フライデーナイトアベニュー
10月の4回目の金曜日 その(2)





 俺は有給をとったが、岡本はちゃっかり出張を入れていた。北陸地方は研修以来俺には縁の遠い土地だが、岡本にとってはつい先日まで、福井・金沢・富山といったところは活動拠点であったから、今でもつながりが深い。本社に戻ってからの部局が「支店統括部」とあって、支店に顔を出せばそれなりの扱いでもある。
「支店に顔を出すのか?」と、俺は訊いた。
「いや。そういうことにしといてくれ、と頼んだだけだ。ナンパ旅行に行くんだぜ。支店に実際に顔を出したら、何かとやりにくい」
「アリバイ、作っておけよ。俺は休みだが、お前は出張なんだろ?」
「アリバイは大丈夫だ。懇意の奴に頼んである。外で打ち合わせした、ってことでな。お前は知らんだろうが、支店なんてろくな会議室なんてない。一角に打合せが出来るようなコーナーがあるだけだ。そんなところに、本社の支店統括部から人が来てみろ。うっとおしいだけだ。現場はやりにくい。だから、『打合せに出てくる』なんて支店長が言えば、みんな喜ぶよ」
「そうか、懇意の奴ってのは、支店長か。金沢か、富山か? 福井は出張所扱いで金沢の下だからな」
「もう勘ぐらないでくれ」
「それはいいが、どうして有給をとらなかった? 交通費ぐらい惜しんで、ばれたらことだぞ」
「うるさい奴だな。実は、仕事もあるんだよ」
「ナンパのどこが仕事なんだよ」
「まともな仕事もあるって言ってんの」
「どんな」
「それは、言えない。お前も余計なことは言わないでくれ。その分、良い思いをさせてやるから」
「わかったよ」
 上越新幹線から、特急「はくたか」に乗り換えて、俺達は金沢についた。なんとなく温かみがあった金沢駅も改築され、今では新幹線の地方駅のように表情のないつまらない駅になっていた。


 金沢は北陸地方有数の大都会だが、駅前はなんだか湿っぽくてくすんでいる。それは街の中心が駅前ではないからで、少しは繁栄したけれど、いつのまにか置いてきぼりを食らった地方のような感じがした。
 中心は、香林坊や片町の界隈で、ギッシリと車で埋め尽くされた広い道路は、鉄道のない沖縄を思い起こさせる。バスとタクシーの多さもそうだ。気の狂ったような高層のものはないけれど、ビル群は東京の繁華街のようだ。いわゆるビジネス街と繁華街が一本の通りで結ばれて接近していることが、東京とは異なる点だ。都会の真中に突如として緑の固まりが現れるのも、東京との共通点かもしれない。物価も高そうだ。
 海岸にでも出れば別なのだろうが、「北陸」「金沢」といった土地のイメージを肌で感じることはない。心の中に浮かんだ金沢のキャッチコピーは「観光とミニ東京」だった。研修でここにいた3ヶ月間は、そんなことを感じる余裕もなかったけれど。
 ただ、ひとつだけ、東京とは大きく違う点がある。行き交う人々から発せられる雰囲気である。ビルの谷間の、車で埋め尽くされた大通りの、脇の歩道にいてすら、それは感じる。懐かしさや郷愁といった単語がピッタリ来るだろうか。懐かしさと言っても、それは研修でこの街にいたからではない。毎日ぴりぴりしていた研修の頃は、そういう感性は欠落していた。人間が本来心の奥底に持つ、あるいは遺伝子に組みこまれている何か、そういうものに反応する懐かしさだ。若い人のファッションは地方都市にありがちなスタイルだった。東京より少し遅れていて、かつ、東京より極端だ。
 金沢はまだ垢抜けているから、その極端の度合いも大きくはないけれど、ある地方へ行った時などすごかった。当時、既に東京では廃れ始めていた「やまんば」が、全盛だったことがある。東京でもそんなのは一部の人だけだったが、その土地ではほとんど全ての女子高生がやまんばだった。「遅れ」ていて「極端」とは、こういうことだ。
 誰からか、金沢は演歌とジャズの町だと聞いたこともある。J−POPではなかなか客が入らない、と。嘘か本当かわからない。
 嘘か本当かわからないのは、「フライデーナイトアベニュー」も同じだった。


