アスワンの王子
街道の2 森の小川





 ヨウシャは旅を続ける。
 乾いた岩と砂だった世界が次第に変化をしてくる。ポツリポツリと木が姿を現す。最初それは「思い出したような」間隔であったが、やがてそこかしこに出現するようになり、姿形も段々立派になってくる。
 地面もいくばくかの潤いに恵まれているようで、しっとりとしてきたように思えた。空気もこれまでのようにパリパリには乾燥していない。
 ヨウシャは子供の頃にきいたことがある。遠くまだらに見える林にはいると木々は徐々に濃密になってゆき、やがて陽も届かぬような生い茂った森になる。森の中にはあちこち泉が湧きだし、人家が点在するという。街道の森の村と呼ばれている。女は家のまわりのちいさな畑を耕し、男は森の中を何日も彷徨うようにして狩猟をする。
 森の大きさは、大人の男の歩行力で南北7日、東西3日と言われている。森の男達は縦横無尽に駆けめぐるが、旅人は街道からそれて迷ってしまうと抜け出すことが出来ない。磁性溶岩のために磁石は狂うし、生い茂る枝葉のために陽がささず切り株の年輪からも方向を判断することは出来ない。
 幼年学校で「街道の森の村」のことを聞いたとき、ヨウシャはおとぎ話を語られているような気がしていた。でも今はおどぎ話なんかじゃない。荒野を渡り森を抜け、命の谷をも越えなくてはならない。
 ヨウシャは今、その森の入り口にさしかかったことを実感した。その地点を境に「大地に木が生えて」いるから「木々が大地を覆っている」に明らかに変化したのだった。
 語る友もいないひとり旅である。空気は湿度を増し、身体にまとわりついてきた。
 「お風呂に入りたいな」
 泉のほとりにあるという森の村。それは森の中に点在するという。最初の村に出逢うまでどれくらいの距離があるのだろうか。村にたどり着いたとして、宿屋や飯屋があるのだろうか。
 それほどのお金があるわけじゃない。けれど、今夜は宿屋に泊まりたいなという思いが強かった。それにお金が無くてもん何とかなりそうな気さえしていた。身体で払えばいいのだ。しかもそれは嫌なことではない。セックスはヨウシャに快感をもたらしてくれる。セックスについて考えるとそれだけで感じてしまう。
 恋人アクアロスとの交わりを経験するまでは、彼との逢瀬だけに心奪われていた。でも、今は。。。。
 誰でも良くなってしまっていることに一種の驚愕を覚えるのだった。
 目覚めてしまった。
 「理性を保ちなさい」
 旅を前にして、母がヨウシャに語った言葉。
 経験を重ねるごとに一歩づつ着実に性奴に近づくヨウシャ。日々深まる快感にやがてあらがえなくなり、セックスに埋没することになるという。そして、やがて食事をとることも眠ることもなくなり、朽ち果てるのだ。
 だがもはやそれを避けることは出来ない。既にヨウシャは男なしでは生きていくことが出来ない。封印は破られたのだ。
 残された道はひとつ。伝説の「アスワンの王子」に抱かれ、これ以上は無いという激しく狂おしい濡れ場を経験することによってのみヨウシャは開放されるのだ。
 理性を保ちながら、しかし、適度のセックスに身をゆだねて自分の身体を慰めつつ、旅を続ける。
 危険な賭である。アスワンの王子に巡り会うまでに性奴に落ちてしまう可能性も決して低くはなかった。セックスなしでは生きていけないし、かといってやりすぎればアッという間に落ちてしまう。
 初めて性の喜びを知り、その深みにはまってしまうのは凡人でも避けられないことだ。身体を重ねるごとに深まる快感に抗いながら旅を続けるなど、性奴を運命つけられたヨウシャに耐えることが出来るのだろうか。

