ヨウシャと月光は眠っていた。 洞窟の内壁に張り巡らされた淫樹の根のあちこちがほのかに光り、二人の裸体をやさしく照らしていた。 淫樹の根は、まるで意志を持っているかのようにふたりの性感帯を激しく責め立て、ほとばしったラブジュースを吸い尽くした。これがエネルギーとなって光を放ち二人の道程を照らしているのだが、もちろん月光もヨウシャもそれを知らない。 全裸なのは、淫樹が身体に接触し、愛撫し、進入してきた時に、衣服がボロボロになってしまったからだ。しかし、暑さや寒さは感じなかったし、二人しかいないのだから恥ずかしくもなかった。 ヨウシャと月光は灯りに導かれるようにして先へ進んだ。いくつかあった分岐点では、淫樹が明るく明滅する方へ迷い無く進んだ。木の根達が行く先を示してくれてるように思えたからだ。 洞窟はどこまで進んでも似たような光景で、これといったハプニングもなく、二人はだんだん退屈してきた。おまけに、時間の間隔がない。疲れでトロンと眠くなってきたが、寝るべき時間かどうかの判断材料が全くないのだった。 「焦っても仕方ない。今日はこの辺で休もうか」と、月光。 「うん、そうしようか」と、ヨウシャ。 横になると、洞窟の床もそれほど寝心地は悪くなかった。全裸なので何も遮るモノがない。二人の手はごく自然に相手の性器へ伸び、やさしく、そして激しく求め合って、ひとつになった。結ばれると大きな快感が全身を包み、それがおさまると、広く深い安堵感が訪れ、すぐに眠ることが出来た。 |
安らかな寝息を立てていた二人だったが、ふと、ヨウシャは目が覚めた。充分な睡眠をとった後の気持のいい目覚めだったが、同時に何らかの違和感がヨウシャを眠りから引っぱり出したような気がした。 ヨウシャは上半身を起こし、ぐるりと周りを見回した。 枕元に置いたネズミのデイパックが発光していた。わずかに暖かみを帯びている。 (そういえば、これは奇跡のネズミのデイパックなのだ。いったいどうしたんだろう?) ヨウシャは出来パックの中に手を差し入れる。 「あ、熱い!」 慌てて手を抜くと、同時に真っ赤になった小石が転がり出てきた。 (どうして?) こんなものを入れた覚えはヨウシャにはない。もちろん、月光が悪戯を仕込んだとも思えなかった。 「こ、これは。。。。」 月光もいつしか目を覚ましていた。 「あ、おはよう」 「うん、おはよう」 なんとなく間が抜けた挨拶を交わしながら、ヨウシャは月光をみた。 「おい、ヨウシャ、久しぶりに暖かいモノが食べられるぞ」 月光はせっせと体を動かしはじめた。 月光はカップを手に取った。水たまりから水を汲んでくる。発光石のまわりに乾燥食料を並べ、汲んできた水をぽたぽたとかけてやる。その度に肉や野菜などがふくらみ、乾燥以前の形にフンワリと蘇ってくる。 カップの水をかけきってしまうと、一杯の水をすくいに、また月光は立ち上がった。 「不便だなあ。小さくてもイイから鍋があればいいのに」と、月光。 「そうね」 「ヨウシャはここを出てからも旅を続けるんだろう? だったら、買った方がいいよ。そしたら、ちょっとした料理もできるから」 「うん」 その通りだなとヨウシャは思った。今のところ、まだお金はある。けれど、宿にばかり泊まっていてはお金なんてすぐになくなってしまう。 身体を売ればすぐに稼げるけれど、知らない街でまた売札を現金に交換しなくてはならない。それに、セックスの虜になればなるほど、我が身が朽ちていく、ということなのだ。 ということは、なるべくお金は節約しなくてはいけない。必然、野宿になる。口に出来るのは乾燥食料だけだ。味気ない乾燥食料も、こうして戻せば、結構いける。 「これも食べられる」 洞窟には淫樹の根の他に、びっしりと苔のようなものが張り付いていた。月光はそれをちぎって、水をいっぱい注いだカップの中に入れ、発光石の側に置いた。 「いいダシが出て、調味料が無くてもスープになる。栄養もある」と、自信たっぷりに言ってから「。。らしい。。」と付け加えた。 