少 年

第3章 秘め事 その2

 生理でもないのに、じくじくした腹痛と不意にやってくる出血に、わたしは悩まされていた。2度目の堕胎があきらかに私の体に変調をもたらしていた。

 ソフトボール部OGで、産婦人科の先生から、わたしはピルを処方してもらうことになった。
「どうせあなたも、セックスなしではもうやっていけないんでしょ?」
わたしは頷いた。
「飲み方はここに書いてあるわ。正しく使うのよ。けれど、決してこれは、あなたが売春してもいいようにしてることじゃないの。きちんと避妊して、正しくセックスするためなのよ。わかるわね?」
「はい・・・」
「避妊と、コンドームをつけることとは、全く違う次元のことよ。特定の彼氏とのセックスならピルに頼ってもいいけれど、ピルじゃ病気は防げないわ。万一、遊びや行きずりですることがあるのなら、必ずコンドームはつけさせなさい。これはあなたのためよ。特定の彼とのセックスだったとしても、その彼があなた一筋ではなくて、もし遊び人だったら、そのときもやっぱりコンドームはつけてもらうのよ。あなたがピルを飲んでいることは、彼に言っちゃだめ」
 わたしはうなだれて病院を出た。

 だけど、しおらしい気持ちになっていたのも、その時だけだった。
 携帯電話を手に入れた私は、援助交際にはまっていった。とりたててお金が必要なわけではなかった。せいぜい、ピルと電話に要するお金くらいだ。ブランド品が欲しいわけでもないし、ましてドラッグに手を出してどうしようもなくなってるなんて状況でもない。
 わたしはとっくにわかっていた。
 寂しかったのだ。
 お金と引き換えの肉体だけど、わたしを求めてくれる人がいる。
 お金を払ってでも、わたしを求めてくれる人がいる。
 わたしのそばには、もうマッキーはいない。わたしには、もう、何もない。
 ソフトボール部の練習と、援助交際に明け暮れる日が続いた。

「島崎、今は付き合ってる奴、いないんだろう?」
 同じクラスの弓場あきらが、わたしに告白してきたのは、6月の半ばだった。
 わたしは「付き合えない」と返事した。
「俺のこと、いやか?」
「いやとか、そういうのではなくて、そんな気分になれないの。今は、彼氏が欲しいとは思わない」
「別に、それでもいいよ。時々、その、デートとか、付き合ってくれたら」
「そんなの・・・」
「ダメかい? 今はそりゃあ、俺が勝手に島崎のことを好きになってるだけかもしれない。けれど、島崎が俺のことを好いてくれるか、嫌いになるか、そんなの付き合ってみないとわからないだろ? 俺のことがとりたてて嫌いってんならそれも無理だろうけど」
「嫌いなんてことはないわ。弓場君のこと、全然知らないし、好きも嫌いもない」
「だったら、機会だけでもくれよ」
「でも、本当にそんな気にはなれないの」
 嘘だった。彼氏と呼べる人は、死ぬほど欲しい。けれど、わたしは援助交際なんかしてる女。
 それに、今、どちらかを選べといわれれば、わたしは援助交際を選ぶ。だって、人は人を裏切るけれど、お金は人を裏切らない。もし、弓場と付き合うなら、わたしは援助交際なんてやめるべきだと思うし、きっとやめるだろう。私にとっての援助は、かけた何かを埋めるための代替行為なのだから。けれど、それをやめるということは、今のわたしが存在している唯一の証のようなものを捨てることだ。もちろん、「彼」か「援助」かといえば、「彼」の方がいいに決まっている。けれど、そうして弓場と付き合って、いずれ別れる時が来たら? わたしは今度こそ、すべてを失ってしまうだろう。もう何も残されていない。
 考え込んで言葉をなくしたわたしに、彼は言った。
「わかったよ。無理強いはしない。けど、島崎はもう、俺の気持ちを知ってしまった。そうだろ?」、
「うん・・・」
「本当は、付き合ってくれなくたっていいんだ。俺にとっては、こうして気持ちを伝えることができた、それだけでもいいんだ」
「そんなの・・・」
「そりゃあ、付き合ってくれたら嬉しいし、島崎も俺のことを好きになってくれたらもっと嬉しい。けどまあ、俺がキミのことを思ってるって、それを意識さえしてくれたら、とりあえずそれでいいよ。俺は別に『きらい。いやだ。寄らないで』って、振られたわけじゃないしさ」
 弓場って、なんだかいいやつだなあ、とわたしは思った。
 でも、だからこそ、付き合えない。

