朝の光は優しさに満ちていた。 今日からいよいよ、本格的な砂漠地帯にはいる。なのに、ヨウシャは先へ続く道に砂漠の厳しさを感じない。月光と連れだっての二人旅。一人ではないことが、これほど不安を小さくするものなのだと、ヨウシャはあらためて感じるのだった。 それに。 お互いのことを語り合ったときから、二人の結びつきが強くなったような気がした。単にエッチのパートナーというのではなく、心が触れあった、とでもいうのだろうか。 もちろん、全てが解決したわけではない。 ヨウシャは日々性の感覚が鋭くなっており、いずれ自らコントロール不能なほどの絶大な快楽に埋没し、やがて朽ち果てる運命にある。禁欲すれば多少は性奴への進行を抑えることが出来るけれど、同時に激しいセックスへの欲求にもだえ苦しむことにもなる。封印が解かれたヨウシャにはセックスが必要なのだ。 だから、適度なセックスで欲求を満たしながら、多少は我慢をして進行を遅らせ、やがて朽ちてしまうまでにアスワンの王子の元に辿り着き、王子とセックスしなくてはならない。王子とのセックスだけが、ヨウシャが性奴から逃れる唯一の方法なのだ。 しかも、今はイチゴの中毒にまでなっている。 イチゴ中毒は、ノモキスの地下迷宮の、その一番奥深いところの一枚岩にしみ出る聖水を口に含めば、解毒される、という。また、この聖水は、月光にかけられた呪いをも解くのだと老婆に教えられた。 月光にかけられた呪い。 セックスの時に月光は、この呪いによって身体の一部が変化し、妖怪めいたセックスをするのだった。それはまさしく淫妖獣への変化に等しかった。例えば、たった一枚の舌がヴァギナに差し込まれれば、舌の形状に自由が与えられ、デコボコになったり太く丸くなったりして女性器を激しく攻め、快感の虜にする。一部のデコボコはさらに成長して、アナルや尿道などにも執拗に食い込んでくる。これらの変化は、月光の意識とは無関係に行われる。しかし、別の何ものかが月光を操っているわけではない。無意識ではあるが、月光自身の自発的な変化であり、セックスなのだ。 スポーツ選手が複雑で高度な動きをするとき、いちいち考えない。全ては体が覚えている。それと同じなのだった。 但し、現在はペニスにクヨンキの紐を巻くことで、呪われた変化を一時的に抑えている。 ただクヨンキの紐にも弱点があって、それほど強くないため長持ちがしないのだ。紐を与えた老婆はしかし、「愛し合いなさい」と言う。 ノモキスのダンジョンは、愛し合う二人の前にのみ、その入り口を開くからだ。快楽を追求するための交わりでは入り口は開かない。心と心が愛で結ばれてこそ、地下迷宮は門戸を開く。なにしろ地下迷宮はその入り口がどこにあるかも知られていない。ノモキス草原の「どこか」にあり、愛し合う二人の傍に自然に開くといわれている。 運命とはいえ、ヨウシャはやっかいな状況に立たされていた。 最悪の結果もあるのだ。それは、クヨンキの紐が切れ、月光ののろいが解き放たれ、妖怪じみたセックスによってヨウシャの性奴への進行も急激に進んでしまう。そして、イチゴの解毒もできないままに、理性を失って、体力の続く限りセックスしまくって、衰弱に本人も気が付かないまま、枯れて死んでしまう。 |
「だけどさ」と、ヨウシャは言った。 「なんだい?」 時間と共に強烈になってくる太陽の矢を浴びながら、ふたりは歩く。 「わたしは確かにイチゴ中毒を治すために、ノモキスのダンジョンに行かなくちゃいけないけれど、月光はそのままでもいいんじゃないの?」 「呪術をかけられてるんだぜ」 「だって、日常生活で困らないでしょ? あんなセックス、普通じゃ体験できないし、むちゃくちゃ気持ちいいもん。昇天して失神しそうになる」 「あんな妖怪とのセックスなんて、普通の女の子は望まないよ」 「でも、一度経験したら病みつきになるけどなあ」 「またやりたいと思うかい?」 