「お前は先にチェックインしていてくれ」
 岡本はホテルの前で俺に荷物を託した。
「悪いが荷物はお前の部屋で預かっといてくれ」
「どこへ?」
「だから、さっきから言ってるだろ。仕事だよ。本当に仕事があるんだ」
「手伝ってやろうか」
「それは、いい。いわゆる特命事項だ」
「そうか」
「ホテルは俺の名前で、ダブルをふたつ、予約してある」
「ダブルをふたつ?」
「今夜、メイクラブだろう? ツインルームってわけにいくまい」
「成功するとは限らないだろ」
 仕事はきちんと念頭にあるくせに、エッチのほうにもきちんと気を回している岡本がおかしかった。
「失敗してもいいじゃないか。ダブルルームのシングルユースってのは、エグゼクティブなサラリーマンなら当然だぜ。大学生の下宿じゃないんだ。広々と寝ようじゃないか」
「それなら、俺は広々と寝る方がいいな。女無しで」
「今更、裏切りは認めないからな。裏切ったら報復するぜ。特命で出張している俺にノコノコついてきて、社内の秘密を暴こうとしたってチクッてもいいんだぜ」
「よせよ、冗談じゃない。お前が俺を引っ張ってきたんじゃないか」
「つまり、お互い裏切りはなし、ってことだ。いまさらアレコレ考えるな。ドーンとナンパだ。わかったな」
「わかったよ」
 岡本は、仕事では俺よりはるかにやり手で社内の評判も高く、実績も上げている。それゆえの自信だろうか。どこかあかぬけなかった研修時代の岡本とは、人が変わったようだった。もっとも、俺も変わったかもしれない。


 チェックインを済ませた俺は、荷解きもせずに、そのままベッドに倒れこんだ。なんとなく疲れた。
 シャワーでも浴びたかったが気力がついてこない。どうせナンパは夜なんだろうから、一眠りしよう。ビールでも飲もうと冷蔵庫を開けたら空だった。
 そうか、ここは自分で買って持ちこむ方式なのか。ホテルを選んだのは岡本だから、どの程度のグレードなのかわからないけれど、空の冷蔵庫を用意しておくということは、それほど悪いところではないのだろう。
 仕方がないので、俺はホテルを出て近くのコンビニへ行った。適当にドリンクなどを買いこんで戻る。
 喉が乾いていたので、ミネラルウォーターを一気飲みし、それから缶ビールのプルトップを開けた。ポテトチップをつまみながら、ビールを飲み、なんとなくテレビを見ていると、いつのまにか眠ってしまった。気持ちの良い午睡だ。
 内線電話で起こされたのは、夕方だった。
「軽く何か食べて出かけよう」
 岡本は俺の部屋から荷物を引き取り、30分後に着替えて現れた。ラフな格好で「特命」とやらに出かけたくせに、岡本はスーツに着替えていた。
「な、なんだ、そのカッコ!」
「女性を釣りに行くんだ。当り前だろう」
「俺は、そんなの、持ってきてないぞ」
「仕方ないな」
 俺はチノパンとカジュアルシャツというスタイルだった。
 再び着替えてやってきた岡本は、スラックスにポロシャツだった。
「それも、なんか変だぞ」と、俺は言った。
「セックスは裸でするんだから、なんだっていいんだよ」
 さっきと言ってることが違うが、宗旨替えをしたのだろう。


