「二人はこれからどこへ行くんだい?」 どこかから声が聞こえた。遠くから漂ってくるようでもあり、それでいて耳元でささやかれているようでもあった。声の主は、地底湖のエロガメ。間違いない。けれど、その姿は見えない。実体を伴わない声だった。地底湖のエロガメどころか、自分の存在だって危ういものだと、ヨウシャは思った。 いったい、ここはどこ? 遙か天上、人間界を見下ろす楽園? 踏みしめる足もとには地面が無く、足をおろす度に踏み抜いてしまいそうなほど不確かで頼りない。地面がなければ、空もない。風景もない。ただ果てしない空間が穿たれているだけ。 「天国かな?」と、ヨウシャは言った。 「地獄かもな」と、返事をしたのは月光だった。 地獄。そう思うと、霞のように感じたそれは、ぬらぬらと蠢く妖気にも思えてくる。執拗に我が身を包み込み、寸分の隙も感じさせない。底なし沼の中でねっとりと身体に絡みついてくる汚泥のように、ヨウシャを捕らえて離さない。 「ここは天国でも地獄でもない。しいていえば、君達の心の中だよ」 エロガメは言った。 「心の、中?」 「君達が作りだしたイメージの世界といってもいい」 「イメージ?」 「我は地底湖のエロガメ。そもそも私は、姿形を持たないノモキスの洞窟の守護を受け持つもの。君達の言葉では『管理人』ともいうし、『守り神』ともいう。亀の姿は実は君達が紡ぎだした仮の姿」 説明を聞いて、ヨウシャは地底湖のエロガメが急に崇高な存在に思えてきた。 「じゃあ、アナタは神様なの?」 「ヨウシャ、頭で理解しようとしてはいけないよ。この世には人智のおよばないものがたくさんある。頭で理解しようとすれば、もはや理解不能となる。見たもの、聴いたもの、感じたもの、それらを素直にそのまま受け入れてごらん? そうすれば、どんなものでも心で理解できる。心で理解すれば、全てのものを手に入れたことになる。たとえ身の回りになにもなくてもね」 「よく、わからないわ」 「今はわからなくても良い。でも、これだけは覚えておくといい。人は経験を積んで成長していく。その課程で、人はふたつの種類に分かれる。ひとつは、実体の有無に関わらず全ての事象を心で理解できる純粋な人間。もうひとつは、実体しか信じることが出来ない、頭で理解する人間。どちらに成長するかは、その人の心がけ次第さ。ヨウシャにも、月光にも、心豊かに成長を遂げて欲しい」 心の片隅にエロガメによって「優しさ」の種が植えられるのを、ヨウシャは感じた。 「君達に我は旅の助言を行おう。まず、月光」 「はい」 はい、だなんて、やけに素直な返事をするなと、ヨウシャはおかしくなった。けれど、ヨウシャがクスリと笑うのに気が付いたのだろうか。殊勝な受け答えは「はい」という返事だけで、すぐにぞんざいな口利きに戻るのだった。 「これからどうする?」 「呪いは解けた。だから、村へ帰るよ」 「ならば、西へ向かいなさい」 「わかった」 「次に、ヨウシャ」 「はい。旅を続けます。アスワンの王子の元へ」 「東へ向かいなさい。そして、海へ出たら、海岸沿いに北へ向かいなさい」 「はい」 「地下迷宮を脱した二人は、美しい森の中の湖の畔で目を覚ますだろう。そこでお互いの旅の安全と成功を祈り合って、それぞれの道を進がよい。ただし、二人とも裸だ。衣服を手に入れねばならない。二人は最後まで協力し合って行動しなくてはいけないよ」 |
チュン、チュン。 小鳥がハーモニーを奏でながら、全裸で眠る二人のそばをつかず離れず、まるでやさしく揺り起こそうとしているかのようだ。深い森の中にポッカリと穿たれたような湖。静寂の中で、暖かな息とともに声が吐き出された。 チュン、チュン。 「あう、ん」 ヨウシャが覚醒しつつあった。 ヨウシャには、目が覚めたと思ったら、それがまだ夢の中だったという経験がある。絵に描いたような森と湖の風景を見て、ヨウシャは「まだ夢の中かも知れない」と思った。風景があまりにも鮮やかだったから。 月光はまだ眠っている。 月光の身体のかげから、一匹のネコがひょいと姿を現した。真っ白なネコだった。 「にゃおん?」 ト、ト、と月光の身体を乗り越えて、ヨウシャに近づいてくる。小首を傾げてもう一度「にゃおん?」と鳴く。 耳の先からしっぽの端っこまで一点の曇りもない「白」だった。