 歩みを勧めるヨウシャの耳に、せせらぎの音が届いた。
 近くに水の流れがあるらしかった。音に誘われるままにその方角へ進んでみる。
 そこには小川が流れていた。
 木々を縫うようにして流れる水は鮮烈で美しく、胸を打つようなすがすがしさがあった。
 思わず靴を脱いで、足を水に浸してみる。
 川幅は広くない。ヨウシャの身長ほどだ。おそるおそる川の中央へ向かって進む。水の量が増えるものの流れはきつくない。
 スカートの裾をたくし上げて、さらに深いところへ。一番真ん中でも、せいぜいヨウシャの太股の中間当たりまでだった。
 (水浴びをしよう)
 ここで汗を流すことが出来たら、宿屋に泊まらなくてもいいやと思った。
 火をおこす術も知っているし、薪になりそうな木はいくらでも落ちている。乾燥食料はまだ十分あるし、美しい水はふんだんに流れている。
 ヨウシャは川のほとりに戻ってリュックを背中から下ろし、周りに人がいないのを確かめてから全裸になった。
 脱いだ服をきちんと畳んで傍らに置く。
 荷物の中から手ぬぐいを出し、スカーフのように首に巻いた。足もとが滑らないようにゆっくりと川の中央まで進んだヨウシャは、静かにしゃがんだ。
 水の流れが身体の表面を触れては流れ去り、まとわりついていた嫌な感じのする何かをやさしく取り去ってくれた。
 手ぬぐいを水に浸して軽く絞ってから、体の表面をなでた。首、それから手。胸も丁寧に洗う。
 石鹸は母から持たされていたけれど使わなかった。
 この鮮烈な水なら十分綺麗になるだろうし、それ以上に石鹸で川の水を濁らせることの方が罪に思えた。
 上から下へヨウシャは手ぬぐいを滑らせる。
 最後に、足。
 川底に座り込むと、肩の辺りを水の表面がちろちろと流れてくすぐる。
 足を持ち上げて、太股から足先へ向かって手ぬぐいを伝わらせた。
 深い森を背景に美しく流れる小川。その川には全裸の少女が身を浸し、水面からは肩より上と、足だけが浮かんでいる。
 少し遠くからこの光景を望んだところを想像し、我ながら綺麗な構図だなと、ヨウシャは思った。
 まさしくそれは絵に描いたようなシーンであった。
 膝や足首を曲げたり伸ばしたりしながら、ヨウシャは丁寧に身体を拭った。
 と、その時。
 すぐ後ろで気配を感じた。
 すぐ後ろ?
 そんなバカな、とヨウシャは思った。
 ヨウシャはまさしく川の中にいるのである。背後に気配を感じるということは相手も川の中にいることになる。
 美しい娘を抱きしめるのにこの程度の川に入るのをためらう男などいようはずもないが、そんなことはヨウシャにはわからない。
 ヨウシャは振り返って確かめようとしたが時既に遅し。アッという間に抱きすくめられてしまった。
 「い、いやあ」
 驚きのあまり声が出たがはっきりと男を感じて、身体はもう反応しはじめていた。
 がっしりとした手、固くて分厚そうな胸。そして、男は膝でもついているのだろうか、背中にがっしりと押しつけられたペニス。
 (ほ、欲しい)
 頭の芯がクラクラして、アソコがジリジリしてきた。
 ヨウシャは身体の力を抜いて相手にもたれかかった。
 「なんだ、もうその気なのか?」
 低いがさほど太くない声が耳元でささやいた。
 そう、もう感じているの。まだ顔も見ていないのに。
 「弄んで下さい」
 無意識のうちに言葉が出てしまった。
 「そうか、いい娘だ」
 男はヨウシャの左胸を鷲掴みにした。執拗なぐらいにこねくり回してくる。
 「あ、あん」
 「そうか。もう感じているのか」
 男がいやらしく微笑むのをヨウシャは想像した。
 さわられている左胸の乳首が固く立って来る。掌に当たる乳首の感触を感じ取った男は乳房全体を揉むのをやめて乳首をいじくりはじめた。
 「ああ〜ん、気持ちいいの」
 素直になればもっと気持ちよくしてくれる。ヨウシャはそのことを知っていた。
 もう片方の手がヨウシャの秘穴に滑り込んでくる。
 ヨウシャは腰を浮かした。ついでに背中に当たっている男のペニスを刺激するように身体を震えさせた。
 「ふん。水の中だっていうのに、お前自身が濡れていることがわかるよ。ねばりっけが川の水とは全然違う」
 「お願い、いやらしいこと言わないで」
 恥ずかしい、という想いと、もっと言って、言われれば言われるほど感じるの、という欲求が交互にヨウシャの胸にわき上がる。
 「お前のアソコは自由自在のようだな」と、男は言った。
 男はさっきから指を出し入れしている。その度に指の本数が違うのだが、何本入れてもすんなりと入る。そのくせ、ギシギシと締め付けてくる。
 「生まれつきなの。何でも入るの」
 ヨウシャはすっかり快感の虜になっていた。むちゃくちゃにせめて欲しくて、何でも入れて欲しくて、男を挑発するような台詞を選んだ。
 「握り拳を入れてやるから感謝しろよ」
 裂けるような、引き延ばされるような感覚。でも、少しも痛くない。ズブリ、ズブリと男の手が進入して、アッという間にヨウシャは上り詰めそうになった。
 しかしヨウシャの快感の頂点は日に日に成熟している。昨日までならイッたはずでも、今日はそれ以上の恍惚が訪れる。
 男がゆっくりと手を抜き差しする。膣の内側を異物がこすれる。この感触がたまらない。
 中でも何カ所か特別敏感に感じる場所があって、フウッと意識が遠のく。同時に全身を快感が駆けめぐるのだ。
 自分の身体は自分だけのもの。なのに、自分の中に違う生き物が入ってくる。それがこんなに気持のいいものだったなんて。
 自らの運命の不幸を知ってしまっているのに、どうしてもっと早くセックスしなかったのかと悔やんでしまう。
 男はヴァギナの中で拳を開いたり握ったりした。開いたときは指先で穴の中をかき回した。
 特別に敏感な場所がどんどん増殖していく。
 ヨウシャは我慢が出来なくなった。
 「お願い、もう入れて」
 ヨウシャは後ろ手に男の秘棒を掴んだ。
 いや、掴もうとして、つかめなかった。大きすぎるのだ。

