Boy Meets Girl |
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3.仕組み | |
父は新地球(レプリカ)の環境整備に駆り出されるので、僕はいつも朝食を一人で済ませる。 そして、毎朝几帳面なほど新鮮な酸素を吸い上げてしっかりとマスクをつける。外に出るのに防塵マスクは必須で、生身の外出は死期を早めると大人達が言うので従っていた。 僕が生まれた頃には、愛情という概念は机上の空論になりさがっていた。セクス(性交)とラヴ(愛情)が密接な関係だなんて二十世紀の遺物だった。人間の三大欲求については、過去歴の時間 (とくに移住前の地球の歴史)で先生から聞いた。 【睡眠】 時間の長さではなくて密度が重要となっている。だから、必要だと感じたらタブレットを服用する。今のところ、副作用は未確認だが使用感は爽快だ。必要なだけの睡眠を、応急的に補えるようになったので解決したと言っても間違いはないはずだ。 だから睡眠欲で悩まされることは、二十一世紀後半にはなくなっていた。 【食欲】 応急的なチューブでの食事と、安らぎや癒しを目的とした「本来の食事」とに分かれる。物心ついた頃から父と二人暮しなので、父と"本来の食事"を摂ることは、月に何度かだけだった。 忙しいのは彼のせいではないから、あえて聞かないことにしていた。ただ、一緒に過ごせる時は二人でキチン(台所)にたって、料理を作るというよりお喋りの延長と言った具合で、ダラダラと過ごす事が多かった。単なる空腹は普段は起こらなくなったが、それでは機械と変わらないので、条件的にある程度時間がたてば脳髄から「空腹感」が伝達されるようになっている。 やがて二十二世紀を迎える我々は「便宜的に食事をとる事」が可能となったので悩まされることはない。 【性欲】 この言葉も辞典からは削除されてきている。 地球では何がしかの風俗が栄えたらしいが、こちらでは生身の人間が処理することは一切なかった。だから、ある程度の大人になった身体で何らかの兆候(もしくはサカリの時期)が現れた場合は、自宅療養をする。これはつまり、季節的な病とみなされる。なにがしかの相手があてがわれると収まるコトが多いので、国から認定を受けているセクサロイド(性欲解消玩具)が一定期間同居するか、あるいはバーチャルな体感マシン(直接脳に刺激を与えて発散させる)でこの時期を乗り切る。思春期と言われる十〜二十才代の男女にこの施設が適用された。 生活は移住前とさほど変わりがないらしいが、肉体的な煩わしさが軽減され、僕達を束縛する事はほとんど皆無となった。 ゆりかごから墓場まで…はては、恋愛や家族計画までも政府が管理するのだから。僕らが悩むなどといった、合理性に欠けた部分はなくなったとも言える。 僕は生まれて、この生活しか知らないから普通だと思ってるし、父もこの件についてはなんのコメントもなかった。 |