横になったままのヨウシャのお腹にいったん身を寄せてから、白いネコはヨウシャの目の前までやってきた。ふんわりとヨウシャのお腹をなでた柔らかな毛が、ネコのものとは思えなかった。上等の毛皮を頬でなでたようだ。 (やだ、わたしそんな上等の毛皮なんて、見たことも触ったこともない) 話に聞いたことがあるだけだった。そう、そんなものを手にすることが出来るのは、貴族や地主や豪商といったお金持ちか、さもなければ売れっ子の娼婦だけである。 (あ、わたしもその仲間か) ペロン。 白ネコはヨウシャの顔を舐めた。 意識が徐々にはっきりしてくる。 「これは、夢じゃないんだ。。。。」 ヨウシャは呟いた。 迷宮での冒険、エロガメの背中で感じたこと、そして、天国とも地獄ともつかぬ茫洋とした世界で、エロガメから授けられた言葉達。これらをはっきりとかみしめながら周囲を見回す。 『美しい森の中の湖の畔で目を覚ますだろう』 最後にエロガメはそう言い残していた。 それが、ここ。 月光も目を覚ました。白いネコはヨウシャから離れ、月光に寄り添った。 「わ、お前、くすぐったいって」 白ネコを抱き上げる。 「へえ、おなかまで白い毛に覆われてる。雄だな。だったらヨウシャに可愛がってもらえ」 白ネコはスルリと月光の手から滑り出て、ヨウシャに駆け寄った。 「連れていってやれよ」 「え?」 「その白いネコ、ヨウシャを導いてくれる神秘のネコじゃないか?」 「神秘のネコ? 私を導いてくれる?」 「なんとなく、だけどな。感じるんだよ」 「そんなもんかな?」 「な、連れていってやれよ。もっとも、こいつが嫌がらなければ、だけどな」 月光は、「こいつ」と言いながら、白ネコの頭に掌をトンと重ねた。 「にゃおん」 「嫌じゃないってさ」と、月光。 「ほんとう?」 「にゃん」 白ネコは、ヨウシャの足首に額をこすりつける。 「ほらな」 「月光は、このネコの気持ちがわかるの?」 「わかる訳じゃないけど、なんとなく伝わってくるよ。ヨウシャにだって、わかるはず。その気になればね」 「そっか。エロガメとも会話できたしね」 |
白ネコは、ミャミャミャと声を発しながら、ヨウシャに身体をすりつけては、チラリと見上げる。まるで(お願い、連れていってよ、ねえ。ダメ?) と言われているようだ。 地底湖のエロガメは意識の中に直接話しかけていると言った。だからそれぞれの意志を言葉として通じ合わせることが出来た。白ネコにそんな能力はない。けれど、気持を通じ合わせようという想いがあれば、やはり通じるのだとヨウシャは思った。 「うん、じゃあ一緒に旅しよう。無事、王子とエッチが出来たら、キミもわたしと一緒に村に帰って、そして一緒に暮らそう」 ミャミャミャ!! 鳴き声が高まり、白ネコはその場で何度かジャンプをした。喜びを表現しているようだ。 「じゃあ、名前を付けてあげよう」と、月光が言った。 「そうね。。。。。全身真っ白だから、シロ、でどうかな?」 「シロ。。。なんだか、犬みたいだ」 「ええと、男の子だから、シロクンでは、だめかな?」 「シロクン。。。。そうか、白君か!」 月光は何かに思い当たったように、急に大声を上げた。 「ど、どうしたの?」 「伝説を聞いたことがある。古き時代、アジアと呼ばれる大陸に、広大な平原と雄大な山脈を持つ国があって、そこにはたくさんの人が住んでいたと。飢饉と争いが繰り返される中、予言者で呪術師で詩人、という救い人が現れた。その名が、白君。たしか、ハックンと呼んだらしい」 「ハックン。いいわね、それにしよう」 「よし、白ネコ、お前は今からハックンだ」 月光がそう宣言すると、ハックンはくるくるとその場を跳ねながら回り、ヨウシャのデイパックを口にくわえた。 「なに? どうしたの? これは奇跡のネズミのデイパックと言って、大切なもらい物なの。悪戯しないでね」 ヨウシャが諭すように言う。 その途端、ハックンはデイパックをくわえて、ダッシュで走り始めた。 「お、おい、待て!」 すぐさま後を追ったのは、月光だった。 「ハックン、待って。嬉しいのはわかるけれど、悪戯したらダメ。旅に連れていかないわよ」 声を張り上げるヨウシャ。 でも、効き目はなかった。 