 ホテルの喫茶室でサンドイッチをつまんだ俺達がやってきたのは、横高江町という倉庫街だった。スーツでも作業着でもない男の二人連れがこんなところをうろついているのはなんとなく不自然だったが、不自然だと思っているのは俺だけかもしれない。
 それ以上に、出会いを求めて着飾った女がうろつくような場所ではない。まだしも、俺がアヤコに出会った駅裏のうらぶれた通りの方がマシのように思えた。
 だが、出会いを信じて疑わない岡本は、俺がどんな印象を持ったかなどには全く興味が無いようで、フライデーナイトアベニューに関する講義を始めた。
 お互い相手のことがオッケーだったら、ファーストネームのみで自己紹介をするとか、その後も付き合いを続けたいと思うのなら、まず自分から連絡先を教えるのだ、とか。
 俺の知っているルールばかりだ。聞くともなしに聞いていると、後ろからゴオっというエンジン音が響いてきた。振り返ると、トラックだ。前照灯の照らす明かりがどんどん近づいてくる。既に午後8時に近い。人通りが全くないわけではないが、この倉庫街のメインの活動時間は過ぎており、このような大型トラックがやってくるのは珍しかった。倉庫に荷物を入れに来たのか、それとも、出しに来たのか。あるいは、所要を終えた後にどこかの倉庫で知人とおしゃべりなどで油を売っていて、もう帰るだけなのかもしれない。
 整然としていて、同時に殺風景な場所。ちょうどトラックが俺たちの横を通り過ぎる時、俺は、「こんなところがフライデーナイトアベニューであるものか」と思った。
「え? 何か言ったか?」と、岡本が言った。思わず俺は声に出していたらしい。だが、トラックが過ぎ去る騒音で、俺の台詞は岡本の耳には届かなかったようだ。
「いや、なんでもない」
 トラックが通り過ぎると、それまで遮られて見えなかった道の向こう側が見通せる。驚いたことに、さっきまで誰もいなかったそこに、二人の女性が立っていた。ちょうど街灯の下で、はっきりとその姿が見える。
「あ」
 俺は小さく叫んでいた。一人はワンピース、一人はスーツ。いずれもスカートは短い。彼女たちを照らす街灯は、太陽の光には及ばないものの、彼女たちの化粧が、夜のためのものであることくらいは認識できた。
 彼女たちも俺たちに気がついたらしく、じっとこちらを注目していた。お互いに、その場を動こうとはしない。
「ほら、おい」
 岡本が俺の背を押して促し、二人で道を渡った。
「こんばんわ」
 ワンピースの女が一番最初に口を開いた。
「サユリです」と言った彼女は、岡本ではなく、俺のほうを見ていた。
「ヨシフミです」と俺は返事した。
 近くで見ると多少化粧がきついけれど、整った顔立ちをしている。どちらかというと、サユリの方がスーツが似合いそうだ。肩まである髪がなんの拍子かふわりと揺れた。そそる。
 スーツの女は小さな丸顔で、ボーイッシュな髪形をしている。身長もサユリより若干低い。彼女は岡本と自己紹介を終え、岡本の肘をとった。すると、慌てたようにサユリが俺の手を握った。
「じゃあ、別行動だ」と、岡本は言った。
「ああ」
 どちらからともなく、俺たちは右と左に分かれた。
「地元の方じゃないですね」
「東京から来た」
「じゃ、あたしに案内させてください」
 ですます調の言葉遣いが不自然なほど、甘い声だった。
「よろしく」と俺は言った。
 辻を曲がったところに、彼女の車がとめてあった。俺は促されるままに助手席に座り、彼女の運転でそのままラブホテルに直行した。会話は無かった。無言のままに女の運転でラブホテルに入るなど、なんだかすごく不思議な感じがしたが、ちっとも不自然だとは思わなかった。いつもの俺ならきっと違和感を感じただろう。


