「ベッシャーが、軍人とはなあ……」
「そんなに、似合わないか?」
「ああ、似合わない。ていうか、おまえ、線が細いだろ? 顔だって、いかつくないし、ガタイだってでかくない。どっちかっていうと、学者っぽい。それに、そもそも反戦論者だ」
「身体の錬成は欠かさずやってるよ。それに、体力も反射神経も動体視力も標準以上だ。持久力だって悪くないぜ」
「わかってるよ。見た目の問題だ」
「見た目で軍人して、どうする」
「いや、見た目は大切さ」
友人のアードルンは、飲み干した紙パック牛乳のパッケージを掌の中でクシャっと丸め、腰を上げた。
そのまま立ち去るのかと思ったら、わざわざまた振り返った。
「おまえが軍人にこだわる理由が、俺にはわからないよ」
「アードルンだって、俺と同じ軍人コースじゃないか」
「いや、俺なら誰かに『やめておけよ』って言われたら、きっとコース変更するだろうなあ。結構、ぐらついているんだよ、こう見えても」
「なんだ、お前こそ、コース変更したいんじゃないか」
「誰にも何も言われなければ、そんな行動すらおこせないほど、ぐらついてるのさ。ま、お前と違って、少なくとも『平和は戦って勝ち取るもんだ』くらいには思ってるけれどな」
「自分で言うのもナンだけどさ、俺はぐらついてなんかいないぜ」
そう言おうとして、言えなかった。
こっぱずかしくて口に出せずにいるうちに、既にアードルンが僕に背を向けて歩き始めていたからでもあるし、僕自身、全てを語ってしまうことを躊躇していたからでもある。
どうしたって争いは避けられない。だったら、最小限の被害で、最大限の効果をあげ、さっさと争いを終結させてしまえ。
このようなことは、好戦家には無理だ。だから、反戦論者こそが軍人になるべきだ。しかし、そういう人間が末端にいたって意味が無い。作戦その他を指揮する、中枢部にいてこそそれは実現できる。
おそらく僕は、「それは、俺だからできることなんだよ」と友人に言うのが嫌で、結局何も言えなかったんだと思う。僕には信念も情熱も確信もあるけれど、僕は尊大な自信家じゃない。そう友人に思われるのが嫌だったのだ。
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