Boy Meets Girl
「side TACT」

5.前兆
 
 オリジナルに到着した僕は、真っ先に区域内図書館へと向かった。案の定、政府が公表するデータは、僕が習った過去歴を踏襲するだけだった。

 レプリカから来た僕は、何処へ行っても優遇される。されど「観光客」の域は越えられない。白い壁と高い天窓。昔、ムービーで見た二十世紀の教会に似ている。

「Not Found」の流れる端末の前でため息をつく。僕はどこまでたどり着けるのだろう?

 週の半分は消えた。

 普段は部屋の据付モニターで講義を受けるので、スクーリングは年に数回。友達と会うなんて滅多になかった。当然、異性とディスプレイ以外で会うこともありえない。僕達のコミュニケートはすべて遮断されている。
 直接会うことも、触れることも殆ど皆無だ。
 政府が認可しないセクスなど言語道断。合理性にかける進化過程は許されていない。
 結婚は、マッチングされた相手と共同生活するだけだ。
 交わらずとも繁殖可能な僕達は、順調に進化していくだろう。望むと望まないに関わらず。僕達は生きたサンプルなのだから。

 陽が落ちると、自然と街灯がともり僕の行く道を照らしてくれる。滞在期間はあと三日。
 幹線道路を移動すれば、やがてホテル。静かな道の反対側には、賑やかなネオン。僕の泊まるホテルとは、かけ離れたあちら側。二十世紀の大人の娯楽の一つ。

「地球の生態系や風俗を変えるような行為デス。そして、ここであったことを持ち出さないことデス」
「観光なら何をしてもいいんだね?」
 念押ししたコトバを思い出しながら、あちら側へと渡った。
 自ら望んで舞う宵闇の蝶も悪くない。ネオンの眩しさも観光の思い出となれば。

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