第2章 Best Friend
翌日の朝、一哉と雅人はいつものように連れだって学校へ向かっていた。 「なぁ、雅人、あの子達のことだけどさ」 「あぁ、なんだよ」 この前とはうってかわって、加奈を気に入った雅人は、にこにこしながら一哉の問いかけに答えた。 「あのさ、明日、日曜じゃん、部活が終わったら」 ここまで一哉が言うと、 「あの子達をさそうってか?」 雅人がおどけてみせる。 「感がいいじゃん」 一哉もおどける。 「当たり前まえだろ、お前と何年付き合ってると思ってんだよ」 雅人が一哉の背中を叩いた。 「何年って、雅人とは…」 一哉がぶつぶつ言った後、二人は顔を見合わせて笑った。 校門に近づいた頃、 「一哉、でも明日になってから急に言っても、あの子達、用事とかあるんじないのか?」 「そうだよな、今日さ、部活が終わった後にでも、俺が聞いてみるよ」 「あっそうか、もう一人の子って、お前と一緒のパートだったよな」 「そうそう、深野優美ちゃんっいうんだよ」 「へぇ〜、ところで俺の方のお気に入りの名前は?」 「あ〜っと、そうそう、西山だ、確か西山だったよ」 「下はなんていうんだよ」 「あれっ、すまん、今日調べとくよ」 「頼むぜ部長さん、部員の名前ぐらいしっかり覚えといてくれよ」 二人は生徒玄関で靴を履き替えると、北校舎の2階にある自分達の教室に向かった。 |
その日の授業も終わり、一哉と雅人は音楽室のある4階へと通じる外階段を登っていた。 「一哉、ちゃんと言えよ」 「わかってるよ、さりげな〜く、うまく言うよ」 「大丈夫かよ」 などと、話しながら階段を上り終えると、ちょうどそこで加奈と優美が立ち話をしていた。 「今がチャンスだぞ」 と雅人が一哉の背中を突っつく。 「解ってるよ」 一哉がその手に押されて、加奈と優美の前に出た。 「お〜す、今日もがんばろうね」 にやけながら一哉が言う。 「あっ、はい」 優美がそれに答え、加奈と優美は小走りに音楽室へ駈けていってしまった。 「なにやってんだよ」 雅人ががっくりしたように言う。 「だって、向こうが行っちゃったんだよ」 「かーっ、挨拶なんてどうでもいいから、率直にいわなきゃ」 「雅人と違って、俺は女たらしじゃないからな」 二人は冗談まじりにののしり合いながら、音楽室へと入っていった。 音楽室の中では、いつものように先に来た部員達が、各パートに別れて練習を始めていた。 一哉が楽器ケースから、トロンボーンを取りだし組み立てる。 「部長、ここのところから、みんなで合わせてみたいんですけど」 同じパートの2年生部員が言う。 「おう、それじゃやってみるか」 その声に、一哉のパート全員が楽譜を開いて、合図を元に吹き始めた。 ワンフレーズ終わったところで、 「1年生の子はもう少し馴れてからにしようか」 音がうまく合わなかった為、一哉が一年生部員に言った。 そして、上級生部員だけでの練習が始まり、一年生部員達は、楽譜を見ながら、体でリズムをとった。 「え〜、みなさん、全体練習をしてみましょうか」 隣にある音楽準備室から出てきた、顧問の鈴木教諭が言った。 「先生、一年生は楽譜での練習のみとしていいですか」 一哉が、鈴木教諭に向かって言った。 「そうですね、まだ早いかもしれませんから、部長の言うとおりにしましょう」 少しざわついたあと、部員達は指揮棒を持って待っている鈴木教諭の方をむいて、演奏の準備を整えた。 |
「では、いきます」 鈴木教諭が指揮棒を振り下ろし、演奏が始まる。 加奈は演奏を聞きながら、雅人を見たり、楽譜を見たりしていた。優美は雅人よりも前の方に座っていたので、それをできずに楽譜だけを見ていた。 演奏が終わり、部員達が鈴木教諭の次の言葉を待っていると、 「え〜、先生は用事があるので、少ししたら帰ります。後は部長に任せます」 それだけ言い、鈴木教諭は準備室へと消えた。 「今日は、土曜日なので、この辺でやめましょうか、明日の練習は必ず出席して下さいね」 一哉が言うと、音楽室にどっと笑いがおこり、部員達は楽器を片付けはじめた。 一哉が部員たちの様子を見守っていると、雅人と目が合った。 雅人が今だと言わんばかりに優美の方を見た。 一哉も優美の方を見る。 トロンボーンのパートで優美だけが、まだ一人楽器を片付けていた。 一哉は自分の楽器を片付ける振りをして、パートのところに戻る。 