スープが温かかくなると、ヨウシャと月光は交代でこれをすすった。 口に含んだときはそれほど暖かみは感じなかった。もっとぬくめてからにすれば良かったかなと、ヨウシャは思う。けれど、スープをごくんと飲み干し、食道から胃の中へ流れ込んだ途端、体がぽかぽかと温まり始め、全身にエネルギーが回り始めた。戦いの前に身体がカッと熱くなるようなエネルギーではなく、お風呂にゆっくり浸かったときに感じるのと同じものだった。 シンからゆっくり疲れを開放し、じんわりとパワーがしみ込んでくるような。 寒い冬の夜、就寝前の一時を、暖炉の前で母親と一緒に温かいミルクを飲んでいるようでもあった。 人間はいつのまにか裸で過ごす動物ではなくなっていた。裸でいることで、ヨウシャも月光も必要以上の体力をしらずしらずのうちに消費していた。それを補うような、慈味にみちたスープだった。 ヨウシャは久しぶりにゆっくりと食事をした。 旅に出て以来、「お腹が膨れればそれでいい」という思いに支配されていたことに気が付いた。 慌ててもしょうがないや、と思った。 一刻も早くアスワンの王子の元へ。それは変わらないけれど、慌ててご飯を食べてそれで稼げる時間なんて高々知れている。これを「余裕」というのだろう。余裕を無くせば焦りが生じ、焦りが判断力を鈍らせ、結果、悪い方向へ自分を導く。 (ああ、こんな風に考えられるのも、月光と二人で旅したからだ) しかし、二人連れの道中も間もなく終わりだ。 まだ、聖水が湧き出るという洞窟の一番奥には辿り着いていないが、ヨウシャの勘が「間もなく終わる」ことを告げていた。 ヨウシャは、スープの最後の一口をゆっくりと喉の奥に流し込んだ。タイミングを見計らったように発光石は徐々にその熱と光を弱め、やがて何の変哲もないそのへんの石ころと区別が付かなくなった。 「さあ、行こう」 月光に促されて、ヨウシャは歩き始めた。 |
カーブが続いていた。 道はどんどん下っていた。 いつまでもいつまでも同じペースで「カーブ」が続き、同じ斜度で「下って」いた。最初は気にならなかったが、いくらなんでも変化が無さ過ぎる。意識の中の警戒信号が点滅した。 (おかしい。不自然だ) 地中に穿たれた洞窟だから、右に左に不規則に曲がり、また、登ったり下ったりするほうが、あきらかに「自然」なのだ。 「ねえ、なんか、おかしいよね」 不安に捕らわれて、ヨウシャは月光の手をぎゅっと握った。 「やっぱり、そう思う?」 「うん」 「俺も、いくら何でもカーブと下りが続きすぎると思っていた」 「道、間違えた?」 「いや、淫樹の根は僕たちの道筋を正しく照らしていると思う」 「じゃあ、このまま進んでいいのね。でも、なんだか、底なしの迷宮にどんどん墜ちていくような気がする」 「うん」 二人は歩みを止めた。 しばらく顔を見合わせる。 「決断しよう。いつまでも考えていても仕方ない」と、月光はヨウシャの目をしっかりと見て言った。 「決断って?」 「これまで歩いてきた道を信じてこのまま進むか、どこかで間違えたんだと引き返すか」 「引き返す。。。。なんだか、ぞっとするわ」 「そうだな」 「やっぱり、このまま進みましょうよ。この先に何があるかわからないけれど、きっとそこには解決への道がしめされてると思うの。引き返したら、何もかもが無駄になるような気がするわ」 「冒険には『過ちを認める勇気、引き返す勇気』が必要だって言われるけど、俺もヨウシャに賛成だ。誤ったとも思えないし、目的のために今一歩踏み出す勇気の方が今の俺達には大切だと思う」 「じゃあ、行きましょう」 |
