語り部は由美
大学1年生 淫ら(5)





 コテージは深い森に包まれていた。ほんのりと霧が出ていて、車から降りるとこれ以上細かくしようがないというほどの小さな水滴がわたしの肌に張り付いてきた。
 火照ったからだに心地いい冷たさ。
 まだ合宿所にも着いていなかったのに、もう二人のペニスをくわえ込んでしまった。久しぶりにわたしの中の熱いものが爆発しそうな予感がした。
 しっとりと湿った空気はあらゆるものを優しく包み込んでくれるかのようだ。ゆっくり歩いたつもりでもザクッ、ザクッ、と土の地面を踏み鳴らすわたしの足音が耳に届く。けれどそれはキャンパスの校舎の床をドタドタと歩くいつものわたしのそれではない。しっとりと穏やかで上品な響きだ。足を止めてはじめて木々のざわめきや鳥たちのさえずりが耳に届く。晴天ならきっとうるさいほどの森のざわめきだ。これらもきめの細かい水滴のためにオブラートに包まれていたに違いない。わたしの足音が消えて初めて感じることができた。
 和服を着た線の細い清楚な女性が似合いそうに思えたが、あいにくだった。これから起こるであろう性の饗宴に心弾ませ、わたしの身体は熱く燃えていた。

 わたし達4人がコテージにたどり着くと、他のメンバーは既に到着をしていた。部屋割りも終わっている。先に着いたメンバーは部屋に荷物などをおいた後のようで、リゾートスタイルに着替えて1階のロビーにたむろしていた。
「あ、由美ちゃんは、2階の鈴蘭っていう部屋ね」
 3回生で幹事長の羽原クンが教えてくれる。
 2年も先輩だけど、二人で会話をするときは「由美ちゃん」「羽原クン」と呼び合う仲だ。でも、深い意味はない。呑みに行ったときに「由美ちゃわあん」などとわたしのことを呼ぶから、わたしも調子に乗って「羽原クウゥン」とか言ったりしたのがきっかけだ。
 いつもわたしに手を出したそうなことばかり口にするが、一度も迫っては来ない。多分、1回生の女の子に対するリップサービスなんだろうと最近では思っている。
 買い出しがどうとか、肝試しがどうとかいう会話が聞こえる。合宿はまだ始まったばかり。それぞれの役割分担にしたがってこれから行動を起こすところだ。ペーペーのわたしなんかは一番に走り回らなくてはいけないのにセックスのことばかり考えて身を捩じらせていたなんて・・・。ちょっと恥ずかしくなった。
「あの、わたしは何をしたらいいですか?」
「そう焦らなくてもとりあえず部屋に荷物を置いてきたらいい」と羽原クンが声をかけてくれる。
「夏合宿の最初の日は、1回生は何もしなくていいんだ。歓迎会のようなものなんだって」と、同級生の小柳君はロビーで半ば寝そべりながらテレビを見ている。他の新入生はそこそこ緊張しているというのに、彼は慣れたものだ。

「部屋、一緒にいったげるよ、同じだから」
 羽原クンと同じ3回生の成美サンはそう言って、わたしの横に並んで歩き始めた。
「そんなにスケジュールはきつくないから、まずはシャワーでも浴びる事ね」
 シャワーを浴びなさいと言われて、わたしは「車の中での出来事がばれているな」と思った。でも車の中でのエッチはいわゆるスワッピングで彼だってちゃんといたわけだし、成美サンはサークル内に彼氏を作っていない(もっとも外にいるかどうかもわからないけど)から、もちろん岡寺先輩とは無関係だ。だから彼女に対してやましいことはない。彼女に対してやましいことはないけれど、合宿所についていきなり1回生が先輩を差し置いてシャワーを浴びるのは気が引けた。
「遠慮しなくていいわ。通りターゲットにされたんでしょ? シャワーくらい浴びたらいい」  どうやら見透かされている。
 わたしがそ知らぬ顔で「え?」と聞き返したとき、私達は「鈴蘭」の部屋の前にいた。
 成美サンがルームキーを差し込んでドアを開け、「どうぞ」とわたしを先に通してくれる。
「男のにおいがするわ!」
「ええ?」
「ほら、いいからいいから」
 成美サンはバスルームにわたしを押し込むジェスチャーをしながら言った。わたしは素直に従った。