 慌てて振り向いた。
 それは、さっき背中に当たっていたときのペニスとは全く違う。
 昨日もらったオナニーの木も相当だったが、先端の傘が大きく開いているだけだった。だが、男のそれはオナニーの木の一番直系の大きな部分と同じくらいの太さがあり、カリはさらに太いものだった。
 ヨウシャが男を見上げると、彼は悲しそうな表情をした。
 「俺は、童貞なんだよ、こいつのせいで」
 そりゃあそうだろうな、とヨウシャは思った。太股と変わらない。
 普通ならこんなものはいるわけがなかった。
 「いいの、入れて」
 ヨウシャはもうわけが分からなくなっていた。
 これがわたしの身体の中でうごめいたら、どんなに気持ちいいだろうか。
 きっと少し前なら、恐怖で逃げ出していただろう。でも、今は違う。
 「無理するな。その気があるなら舐めてくれるだけでいい」
 ヨウシャは言われるとおりにした。但し、挿入を諦めたわけではない。何が何でもこの男をその気にさせて、自分の中に受け入れるのだ。そのためには多少男にマゾヒスティックになってもらってもいい。男を責め立て我慢できないようにすればいいのだ。
 舐める、吸う、歯を立てる。
 大抵のことではびくともしないような悪魔のペニスだったが、感度はいいらしく、男はヒーヒー喜んだ。
 男の先端からねばりっけのある汁がダラダラと流れ出る。その量は大きさに比例していた。こんなに出して無くならないのかと思うほどだった。
 目を凝らすと、穴もそれなりの大きさだ。
 (指を入れてみよう)
 喜んでもらえるかも知れないとヨウシャは思った。
 恋人と結ばれたとき、ヨウシャは「入れられる」だけではなく、自分も恋人の中に入りたいと思った。
 ペニスの小さな穴に何かを挿入できるなどとは思いつきもしなかったが、お尻の穴なら大丈夫かなと思って試そうとした。
 今のヨウシャならきっと丁寧にマッサージして、何が何でも指を突っ込んだだろう。けれども、そういうプレイの存在を知らなかったヨウシャは、固く閉ざされた恋人のお尻にはとうとう指を突っ込むことが出来なかった。
 自分と同じ快感を彼に感じさせてあげたいと思っていたから、すごく悲しかった。
 アナルは通常閉じているものである。だから、そう簡単に中にはいることは出来ないかも知れない。けれど、既に開いたこの男の巨大な尿道なら、指くらい入りそうだ。
 ヨウシャは先端部を指先でなぞりながら、穴の上に来たときに人差し指を一気に差し込んだ。
 それはツルリと飲み込まれたが、男は絶叫を発した。
 「ぎゃああああ!」
 「あ、ごめんなさい」
 指を抜こうとして、けれども男はそれを拒絶した。引っ込めようとしたヨウシャの手をぐっと握ったのだ。
 「え? え?」
 「やめないでくれ。感動した」
 だが男の顔は苦痛に満ちていた。
 「ね、ねえ。痛いんじゃないの?」
 「痛い。熱い。燃えるようだ」
 「ご、ごめんなさい」
 「いいんだ。ここまでしてくれる女に文句なんか言わない。こういうプレイもあるのは事実だ。さあ、ゆっくり動かして」
 普通、最初は細くて短いものからトレーニングをはじめ、ちょっとづつ、本当にちょっとづつ拡張していくのだとヨウシャが知ったのは後のことだ。しかもアナルと違って尿道は拡張性に乏しく、かなり厳しいトレーニングになるそうだ。
 だが、男は耐えた。もともと頑丈だったのだろう。やがて男は「ちょっと指を曲げたり伸ばしたりしてくれ」と、注文をしてきた。
 その度に眉間にしわを寄せ苦しそうなにするのだが、その中には明らかに快感にむせぶ表情がうかがえた。
 わたしも男の中に入ることが出来た。そう実感した頃、先端から流れ出るジュースにかすかに赤いものが混じっていることにきがついた。
 「ねえ、大丈夫?」
 「ああ。燃えてる。俺のチンポが燃えてるよ」
 「ねえ、入れて。ちゃんと入れてよ」
 太さは尋常ではなかったが、長さは標準的に思えた。きっと根本までくわえ込むことが出来るだろう。
 「わかった」
 男は川底に座り直した。
 ヨウシャは後ろ向きになり、男の上に腰を下ろそうとした。男が両手でヨウシャを支え、ゆっくりと腰の位置を下げていく。
 やがて股間に先端が当たり、穴がキューッと引き延ばされながら、男が入ってきた。
 身体中の力が抜けてしまう。男がそれを支える。
 腰を上げ下げする度に、意識が薄れて、恍惚に支配される。まだ、ダメよ。ヨウシャは自分を何度も呼び戻す。
 このままイッてしまったら、それでお終い。我慢をすれば永遠に快感に支配され続ける。限りなく昇り詰めることが出来そうだった。
 水のために浮力を得た腰は軽々と動かすことが出来るが、同時に水の抵抗が心地よく動きを制御する。
 先にイッたのは男の方だった。
 怒濤のような射精。子宮口にきつい圧力を感じた。ヨウシャの中でペニスがグイッと反り、ドバッとザーメンが叩き付けられた。
 (アクアロスの射精なんてこれに比べたら赤ちゃんだわ)
 とか
 (こんなに吐き出されたら、もう確実に妊娠しちゃうわね)
 ヨウシャには避妊の知識も技術もない。
 10回を越す激しい射精に、ヨウシャは「ああ、もう十分だわ」と、満たされた気持になっていた。
 そして、ようやくイッてもいいかなと思った。
 全身が解けて水と一体になった。ヨウシャは失神した。