「どう、うちのブラスバンド部」 急に声をかけられた優美は、「あっ、はい、あの、まだ、わかんないです」と慌てて答えた。 その様子をにやけながら見ている雅人。 そこへ、片付けを終えた加奈がやってきた。 「おっ、ご苦労さん」 一哉が声をかけた。 「はい、ご苦労様でした」 加奈が頭をぺこっと下げて答える。 「えっと、西山さんだったよね」 「はい、西山加奈です」 そのやりとりを見ていて、雅人が近づき声をかける。 「君達、友達どうしなの」 加奈はその声に振りかえり、雅人の顔を見ると、どぎまぎしたように、「はっ、はい」と答えた。 「俺達も友達なんだよ」 一哉は優美の方を向いて言った。 「もし、よかったらさ、今からなんか食べていかない?」 彼女達を誘うのは一哉のはずだったが、雅人の方が誘いの言葉をかけた。 「はい、いきます」 加奈が嬉しそうに答え、 「優美、いくよね」 と優美に微笑んで言うと、 「はいっ、行きます」 優美も雅人に向かって、嬉しそうに答えた。 |
「よしっ、決まり、教室行って鞄とか取ったら校門の所でまっててよ」 「は〜い」と嬉しそうに加奈と優美が答え、少しはしゃいだように音楽室を出ていった。 「おいおい雅人、明日じゃなかったのかよ」 「こういう時は、その場の風を読むんだよ」 「そうかな、でも、二人ともお前と行くのが、嬉しいって感じだったよな」 少しふてくされたように一哉が言う。 「そんなことないよ、誘ったのが俺だったから、俺の方を向いて笑っていただけだよ」 なだめるように雅人が言った。 |
校門に先についていたのは、加奈と優美だった。 「ラッキーだね」 「うん」 「まさかあっちから誘ってくるなんて」 「そうだね」 加奈の一方的な話しに、優美も内心胸をときませながら相槌をうつ。 「おまたせ」 そこへ一哉と雅人がやってきた。 「どこに行きたい?」 雅人が加奈と優美に聞く。 「え〜、どこって言われても、どこでもいいです」 加奈が答えた。 「深野さんは、行きたいところある?」 今度は一哉が優美に聞いた。 「えっ、私もどこでもいいです」 優美が加奈と目を合わせて答えた。 「んじゃ、とりあえず、ゲーセンでも行こうか」 雅人が言った。 4人は取り合えずゲームセンターへ行くことになり、校門をあとにした。 |
「あっ、そういえば、俺、自己紹介してなかったよな」 歩き始めて少したった頃、雅人が思いだしたように言った。 「名前は、成山雅人、こっちの一哉はわかるよね」 雅人の自己紹介に加奈と優美は顔を見合わせ、にこっと笑いながらうなづいた。 「君たち、ほんとに仲がいいんだね」 二人の様子を見ていた一哉が言う。再び加奈と優美は、顔を見合わせクスッと笑った。 そのまま4人はゲームセンターへ行き、そのあとファーストフード店で軽い食事をとって別れた。 「今日すごく楽しかったね」 帰り道、加奈が優美に言う。 「うん、でも成山さんって、加奈に気があるみたいだったな」 優美が答えると、 「そう、だったらいいんだけどな」 加奈は嬉しそうな顔をしながら、優美に言った。 加奈は、優美が雅人に対して恋心を抱いていることなど、知るよしもなかった。 二人が別れ道までくると、 「加奈、よかったね」 と優美が言った。 「ありがと、でも、川上さんは、優美に気があるね、きっとそうだよ」 加奈は、ゲームセンターやファーストフード店での、一哉の優美を見ていた視線や態度を思いだすように言った。 「え、そうだったっけ」 「そうだよきっと」 「そうかな」 そんなやり取りの後、 「じゃばいばい」 「明日ね」 二人は別れの挨拶をして別れた。 |
加奈は別れ道から小路に入る。 加奈は大通りと平行して走る、裏街道にくると左に曲がった。 「おかえんなさい」 「あっ、こんにちは」 すれ違った顔見知りの中年女性に加奈は会釈した。 「加奈ちゃんは、お母さんに似てすごく可愛いわね」 「そんなことないですよ」 「あらまぁ、可愛いわよ」 そんなとりとめもない会話を終えると、加奈は中年女性に再び軽く会釈すると歩き始めた。クリーニングを過ぎたところで右に曲がる。わずか30mくらいのその道の突き当たりには、砂利の敷いてある駐車場が見えた。 加奈の歩いてきた道を車が通ることができず、この駐車場の利用者は、裏街道からもう一本つながる道路を利用していた。 