ささやかな反抗

 

==1==


 あたし、水上夕貴は、来年30歳になる。23で結婚したけれど、まだ子供はいない。夫とのセックスには満足しているが、男は夫しか知らないことが不満である。出来れば20代のうちにもっとたくさんの男を知っておきたい。浮気や不倫をしたいわけじゃない。心を揺さ振られるような大恋愛をしたいわけじゃない。肉体がうずくだけ。たった一人の男しか知らないままで30になっていいの、と。30台は女の盛り。もっとも熱く激しく燃えることが出来るのはず。今のうちにきっかけを作っておかないと、いくら勇気を振り絞ってももう夫以外の男に身体を開くことが出来なくなってしまうかもしれない。
 あたしはテレクラに電話して、4人目の相手にそう話した。4人目にしてやっと「この人」と直感したからだ。「身体を目的としたお付き合いをしましょう」とあたし達は話あった。

 

==2==


 一人目の男は23歳だと言った。23と言えばあたしが結婚した年齢だ。若すぎると思った。年齢を聞いただけでなんだかしらけてしまった。23という歳が悪いのではなく、23の時のあたしを思い返すとその幼さ(とくにセックスに関して)が胸に痛く切ない。一度しらけてしまうと話が弾まない。
 二人目の男とは話が弾んだ。会話が上手だった。先に歳を聞いてしらけてしまうのはゴメンだったので、その話はしないでいた。すると相手から年齢を聞いてきた。相手は自分の歳は語らなかった。「あなたはいくつなの?」とあたしが質問をしなかったせいだろう。そのうち会話が進んでしまって聞きそびれてしまった。それよりもあたしの身長や体重、そしてスリーサイズに興味があるようだった。あたしがそれらを語ると今度は服装を聞いてきた。あたしは最近、下着を着けていないことが多い。乳首や陰毛が透けて見えることを正直に伝えると相手は興奮し始めたらしく、テレホンセックスに誘ってきた。既に相手の男はオナニーを始めているようだった。あたしの目的は電話を通じた相互オナニーではなく、本物のセックスだったので、電話を切った。
 三人目の男は粘着質だった。セックスが粘着質なのは好ましいことだが、会話はそうであってはならない。
 四人目でやっと「会いたいな」と思った。 

 

==3==


 あたしは嘘をついていた。男は夫しか知らない、というのは嘘だ。中学2年のときにレイプされて処女を失った。あたしを無理矢理女にしたのは家庭教師をしていた大学生だった。当時あたしは身長が150しかなくかつ同級生たちに比べれば童顔。でも、胸だけは人並み以上に発達していた。今でもそれは変わらない。さすがに顔かたちは中学生のそれではなくなったが、それでも20代前半で通じる。結婚式のときなど夫が友人たちに「犯罪だ」と言われるくらいに幼く見えた。あたしも中学2年生の当時は、鏡に映った自分を見るとあまりもの幼さに、がっかりすることはあっても、女を意識することはなかった。生理のときぐらいだ。服装も無頓着で、胸元は無防備だし、スカートなど小学校のときのがはけたし、事実はいていた。だが、あたしは自分が思っている以上に女だった。あたしが女であることに一番に気がついたのが家庭教師の彼だった。毎週2回、それぞれ2時間。思いっきり接近して勉強を教わっているうちに、彼は欲情した。

 

==4==


 いまから思えば、あたしが無意識のうちに彼を誘っていたのかもしれない。最初、彼はあたしの腕や肩に触れる程度だったのだが、あたしはまったく拒否しなかった。もっとも腕や肩に触れられたくらいで大騒ぎするのはおかしいとは思うけれど。
 そのうち彼は、あたしの横に丸椅子を置いて、並んで座るようになった。手と手が触れた。彼が足を広げるとあたしの足にも触れた。あたしはミニスカートでパンストもはいていない。この時彼は長ズボンのGパンだった。次の授業の時、彼は半ズボンでやってきた。季節柄不自然ではなかったけれど、わざとだと思った。そして生足どうしが触れた。ペンを動かしたりページをめくったりするから上半身は動くが、下半身は動かない。足と足が密着したまま2時間が過ぎた。あたしは肌の密着が嬉しかった。
 彼は肩を触る代わりに太股を触るようになった。このあたりで拒否するべきだったのだろう。けれど、あたしはスキンシップが嬉しかった。両親とのそれがあたしの成長とともに無くなってから以降、誰かがあたしに触れるのは初めてのことである。クラスメイトなどは結構友達同士で親しげに身体の一部に触れたりしているし、異性間でもそれはある。あたしにはある理由でそれがない。ある理由とは、あたしが近寄りがたいほどの美少女だったからだ。うぬぼれではなく事実なのだ。特に制服などを着ていればなおさらである。清楚で高貴に見えるらしい。
 だからあたしは彼に触られるのが好きだった。回を追う毎に彼はエスカレートし、あたしは受け入れた。彼が来る日は意識して短いスカートをはいた。外では恥ずかしくて身につけられないようなものを彼のために買ったりもした。彼は最初の15分くらいでスカートを少しづつ押し上げ、あとはあらわになった太股に手を置いて、どんどん付け根に迫ってきた。

