JRはもちろんのこと、私鉄4路線と地下鉄3路線が密集するターミナル駅。午後7時といえば、帰宅ラッシュの真っ最中だ。 |
4月1日。晴れて俺は「係長」の辞令を受けた。俺が座っていた「主任」の椅子には、他の部署から新しいやつが転属してきた。それまで面識はなかった。この新主任が極めて優秀で手際も良く、おかげで俺は4月の最初の金曜日をこうしてほぼ定時に退社することが出来たのだ。 |
俺は妻とも恋人とも別れるつもりはなかったし、どちらとも上手くやっていける自信があった。しかし、どちらとも上手くいかなくなってしまった。俺と恋人との関係は、一般的な言い方をすれば浮気なのだろう。だが、俺は浮気のつもりはなかった。妻も恋人もどちらも愛していたし、俺にとってはかけがえのない存在だった。 |
俺は喪失感に包まれていた。心に穴があき、むなしく風が吹き抜けていた。こんな俺を慰めてくれるのは酒だけだった。 |
木村は結婚をしていなかった。だから好きなことをできるんだよ、とも言った。しかし、それは違う。結婚していようがいまいが、出来るやつは出来るし、そうでない人間はどんなシチュエーションだって出来ない言い訳にしてしまうだろう。 |