駐車場のところまでくると、加奈は左に曲がった。その道の先は完全に行き止まりになっており、一軒の空家と加奈の家が並んで立っていた。 その道を挟んで反対側には大きな倉庫がある。会 倉庫の表側は裏街道の方にあり、建物の裏側はトタンで覆われていて、窓一つなかった。 年に一度か二度、敷地を囲っているフェンスに絡まる雑草をむしりにくるぐらいで、倉庫の裏側には、めった人が来る事はなかった。 加奈は玄関を開けて家に入った。 「お母さん、加奈、外でごはん食べたからいらないよ」 居間にいる母にそう告げて、加奈は二階にある自分の部屋に入った。 ドカッと加奈はベットの上に腰を下す。 「ふーっ」っと大きな溜息をつき、上半身をベットに横たえる。 目を閉じると雅人の顔が浮かび、耳にはその声が聞こえてきた。 (今日はおもしろかったな) 加奈は心でつぶやく。 雅人のことを思っていると心が切なくなってきた。 加奈の手が何を思うことなくミニのスカートの中に入っていった。最後に自分を慰めてからどれくらいたっただろうか。加奈は雅人のことを思いながらも、そのことを考えていた。 加奈はいつも頻繁に自分を慰めていたわけではなかったが、少ないときでも、月に2度は自分を慰めていた。 受験や、新しい学校環境ということもあり、しばらく自分を慰めないでいた。 今日は、雅人の事も手伝ってか、自然にスカートの中に手が伸びた。 |
制服のミニスカートは、加奈の手を邪魔することはなかった。 人差し指が、パンティーの上からクリトリスをそっと優しく刺激する。 臍のあたりから太ももの付根まで、甘いようなキュンとした感じが伝わる。 加奈は、はじめてオナニーを憶えたころに感じたものを少し味わう。クリトリスを刺激している指を中指に変える。中指はクリトリスを軽く押したまま、円を描くように動いた。 加奈のまだそんなに開いていない割れ目の下から、さらさらとしたような愛液が溢れきた。 やがて、そのさらさらとした愛液もねっとりとしてきた頃、加奈はパンティーの中に手を滑りこませた。ラビアのところに指をもっていき、ねっとりした愛液をすくいとるようにして、その指をクリトリスのところにもっていく。 誰に教わったわけではない。 加奈はいつもそうしていた。 「う、うん」 愛液のぬめりが、クリトリスを一層敏感にさせて気持ちよかった。 絶頂はすぐにやってきた。 加奈は、背中を反り返らせて、足に力をこめると果てた。 |
ほんの少しだけ、ぼっとすると加奈は、枕元に置いてあるティシュの箱を手にした。シュッシュッとティシュを2枚すばやく抜き取り、濡れた指先を拭いた。 それをゴミ箱の中に放りこみ、再びティシュを2枚抜き取り、今度は濡れた割れ目を拭く。ティシュには愛液に混じって、加奈の恥毛が数本まとわりついていた。 その日以来、4人のグループ交際のようなものが始まり、どこにいくにも4人一緒という日々がつづいた。 |
やがてそれも2ヶ月が経ち、6月に入った頃の下校途中のことである。 「優美、実はね、成山さんから付き合って欲しいって言われたんだ」 「えっ、そ、そうなんだ」 「ねぇ、どう思う」 「どうって」 優美は加奈の言葉に驚いたように、それでいでとまどったように答える。 優美はいつも心の中で子の日がくる予感がしていた。 しかし、心のどこかでこの日がこないことも祈っていた。 加奈が雅人の事が好きなことも、雅人のほうも加奈のことが好きなのもわかっていた。だが、優美もそれと同じ、いやそれ以上に雅人の事が好きだった。 しかし、親友の加奈がいつも雅人の事を嬉しそうに話すのを見て、自分の気持ちを表にだすことはできなかった。 当然のように加奈も雅人も、そして優美の事が好きな一哉もそれを知るよしもない。 「ねぇ、優美、どう思うのよ」 はっきりと答えない優美を見て加奈がせかす。 「ど、どうって、いいんじゃない」 「えーっ、ほんとに。優美がそう言ってくれると嬉しいな」 加奈は親友の同意を得て喜ぶ。 「あっ、そう言えば優美、実はね」 「なに?」 「一哉さんがね、優美の事が好きなんだって」 「…」 「なによ、照れてんの」 「別に照れてなんかないけど」 「だって急に黙っちゃって」 加奈は茶化すが、優美は心の中でひどく戸惑った。 「えっと、そんな急に言われてもなぁ」 優美は言葉を濁す。 二人はいつものように別れ道までくると、加奈は小路を曲がり、優美はそのまま大通りを進んで別れた。 |