 フライデーナイトアベニューに集まる男女は、セックスだけが目的、ということになっている。彼女の行動はまさしくその通りだった。小さな部屋に入るなり、サユリはすぐに服を脱いだ。俺もつられるように衣服を取った。
「家でシャワーは浴びてきましたから」
「俺もだ」
 サユリは俺の肩に両手を載せ、唇を押し付けてきた。触れた唇は俺も彼女も既に軽く開いている。どちらからともなく舌を絡めた。力強く吸われてサユリの口の中に俺の舌が引っ張り込まれる。俺は彼女の口の中を縦横無尽に嘗め尽くした。
 俺は左手をサユリの右わきの下から通して、背中を軽く支えた。するとサユリは、それに呼応して、体の力を少しだけ抜いた。俺は右手で乳房を掴んで揉み、それから乳首を指先で挟んだ。これを交互に繰り返しながら、徐々に力を強くしていく。いつしか彼女の乳首はピンと尖っていた。サユリはおそらく20台前半。張りのある肌が俺の掌に粘着してくる。
 サユリに掴まれて、俺は自分のものが太く固くそそり立っていることにやっと気がついた。彼女はカリのわずかに下を親指と人差し指でわっかを作って握り、それを上下させてカリにめいっぱい快感を注ぎ込んだ。
 思わず、声が漏れる。
「うふっ」
 サユリが笑った。
「なんだよ」
「わたしより、先に、声を出した」
「だったら、なんだよ」
「嬉しいの。男の人の感じる声って、セクシーで素敵」


