子は激しく抵抗した。なにしろ、一度は「ああ、もうダメ」と全ての力が失せてしまうところまで達したのだ。苦しみと恐怖は身体中に染み付いている。 真理子は激しく首を振って、「イヤイヤ」をした。いや、しようとした。だが、ガッチリと両手でグリップされた頭は、簡単には動かせない。 逃げようにも、背中には、壁。いつのまにか部屋の隅に追いやられていた。 実際には真理子の無意識の後ずさりに、真也がどんどん迫っていっただけだ。 そして、もう逃げられない所まで追い詰められたのだ。 嘔吐がこみ上げる真理子。でも、吐き出すことすらできない。窒息寸前ともいえる酸素不足で、もう嘔吐の力もないのだった。 真理子の身体からまた、力が抜ける。 このままだと、ぐったりと項垂れてしまうだろう。 それを確認した真也は、ペニスを抜いた。 |
真理子は慌しく呼吸をした。しかし、それが許されたのは短時間である。呼吸が整うまもなく、真也はまた芯棒を打ち込んだ。真理子の喉は、聞き取れないくぐもった音を発したが、身体がビクンと拒絶反応をしたのは一瞬だけだった。もう抵抗は、ない。 脱力を確認しては真也は抜き、また挿入した。 これを何度繰り返しただろう。真理子の目からは光が消えた。 もう真也が何をしようと、真理子は一切の反応を示さない。ぽっかりと開いた喉の奥に真也を受け入れるだけだった。 真也は真理子を支えながら立ち上がらせて、優しく抱きしめた。身体は冷たい。温かく包み込むように抱きしめながら、背中を撫でた。耳に唇を寄せ、息を吹きかけもした。 さらに、唇を重ね、舌を絡める。 真理子の身体は徐々に温かみを帯びてくる。 絡める舌に、真理子も反応し始めた。 真也の熱いキスに、真理子も濃厚に答え始める。 絡めた舌のすぐ横を、十分に体温に暖められた真理子の息が往来する。 十分な唾液が、口の中に満ちていく。 真也はいったんキスをやめ、真理子の瞳を見た。 いったん生気の全てを失った真理子だったが、別の光が宿っていた。 好きでもない男と、自ら望んでセックスするなんて……と、真理子の理性を保っていた一本のラインは切れ、甘美な夢魔が真理子の全身を支配した。 唇を離した真也を恨めしそうに見つめた真理子は、涎を垂らしながら、真也のペニスにおしいただくように手を添え、「ちょうだい、もっとちょうだい」と呟いた。 「じゃあ、今度は舐めて。唾をタップリつけて、舌でねっとりと」 「うん。いいよ。タップリ、ネットリね……」 あれほど拒否していたのに、今は自分から顔を近づけてくる。 だらしなく開いた唇から、唾液に彩られた舌がにゅっと伸びた。 天井の蛍光灯の光を跳ね返しながら、真理子の舌は男性器の全てを貪欲にむさぼる淫器に変貌している。 真理子は跳ね上がろうとする真也の肉棒をつかみ、真也が添えた手に導かれるままにピストンしながら、ぬめぬめと亀頭を嘗め回した。 「く、う」 カリの裏側がツボであることをすぐに真理子は理解し、執拗に責めてくる。 セックスに強い真也も、女性によって導き出される快感は人並みにある。あるいは、それ以上か。言葉にならない言葉を発しながら、悩ましげに腰がくねるその姿に、真理子はますます興奮の度合いを高めていった。 |
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