 その夜、ヨウシャは男に晩御飯と一夜の宿を提供してもらうことが出来た。
 さらに、一枚の紙片とノートをもらった。
 紙片は「売札」と呼ばれるもので、成人した男子で定職があれば誰でも役所でもらうことが出来た。女を買うための「お金」のようなものだ。
 身体を売った女はこれを交換所に持ち込んで現金に替える。
 「売札」はゴールドとシルバーの2種類有り、普通はシルバーが流通するが、特にサービスの良かった女には「ゴールド」を渡すことになっている。
 だがこれは建前。現実はゴールドは「何でもあり」を意味し、いかなるアブノーマルでもオッケーということだ。
 これを交換所に持ち込んで現金化するには勇気がいる。
 交換所は銀行ではない。売春婦だけしか出入りしない。すなわち売札を換金するということは自分が商売女であることを世間に知らしめることになる。
 この国では売春は禁止されていないが、手軽に体を売るような女が現れないためにと考え出されたシステムだ。売札を現金にしてそれで生活することはそれだけの覚悟を要するのだ。
 一方、使った売札に相当する金額を、男達は給料から天引きされる。
 シルバーとゴールドそれぞれのレートは厳密に決められており、男と女が直接交渉で金額を決め、現金をやりとりすることは厳しく禁じられていた。
 これも売春婦以外が体を売ることを防止するためだった。
 女を買うのは決して安くなかったので、いかに法律で厳しく取り締まっても「半額でいいから現金で頂戴」という闇の売春婦も後を絶たなかった。
 ノートは男の行為でわたされたものだ。
 旅の道筋を記録しておくように、とのことだった。
 そして、帰りは必ず「来た道を引き返すこと」と言い渡された。
 帰りに別のルート、すなわち新しい道を使って戻るのと、一度経験した道程を引き返すのでは、危険とめぐり合わせる可能性が段違いなのだそうだ。
 だがヨウシャは言いつけを守らなかった。
 ノートには次のようなことが記された。
 ・大抵のものは入る。もっと大きなものを入れてみたい。
 ・そういえば、アナルにも色々入れてみたいなあ。今度試してみよう。
 ・わたしも尿道で感じることが出来るかしら。熱いってどんな感じなんだろう。
 ・大量の精液をまき散らされるのも気持ちよかった。でも、普通の人には無理。オシッコならしてもらえるかな?
 ヨウシャはオナニーの木をアソコに深く差し込んで、食事の時にくすねてきた爪楊枝のとがっていない方を尿道にそっと入れてみた。
 ちょっとこわかったけれど、ピストンさせてみると熱く燃えるようだ。
 叫び声をあげそうになるほどの痛みはなく、すぐに感じ始めた。
 そうか、わたしは特別なんだ。
 鉛筆をいれてみたくなったけれど、「理性を失わないように」という母の言いつけを思い出して、とりあえず爪楊枝だけで済ませることにした。
 旅の疲れのせいか、ふたつの穴に異物を入れたまま、オナニーの途中でヨウシャは眠ってしまった。


 

「街道の3 売札交換所」へ進む。

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