 サユリは俺のモノをしごきながら、ゆっくりとかがんでいく。彼女の唇が俺の首筋を下へと向かって這う。その微妙な摩擦と時折いたずらっぽく舌でねっとりと撫で上げられる感触で、俺はゾクゾクした。相変わらず続くペニスへの直接的な刺激とあいまって、お尻の穴がキューっと絞りあげられるような快感が走った。
 ぺちゃ、ぺちゅ、にちゃ・・・。
 音だけを聞いていたら、愛液を溢れさせた女性器をこねくりまわしているみたいだが、そうではない。サユリがたっぷりの唾液で俺を愛撫しているのだ。
 彼女の手がペニスから離れ、俺の胸に添えられた。俺の乳首を舌で転がしながら、その周辺を両手でなでてゆく。その手は時に背中に回り、時に下腹部まで往復した。女に対して俺がそうするように、サユリは俺のボディーを自由自在に感じさせていった。乳首の先が特に感じる。快感がむき出しになった部位が乳首なのだ。
 はあ、はあ、はあ・・・
 息が荒くなってゆく。
 彼女の手から解放されたペニスは、身の置き所をなくしてしまい、じれったさに焼け付くようだ。強烈な刺激を求めているのに、空にただ屹立するだけの哀れな存在だ。じわじわと溢れ出した粘液は表面張力を作って盛り上がり、やがて耐えられなくなって崩れた。サユリはそれを見定めたかのように、再び手を俺の欲望に添えた。潤滑液で潤っている俺の亀頭を彼女の指が縦横無尽に滑ってゆく。
「あう・・」
 俺が声を出すと、サユリはまた「うふっ」と笑った。
「すごいわ、すごいわ。こんなに感じてくれるなんて」
「君が上手だから」
「嬉しい。・・・でも、君じゃなくて、サユリって呼んで」
「サユリ・・」
「なに?」
「もっと、感じさせてくれ」
「いいわ」
 サユリは床に膝をついて、俺の玉をいとおしそうに両手ですくい上げた。掌でもてあそぶようにしながら、中の玉を転がした。そうして、徐々に彼女の顔が、口が、俺の欲望の先端に近づいてゆく。
 腰をぐいっと突き出して、サユリの口の中にぶち込んでやりたい欲求を俺は必死にこらえた。サユリのやり方に任せておいたほうが、より強い快感を与えてくれそうな気がしたからだ。
 そして、それは正解だった。サユリは、欲棒の根元から先端まで、舌と2枚の唇を、何度も往復させた。俺のペニスはビリビリと震えた。じっと観察していればこっけいなほどに動いていただろう。サユリはその動きをまるで楽しむがごとく、微妙に呼応させて舌を操った。同時に、俺の股間を縦横無尽にサユリの指が動き回る。神経を研ぎ澄ませば、ペニスの付け根、玉袋、筋、そしてアナルと、その愛撫する部位によって巧みに指の動きを調節していることがわかる。だがそれも、深い恍惚の中に紛れてしまい、ただされるがままに陶酔するうちに主体的な意識などどこかへ消し飛んでしまった。
 まるで女がよがる時の様に、俺は口の中で声をもつれさせる。
 いつもの俺なら、みっともないと思ったろう。しかし、今は思わない。サユリの磨きこまれた奉仕に身を委ね、感じるがままに身体を反応させるのが正解なのだ。
 一部の隙も無いくらいに血液を充満させた俺の欲棒に、俺の神経は集中していた。まるで、俺の全身がペニスと化したかのようだ。
 サユリは俺のモノを口に含んだ。そんなに深く咥え込んだら喉の奥よりもまだ先に到達してしまうと思うほどに深く。目を開けて彼女の口元を見ると、俺の欲棒は実はそれほど中にまで挿入されてはいない。巧みなバキュームによってにちゃりとまとわりついたサユリの口腔が、俺のペニスをそのように感じさせているだけだった。
 やがて彼女は顔を前後に動かして、口全体でピストンを始めた。カリの敏感な部分にゴソゴソと歯が当たり、その後を唇が撫でてゆく。歯の接触はじれったいほどにソフトだ。俺の敏感な部分を傷つけまいとしているのがわかる。だがそれは、本当にじれったい。ここまで強烈に硬く膨張した俺のものは、もっと激しい刺激に耐えられる。お尻の穴から尾てい骨にかけてじゅわーんと痺れるような快感に腰がのけぞりそうだ。
 もっと、もっと!
 もっと強く噛んでくれ!
 歯が食い込んで、千切れるほどに!
 そんな俺の貪欲な快感への欲求は歯では満たされず、しかし、それ以上のめくるめく恍惚が、その後でもたらされる。サユリの唇が思いっきり俺を締め付けながらカリを通過していくからだ。
 不安定な浮遊感が俺の腰を中心にしてどんどん広がってゆく。
 射精中枢が限界を訴えた。確かにここで出してしまえば気持ちいいだろう。だが、俺は彼女には何もしていない。それに、この程度ならまだ我慢が出来る。ヒクヒクと痙攣の前兆を俺のペニスはサユリの口へ伝える。それを合図に、サユリは俺の竿に両手を添えて、力強く上下にこすりつけた。激しく、何度も、何度も。
 それでも、我慢を決心した俺は、そう簡単にはイクことはない。
 第一、このイク寸前の状態がたまらなく気持ちいいのだ。
 う! くううう!
 サユリの動きが急に荒っぽくなり、俺はうめき声を上げた。
 サユリは俺が発射寸前なのを察知しているようだ。この状態から一気に導かれれば、甘美な痺れと高揚感を伴った果てしない快感が全身を包み込み、やがて深いため息とともに心地よい倦怠感に包まれるだろう。
 ここで口の中にザーメンをタップリ放出させるのは、フェラチオをする女の役割である。サユリはよく心得ている。
 だが、今日の俺はいつもの俺とは違う。我慢すると決めたのだ。イク寸前の最高に感じる瞬間を、瞬間ではなくずっと享受しつづけるには、発射を耐えるしかない。
 サユリの手の動きが鈍くなった。さすがに疲れたのだろう。
「ぷふゅわ〜」
 ペニスから口を離すと、中にたまっていたらしい二酸化炭素が思いっきり吐き出された。
「もう、なんてしつこいのよ、このチンチン。全然イカないんだから。にくったらしいわあ」
 嬉しそうに笑いながら、サユリは言った。


 実は、その瞬間、俺はイッていた。射精はしなかったが、心も身体も十分に満足させられて、感覚的にはイッてしまったのだ。
 はあはあ、と息を切らしながら、ベッドに仰向けになったサユリの横で、俺も身体を横たえた。
「すごいのね」と、サユリが言った。
「そうかい?」
「アレでイカない男の人、初めて。といっても、そんなにたくさん経験があるわけじゃないけどね」
「最高に気持ちよかったよ。イクのがもったいなかった。ずっと気持ちいいままでいたかった。だから、我慢した」
「それって、あたしのフェラが、良かったってこと?」
「そうだ」
「じゃあ、次はあたしにも、すごいのをしてね」
「ああ」
 俺とサユリは少しのインターバルの後、バックで交わった。サユリのアソコはタップリと湿っていて、ヌルヌルというよりも、ドボドボだった。
 締まりはいいのに、潤滑液のため滑りが良く、俺はフェラに続いてサユリの中でも存分に快感を味あわせてもらった。