 彼が遊び人で、わたしの身体だけが目的だったら、どれだけよかっただろうか。

 シャワーを浴びさせてと言うわたしを無視して、男はわたしの首筋に唇を這わせ、キャミの肩紐の一方をずらし、ポンとはみ出した乳房に手を触れた。
 乳首を指先で転がされて、わたしはもうシャワーなんてどうでもいいや、と思っていた。
「あん・・・」
 胸にいたずらされただけで感じてしまう。好きでもない男なのに。
 何の感情も持てない相手とすることに慣れてしまった。ううん、そうじゃない。最初からそういう人とばかりセックスしてたから、誰でも感じる身体になってしまったのだ。そう思うと、少し悲しかった。同時にそれが救いでもあった。セックスさえしていれば気持ちのいい場所にいられる。
 じゅる、とお汁が溢れ出してくるのがわかった。
 どうでもいい男なのに、わたしの身体はそれを受け入れようと整ってゆく。
 スカートの中に手を入れた男は、Tバックのパンティのわずかな布を横へ押しやり、さっそくわたしのヴァギナに指を押し入れてきた。わたしの中で指を折り曲げ、膣壁にこすり付けたかと思うと、その指をおもむろに抜いては、ジュースをクリに絡ませながらつまんでくる。
「あ、ひいい」
 痛みに似たなにかが駆け抜ける。
「いや、だめえ」
「だめなわけないだろ。こんなに濡れて・・・」
 そう言って男は、クリをぎゅっと押さえつけ、指の腹でこねた。それだけでなく、穴の中にも確かな指の存在感があり、周囲の敏感な部分にも着実に巧みな愛撫をくわえていった。
 パンティの股下部分の布は脇へ追いやられてアソコは完全にあらわになっているだろう。
「やっぱ、援助をするような子は違うな。感じやすいし、下着もスケベだ」
「あ、や、ああ、やあ、な、なに、これえ」
『金を払ってるんだからおまえは俺の好きなようにやらせればいいんだよ』的な男が多かったけれど、この人はわたしを感じさせようとしてくれていた。もっともそれがこの男にとっての「やりたいようにやる」なのだろうけれど。
 でも、まるで恋人と夢中になってやるときみたいに、身体の芯が燃え上がってくる。こんなに気持ちのいいセックスなら、たとえ相手が「お金と引き換えにわたしの身体を弄ぶ」であってもいい。存分に責めてくれていい。
 のどの奥に空気の塊が詰まったみたいで、あえぎ声さえも出にくくなっていた。
   男はベルトを緩め、さらにファスナーを下ろした。そそりたったそれが飛び出してくる。テカテカに光っていて、カリがたっぷりと張り出している。男の年齢は30になるかならないかだろう。でも、今までに抱かれたどんな男のものよりも、使いこまれているように思えた。
「ねえ、中出ししていいから、もう2万円ちょうだい・・・」
 わたしはその日の相手に、甘ったるい声でそう言って、首に両手を絡ませた。
「ふん、安全日だか、薬を飲んでるんだか知らないが、あと2万円って言うんなら、もう少し楽しませてもらわなくちゃな」
「払うの? 払わないの?」
 わたしはすれた女のような口調で言った。
「どうしてそんなに金が欲しいんだろうね。セックスってのは楽しく、気持ちよくするもんだ」
「じゃあ、いいわよ」
「おっと、払わないとは言ってない。生だけじゃあと2万円も払えないって言ってるんだ」
「何を要求するの? 出来ることと、出来ないことがあるわ」
「いっちょまえのことを言うね。売春婦のくせに、売春婦には売春婦なりの最後の一線があるってわけだ」
 男はわたしにアナルを要求してきた。
 わたしは、いいわよ、と返事した。
 ヒュー、っと男は口笛を吹いた。

