第2話 ピュアーラブ「雨よ流して」   =4= 



 6月1日 薄曇り

 「大丈夫?」と、僕に声をかけてくれたのは鈴鹿涼子だった。
「よせよ。僕と親しげにしてると言うだけで、君だって昨日嫌な目にあってたじゃないか」
 本当はこんなことは言いたくなかった。

 僕のまわりには、もはや3種類の人間しかいなくなっていた。
 いじめに荷担する者。いじめられる僕をさげすむように見下す者。存在自体を無視するように気が付かない振りをする者。
 唯一の例外が鈴鹿さんだった。
 彼女だけが僕を人間として、ひとつの人格として認めてくれている。
 僕にとって、僕が人として生きていると感じさせてくれる存在は、もはや彼女しかいない。この世の中で、僕が僕として存在するための、たったひとつの大切なもの。
 それが鈴鹿涼子なのだ。
 僕は「ありがとう」と答えるべきだと思った。
 こんな風に書くと、「なんて大げさな」と思われるかも知れない。
 でもそうなのだ。
 いじめというのは、いじめられるということは、そこまで人を卑屈にさせる。
「だって、でも」
 このまま放っておけないじゃない。彼女はそういいたいのだろう。
「ごめん。それから、ありがとう。でも、僕の側には近寄らない方がいい。いじめられっこと普通に会話を交わした、そのことでいじめの矛先が君に向く」
「そんなの関係ないわ。私は私の気持ちとして、声をかけてるのよ」
「ごめん。でも」
「わかってる。あなたのそういう優しさ、歯がゆいけれど、素敵よ。いじめなんていつまでも続かない。がんばって」
 結局僕はがんばることが出来なかった。
 死を目前にして、鈴鹿さんとのやりとりを思い出しながらノートに記しても、僕の死への道筋を塞ぐことは出来なかった。
「ごめんね。君の気持ちに応えてあげられない」
 いじめられている僕に、僕は生きていく価値を見いだせなくなってしまったんだ。だから死ぬ。屁理屈かも知れない。間違いなく屁理屈だろう。現状を打破できないから、いいわけを並べているだけだ。きっと、たくさんの同じ境遇の人が、これを切り抜けてきたに違いない。がんばることが出来なければ、逃げ出したっていいかも知れない。
 でも、僕は。。。。
 もういいんだ。生きていたってしょうがないもの。

 今日は特に暑い。
 しっかり空調がきいているはずの喫茶店でも、じわりと汗がにじみ出てくる。
 「寒い寒い。エアコンきかせすぎ。女の敵よね、この冷たい風」なんて言っていた清花でさえ、ジャケットを脱いで椅子の背もたれにかけていた。
 清花のジャケット姿はセールスマン然としていて馴染めない反面、有能なキャリアウーマンが闊歩しているようでかっこいい。
 「依頼者、函館福男。国語教師。43歳」と、清花はかみしめるように言った。
 ジャケットの下には肩紐の細いキャミソール。いかにも頼りなさそうな衣装に思える。色は白。まぶしいほどの白。
 「依頼を受けたときに社長が受けた依頼者の印象は、あまりいいものじゃなかったと、社長は言っていた」
 あの白くて生地の薄い服の下には清花の生身がある。アイスコーヒーの氷が早いピッチで溶け、コーヒーの上の方に透明な水の層ができはじめていた。
 「いじめじゃ無いという結論を欲しそうだとか、保身のためだとか」
 こんなに身近にいて、一緒にコンビを組んでいるのに、その肌に触れる機会もない。当然だ。彼女は有能な調査員であり、手前ミソかも知れないが僕は彼女にとってかなりベストマッチングなパートナー。他の人ではなかなか務まらないだろう。
 「だけど、実際に逢って話をしてみると、真実を隠したい学校側に対抗して『自分は真実を追求して結果が明らかにいじめが原因である』ということをつかみたい。そして一石を投じたいと考えてるみたいよね」
 そう、これはビジネスなのだ。
 ええい、いったい僕は何を考えているのだろう。清花はすごい人だとは思うけれど恋愛感情などを自覚したためしはない。今、ちょっといいオンナじゃないかなどと思ったのは、彼女の服装のせいだ。生身を身近に感じてしまったため。以前彼女に抱きついてしまったときはそうは思わなかったんだけどなあ。
 「どうして社長の持った彼へのイメージと私達が逢った函館先生の印象が違うんだろう」
 彼氏とか、いるんだろうか? きっと、いるんだろうな。そんな様子は感じられないけれど。
 ここ数日行動を共にしているとはいえ夜は別の部屋で眠るのだし、仕事中も別行動をとることがある。
 彼女の全てを監視しているわけじゃないから、恋人と電話などで連絡を取ったりすることは十分出来るはずだ。
 にもかかわらず、そうした雰囲気を一切感じさせない。仕事とプライベートをきちんと使い分けている、ただそれだけのことだと考えれば別に不思議でも何でもないのだけれど。
 「ちょっと、聞いてるの?」
 「はいはい、聞いてますよ」
 「なによ、上の空だったようにわたしには思えるけど」
 「汗ひとつかかなかったくせに、さすがに今日の暑さはこたえてるみたいだね。いらいらしなくてもいいじゃない」
 「ばか。イライラなんてしてないわよ。ちゃんと話を聞いてるのって、訊いたの」
 「だから、聞いてるって。何を今更考えてるんだよ。その答えは出てるって。依頼者は調査結果を我々が思っているのとは違った何かに使おうとしているんだよ。だから、聞き手によってまちまちの印象を持つんじゃないか? もちろん使い分けてもいるだろうし」
 「あ」
 「あ、じゃないよ。我々は調査するだけ。向こうは報告書を受け取るだけ。その後のことは知らないよって相互に確認したでしょ」
 「そうか」
 ふうん、マジで清花はその点を見失っていたようだ。
 「疲れてるのかな、わたし。少しインターバルを入れようか。特に期限を切られた仕事でもないし」
 「一休みなら、もうしてる。せっかくの喫茶タイムにそっちが仕事の話を一方的にしてるだけじゃない」
 清花の見落としを指摘したことで僕はいい気になっていた。そこまで言わなくても良かったのだ。
 「そういうこと言ってるんじゃない。今日一日お休みにしようか、ってこと」
 声の調子が低くなった。確かにいつもの清花じゃない。
 ますます僕は(言い過ぎたな)と思った。
 清花は常に僕よりも優秀で、僕が物事を掴んでいるかどうか試すようなことを言う。そして僕は色々考えた末に彼女の期待する答えを導き出す。
 僕たちにはそういうコンビネーションが必要で、それでバランスがとれていたんだ。
 それは、清花が僕より上位に立つということではなくて、バランスが保たれてこそお互いの能力を発揮できる、ということである。僕たちはそんなコンビだ。
 「悪かった。言い過ぎたよ。うん、今日は休みにしよう」
 「ありがと」
 「弱気なところを見せちゃダメだ、清花は僕より仕事が出来て頭の回転も速くて、って言いたいけど、今日はオフだから許してあげる」
 「またそういうことを言う」と、それでも清花は微かに笑った。
 「身体が疲れている? こころが疲れている?」
 「う〜ん、頭が疲れてるかな?」
 「日帰り旅行でもしようか?」
 「旅行かあ。行き先はわたしが選んでもイイ?」
 「いいよ」