 

==5==


 パンティーに彼の手が届いたとき、あたしの体は硬直した。あたしの中をふたつの感情が交錯した。
 ひとつは、あたしが彼にとって性の対象だったことを思い知らされたショック。そして、もうひとつは、「あ、こんな子供っぽいランジェリーを見られるのは嫌だ」という思いだった。性の対象にされることに愕然としながらも、もう一方で、「もっと女っぽい下着ならば見られてもよかったのに」と感じている自分。
 全身全霊で拒否をすればよかったのに、頭の中をいろいろな思いがぐるぐる回っている間に、あたしはパンティーを膝まで下げられていた。
 「いやあ、やめて・・・」
 大声を上げることなんて出来ない。やっとのことで言葉を口にするだけだ。身体を硬くして俯くだけのあたし。
 どうして暴れなかったのか。どうして逃げなかったのか。心の底に「やられてもいい」という感情があったのかもしれない。なかったかもしれない。自分でも分からない。確かなのは、家庭教師のこの男に恋愛感情などは微塵も抱いていなかったことだけだ。

 

==6==


 あたしはついに下着を剥ぎ取られてしまった。ギュウッと閉じた足。彼はあたしの座った椅子を回転させて自分のほうに向けると、両手で膝をつかんで左右に押し開いた。その光景はあたしの記憶の中に鮮明に記録されている。ずっと俯いていたあたしの視界に入るのは、あたしの両足の間へ割り込もうと迫ってくる彼の頭だけだ。
 どんなに力を入れても再び足を閉じることが出来ない。せめてこれ以上開かれないようにと抵抗するだけ。でも、時間稼ぎにしかならない。やがて彼の顔があたしの右膝と左膝の間に挟まれた。その光景は映画の回想シーンのようにあたしには思えた。自分がいまにも犯されようとしているというのに。

 

==7==


 彼の正面にあたしのおまんこがある。彼は動きを止めてあたしのそれを見入った。ほんの一瞬だったが、強烈な羞恥心にあたしは目を閉じることしか出来なかった。あたしが目を閉じたところで、彼におまんこを見られているという事実は曲げようもない。ただ、彼があたしのおまんこを見ているというのを認めたくなかった。目を閉じるしか出来なかった。
 でも、無駄だった。あたしは時々手鏡で自分のおまんこを写しながらオナニーをしているので、自分のものがどうなっているかよく知っている。目を閉じたあたしの脳裏には、彼が見ているであろうあたしのおまんこがアップになった。
 太股の内側を舐めながら、彼はあたしの中心部へ向かってくる。あたしの身体からはとっくに力が抜けている。くすぐったさの中に、時々ほんのわずかに生じる奇妙な感触をもてあましながら、あたしは彼にされるがままになっていた。

 

==8==


 彼はあたしの襞を指で押し広げながら、おまんこをしゃぶった。
 「濡れてる。中学生の癖に」と、彼は言った。
 「いやああああんん」
 「処女だと思っていた。水上さんはおとなしそうだから」
 あたしは処女です、って言いたかった。だけど、言えなかった。あたしはとてもセックスに興味があっていろいろな本などで知識を持っている。まじめな性の本もあったし、性欲を刺激するための本もあった。間違った知識を植え付けられているかもしれなかったが、何が正しくてそうでないのかは、経験のないあたしには判断できない。けれど、初めてのときは濡れるのに時間がかかり、人によっては十分に濡れないことくらいは知っていた。にも関わらずあたしはたっぷりと濡れている。オナニーをしているときほどの快感はないけれど少なからず感じている。処女だと言っても信じてもらえないだろう。
 あたしはきっと挿入されても痛くないし、出血もしないと思っていた。オナニーの経験なんかなくてもそんな女性はいるのだけれど、男の人は「処女とはこういうものだ」という間違った知識を持った人が多いというのも知っている。スティック糊で遊んでいるあたしが、痛かったり出血したり、まして入らなかったりすることはないだろう。既にきれいなピンク色でもない。
 いまさら、処女だなんて言えない。オナニーが悪いことじゃないのはわかっていたけれど、「本当に処女です。オナニーばかりしていてこんなになってしまいました」と説明しなくてはならないのかと思うと、顔から火が出るほど恥ずかしい。

