「キオト」 | ||
■■キョウトエキ ――私とあなたの永遠を閉じ込める―― | ||
ぶらぶらと駅の構内を歩きながら、私たちは改札の近くへと来た。 私は新幹線の切符を、二人分買おうと"みどりの窓口"を探していた。ふと、隣の康之を……って、いない? 康之? 「やっちゃん? やっちゃん?」 私はキョロキョロと、忙しなく首を振る。さっきまで隣にいたと思っていた人はいない。 沈み始める日が色を連れて去る。だんだんとモノクロがかるこの街を。色褪せていく。昨日までの私と康之と。 「響ちゃん」 落としたショールを拾ってくれたのは康之。 「はい、これ」 ショールと一緒に切符を差し出した。 「あ、買ってきてくれたの?」 「あぁ、トウキョウへ帰らないと。有休も明日までなんだろ?」 「そんなこと、気遣ってくれたんだ。変なの」 私は二度とこの人から離れたくない。 ただ、なんだか嫌な気持ちがくすぶり続ける。はっきりとしない嫌悪感。 私は手渡された切符をみる。 指定席、禁煙、窓側。 「ショールを羽織って眠れば、トウキョウなんかあっという間ね?」 私が笑ってそういうと、彼は黙ってうなづくだけ。そして改札を抜けようとすると、康之はそのまま立ち止まった。一歩も動こうとしないのだ。 「ほら、早く帰ろ? やっちゃんだってお休み残ってないんでしょう?」 「響子……一人で帰るんだ」 「……やっちゃん、やっぱり響子のこと、嫌いになったの?」 「そうじゃないよ。響子。そうじゃない。」 康之が慌てるように、ぎゅっと抱きしめた。 「やっちゃん、痛いよぉ」 「そうじゃないんだ……今だって響子のことを……」 「うん、久しぶり……やっちゃんとこうするの」 私は康之の肩に額をくっつけて確かめる。 このぬくもりを。 この腕の力を。 「響子、逃げちゃダメだ。僕はここから出られない」 康之は私の左手の薬指から指輪を抜き取った。 「やっちゃん……なんで? なんでよ?」 康之の胸を、私はゲンコツを作って何度も叩いた。涙は流れるに任せてほったらかす。 「僕は響子と一緒にいられない。判るよね?」 「いやよッ。やっちゃんッ。響子、ずっと一緒がいい。もっと抱いて、ねえ……やっちゃん」 康之は少し間をあけて答える。 「いいよ。今だけ。今だけなら」 何処までも平行線。こんな康之に私が叶うはずがない。でも、ここは諦めるところじゃない。訳がわからないまま、このまま離れるなんて…… 何度抱き合っても、この人の熱は冷めやすい。やがて、康之は私を胸から離す。 「響子、もう振り返っちゃダメ」 私の瞳を覗きながら諭すように言い含める。それでも私は、必死にかぶりを振り続ける子供。 ……振り返っちゃダメ。振り返っちゃダメ…… 「響子、ほら、行きな……」 ドンッ 背中を強く押されて、結局、改札に入ってしまう。振り返ると、暗くなり始めた駅前の風景。あの、中途半端な高さの"キョウトタワー"のシルエットがぼんやりと。 風だけが通り抜け。 二月のキョウトは底冷えのため、体を縮み上がらせて。さっきまでのあの人の温もりを、たやすく奪い去る。 風だけが通り抜け。 私の頬は乾かない。 |
モクジニモドル//ススム