学校にやってきた憧れの母親  by 新米高校教師

 

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「ねえー、里美っ。あんたの口紅貸してよっ」
「香には合わないって、この色」

 間一髪でした。一番奥の洋式トイレの個室に日出子さんを押し込んでから、あっという間もなく入ってきた数人の女子生徒たち。
 危なかった……。化粧直しでもしに来たのか。まったく。

 もし、女子トイレの中で、教師の私が、三社面談に来た教え子の母親に抱きつかんばかりの姿を見られていたら……。しかもその母親は、ブラウスの前をはだけ、下着を露わにし、涙を流していたのですから。
 個室の中で、日出子さんの口を手で塞いでいた私の額には、冷や汗がたらたら流れていました。

「ちょっと雅子っ。あんたも少しは化粧ぐらいしなさいよっ。いっつもすっぴんなんだからさあ。お母さんはあんなに綺麗なのにさあっ」

「!!」
 雅子もいるっ!
 この個室の外の状況に震え上がった私は、「!!」個室の中の進展にもビクリとしてしまったのです。

 日出子さんの口をふさいでいる私の掌に、ウネウネと、温かいものが這っていっるのです。日出子さんの舌。
 驚いて、日出子さんの顔から私は手を離しました。日出子さんはその私の手首をハッシとつかむと、「あむ……」
「!」
 私の人差し指を、パクリと咥え込んでしまったのです。

 個室の外の女生徒たちの声、個室の中の日出子さんのなまめかしく変化する小顔……。
「さっき廊下で見たよ、雅子のお母さん。すっごい綺麗。化粧のやり方教えてもらいなよ」
「やめてよ、お母さんは関係ないでしょ」

 日出子さんの頬はすぼまり、私の指を根元から先まで吸引する。時に瞳を潤ませ、時に眉間に皺を寄せ、私を見つめる。あーん、と赤い舌を思い切り伸ばし、指に絡み付けてくる。まるで生き物のような舌の動きだ。絡みつく、まとわりつく。

「でもさあ……雅子のお母さんあんなに綺麗だから……高本先生もドキドキするんじゃない? ねえ、雅子」
「何いってるのよっ。そんな事ないよっ」
 指を離し、朱唇を半開きに私を見つめる日出子さん。薄い上唇に反して、下唇はぷっくりと分厚く、縦皺が何十本と走っている。そのエロティックな唇に、私は貪りついていました。日出子さんも小顔を押し付け、舌を伸ばしてくる。私の手をとり、乳房に導く。私はブラの上から乳房を揉みしだきました。滑るような肌。指が入り込む柔らかさ。圧倒的な大きさ。

「ひょっとして、雅子のお母さんに会えるの楽しみなんじゃない? 家庭訪問とか面談とかでさあ。高本先生も男だしい、結構、格好いいしい……」
「そんな人じゃないよっ! 高本先生はっ! ばかっ!」

 日出子さんが私から離れ、蓋を閉じている洋式便器に座り、うっとりとした表情で手を伸ばしてきました。
 猛り膨らむ私のズボンの前を、シュルシュルさわさわと手で撫でながら、私をにっこりと見上げるのです。

「何むきになってんのよお、雅子お」
「うるさいわねえっ」

 バタン……。
 まさか、個室の中で、教師と教え子の母親が唇を貪りあい抱きしめ合っているなどと思ってもいない女子生徒たちは、トイレから出て行きました。

 日出子さんが、小顔をズボンの膨らみにしな垂れ寄せて、「ねえ先生い……まだ気分が悪いですわあ……非道いわ先生ッたら。気分の悪くなった教え子の母親をこんなところに押し込めるなんて……もう……」
 恨めしそうに私を見上げる日出子さん。ギュウと胸を締め付けられた私は、「す、すいませんっ、日出子さんっ。待っていてくださいっ。休める部屋を、探してきますからっ。ここで待っていて下さいっ」

 個室を出て、そう……っと、外を伺いながら女子トイレのドアを開け、廊下に出ました。
 私は走りながら頭をフル回転させました。今開いていて、人の来ない部屋……部屋……あった!
 視聴覚室だ! 奇しくも私は今、そこの管理と整理を担当しているのだった。こんなことを忘れていたなんて!
 私は女子トイレに引き返しました。途中ですれ違った生徒が、びっくりして私を見ていました。 

「原さん……お母さん……」
 回りを慎重に伺い、女子トイレに入った私は、日出子さんを呼びました。
 個室から出てきた日出子さんは、身なりを整えていましたが、辛そうにうつむいているのです。

「大丈夫ですか? 静かで休めるところがあるので、そこへ行きましょう。さあ……あっ駄目です、手をつないでは……す、少し離れて……」

 こくりと可愛らしくうなずく日出子さん。抱きしめたくなる衝動を抑え、廊下を出ました。
 私の少し後ろをついて来る日出子さん。もし見られても、三社面談が終わった、担任教師とその教え子の母親が、帰りを歩いているだけに見えるでしょう。
 しかし私は慎重に、人気がない廊下を選んで選んで視聴覚室に辿り着きました。

 生徒はいない……そして、教師が詰める部屋は、入り口が違うのです。誰にも見られない。
「さあ、お母さん……ここに入って。休めますから、日出子さん」
「はい、先生……」

 私は日出子さんの背を押し、部屋に導き入れました。

 

 

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