Boy Meets Girl
「side TACT」

4.着陸
 
 過去歴の時間でみていた映像よりもシンプルな宇宙船。ロケットの延長。打ち上げ花火に良く似ている。

 僕達は、近隣のプラネットへ観光することが可能だった。新地球(レプリカ)とこの旧地球(オリジナル)は、距離がそう離れてないので、いくらでも行き来しようと思えばできる。ただ、民間人の観光は禁止されているので、結果不可能なことだった。しかし、今の僕には可能だ。僕は卒業試験合格の通知と、今回の渡航の許可メールをみせた。

「滞在期間は一週間デス。観光以外の行為は禁止しております」
 僕は入管の手続きのため、名前などの個人情報を 記録されていく。 無表情に作業をこなす係員の目は精緻なセンサー。僕の瞳孔の動きですら敏感に察知するのだ。
「観光以外の行為って?」
 僕の言葉を遮るように事務的な言葉が続く。
「地球の生態系や風俗を変えるような行為デス。そしてココであったコトを持ち出さないことデス」
 返事をする代わりに首を縦に数度振って見せた。僕はただ、父さんや母さんがどうやって出会って「愛し合った」のかを知りたいだけだ。

 時折。
 父はロケットペンダントを握り締め泣いていた。僕が気づくと黙り込んでしまうけど。いつだって祈るように手を硬く胸の前に組み、懺悔している。亡くなった母を、今も愛している父のココロはきっと一生判らないだろう……

 僕には愛する人がいない。誰一人として。いや、そんな感情は不要なのだ。この身体が成熟すればマッチングされた異性が派遣されるのだから。

 父さんや母さんが、分かち合ったようなコトなど、僕には一生関係ないことなのだ。遠いどこかの物語。むかしむかしの。

「観光なら何をしてもいいんだね?」
 という念押しをしてきた限り、僕の住む"レプリカ"には残っていない"ラヴ"についての過去歴を探そうとしていた。どこかの図書館にでも行けば、二十世紀の"オリジナル"の生活や風俗が分かるだろうと楽観的に考えた。

 いや、僕の本当の目的は違う。なぜ父は母を失ったのか。なぜ母のことを封印してしまったのか? 写真一枚しか手がかりはなかった。僕は旧式な「おまもり」袋の中から父と母が僕を抱いている写真を出してみる。元はカラーだったのかも知れないがすっかりモノクロ同様で、まるで証明写真のように味気ない。印画紙に焼き付けるレトロな作業なんて、もうお目にかかれないけれど。僕はこの写真が大好きだった。

 父と母の出会った「旧地球(オリジナル)に行くこと」。もしかすると、何か判るのではないか? 淡い期待をもったってバチはあたらないよね? 父さん……

 パスポートのチェックが終わった。
 僕は生まれて初めて"空気"を味わう。

 防塵マスクから解放された一週間を安易に喜んだ。

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