 俺に突かれながらサユリは何度イッただろう。俺はサユリの中で2回出した。避妊をしていなかったが、俺の中で鬼畜な声がした。「どうせ今日限りなんだから、後のことなんてどうでもいいじゃないか」と。
 サユリもゴムをつけてくれとは言わなかった。ピルでも飲んでいるのかもしれない。

 濃密なセックスを堪能した二人は、しばらく無言でベッドに並んで寝ていた。
 やがて、サユリが言った。
「信じて、良かったわ」
「え? 信じるって、なにを?」
「あなたは、まるっきり疑ってなかったっていうの?」
「だから、なにを?」
「フライデーナイトアベニュー」
 ああ、そのことか。
 既に俺は一度フライデーナイトアベニューでの出会いを経験している。岡本の誘いにのることには躊躇したが、フライデーナイトアベニューそのものを疑ってはいなかった。
 俺は彼女の質問には答えず、「不思議な存在だよな」と、返事した。
「でしょ?」と、彼女は言った。「噂はあちこちで聞くのに、実際にそれがどこにあるか、誰も知らない・・・。なんだか、御伽噺のようだわ」
「サユリは、でも、信じたからやってきたんだろう?」
「信じてたわけじゃない。どっちでも良かったのよ。彼と別れて寂しかったし。でも、本当にどっちでも良かったの。寝るだけの相手なら、すぐに見つかるじゃない」
「それはキミがいいオンナだからだ。パッとしない男にはオンナは寄ってこない」
「あら、あなたはパッとしないなんてことないわ」
「一般論だよ。キミがイイオンナだから、寝るだけの相手なんてすぐに見つかる、なんて言えるのさ。そうじゃない人もたくさんいるってこと」
「なんだか、あたしの発言を責められているみたい」
「責めていない。ただ、知って欲しいだけだ」
「ふうん。わかったわ。覚えておく。でも、それと、フライデーナイトアベニューの存在とは、関係ないでしょ?」
「関係あるよ。相手のいない男にとっては、『出会い、即、エッチ』なんて場所があるっていうのは、救いだからね。例え、それが、信憑性の薄い噂話でも」
「じゃあ、みんな、一生懸命さがしてるの?」
「探しても、見つからない」
「そうよ、見つからない。だけど、そんなものあるわけない、そう思っていたら、友達に誘われた」
「俺も、そうだ」
 さすがにもう「そんなものあるわけない」とは思っていなかったが、「友達に誘われた」というのは本当だ。
「あたしの住んでいる町に、フライデーナイトアベニューがあるなんて思わなかったわ。友達とかも、誰もここがそうだとは思っていないし、普段ここを歩いていても、そうだとは気付かなかった。特別な様子なんてなにもないもの」
「まるで、僕たちだけのために、用意されたみたいだね」

 俺の台詞にサユリは「うん」と返事し、そしてそのまま眠ってしまった。
 俺は自分の言った言葉を、口の中でもう一度繰り返した。
「まるで、僕たちだけのために、用意されたみたいだね」と。
 そして、もしかしたら、本当にそうなのかもしれないと思った。噂を利用して、誰かが仕組んだ?
 そんなことが出来るだろうか。噂をインプリントさえしておけば、可能かもしれない。日と場所を決めて、男女それぞれのターゲットに地図を渡せばそれですむのだから。
 前にアヤコが持っていた地図と、今回岡本が持っていた地図が、どうやら同じ筆者のものらしい、というのも、それなら頷けるような気がする。
 でも、だけど、いったい誰が、なんのために?
 そして、どうして俺が選ばれた?
 フライデーナイトアベニューのなぞは深まるばかりだ。




10月の4回目の金曜日 その(3)

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