ハックンは振り返りも立ち止まりもせず、湖の畔からどんどん離れて、森の中に入っていく。 ハックンを追って、月光も走る。ヨウシャも。。。。走るが、ついていけない。 息が切れ、足腰はフラフラ。 (月光、お願い。わたし、もう、走れない) 走るのをやめてとぼとぼ歩き出したヨウシャだったが、すぐに一人と一匹に追いついた。そこには小屋があり、デイパックを口から下げたハックンと、月光が待っていた。 「ヨウシャ。わかったよ」 「はあ、はあ、なにが?」 「ハックンは、この小屋の主に飼われていたんだ」 「は、そうなの? はあ、はあ」 ニャオン、とハックンは鳴いた。 「けれど、小屋の主は戻らない。旅に出て死んだのか、旅先で戻れない事情が出来たのか、それはわからない」 「なんで、そこまで、はあ、わかるのよ」 「なんとなく、だよ」 「。。。。そう。。。。」 「とにかく、中に入ろう」 |
森の中の小屋だけあって、全て木で組み上げられていた。テーブルやベッドなどの家具も、内装も。燭台は永年かけて炎であぶられたようで、黒く固くなっていて、もはや木だとは一目見ただけではわからなかった。 「今夜はここで休んで、明日、西と東に旅立とう」と、月光が提案した。 ようやく息が整ってきたヨウシャも、「キミがデイパックをくわえて走ったのは、悪戯ではなくて、この小屋の存在をわたしたちに教えるためだったのね」 小屋の前には、井戸もあった。戸棚には、乾燥果実や薫製肉などの食料も若干あるようだった。 「それにしても、困った」と、月光。 「なにが?」 「服がない。二人とも丸裸だ。これでは旅は続けられない」 「どこかで買えばいいじゃない」 「それまで裸で旅をするのか? 昼の陽射しや夜の寒さ、毒虫といったものの類から、裸では自分を守ることが出来ない。それに、裸で服屋に入れば、おかしなヤツと思われる」 「そ、そうか」 木の模様だと思って気が付かなかったが、壁には地図が掘られていた。 「ねえ、見て、これ」 ヨウシャが言った。 「これ、地図。。。」 「ああ」と、月光が言った。 現在地がここで、森の中にはいくつかの小屋と水場が点在していて、森を抜けたところが海岸、そして村があった。これがヨウシャの進む方向である。それとは反対側には、道が延々続いている。これが月光の帰る道のようだ。 「何か、文字が。。。。私には読めないけど」 小屋のひとつひとつに、ヨウシャの知らない言葉で何かが書かれている。 「ええと、武器屋、売春宿、食堂、それから、服屋、薬屋もある」と、壁を眺めながら月光が言う。 「よかった。お金ならまだあるわ」と、ヨウシャ。 「でも、今、裸なのは変わらない」 その時だった。ハックンはデイパックをくわえたまま(まだ口から離していなかったのだ)、頭を振り回して、さらにグルングルン激しく回った。振り回されたデイパックは、底が裂け、中身があたりに飛び散った。 「ちょっと、ハックン、やめなさい。本当に連れていかないわよ」 ヨウシャは叱ったが、ハックンはやめない。 ハックンは信じられないほどの高速回転を始め、既に底が破れたデイパックは、もはや修繕しようがないほどダメージを受けていそうだった。高速回転の渦は、やがて赤く青く閃光を放つ。 「きゃあ」 「な、なんだ?」 眩しさに目を伏せて、次に顔を上げると。。。。 ハックンは、デイパックを口から離していた。 デイパック? それはもはや、デイパックではなかった。 ブラジャーとパンツに変化していた。 「あら」と、ヨウシャがそれを拾い上げる。 「これを取りあえず身につけて、近くの服屋へ買い物に行け、そういうことじゃないか?」 「うん、身につけてみる」 「買いに行くんなら、俺の分も頼むよ」 「もちろん。それにカバンも何か必要だし、わたしの服だって、これだけというわけにはいかなわね」 |