「お願い、もうだめ。許して・・・・」
 わたしの口から漏れる懇願のせりふ。かろうじて残る意識の奥から振り絞っていた。
 アナルをオーケーしたその時から、男の態度が変わった。まるでなにかに取り憑かれたように、わたしを責めて責めて責めまくった。
 仰向けになった男は、わたしにおしゃぶりするように命じた。わたしはそれに応じた。
 男の腹の上にまたがってフェラをする。ピチャプチャとわたしの舌と唇の動きに合わせていやらしい音が部屋に響いた。ラブホテルだったが、決して安っぽい部屋ではなかった。インテリアそのものは高級ホテルなみ。でも、ガラス張りの浴室と、部屋の中央に唐突に置かれたキングサイズのベッドが、やはりここはセックスをするための場所であることを物語っていた。
 その部屋いっぱいに、男と女の激しい息使いと、粘液を伴って触れ合うねっとりとした音だけが響いていた。スプリングがしっかりしているらしく、ベッドは音を立てなかった。
 男は腹の上にあるわたしの腰に両手を添えて、男の顔のほうに引き寄せた。そして、クンニ。
 たっぷりオーラルしあったあとは、男はわたしに上に乗るように言った。
 腰の位置を移動させ、わたしはゆっくりと男のモノに向かって穴を降下させた。
 ぬぷり。
 たっぷりと湿っていたわたしのアソコは、男の大きなものに押し広げられながら、それを奥深くまで受け入れた。
 わたしの記憶がそれなりにあったのはここまでだ。
 男が下から突き上げるたびに、わたしは大声でなにやら叫びながら、腰を宙に跳ね上げられた。会館に包まれながら宇宙遊泳するうちに、わたしは四つんばいにさせられていた。自分の性器が激しく揺さぶられながら立てるいやらしい音が耳の中でエコーをした。身体が熱く燃え上がる。
 いやあー、と叫びながらわたしはイッた。
「何がいやなんだよ。ええ! 何がいやなんだよ」
 男はいたぶるように耳の中に息を吹き込みながら、わたしを立たせたらしかった。いつ、そんな大意になったのかわからない。わたしは壁に手をつき、お尻を広報に突き出して、立ったまま男を受け入れていた。
 正常位、バック、女性上位、たったまま、でんぐり返しの格好・・・。順不同で次から次へと男は挿入し、激しくピストンしてきた。ヴァギナと思えば、アナル。アナルと思えば、口。
 ああ、いったいわたしは何度イッただろう?
 わけがわからなくなり、男の動きにあわせてただひたすら腰を振るしか出来なかった。
 何度も何度もイカされているうちに、頭の中が真っ白になり、真っ赤になった。疲れ果て、寒気がして、吐きそうになった。わたしはベッドの上を、床を、這いずり回って逃げた。けれど、すぐに拘束され、また挿入された。あっという間に昇り詰めた。そして、また絶叫。
 そしてわたしは動けなくなった。グッタリとベッドの上に横たえた。
「お願い、もうだめ。許して・・・・」
 指一本動かす気力さえ残っていなかった。
 男は口移しでビールを飲ませてくれた。
 ごく、ごく、ごく・・・
 飲みほすと、また口移しでビールが口の中に注ぎ込まれる。
 お酒なんて、飲みなれていない。でも、拒絶することも、もういらないと意思表示をすることも、出来なかった。わたしにはもうこれっぽっちの体力すら残っていなかった。
 のどは渇いていた。だから、口の中に入ってくる液体をただ条件反射で胃の中へ移動させるだけだ。
 わたしは、そのまま、眠ってしまった。

