ミニスカート

 

 

 お尻が見えそうなくらいのミニスカートを履きたい。
 でも、あたしには、無理。

 電車に乗って座ると、つい眠ってしまう。
 通勤時間が長いから、朝が早く、夜は遅い。
 転勤になる前はこんなじゃなかったのにな。そりゃあ座れないし、ラッシュの肉弾戦に放り込まれるんだけれど。
 就職を機に親元を離れて始めた一人暮らし。この地に愛着があるわけでもないし、新しい勤務地に引越ししようか。そんなことも考えたけれど、引越しに伴う現実のアレコレを考えたら、面倒くさくなった。どうせ会社が交通費出してくれるんだからと思うと、住み慣れた部屋を移る気にはならなかった。場所に愛着は無かったが部屋には愛着があったのだ。
 親元で、自分の部屋をひとつだけもらって、過ごしていた頃とは違う。リビング&キッチンと寝室兼書斎のたった2室にユニットバス。小さいけれどあたしの巣。それはあたし自身だった。

 転勤後のオフィスへ通う電車は、いくつかの大きな駅を通り越してゆく。だから、次々と乗客が入れ替わって、そのうち座れる。そして、眠ってしまう。
 だからあたしは、ミニスカートが履けない。
 だって、知らないうちに足を広げてしまうから。

“こつぶ、それ、変。ノーブラでオチチ見せてるくせに、ショーツ見られるのはイヤなんだ”
“通勤のときはスーツよ。ブラはしてないけど、わからないわ”
“スーツって……。こつぶのとこ、女子社員は制服があるんでしょ?”
“うん。会社で着替えるの”
“だったら何を着て通勤したっていいじゃない”
“まあ、そうなんだけど”

 ミニスカートで通勤したらいいだろうなあ。透け乳首に、足の根元までさらけだしたミニスカート。
 胸だけじゃない。足だって自信ある。細いわけじゃないけれど、形は整っているし、肌は綺麗だし。

 そう、いつだって、あたしはそう。造詣は綺麗なのに、美しくない。制服を着たあの中学校のときから。

“足を組めば? それで股は開かなくなるわよ。”
“そっか”


 その日あたしは、ミニスカートを買った。
 薄いピンク色の地に、空色のチェックが入った、短いフレアスカート。
 お金を払って、その場で着替えさせてもらう。小さな試着室の鏡にうつったあたしは、まるで10代後半の女の子のようだった。乳首が透けているのがバカっぽいけどね。

 鏡の中のあたしは、ちょっとはにかみながら、それでも楽しそうに笑っている。
 あたしはずっとこんなふうにして過ごしたかったんだ。あらためて気がついた。
 鏡に背中を見せて前かがみになると、ショーツが見えた。気をつけなくちゃ。

 このミニスカートにスーツは似合わない。上着はお店でもらった紙袋に放り込み、あたしはTシャツにカーディガン、そしてミニスカートで帰路についた。
 カーディガンの前を留めようか、はだけさせておこうかと少し思案。今日のTシャツはシルクっぽい光沢のある白で、胸元も開いている。乳首は……、ほんのり透けている。
 見せちゃえ。

 駅の階段。
 振りかえると、男達が視線を背けた。やっぱり見ていたんだ。だけど、スカートがこうも短くちゃ隠しようも無い。
 タイトスカートならお尻と太ももにはりついて中は見えなかったんだろうな。ううん、ふとももなんかにははりつかない。ふとももまで届かないもの。
 もう、あたしったら、なんて恥ずかしいスカートを買ったんだろう。
 どうしてこんなものを売ってるんだろう。
 誰がこんなスカートを作ろうって言い出したんだろうか。

 電車に乗って、座る。
 足を組む。
 座るとお尻の下にまでスカートの布が届かない。パンティのすぐ下には椅子がある。
 あたしを横から見ると、きっとお尻ギリギリまで見えているんだろうな。身体をひねって自分で見てみる。薄布がふわりとあたしのヒップを覆っているだけだった。ハイレグパンティで良かった。でないと、下着が見えてしまう。
 もともと足は長いほうだし、ヒールはいているし、めちゃくちゃカッコイイような気がした。
 さりげなく車内を見回すと、あたしのお尻や足の間に視線を固定させている人がいる。
 まんざらじゃない。
 でも、なんとなく居心地が悪くなって、足を組みかえる。2本の足の中間でにゅちゅっと音がした。
 やだ、あたしったら、感じてるの?
 乳首も立ってきた。


“こつぶ、そのミニは短すぎるよ。ショーツが見えてるじゃない”
“うん。気をつけてるけど、階段とかじゃしょうがないもん”
“しょうがないからって、わかってて見せてるの?”
“うん……”
“カバンで隠すとか、見られてもいいものを下に身に付けておくとかしないと、そのうち襲われるよ”

 襲われてもいい、襲われてみたい。
 一瞬そう思った自分に怖くなった。背筋がぞっとした。

(見られてもいいものを下に身に付けておく、かあ)
 それはスパッツとか、ホットパンツとか、そういった類のものだ。
 けれど、それももう少し丈がないと無理だ。スカートの下から、わけのわからないものが見えていたらカッコワルイ。
 覗き込まれてはじめて「なあんだ、ガードしてやがんの」って思われるのはいいけど、最初から「ガードしています」って主張するのは野暮だと思う。そんなだったら、ミニなんてはかなければいい。あたしはそんなことのためにミニスカートをはいているんじゃない。

 じゃあ、なんのために?
 あたしは、「見せたいんだ」と思った。

 

もどろっか

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