ヨウシャはブラジャーを身につけた。 「ちょっと大きくなったみたい」とヨウシャが呟くほど、少女から大人への成長の課程を歩んでいる胸は形よく盛り上がり、ブラジャーはかろうじて乳首をかくし、下からよいしょと持ち上げるような案配だ。はりつめた肌が眩しい。巨乳ではないが、形が素晴らしくいい。大きさだけを問題にするなら、まだまだ成長しそうなバストだ。 「やだ、なんか変な感じ」 「変って?」 「愛撫されてるみたい」 「しばらく何も着てなかったから、そう感じるだけじゃないか?」 「そうかな? 。。。あう、あああん。。。。やっぱり、感じる」 月光が見たところ、ブラジャーが動いている様子はない。ヨウシャが勝手に反応しているとしか思えなかった。足もとで、ハックンがニャ、と鳴いた。ヨウシャの手が自然と自分の胸に伸びる。 「はあ、はあ、はあ」 自らのバストをもみくちゃにしながら、ヨウシャは悶えた。太股をラブジュースが伝いはじめる。すると、とびっきりの香りが小屋内に立ちこめはじめた。これがフェロモンというものだろうか。唐突に感じ始めたヨウシャに、半立ち状態だった月光だが、アッという間にそびえ立たせてしまう。 (もしや、奇跡のネズミのデイパックが変化した服には、そういう魔力があるのでは。。。。) 激しい快感でもはや立っていられなくなったヨウシャは、床に手を付き、四つん這いになっている。がちがちに固まったペニスをバックから突いて突いて突きまくりたい欲求を抑えて、月光は言った。 「パンツもはいてくれないか?」 もとがデイパックだったので、それほどたくさんの生地があるわけじゃない。 そのためだろう、パンツも決して充分にヨウシャの色気を隠しきることはできなかった。ハイレグで、前も後ろも「V」字型。ふたりとも全裸でしばらく旅を続けていたせいか、一部を衣服でおおったその姿態が、月光には激しくエロティックに思えた。 「あ。ん、。。。。ああ、は、はあ、はああん」 色っぽい声を振り絞るヨウシャに、月光は訊いた。 「どんな感じ?」 「前、後ろ、はああん、。。。。全部、ああー、電気、あへあ〜」 ヨウシャは既に、穴という穴全てから快感を得られる身体になっている。ヴァギナもアナルも尿道も。それらに周辺部も含めて触れているパンツから、もぞもぞと小刻みで激しい律動を受け入れて、ヨウシャはどんどん上り詰めていった。 (やば。このままだと、ヨウシャがイッてしまう) いったんはかせたパンツをはぎ取り、後ろからのしかかって胸をつかみながら、ガンガン子宮を突くシーンをイメージした途端、ヨウシャは月光のペニスにむしゃぶりついてきた。がまんできない、ちょうだい。ううん、わたしにさせて。そう言ってるようだ。 片手で竿をピストンし、もう片方の手で睾丸を愛撫しながら、カリを歯と唇でバイブレーションを与え、先端部分を舌で嘗め回した。 息を吸い、口腔の内側にペニスがピタリと張り付いた。 ハックンがヨウシャの太股の内側をペロペロと舐めている。ヨウシャの恥ずかしい姿を見ているだけで感じていた月光は、今はっきりとヨウシャが放ちはじめたフェロモンのせいもあってか、ヨウシャのフェラテクに爆発寸前だった。 ペニスの先端にヨウシャの舌が差し込まれた。 月光は痛みと激しい快感に自分自身をコントロールできなくなり、大量の精液をヨウシャの喉の奥に流し込んだ。 同時に、ヨウシャもイッた。 形容しがたい声と全身の痙攣、そして恍惚とした目と唇が、それを物語っていた。この時、ハックンがパンツの脇から、信じられないほどの長さの舌をヨウシャのヴァギナに食い込ませていたことを月光は知らない。 |
余韻が徐々に去り、息も整ったヨウシャは、奇跡のネズミのブラジャーとパンティーから、あれほど流れ込んできた官能的な快感をほとんど感じなくなっていた。 二人には何となくこの衣服の秘密がわかりかけていた。セックスの直後は何も感じない。けれど、時間が経つにつれて感度が上昇する。いわゆる「たまる」という状況に応じて感度が増すようだ。 この夜、ヨウシャと月光は最後の性交を存分に味わった。翌日、ヨウシャはブラジャーとパンツを身につけて買い物に出たが、ときどき「あ」とは思うものの、ほとんど「感じる」ことはなかった。 それぞれ身支度を整えて、午後には右と左に別れる二人だった。 「いずれ、戻って来るんだろう?」と、月光。 「もちろん」 「だったら、帰りにも俺の村によってくれ」 「多分、行きと帰りは、同じ道を辿るわ」 こうして、しばらく続いた二人旅は終わった。再び一人になったヨウシャ。 にゃおん。 ちょこまかと、白いネコ「ハックン」がついてくる。 (そう、一人じゃなかったわね) |
目指す海岸、砂浜の村へは2日から3日の道程だと、服を買った店で教えられていた。 |