 火照った身体を霧で冷やされ、次はシャワーの熱いお湯。まとわりついていた二人の男のエキスが綺麗さっぱり流されていく。それは気分的なものばかりでなかった。アソコからドロリとしたものが太股を伝わった。射精を受け入れてから少し時間がたっているためかネバネバが強くなっていた。量も多い。なにしろ2人が数回出したのだ。
 いつのまにか成美サンがシャワールームのドアを開けて覗いていた。
「あ、これはあ」
 彼女は手を伸ばし、わたしの太腿を伝っているそれを指先ですくい上げた。その指を鼻先に近づけ匂いをかぐ。
「岡寺君のだ。そうでしょ?」
 わたしは驚いた。ズバリ当てたのだ。
「どうしてわかるんですか? 一度やった人の匂いは忘れないとか。。。。」
「あら、一度じゃないわ。彼とは何度もしてるわよ」
 そうなんだ、とわたしは思った。
「でも、匂いがわかるなんてのはインチキよ」
「じゃあ。どうして岡寺先輩のだって・・・」
「だって、同じ車で来たでしょ、あなたたち」
「あ・・・」
 さらにわたしは、その後の成美サンの行為を目の当たりにして、半ば呆れた。なんと彼女は指先についた使用済みザーメンを口に含んだのだ。
 いくらエッチが好きでも、そこまでは・・・・。だって、男の人から直接浴びせられたんじゃない。一度はわたしの中に入ったモノ。
「すごっ」とわたしはため息をもらした。せっかく流した男の体臭をまたまといたくなってくるほど、成美サンのその行為はエロチックだった。
「それ、岡寺先輩のだけじゃなくて・・・」
「あなたの彼氏のも混じってるんでしょ? ステキ。美味しいわ」
「あ、あの・・・。平気なんですか? したこともない人のを口に含んで」
「どうせ合宿中にはするんだから同じよ。さ、いいから早くシャワーを浴びてしまいな」
「は、・・・い」
 ここでは、誰と誰が付き合っているとかそういうことは全く無意味なようだった。
 
 交代でシャワーを浴びロビーに戻ると、成美サンを待ちかねたように先輩達は行動を始めた。テキパキと段取りを決めて何かの準備を始めたり買い出しに出かけたりしてしまい、一回生はロビーに取り残されてしまった。
 普段の部活動と違い、あれをしろとかこれを手伝えとか誰も言わない。確かに合宿の初日は我々1回生は何もしなくていいことになっているらしい。新入生歓迎会は既に行われているから、これが2度目の新歓ということか。
 もっとも、入部して早々にやめていく人もいるから、こちらがホンモノ、ということかもしれない。
 買い出しから戻ってくると、先輩達はキッチンで夕食を作る者、肝試しの準備をする者に別れた。この付近にお墓なんか無いらしく、「脅かし」の為のネタを仕込んでいるようだ。そんなものが無くても、山深く明かりのない所を歩くだけでもわたしには充分怖い。
 残った上級生はロビーにたむろする私達にコーヒーやクッキーを出してくれて、おしゃべりの話題を提供するなど、和やかな場を作るのに余念がない。ログハウスではないけれどウッディな内装を心がけて作られたロビーと、夏には何の意味もないけれど作り付けられているペチカが、くつろいだ雰囲気を演出するのに役立っていた。

 このサークルがエッチに関しては極めてラフなことを、もうみんな知っている。わたしのように「だあいすき」なのもいれば、「興味津々、だけど、ほとんど処女同然」と言う子もいる。先輩達のもてなしはそういう子達の緊張をほぐすためでもある。
 もちろん嫌だっていう子を強姦したり輪姦したりはしないんだけど、夏前になればサークルの雰囲気もうすうすわかってきて、潔癖(で、いいのかな?)な人は辞めちゃうのだ。辞めるのはほとんどが女の子だけれど、中には男の子もいる。女の子は「あ、あたし、そういうのはちょっと・・・」という感じだが、男の子が辞めるときは「とんでもない、信じられない、けしからん」と憤然と退部届けを出すのがほとんどだ。
 男の子なんて本性は性欲の固まりだと思っていたけれど、潔癖な子は本当に全身全霊で潔癖なんだとわたしは認識を新たにしたものだ。
「人並みにエッチな男の子でも童貞か童貞同然の子もいてね、男の子の方が緊張しすぎて立たなかったりするから、雰囲気作りは大切なのよ」と、後で成美サンが教えてくれたりもした。
 私達はワイワイと話をしながら、キッチンの方からいい匂いが漂ってくるのを感じていた。夕食の準備が余念なく進んでいる。
 肝試しの仕込みをしていた先輩達も戻ってきて、間もなく夕食。具のタップリ入ったシチュー、白身魚のチーズとキノコのホイル焼き、サラダとフルーツ。主食にはパンとごはんの両方が用意されていた。これを男女関係なく組織された「食事班」で作るんだから、先輩たちもすごいなと思う。わたしにできるだろうか。
 
「じゃあ、食事をしながら組み合わせを発表しよう」
 羽原クンが言った。
 肝試しは、陽がとっぷりと暮れてから男女ペアになって決められたコースを辿る。
「仕組まれてるわよ」と、成美サンがわたしに耳打ちをした。
「わたしの相手は彼なの」
 成美サンが視線を向けた先には、(おそらく)童貞君がいた。わたしと同級生の十文字君だ。
 「いままで女性と全く縁がなかった」というような風貌ではないのだけれど、今一歩踏み込むことが出来ずにおどおどしちゃうタイプだ。容姿もファッションも悪くない。性格は、ちょっと自分の世界に入り込んでしまう所がある人だけれど。
 彼が成美サンの指先や舌でいじめられながら、やがて歯止めがきかなくなって成美サンにむしゃぶりついていくのを想像すると、ゾクゾクしちゃう。
 彼のような人が成美サンにガンガン責められて、「そうか、女ってそうなんだ」って思いこんじゃったら、ちょっと後が怖そう。
 その怖い状態で抱かれてみたいな、なんてふと思った。
 