「うん。だって、月光は妖怪じゃない。特別な術でそうなっているだけ。だったら平気。全ての身を溶かし合うほど愛し合いたいって思えるよ」 「じゃあ、紐をほどいてエッチしようか」 「うん。いいよ」 「だけど、キミはあんまりセックスに溺れちゃいけないんだろう? 抜け出せなくなって朽ちていく運命が待っているって」 「うう〜ん、そうなんだけど、まだ大丈夫」 「今は大丈夫でも、目的地に着くまでにダメになったらどうするんだよ」 「それはそうなんだけど、何となく、進行が止まっているような気がするの」 「進行が止まっている?」 「そう。いままで感度がぐんぐん上がって、どんどん歯止めがきかなくなっていってたような気がするんだけど、今は自分でコントロールできてる」 「気がするだけだろう?」 「あん、こんなこと喋ってたら、なんだか変な気分になってきちゃった。すごく愛されたい気持。ねえ、やろうよ」 「いいけど」 「じゃあ、クヨンキの紐もとってね。どんなに妖怪じみていても、変態っぽくても、呪いがかけられていても、あなたはあなた。そのままの全てが欲しいの」 「ああ。ヨウシャがそれでいいのならね」 |
妖怪、とは、溶解。溶け合うこと。 姿形が異形であっても、融合して混ざり合った相互理解の世界。 人間が単一に固執し、固持する事の方が、間違っているのかも知れない。 |
砂漠には、旅する者が一夜の宿を取るための「砂漠小屋」が点在している。床と壁と天井があるだけの粗末なものだが、最低限の身の安全は確保されている。 切り出した石を焼いて、それを組み上げた建物である。 石を焼く際に使う燃料は、アブリューンという北の国にしか生えない珍しい木を乾燥させたもので、この煙には強力な虫よけ作用がある。だから、この木を燃料にして焼かれた石で作った砂漠小屋は、砂漠の夜を毒虫の脅威から守ってくれるのだ。 窓はない。砂漠は昼暑く、夜は極端に冷え込むので、中の旅人を守るためには窓などない方がいい。 だから、小屋の中は暗い。 それでも昼のうちはかすかに、石のつなぎ目から光が漏れてくるが、夜などは真っ暗になる。 その小屋の中で、ヨウシャは月光のペニスを先端から舐め始め、ゆっくりと口の奥に含んでいく。唇をすぼめ、ちょっとずつ吸い上げるようにして月光のペニスを誘い込み、唇の中に入った部分を余すところ無く丁寧に舐めあげる。既に月光の先端からはジュースが滴っていた。 ヨウシャは舌をぐるぐる回しているので、溢れたジュースは舌の上ではなく、ヨウシャの口の中にたまっていく。ヨウシャはそれを時々ごくんと飲み込み、その度にペニスはビクンと痙攣する。 月光もしてもらうばかりではない。左手で胸の膨らみを交互に愛撫し、右手はヨウシャの秘部へ差し込まれていた。膨らんだクリトリスをきつめにつまむと、ペニスをくわえた唇に力が入り、ぎゅっと締まる。思わず肛門を閉める月光。ペニスが口の中で跳ね、舌がそれを摩擦する。ペニスの先端から甘くとけ出した甘美な感覚が月光の全身に行き渡り、またクリトリスをつまむ指先に力が入る。 何度かそんなことを繰り返したあと、月光は膣の入り口にげんこつをあてがった。ほとんど抵抗がない。少し力を入れればすんなり腕ごと受け入れそうなくらい、ヨウシャのヴァギナは開いていた。 (ああ、とうとう。。。。) 月光は、恐れていたことが現実になりつつあるのを自覚した。 月光とセックスした者は、月光の呪いを伝染されて、性器を中心として、セックスの道具となり得る身体の部位が、性交中に変化するようになってしまう。もちろん全員にうつるわけではない。確率的には、セックスの相性がいい者ほど伝染しやすい。月光の握り拳は、力を入れて押し込まなくても、やがて包み込まれるようにヴァギナに入っていった。 膣の中で月光の手は、柔らかくて温かい肉にピッタリと吸い付かれ、しかもそのひだはゆっくりと不可思議な動きを始める。 これが手でなく、ペニスを入れていたら。 まさしく夢心地の射精を味わえるだろう。 月光は、ヨウシャの口からペニスを抜いた。 |