 

==9==


 「あ、あ、あ、あ、あ、ああ、ああああ、・・・・」
 「気持ちいいの?」
 彼は訊いてきたけれど、それほど気持いいわけじゃない。でも、確かに感じている。好きでもない人に無理矢理犯されているのに、拒否するどころか、感じている。そんな自分に興奮する。
 「ああ、ああ、ああ、・・・」
 ポルノ小説や体験告白に載っているような気の利いた台詞なんて言えない。あえぎ声を漏らすのがやっとだった。親に気付かれないようにどんなに感じても声を押し殺してオナニーをする癖がついている。今だって声をなるべく抑えようとしている。
 「じゃあ、こんなこともしてくれるよね」
 彼はあたしのおまんこを舐めるのをやめた。ガサゴソと布がざわめき、ファスナーの下がる音がする。あたしはとっさに、次に何が起こるのか直感した。
 思った通り、彼はあたしの口の中にちんちんを入れてきた。
 フェラチオ。これも知識として持っていた。あんなものをくわえて気持ちいいのだろうか? 口の中が感じるのだろうか? そんなことをいつも思っていた。一度やってみたい、とも。あたしは思わず受け入れてしまった。気持ちよくなどなかった。けれど、フェラチオをしている自分に興奮した。

 

==10==


 ついにあたしはベッドの上に押し倒された。抵抗した。ジタバタと身体を右に左に振り回した。でも、押さえ込まれた。理性が形ばかりの拒否を示しただけで、身体は彼を受け入れることを望んでいた。挿入された。
 あたしの中に男の人が入ってるんだと思うと、ちょっと感動したけれど、それはきっと彼の体温や重みのせいだろう。あたしったら好きでもない人とどうしてこんなことしてるんだろうと思った。涙が出た。頭の隅では冷めていた。スティック糊の方が気持ちよかった。自分の意のままに動かせるからだとわかっていた。
 少し腰の位置をずらすと、気持ちよくなってきた。
 ぐっちゅぐっちゅぐっちゅ。
 下半身だけむき出しの男女が腰を振っていた。
 「あ、いい!」
 思わず叫んでいた。ぐぐっと快感がせり上がってきた。でも、その途端に彼は射精してしまった。
 あたしはびっくりして彼を押しのけ、立ち上がった。
 「だ、出したの?」
 性の悦楽にのめり込む一歩手前だったから、冷めるのも早かった。
 彼は、頷いた。
 あたしは妊娠の恐怖で全身がこわばった。避妊をせずに中で出されることの悦びをしたためた本もあったし、そういうフィクションや体験告白の方が興奮するから、まじめなセックスの本よりも好きだったけれど、現実にそんなことをするのは馬鹿げていると思っていた。
 でも、迂闊だった。挿入の前に避妊してくれと言うべきだったのだ。病気のことを考えればそうすべきだった。でも、なんとなく流されて生で挿入されてしまった。まさかこんなに早く出されるとも思っていなかったし、射精の前にいったん抜いてコンドームをつけてくれるだろうとか、最悪膣外射精をしてくれるだろうとか、なんとなく期待していた。

 せっかくの初体験だったのに、その終わりはちっともロマンチックではなく、言い争いだった。彼が初体験であることもわかってしまった。彼はそれ以来、家庭教師を辞めてしまった。自分の勉強が忙しくなったという理由で、辞めたいとの申し出を母にしたのだった。あたし達の仲がなんとなく気まずくなっていることを母は薄々勘づいたみたいだった。それよりも、あたしは、ファーストキスがまだだった。もちろん彼はオッパイも舐めていない。なのに、あたしは処女じゃなくなり、フェラチオまで体験してしまった。
 彼のことは愛してなどいなかったけれど、日を改めて、セックスをしてもいいと感じていたのに。中途半端なセックスが以後のあたしを恋愛から遠のかせた。


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