破局(2)  by もも その12





 

 K君は申し訳無さそうに話を始めます。
 電車を降りて帰ろうとしたら辛そうにベンチに座るE子を見て、ほっておけずつい声をかけた。
 痴漢にあったとか……。
 そのまま家まで送って行って、その日はそのまま帰ったけど、後日、お礼と言って部屋に呼ばれて、そうなった。九月の末の話……。
 私が忙しく中々時間が作れなかった頃……。

「あんな、K君。私、三週間程前に昨日みたいに連絡せんと会いに来た事あるねん。鍵あけたら女の人の声しとった。抱かれて喜んどる声……」
 涙が止まらない……。
 彼は驚いて、しばらく黙ってた。

「ゴメン、もも。勝手やけど……、俺は別れたない、お前でないとあかんから……」
「ほんま勝手やわ、そんなん勝手すぎる……。そしたら、あんたに抱かれてその気になってるE子はどうなるんよ!! どうするんよ!!」
「お前は……、ももは、俺を許せらんか?」
「許せらんっ!! ……(ずっと泣いたまま)許せらん……、でもな……Kくん、ももはK君好きやから……、……余計に許せらん……」

 しばらく泣いて言葉が止まって……。
「別れようなんか……、そんなん思ってたら前に来た時に別れてる。我慢できへんから……、じっとしとられへんから脱走してきたやもん!! ……E子とはどうするん? まだ続けるわけ?」
「明日、話する。ちゃんと別れる……。ゴメン……、こんな大事なももがおるのに……」
 K君、泣いてた。
 私とちゃんと向き合ってくれた。

 私は彼に言えない過ちを侵してる。だからキツクは言えない。それなのに、今は追い詰め問い正してる。
 ゴメンね、K君……。
「Kくん……」
 私は彼に抱きつきました。
 耳元で……、「二回目はないで。覚悟しときよ」
 泣き笑いしながら、私は彼の《別れる》という言葉を信じました。

 翌日夜、彼から寮に電話。
「もも、約束通りE子と話をして納得して別れてきたから。ゴメンな……、お前泣かすつもりなんかなかってんけど、もうこんなことないから、……絶対しいへんから……、もも、信じて……」
「うん……。わかってる……。信じてるから……。……K君、あのね」
「ん?」
 周りに誰もいないことを確かめて……、「大好きやで……」(笑)
「俺も……」(笑)
「次の休み行けそうならまた連絡するから。迎えにきてな」
「おう。バスの時間の連絡忘れるなよ!!」
 そう言って電話をきりました。季節は師走になろうかという頃でした……。

 彼から別れたと連絡を受けて10日もしない内にE子から電話。なんで……? 嫌な予感……。
「もも、久しぶりやね」
「E子……、どなしたん急に」
「うん……。……もも……、……ゴメン……、K君と別れて」
「えっ……? 何をいうてるん。あんた、別れたんやろ。……なんで、いまさ……、ら……」
 私の言葉をさえぎるように、「K君の子供が……、出来た……、から……」
 K君と話をして、別れてから気付いたと……、涙声で。

「うそ……」

 そう言うのが精一杯……。他に言葉が出ない……。
 電話を切り、呆然とする私……。

 ほんの少し前まであんなに幸せやったのに……。
 私、いつもは友達に相談しないんやけど、その時は泣きながらすがった……。
 普通じゃない私を心配して私を迎えにきてくれた。

 また脱走した。というか、外泊届けを出し、友達の所へ逃げ込んだ……。
 泣きながらE子からの電話の話をした。何が何やらわからないパニック状態の私。
「あのな……、もも……、少し落ち着きよ、今はK君と話す事が一番ちゃうの」
 そう言われた。
 私は、……話をする自信がなかった……。

 でも、それしか……。
 私は電話を……。
「もしもし……。K君……、(涙こらえきれない私)会いたい、……E子……、から……」
 そう言いかける私に、「もも……、ゴメン……」
 K君も戸惑ってた。
 私とゆっくり話をしたいと……。

