夏祭りレディーを統括する女傑、恵子。仕事人として成熟した彼女に、手厳しくやられた若手は多い。俺と同年代だから、それでなくても「女傑」だの「おつぼね」などと陰口を叩かれたりする。しかし、そういった類の「悪口」は概して、仕事の出来ない者の出来る者に対する「やっかみ」である。正しい目で見れば成熟しているのは仕事だけではない。身体も心も熟れ、妖しい一夜を過ごすのには最適のパートナーだ。 |
「じゃあ、若い方から頂くよ。キミは待っていてくれ」 |
ギラギラとまぶしい陽射しが目の奥をキリキリと刺した。 |
その日はお客が引けると、後片付けはまかせて、俺は退社した。客たちの反応も売上もまずまずで、かつ夏祭りそのものも盛りあがって、もちろん事故等もなく、「俺の役どころは済んだから、あとはきちんとやっといてくれ」と背中を見せても許されるような立場にいつのまにかなっていたことに気付く。歳をとった。 |
夏祭り中は睡眠不足と疲労から時々ぼんやりしたから、電車の中では寝ないように気をつけた。うっかり眼を閉じようものなら、そのまま終着駅まで運ばれてしまう恐れがあったからだ。しかし、どういうわけか、かえって目がギラギラと冴えてしまった。電車を降りると俺の足はふらりと「鷹」に向かっていた。 |