「どうしたの? 気持ちよくなかった?」 ヨウシャはまだ自分の身体の変化に気が付いていないようだ。 (詳しく説明している暇はない) 「そんなことより、ヨウシャ。キミはクヨンキの紐を飲み込むんだ」 「ふえ?」 状況がよく理解できないヨウシャは、間の抜けた反応をする。 「僕にかけられた呪術がキミに伝染した。2次伝染は怖いんだ。どういう変化がキミの身体に訪れるか予想がつかない。これを食べればセーブできる」 ほら、と言いながら、月光はヨウシャの中に入っていた手を引っ張り抜いた。 粘土に埋め込んでいた手を抜いたかのように、ずぼうと音を立てた。 抜いた手は、ヨウシャのヴァギナから、ねっとりとした糸を引いていた。ラブジュースではなく、それは濃密に進入物を取り囲んだヨウシャの身体の一部だった。 そして今、月光の封印も解かれた。 ねっとりぐっちゃりしたおまんこは、月光が挿入すると、すぐさま肉が絡みついてきた。封印が解かれた月光の男性器も、自在に変化し始める。 ヨウシャの膣は、もはや穴ではない。ドロリと解けて月光のペニスを完全に包み込んでいる。ふたつは一体となっていた。 月光のペニスに出来た突起は、女性を歓喜させるイボイボを通り越え、それ自体がどんどん長く成長し、ヨウシャの身体の中に入り込んでいく。いままで外部から何者も侵入されなかった内なる宇宙に、ヨウシャは月光を受け入れていた。ヨウシャがまず味わった感覚は、処女を貫かれた痛みと切なさと感動に似たものだった。しかしそれはすぐに、何度も何度も肌を重ねた同士ではないと得ることのない深い深い快感へと変わっていく。 単に性器の摩擦による快感ではなくて、とろけるような、宙に浮くような、血が逆流するような、そんな感じ。細胞のひとつひとつが分離して、それぞれに愉悦がしみ込んでいく。 二人のセックスの様子を実際に目にする者がいたら、驚きの余り動けなくなるか、あるいは慌てて目をそらし逃げ去るかのどちらかだったろう。 ヨウシャと月光の腰から足にかけての部分は融合してしまっていた。溶け合っていた。 「ふたりはひとつになった」などと俗に言うけれど、その通りだった。 |
充足感に満たされて恍惚となった二人は、意識があるような無いような、無重力の世界をふわふわと漂っているような感覚に包まれていた。 イッたのである。 二人は砂漠小屋に身体を横たえていた。 融合した部位も元に戻って、ただ静かに並んでまどろんでいるようだ。いつまでも抜けない余韻に身動きできないのだが、まるで眠っているように見える。 そうしていつしか二人は本当に睡眠の世界に引き込まれていった。 |
石と石の微かな隙間から差し込む一条の光に、ヨウシャは目を覚ました。 昨夜のセックスのことが記憶の底から蘇る。隣の月光を見る。確かに溶け合った肉体は、いつも通りに戻っていた。立ち上がって、自分の下半身を見下ろす。 アソコに余韻が残っているが、見た限りでは異常はない。乳首が最高に感じた時にそうなるように、プックリと膨れていた。 指先で触れると全身に電気が走る。横になっていたら、床からぴょんと身体が跳ね上がっただろう。 (もうもとには戻れない) 直感的にヨウシャはそう感じていた。 ヨウシャの身体は全身性感帯にまで高められていた。それは、気持が高ぶったときだけの現象ではなくなっていた。「常に」である。ヴァギナに指を入れる。ここにも異常はない。それを確認したのはホンの一瞬で、敏感に何かの進入を察知した膣壁は、指にねっとりと絡みついてきた。 