 明日、彼がこっちにくるから会おうと。その夜は友達の所に泊めてもらった。
 一晩眠れなかった。何も考えられない私……。頭の中はグチャグチャ……。涙しか出てこない。
 落ち着こう。
 落ち着こう……。
 落ち着いて考えらな……。

 子供……、が……。
 K君は中絶を口にするような人と違う。きっと責任をとる。
 彼と同じ道を歩いて行くと信じて疑わなかった私……。
 多分……、別れらんとあかんのやろなぁ……。そう思った……。

 眠れないまま朝を迎えて、彼に電話。バスの時間を聞いて、到着時間に待ち合わせ。
 私は友達に車を借り(高校卒業時に免許は取得したので)彼を迎えに……。
 人のいる所では話をしたくなかったから……。

 そのまま車を海岸線に向け途中で止め、私から言おうとしたら、彼が「もも……、ゴメン。お前泣かす事になってしもた……」
「K君……」
 言葉が続かない……。
「結婚するんやったらお前と。そう決めとった。許されるんやったら今も……。俺があんなことしたから……、浮気したから……。ゴメン……、男としての責任、とらんとあかん。……もも……、ゴメン」
 外を見てる彼……。
 絞りだすように話す。……肩が震えてる……。K君……、泣いてる……。

「K君、絶対そう言うと思った。私の好きになった人は、無責任な人と違う! おろせなんか言わんと絶対責任とるって思ってた」
 涙をこらえ、私もつまりながら、声を絞りだした。
「謝るしかない……。お前を……、幸せにしたかった。一緒に幸せになりたかったのに……、ゴメン……」
 彼はポツリとそう言った。もう……、涙、止まらなかった……。
 彼も……、私も……、しばらくそのまま黙ってた……。

 車の外に出て自販機で暖かいコーヒーを買い、少し落ち着いた私はふと思いついて、彼に言った。
「K君、……これから時間はあるん……、お母さんには?」
「時間はあるよ。おかんには帰るっていうてあるけど、時間までは」
「そしたら、私が送ってあげる! お母さんに夕方帰るって電話して……」
(しばらく時間があいた……)
「あのな……、ももと最後のデートしよっ」
 自分で言って……、この状況でそんなことを言う自分にびっくりした!!
 彼は何も言わず……、私のペース……。
 携帯の無い時代。公衆電話で彼が電話をかけ、戻ってきた。

 時刻は昼ごろ……。ファミレスで食事をし、私は車を走らせ……、少しドライブ。
 他から見れば普通のカップルが普通にデートしてる。……そう見えたでしょうね……。
 私達はいつもと同じように話し、笑い……。
 そしてホテルへ、私はハンドルをきった……。
 Mさんとよく行った所……。

 K君はびっくりしてた。
 私を忘れないでいて欲しかった。
 こんなに愛したんやから……。

 私を覚えていて……、そう思ったから。
 何より私が忘れたくなかった!!
 だから、そんな行動に。

 K君はためらってた。
「今の俺はお前を抱けらん」そう言いました。
「それは違う……。私はK君を忘れたくない。……K君にも私を忘れてほしくない……。うまいこといえらん……。こんな言い方ゴメン。私の体全部にK君を刻みたい。……泣くだけの最後は嫌やから……」

 彼の唇を塞ぎました。
 彼も応える様に長い長いキス……。
 一瞬でも離れるのを拒むかのように……、お互いを確かめるように……。
(メールによる体験告白より 2009年2月23日 )

 
 とりえる選択肢はひとつ。それは、お別れ。その時にももさんが選んだ行動は……。お互いがお互いを忘れないために、それぞれの身体に思い出を刻み込むことだったんですね。それはあまりにも哀しいセックス。でも、同時に、こんなに尊い交わりも他にないような気がします。ひょっとしたらK君が今のご主人かなと、これまで何度か思ったんですが……。

 
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