Boy Meets Girl |
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7.Etude | |
タクトって紛れもなく純粋。あたしなんかが、その芽を摘み取るのはなによりも罪深い行為だと思う。きっと。 うらぶれたアパートの一室。 いや、雨風をしのぐだけの廃屋だった。 酔いと奇妙な哀れみで頭はグルグルと渦巻くだけ。 あたしはタクトと一緒に、ベッドになだれ込みながら、彼の手首をぐっとひく。 華奢にみえても男は男。細いタクトの指にあたしの指を絡ませる。ゆっくり、そしてきつく握り締めて。離れないで……このまま…… タクト、大丈夫。恐がらないで。 あたしが練習台になってあげる。 タクト、大丈夫。心配しないで。 あたしはすぐに壊れたりしない。 タクトが思ってるコト……、当たり前だって知って欲しいの。 悪いことじゃないって知って欲しいの。 間違いじゃないって知って欲しいの。 たったそれだけ。それだけ。 あたしは、ゆっくりのしかかるタクトの首筋に腕をまわし、隙間を埋めるようにぴったりとくっついた。そして、言葉を交わすかわりに唇を開いた。 はやく……はやくふさいで。あたしのすべて。タクトでふさいで。 冷たい朝の空気に目が覚めた。あたしはそっとベッドを抜け出し、辺りにちらばった服を椅子に放り上げていた。 パサ………四角い"札"のようなものが落ちてきた。紺色の小さな布袋。あぁ……これ、"おまもり袋"だ。タクト、こんなの大事にもってるんだ……なんだか、懐かしい気分になった。ベッドのタクトは静かな寝息をたてている。ちょっとくらいいいかと思って、あたしは"おまもり"の中をあけてみた。お札のようなものと一緒に写真が一枚入っていた。ボロボロに色あせた写真。 そういえば、昨夜話してたっけ…… 「僕のお母さんは、昔に死んじゃったみたいでね。でも、お父さんとこの"オリジナル"で愛し合って、僕が生まれたみたいなんだ。だから僕、この"オリジナル" を一度でいいから見てみたかったんだ」 破れないように、写真をゆっくり引き出してみる。凛とした男性とにこやかな顔の女性と、腕に抱かれたタクト。 シーツが蠢く音。あたしは慌てて写真を袋に押し込んだ。 タクトのそばに戻って彼の顔を覗き込む。やがてうっすらとタクトが目を開く。 「ん?」タクトが目をこすりながら起き上がる。 「ううん……なんだか珍しかったから」 あたしは落ち着くために煙草に火をつけた。タクトの"おまもり"を黙ってみた事を。そして見てしまった"後悔"を悟られないように。 起き抜けのタクトに微笑んで見せた。その意味なんてあたし以外誰も知らない。 うちのタンスにも同じ写真があったけ…… |