再び歩き始める二人。 「ここは思案の迷宮。よく先へ進む決意をしたな」 「え? なに?」 低くくぐもった声が聞こえた。 「月光、何か言った?」 「言うわけない」 「じゃあ、いまの不気味な声は何?」 「不気味とはなんだ。我はノモキスの洞窟の案内人、『地底湖のエロガメ』であるぞ。足元を見よ」 「きゃあ!」 ヨウシャの足もとにでっかい亀がいた。 甲羅の横幅は80センチぐらい、長さは1メートルを超えている。 甲羅から出た頭は体型に合わせて大きく、グロテスクだったが、その頭をヨウシャのアシにこすりつけているところは、子犬が甘えるように愛嬌があった。 「か、かわいい」 「かわいいか? こんなに大きな亀が」 「あら、かわいいじゃない。こんなにあまえて」 「ううむ」 月光は考え込んでしまった。 「ところで、亀さんは、人間の言葉がわかるのですね。だったら、教えて下さい。私達は洞窟の奥に湧く石清水を求めて旅をしているのです。あとどれくらいで着くのでしょう?」 「我は人間の言葉を理解しているのではない。心と心で感じ合っているのだ。だから我々の会話に言語体系は関係ない。伝えようと思えば伝わる。逆に、お前なんかとは理解し合えないと思えば、何も伝わらない」 「ふうん。。。。」 「だから多くの人間が、我と意志を交わし合うことなくここで死んでいった。こここそが、迷宮の最果て。永遠の螺旋トンネル」 「永遠の、螺旋トンネル?」 驚いたように月光は言った。 「じゃあ、俺達はさっきからその永遠の中を彷徨っていたのか?」 「その通り。ノモキスの洞窟の奥は、行き止まりではない。永遠の螺旋トンネルなのだ」 「なら聖水なんて、手に入らないの?」 「はっはっは。洞窟の中の全ての水は、すなわち聖水。おまえたちはもはやそれを手に入れ、体内に取り込んでおる」 「あ!」 (そういえば!) ヨウシャはやっと気が付いた。 いつの間にかイチゴの禁断症状は訪れなくなっている。眠る前に交わした月光とのセックスでも、身体は変化しなかった。既に二人の身体は聖水によって浄化されていたのだ。 ヨウシャは月光をみた。月光もヨウシャを見つめる。二人は力強く頷いた。 「だったら、さっき、やっぱり引き返せば良かったんだ」と、ヨウシャ。 「そうだね。目的は達成された」と、月光。 「じゃあ、今からでも遅くないわ。洞窟を戻りましょう。教えてくれてありがとう、亀さん。さあ、月光、行きましょう」 「残念だが、もはや後戻りは出来ぬ」と、亀は言った。 「え? どうして?」 「洞窟の終端は、終わりのない螺旋トンネル。この永遠の螺旋トンネルに足を踏み入れたものは、どちらに進んでも外に出ることは出来ない。迷宮の最奥部をひたすら歩き続けるだけ」 「そ、そうか」と、月光は言った。 「何が、そうか、なのよ。亀さんは、『もう戻れない』って言ってるのよ。したり顔で納得してる場合じゃないわ」 「ここは、時空のつながりが地上とは違うんだ。だから、我々には元に戻れない。だが、ここまで僕たちは『道』を伝わってやってきた。道があったんだ」 「それがどうしたのよ。一方通行の道なら、役立たずじゃない」 「いいか、落ち着いてくれよ、ヨウシャ。道があるということは、そこを自由に通えるものの存在があるということだ。我々には出来なくても、何者かは自由に行き来できるんだよ」 「その、何者って、誰よ」 「おそらく。。。」 「あ、わかった。この亀さんだ」 「俺もそう思う」 二人は亀を見下ろした。 「正解だ。良くできた。褒美に、元の世界まで案内してやろう」 「褒美だって。。。。クイズだったんだ」と、ヨウシャは無邪気に笑った。 「クイズではない。試練だ」 亀は首を伸ばしてヨウシャをみた。 「まずは永遠の螺旋トンネル。どこまでも曲がり、下るこのトンネルを不審に思うこと。このおかしさに気が付くこと。これが第一の試練」 「誰だって気が付くわよ」と、ヨウシャ。 「いや、気が付かない。自分が置かれた状態を分析し、常に向上しようという気持のないものは気が付かない。与えられたものをただこなしてそれで良しとする人間には気が付かない。ただ、何も考えずに前へ進むだけだ。そして、いずれ朽ちる」 「なるほど」と、月光は言った。が、ヨウシャにはやっぱりわからない。地下の洞窟がまるで人工物のように同じペースで曲がり、下っていれば不審に思うのが当たり前じゃないの。ヨウシャには毎日にただ流されるだけの大人が陥る「考えない病」など想像も付かない。まだまだ純粋で好奇心に満ちた年齢なのだ。 「第2の試練。