 わたしはある日の放課後、職員室に呼び出された。
 ばれた?
 どきりとしたが、そうではなかった。
「成績、落ちてるな」
 担任の右藤先生が言った。
「ちゃんと、勉強してるか? 高校受験、目の前だぞ」
 勉強は、しています。わたしはそう答えた。もともとわたしはそんなに成績は悪くない。ずっとクラブ活動と両立をしてきた。それなりのコツはつかんでいるつもりだ。
 していたけれども、確かにその時間は減っていた。援助交際にその時間を奪われていた。だからわたしは、成績のことを指摘されると、頭の中がスウーっと冷たくなった。放課後の職員室には、色々な生徒がやってくるし、業者の出入りもある。職員室はざわめきに満ちていた。けれど、成績のことを指摘され、頭の芯が冷えると、ざわめきは休息に遠いものとなっていた。
「確かに、な。全くしていない、というわけではなさそうだ。それは定期試験の成績を見ればわかる。といっても、まだ1学期の中間試験があっただけだがな。けど、この前の模擬試験、良くなかったな」
「つまりだ。島崎が勉強していないんじゃない。まわりの連中がもっと勉強してるってことだな」
「クラブも、もうすぐ引退ですから」
「そうだな」
「はい、そうです」
 大人の男たちとベッドをともにし、自分の身体と引き換えに金銭を得ているというのに、右藤先生の前ではすっかり子供だ。成績のこと、クラブのこと、受験のこと、進学のこと。それらが話題になると、わたしは普通の中3生だ。
 派手に遊んでいる子はいっぱいいるし、反抗的な態度を常にとったりもしている。けれど、わたしにはそういうことが出来ない。
 あなたたちなんかにあれこれ言われたくないわ!
 そう叫んでみたい。
 週に2回も寝れば、先生なんかの給料より、ずっとたくさんのお金を稼げるんだから!
 頭の隅にそんなフレーズがこだまする。
 けれど、それは本心じゃない。
 どこで、狂ってしまったんだろう。
 お金が欲しくて、援助交際しているんじゃない。自分が必要とされていることを実感したかっただけだ。
 わたしは何を望んでいるのだろう?
 さっぱりわからなかった。
 ただ、周りを見回したとき、そこには何もないことだけはわかる。わたしの周りのすべては、これまでずっとマッキーを中心に構築されていたのだ。マッキーがいなくなって、もう、何も残っていない。いまさら気がついても、遅いんだけど。

 彼は、スーツを着ていた。そして、名刺を差し出した。
『エンジョイライフ 代表 来島靖』
 それが、先日わたしを、もう指一本動かすことが出来ないほどの激しいセックスで責めたてた、あの男である。
「久しぶり」と、彼は言った。
「なによ、それ。エンコーの相手に、名刺なんか出して・・・」
「スカウト、だよ」
「へ?」
「ま、お茶でも飲みながら、ゆっくり話そう。キミが望むならお酒でもいいがね。でも、それほど強くなさそうだ」
 なんか、調子のいいことをほざいてるおっさんだなあ。
 わたしはそんな風に感じていた。