慌てて指を抜くヨウシャ。 「ううっ」 月光がうめき声を上げて目を覚ました。 苦しげに床を這い回ったあと、巨大イチゴを手に取り、その一部をちぎって口に含んだ。 「どうしたの?」 ヨウシャには月光の行動が理解できなかった。 自分の「気」の中にたまっていた得体の知れない不快な固まりが、一気に外部に放出されて、今はとてもさわやかな気持ちだった。 これは、「たまっている」状態から、やりまくって「スッキリ」と、同等のものであったが、ヨウシャにはそれが理解できない。「たまる」という概念がヨウシャの中にはないのだった。だって、やりまくっているから。 いずれにしても爽やかなヨウシャなので、月光の苦しそうな所作が不思議でならない。 「俺もイチゴ中毒になったらしい」と、月光は言った。 間もなくヨウシャにも中毒症状が訪れた。だが、以前のものよりそれは遙かに軽かった。月光が解説してくれた。 ヨウシャと月光は細胞のひとつひとつが混じり合うセックスによって、二人の身体が平均化されてしまったのだ、と。 既に伝染していた肉体の変化も、クヨンキの紐をヨウシャが食べることによって、ヨウシャのそれはある程度セーブされることになるが、それもその後の月光との交わりによって、呪術により際限なく妖怪じみた変化が可能な月光の性器と、やはり平均化されているはずなのだという。 「淫の神の目的は『人々が残らず日々セックスに明け暮れるようにすること』だ」 「どうしてそんなことをするの? セックスは気持ちいいし、好きだけど、朽ちるまで狂わせてしまうなんて」 「どうして、という問に答えられる人間はいない。なにしろ相手は神だから」 と、月光は言った。 「ただ、いくつかの説はある。太陽の神や月の神への対抗意識でしか無いという人もいるし、淫の神は種の保存を司っているだけで、その快感に理性を失い溺れてしまうのは人間の意志が弱いからだという人もいる。人間の頭で理解できるような理屈などではないという説もある。神の真意を伺い知ることなどしょせんできないという考え方だ」 「セックスは好きだけど、朽ちたくはないわ」 「そうだ。だから僕たちは出発しよう」 二人は身支度を整えて、砂漠小屋の外に出た。 |
小屋の外は、草原だった。 「そんな馬鹿な。昨日、砂漠の真ん中の小屋に眠ったのに」 草原。ちいさな水たまり。そして、水たまりと水たまりをつなぐささやかな水路。一歩足を踏み出して草原の草を踏みつけると、グシュッと音がして、足の下から水がわき上がってきた。 太陽の光をきらきらと反射している。 「これが、ノモキス高原。。。。おばあさんの言っていた緑輝く湿地帯。。。。」 ヨウシャは鮮やかな色彩に輝く風景に息を呑んだ。 草、水、太陽、風。そういった彩りのせいもあっただろう。 だがそれ以上に、世界は神々しく輝いてさえいた。ある一点から光がわき出していた。その輝きは、白色と金色を同時に限りなく発光し、周囲にふりまいていた。放射状に、暖かくて優しくて、それでいて凛とした光が放たれていた。 「もしかして、あそこ。。。」 光の中心を指さしながら、ヨウシャが呟いた。 「ああ」 月光も同じことを考えていた。 光の中心に、地下迷宮への入り口がある。 「本当に愛しあうふたりになれなければ、入り口は開かないと老婆は言ったな」と、月光。 「言ったね」 「僕たちは、愛し合ってるんだろうか?」 「きっとね。身も心もひとつになれた、そんな気がする」 老婆が言った日数よりも早くに二人は入り口に辿り着いた。 それぞれのハンデを抱えながら、いたわり合って、そしてひとつの目的に向かって旅をする。まさしく愛が育まれるには絶好の条件であった。 ヨウシャと月光は見つめ合い、そして頷いた。 「さあ、行こう!」 声にこそ出さなかったけれど、二人の気持ちは同じだ。 |