それは我とのコミュニケーション」と、亀は言った。「我との会話を望めば、言葉が通じなくても、心と心で意思を疎通できる。そうすれば、我は人に情報を与えることが出来る。だが、多くの人間達は、我をただ大きな亀としか認識しなかった。そして、情報を得られないまま野垂れ死んでいったのだ」 「言葉がわからなくても、動物を飼ったり、可愛がったり出来るもの。話しかけたり、なでてあげたり、一緒に遊んだり。言葉がわからないから付き合えないなんて、そんな風に思う方が変なのよ」と、ヨウシャは言った。 月光はおかしくなった。 ヨウシャのいうことはもっともだが、ペットでも何でもない通りすがりの亀と、情報交換しようなどとは普通は思わないのである。 でも、ヨウシャはそれが当たり前だという。 「第3の試練。この亀が、永遠の螺旋トンネル脱出の案内人だと、気付くこと」 「ん〜。これはちょっと難しいかもね。亀が助けてくれるなんて、ちょっと思いつかないもの」 「そして、これから、最後の試練が待っている」 「まだ、あるのかよ」と、月光はちょっとうんざりしたようだった。 「見るがイイ」 亀は180度反転し、頭をニュッと伸ばした。その先には! |
永遠の螺旋トンネルが続いているはずなのに、いつの間にか大きな地底湖が出現していた。 「わあ、綺麗!」 ヨウシャは叫んだ。 地底にポッカリと穿たれた大空間に、水が満ち満ちている。大空間の壁にも淫樹の根は張り巡らされていて光を放ち、その光を受けて湖面がきらきらと輝いていた。地底に広がる宇宙空間みたいだった。 「我の背に乗り、この湖をこえること、そこが出口だ」 大きな亀の背中は、とても安定してそうで、何もかも任せて大丈夫と、ヨウシャは感じだ。 「で、最後の試練とは?」と、月光。 「我が何者か、最初に言ったはず」と、亀。 「ええと。。。」と、ヨウシャは思い出しながら応える。「確か、ノモキスの洞窟の案内人、地底湖のエロガメ。。。」 「その通り。我はエロガメなり。我の背中に乗ればそれだけで、激しいセックスと同様の効果が」 「わあ、面白そう」と、ヨウシャ。 「いやいや、面白がってる場合ではない。おヌシ達に耐えられるかな?」 「耐えられないとどうなるの?」 「別にどうにもならん。耐えられなかったからといって、外に出られないということはない。だが、快感に身をゆだねて、湖の上で亀に乗っているのを忘れてしまうと、湖に落っこちてしまうだろう」 「じゃあ、溺れて死んじゃう。。。。でも、泳げたら問題ないよね」 「泳げても、泳げなくても、我は何度でも助けてやるよ。だがな、この切れるように冷涼な湖水に何度も落ちたらどうなるか。極端に体力を奪われる。生命力も消耗する。そして、死に至るのじゃ」 「はあ。。。。なんだかつまらないな」と、ヨウシャは言った。「だって、それじゃ快感にのたうち回ることが許されないんでしょう?」 「それが試練と言うものだ」 「ねえ、亀さん、あなた反省した方がいいわよ。あなた、ここの管理人でしょう? だったら、ここで命を落とさずに多くに人がきちんと家に帰れるように管理すべきじゃない? それなのに、こうしないと永遠に彷徨うとか、湖に落ちてた威力が無くなって死ぬとか、そんなんばっかり」 ヨウシャの理屈を聞いて、月光はおかしくなった。 「人の生き死になど我には関係ない。この地の法則に従うのみ。もともとここは簡単に人間が踏み込んでいい場所ではないのだ」 「そう。。。。なんだかよくわからない」 「わからなくていい。さあ、どうする。我に乗って湖を渡るか、それともここで朽ちていくか?」 「渡るに決まっているじゃない」 |