 わたしたちは喫茶店に入った。
「知ってるでしょ、わたしが中学生だってこと。スカウトも何も、まだ義務教育も終えてないのよ」
「まあまあ」
 彼は両手の掌を自分の胸の前で立てた。
「テレビドラマを見てごらんよ。子役、っているだろう? 彼ら彼女らはいったい何年生なんだい?」  金でわたしを買ってセックスの道具にしたあの男とは、まるで別人のような印象を受けた。適度なユーモアを心得た、まさしく「大人」という感じだった。
 わたしは、来島から仕事の内容を聞いた。
「ビデオドラマの出演とか、コンパニオンとして疲れた男たちを癒してあげるとか、まあ、そういう仕事だよ。うちにはたくさんの女の子が所属していて、たくさんの注文がある」
 ようするに、裏ビデオの女優と、売春のお相手なのだった。
「エンコーなんてただの小遣い稼ぎよ。それに、もうすぐやめるの。受験勉強、本気にならなくちゃ」
「え? 受験勉強? キミが?」
 男は笑った。
「何がおかしいのよ」
 わたしは目の前に置かれたオレンジジュースに手をかけた。ぐぐーっと一気に飲み干したら、もう帰ろうと思ったからだ。
 だが、来島の一言で、わたしの手は止まった。
「キミに、まともな進学や就職があると思ってるの?」
「え?」
 失礼な、という怒りが一瞬こみ上げ、そして、次に、「どうしてあなたにそんなことを言われなくちゃならないの」と、悲しくなった。
「どういうことですか、それ」
「簡単なことだよ」
 男は、ゆっくりとコーヒーカップを持ち上げ、カップのへりを唇に添えた。
 彼のものの言い様にプライドを傷つけられた自分がここにいる。「キミにはまともな進学も就職もない」と無下に言われてショックを受けつつも、「それって、エンコーとかしてるから?」と思うと、背筋が寒くなった。
「そりゃあ、点数さえ取れれば高校には入学は出来るだろう。けれど、何がきっかけでキミが売春していたことがばれるかもしれない。そうなれば、退学だろうね。いま、僕は、過去形で語ったけれど、受験勉強のためにいったんやめた援助を、キミはまた始めるだろうね。女子高生なら、買ってくれる人はたくさんいるからね」
「それって、脅してるの?」
「脅す? 僕が? どうして? まさかキミは僕が学校に君とのことをバラスとでも思ってるの? 冗談じゃない。そんなことをすれば、つかまるのはこっちだ。それともキミは、自分が売春していたことをべらべら喋るつもりかい?」
「そんなことするわけないでしょ」
「だったら、いい。でも、当事者同士が黙っていても、どこからバレルかなんて、本当にわからない。卒業までの間、無事に過去を隠しおおせたとしても、就職となるとそうはいかない。過去を調べられるよ。コネもなく、成績もそこそこで、飛びぬけた才能もなにもないキミが、まともな就職なんてできるわけない。場末の事務員でもよければ、別だけど。でも、給料だってしれてる。10代の前半から、何十万って稼いでいるキミが、それで満足できるかい? キミは服装も化粧も、エンコーのお金を派手に使っているタイプには見えないし、ブランドとかそういうものにあまり興味もないようだけど、お金は、稼ぐことと使うことは根本的に違うんだよ。キミが場末の会社に就職したら、最初に受け取る給料の金額を見て愕然とするよ。わたしの価値ってこんなに低かったのって」
 自分流の好き勝手な理屈を並べ立ててるだけのように思えたけれど、最後のワンフレーズにはぎくりとした。わたしだって、高卒女子事務員の初任給の相場くらい知っている。確かに、愕然とするだろう。

「中学、卒業したら、うちへおいでよ。ギャラのいい仕事がいっぱいあるよ。セックス、好きなんだろう? わかるよ。楽しいことだけして、お金稼げるよ。10年がんばったって、まだ25だ。でも、10年やれば、どれくらい稼げるかなあ? 頭のいいキミなら、わかるだろう? それ、ためといたら、お店でも何でもやれるじゃない。かわいい小物を売るお店でもいいし、花屋でも食べ物屋でも喫茶店でもいいよね。それとも、エッチなランジェリーショップ、なんてのもいいかな。自分で始める店だったら、過去なんて関係ないでしょ? 元売春婦だからって、だれがキミのことをクビにする? できっこない。だって、キミが社長なんだから。身体を張って稼いだお金で開いた店だ。誰に後ろ指さされる必要、ある? でも、普通の学校や会社や世間ってのは、後ろ指、さすだろう? だけど、考えてごらん? AV女優からいまやお茶の間の人気女優になった人だっているし、元AV女優のお店っていうのも人気あるよね。それも、女の子に、だよ。女の子の代表だってことだよね」

 話を聞いているうちに、心が揺れているのがわかった。
 ワナワナ震えてつかめなかったオレンジジュースのグラスを、落ちついて口に運ぶことが出来るようになっていた。
 このまま、周りに流されるままに、将来何かの役に立つかどうかすらわからない受検勉強をするよりも、援助交際でお金を稼ぐことの良いように思えたりもした。
 男と寝て金をもらうことが「悪いこと」とされているから、それは「悪い」ことなのであって、しかし昔から、ひとつの商売として成立していたことも事実だった。
 それも、ただ、男と寝るだけじゃない。娼婦たちは、容姿を磨き、技術を磨いていた。あきらかな人気商売だ。気の利いた会話で人気を得るものは、知識も豊富だったに違いない。
 売春が悪いことと規定されている時代や場所は、公然と売春が行われていた時代や場所に比べて、とても限られているんではないかとさえ思った。それらに関する歴史を知れば知るほど、そう思えもした。

 どうしよう・・・
 

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