 案の定わたしのパートナーは羽原クンだった。これまで口先だけで何度も迫って来て、でもちっとも行動を起こさなかった彼だけれど、チャンスを狙っていたに違いなかった。幹事長という立場でこの合宿を仕切れるわけだから、どんな組み合わせだって出来る。
 1組目が出発して、5分後に2組目。さらに5分が経って、私達は3番目。
 コテージから一歩外に出ると、果てしない暗闇が目の前に広がっていた。ひとつだけ与えられた懐中電灯のスイッチを羽原クンが入れる。
 手元には簡単な地図。といっても迷わないように分岐点でどちらに進むかを示しているだけだ。精巧な地図を渡されても暗闇の中で懐中電灯の光だけでみたんじゃどうせわからない。くねくねと蛇が這うような道を進むとY字の分岐点がある。道祖神が目印だ。ここを左に進む。しばらく行くと農作業の道具でも収めてあるのか、傾いた小屋があるという。この小屋の手前に道が左に分岐している。左右から雑草やら潅木やらが迫った細い道で、人が1人分の幅しかない。やがてちいさな祠に達する。ここが目的地だ。祠にはあらかじめ「これが証拠の品」とマジックで書かれた蒲鉾板が置かれていて、これを持ち帰らなくてはいけない。
 羽原クンはわたしの手元の地図を照らしてくれたけれど、既に頭の中に入っている。
「覚えているからいいわ」とわたしが言うと、彼は光の先端を地面に当てた。明かりの輪が私達のほんの数歩先を照らしてくれる。でも、地面がはっきりと浮き上がった分、まわりの闇はさらに深くなった。
 
 羽原クンの指先がわたしの手首に触れ、私達はごく自然に手をつないだ。
「なんか、照れる」と、わたしは言った。
「じゃあ、これは?」
 羽原クンはつないだ手をほどき、代わりにわたしのお尻に掌をあてがった。彼の神経がわたしのヒップに集中したのか、もう片方の手で持っている懐中電灯の灯がふらふらと地面の上を揺れた。
「やっぱり、照れる?」
「ううん、そんなことない。エッチを連想させられると、もう照れない」
「そのかわり、濡れるだろ?」
「まあ、ね」
 そうは答えたものの、ランジェリーが食い込んだわたしのアソコは、「まあ、ね」どころではなかった。
 整備された逍遥路とはいえ、舗装されているわけではない。お尻に圧迫を受け、歩きにくくなったわたしは途端にスピードが落ちた。それでなくても暗闇の中でペースが遅い。羽原クンもわたしの歩速にあわせてスピードを落とす。ゆっくり歩けばエッチなことをする余裕も生まれる。ただ掌をお尻にあてがうだけでなく、指先をもぞもぞと動かしてきた。
 ヒップにピタリと張り付いてるだけで、ほんのわずかにさえ足を隠さないほどの短いスカートの中に、もはや羽原クンの手はいつだって滑り込むことが出来る。
 どきどき。
 もちろん羽原クンは期待通りに手を動かしてきた。
 じんわり濡れていたわたしの割れ目から、どっと愛液が湧き出てくる。
 わたしはさらにスピードを落として歩き、彼はわたしの横に密着してきた。わたしの一番感じるところに指先でさぐりあて、前から後ろへ、後ろから前へとスライドさせてくる。
 こうなるともう歩いているとはいえない。ほとんど止まった状態。真っ暗な森の中の逍遥路でアソコを弄ばれているわたし。時々感じて、思わず足が前に出る。これがようやくの前進。ほんの一歩。
 布越しの柔らかな圧迫感が、直接触られるのとは違った気持ちよさで、わたしを包んでくれる。
「あ、いい」
 わたしは彼のズボンに掌をのせた。もちろんペニスのある所に。
 彼のおちんちんはギンギンに勃起していた。真上にそそり立っている。
 わたしは掌を亀頭に軽く押しつけて彼の先っぽをコロコロと転がしながら、人差し指と中指と小指で、タマタマをマッサージ。
「由美ちゃんはこれくらいのこと平気でするんだろう? だったら悪戯? それともホンキ?」
 ホンキだとわかっているくせに、羽原クンは訊く。
 言葉遊びを交えたセックスは大好きだ。
「悪戯で終わらせるか、ホンキになって没頭させるかは、あなたしだい」
「だったら、本気になるしかなさそうだね。どうせかんじんの肝試しはここから先へは進めなさそうだし」
 彼は、「ほら」と言って、懐中電灯の光を前方に投げかけた。
 そこには、私達より5分早くスタートしたはずの、ひとつ前のペアが、道をふさいでいた。

 わたしは4人でのプレイが始まるな、という予感に心が震えた。
 相互鑑賞、スワッピング、そして、乱交。
 あ、あああ、あああああ。
 頭の中がしびれてくる。