加奈は少し歩いたところで、鞄から携帯電話をとりだした。 「もしもし、雅人さん?」 「おー、加奈ちゃんか、どうだった」 「うん、一哉さんのことも言っといたよ」 「で、なんだって?」 「まだ、心が決まらないみたいだけど、多分大丈夫だよ」 「で、俺と加奈ちゃんの事はいいの?」 「それは、一哉さんと優美が付き合うことが決まってからね」 「わかったよ、じゃいい結果がでることを祈ってるよ」 「はーい、じゃ、切りますね」 加奈は携帯電話を切ると、再び鞄の中にしまった。 加奈は雅人から告白を受けたとき、雅人にある条件をつけた。それは、優美と一哉が付き合ったら、自分達も付き合ってもいいというものだった。 加奈がなぜ、大好きな雅人から告白を受けたときに、そんな条件をだしたのかというと、それには、加奈の優美に対する友情というものがあったからだ。 加奈と優美は中学時代からの親友。そして、今まで4人で交際してきた。それを自分だけ彼氏を作って、優美を一人ぼっちにはできない。 そんな気持ちから、条件を提案した。 だが、それはかえって優美にとっては酷な条件だったかも知れない。 一方の一哉にしてみれば、その条件は最高のプレゼントのようなものになった。 加奈がその条件を出したとき、 「ちょうどよかったよ、一哉は優美ちゃんのこと前から好きだったんだよ」 雅人は喜んで答えた。 |
優美は家に帰るとすぐに部屋に入り、ぼんやりと考えた。 雅人の事を忘れることはできないかも知れないが、親友の加奈があんなに喜んでいるのだから、祝福しようとも思った。 翌朝、加奈はいつものように、大通りのところで優美を待っていた。そこへ、優美がいつもの時間にやってきた。 「おはよ」 先に声をかけるのはいつも決まって優美だった。 「昨日のこと、考えてくれた?」 「う、うん」 優美は少しはにかみながら答えた。 「で、いいの? 一哉さんと付き合ってみる?」 「えっと、待ってよ、もう少し考えさせてよ」 その言葉に加奈は少しあせったが、 「うんいいよ、優美もゆっくり考えればいいよ」 そう言葉を返した。 |
その後、二人はいつものようにとりとめもない話をしながら学校についた。 授業中、加奈は雅人の事と条件の事を考え、優美は一哉と付き合うかどうか考えていた。優美は考えが深まるにつれ、心の中にほんの少しだけ苛立ちがつのってきた。苛立ちの原因は、あきらめようと思っていた雅人への思いが、顔をほころばせている、親友の加奈への憎しみに変わったからだ。 優美は心をいらだたせたまま、授業を終える。 休み時間になり、加奈が優美のほうに微笑みながら近づいてくる。 「ねぇ、優美、トイレいこうよ」 「う、うん」 二人はトイレへ向かう。 「ねぇ、優美なんか元気ないよ」 「うん」 加奈は条件のことは部活が始まる前に聞こうと思い、その事は話題にはしないように、授業中に考えていた。 二人はそれぞれ別れてトイレの個室に入る。 優美はトイレで用を足しながら、 (加奈は絶対に休み時間に聞いてくるとおもったんだけどな) と一人思った。 トイレから出て、休み時間が終わるまで、加奈は優美にたわいのない話をしてくる。優美はそのたわいもない話しに相槌をうつ。 休み時間も終わり教室の全員が席に座り、担当教師が入ってきて授業が始まる。優美の席は加奈の席よりも後方にあった。優美は加奈の後ろ姿を見ながら、先ほどよりも深く考える。 すると、優美の心の中から、今まで持っていた、憎しみ混じりの苛立ちが、すーっと消えていった。 それは、中学に入ってきたころ、出会ったばかりの加奈の姿が頭に浮かんできたからだった。 授業が終わり、いつものように加奈が優美のところに、微笑みながら近づいてくる。 優美も微笑みを返す。 「加奈、一哉さんのことだけど」 「決心ついたの?」 「うん、悪い人じゃなさそうだし」 「ていうことは、いいんだね」 「うん」 |
優美はなぜか自分のほうから、一哉と交際してもよいと言った。 加奈はその言葉を聞き、ひどく喜ぶと、「やっぱり、優美は私のベストフレンドだね」と言った。 次の授業がはじまり、いつものようにクラス全員が席につく。 (ベストフレンドか) 優美は加奈の背中を見ながらそうつぶやいた。 |