ヨウシャと月光は亀の背中に乗った。 甲羅の中央部分は山脈上に前から後ろにかけて鋭く尖っている。大きな甲羅なので思いきり足を広げてまたがらないといけない。すると必然的に鋭い山脈は秘部にピッタリとおさまるのだった。 「若干の異物感はあるけれど、どうって事はないわね」 今までさんざん色々なものを挿入してきたヨウシャにはどうって事がないように思えた。 「月光はどう?」 「少し前屈みになればお尻にも食い込まないし、何かが当たっている、というくらいかな」 「ふふ。ものを挿入されて感じることしか知らない愚かな人間達よ」 エロガメは不敵な笑い声をあげた。 波もなければ風もない。ほとんど揺れない亀の背中に乗って、二人はゆっくりと岸を離れた。つま先が湖面に触れると、確かに氷ほども冷たく、触れた部分がナイフで切られたようにピリピリする。ヨウシャは思わずつま先をあげた。 淫樹の根が放つかすかな光しかないので、湖の向こう岸が見えない。 大股を開き続けるのは案外しんどいことなのだなとヨウシャは思った。まだそれほど時間は経っていない。そう、ゆっくり300まで数えるほどにも。だが、足の付け根がしびれてきたように思えた。 ある時、ヨウシャは「ああ!」と、声を上げた。 甲羅には何ら物理的な変化はないのに、深いところからじんわりと快感が漏れ始めたのだ。 「あ、なにこれ?」 「振動だよ。手で甲羅に触れても感じないくらいの、わずかな振動。この周波数は直接、快感中枢に作用して、じんわりと、やがて耐えきれない恍惚をもたらす」 その通りだった。 最初はやさしく乳房を愛撫されたり、唇に指を這わされたりしたときのような、うっとりする感覚が訪れた。一気に激しさを増してくるいつものセックスと違い、じれったさを感じるくらいだ。だが、これが長時間続くと、身体の芯に作用してくる。もっともっとと、腰を振り続けたくなるような、いつもの快感が襲ってきた。 ああして欲しい、こうして欲しいと注文をしたり、彼にもっともっと感じさせてあげたいと、いつもなら口や手が勝手に奉仕を始めているはずだ。 そしてついに、意識がとんでただお互いの身体を本能のままにむさぼり合うレベルに達した。背筋がピクピクと痙攣し、腰がぴょんぴょんと跳ねた。 「大抵の人間はここで落ちる」 「ああん、素敵、身体がとろけそうよ」 普通の人間ならここでイクところだ。だが、封印の解けたヨウシャや呪いをかけられた月光にとって、まだまだ先があった。 宙に浮いたり、血液が逆流したり、悦楽から恍惚への道を辿りながら、ヨウシャは亀の振動に身を任せた。 「ううむ。おまえらすごいなあ。しかし、まれに性を極めた人間がいて、ここまでは耐えられる。だが、この先はどうかな?」 もちろんヨウシャも月光も、まだ先を知っている。なにしろ、お互いの細胞が変化して、肉体の奥にまで溶け合い、ぐちゃぐちゃになってしまう究極の合体を既に経験しているのだから。それは口で説明できる気持ちよさを越えていた。なぜなら、神の領域だから。と、同時に、プラトニックを伴わないと達することが出来ない位置でもあるからだ。 亀に乗っている自覚はもはやない。 身体中どこに触れられても瞬時にイッてしまうほど高められた二人は、広大な宇宙に浮遊し、しかも宇宙は全身を覆い尽くすほどのたくさんの触指で休み無く快感の雨を降らせた。それは、体の表面だけではなく、奥深くまで、細胞のひとつひとつにまで悦楽を味あわせた。 もう抗う術はない。ただ、身を任せるのみ。 意識の奥の深いところでこれらを感じながら、二人は失神という状態に導かれた。いや、それをいうなら、とっくに失神していたのだ。 全ての意識を吸い取られて、ようやく眠りの状態になった。 |
気が付くと、二人は湖の畔に倒れていた。 青く澄んだ湖は、明るい陽光をきらきらと反射させながら、波打っていた。 空には太陽。 湖の周りには、緑の草原が取り巻き、その外側をさらに深い森が覆っていた。シンプルで汚れのない風景。いつまで見ていても飽きず、その中にいればいるほど、身も心もどんどん浄化されるような純粋な風景だった。 亀の姿はない。 何者にも犯されていない、神が創作したときのままの森と湖と太陽と草原と青空と風。肌に優しい、もっとも理想的な湿度を含んだ空気。そんな中で、ヨウシャと月光は、まるでこの世に存在するたった一組の男女のように、全裸で眠っていた。 人間の英知や能力を超えた地下迷宮を脱出したのだった。 |