 2時間後、僕達は長野新幹線の車内にいた。
 窓辺に缶ビールの空き缶が次々並んでいく。
 幕の内弁当のおかずというのは酒のあてに結構良い。あっという間におかずだけが無くなった。
 ご飯丸ごと残しておいてもうひとつ買うのも気がひけたから、あとは本当に「つまみ」らしいものを車内販売から買う。
「清花、強いなあ」
「自分ではそうは思わないんだけどね。やっぱりそうかなあ」
「うん」
「前にね、友達の家に何人かで泊まりに行って、一晩中飲んでたことがあるの」
「一晩中?」
「だって、居酒屋とかで飲んでるわけじゃなし、今日はここに泊まるんだから、慌てる必要ないでしょ? 自分のペースで飲めばずっと飲み続けられるじゃない」
「そうかな。無茶な言い分だと思うけれど」
「自分のペースで、飲むのよ。イッキとかするわけじゃないし。飲んでも飲まなくても注文したらお金がかかるってのとはわけが違うのよ」
「だけど、飲み続けるんだろう?」
「そりゃあそうよ。で、気が付いたら周りみんな陥落してるのよね。イイ歳して、自分のペースもわきまえないなんてって思ったの」
「飲んで、楽しく酔って、それで眠り込むなんて、いいじゃない。それこそ外で飲んでたらそうはいかない」
「どうもそれが普通の考え方らしいのよね」
「。。。。。。」
 最初、立客が目立っていた車内も停車の度に徐々に空いてくる。
 いくつか空席が出来て、新幹線は長野に着いた。
 長野の駅前は普通の都会だ。
 長野県からイメージする風景、例えば、草原とか山岳といったものの懐に入ったとは思えない。ビルと車と人と商店と喧噪にあふれていた。
 それでも空気が少し爽やかだ。
 清花の隣に立つ僕の気持ちもすこぶる軽い。一切の気合いを抜いてしまうとこんなに楽なのかと思った。緊張がすべて解けている。
 清花だけでなく僕も疲れていたのかも知れない。考えてみれば、二人でいるときはずっと仕事中だったのだ。たとえホテルのベッドで眠っていても、それは仕事の一環だった。自宅へ帰ってホッと一息、たったそれだけのことを僕たちは忘れていた。
「もう何日も休んでなかったわ」と、清花が言った。
「そっか。日曜日とか関係ない仕事だもんね」
「日曜日にしか逢えない人とかもいるし」
 仕事の切れ目がオフなのだ。
 ううん、と清花が背伸びをする。白のタンクトップに黄色い短パン。普段からは想像できないラフさで、清花は気を抜くことに専念しているみたいだ。
 タンクトップの裾が持ち上がり、肌が少し覗く。
 今の清花は僕の周囲の何も考えていない女達とどこも変わらないように見えた。
 僕の周囲。つまり大学だ。自習休講の連続でしばらく行ってないけれど。
「で、どこに行くの?」と、僕。
「明日も休もうか。日帰りするのもったいなくなってきた」
「いいよ」
「じゃあこうしよう」
 まず市街地からさほど遠くない浅間温泉に身を浸し、戸隠高原に宿を取る。
 翌日はゆっくり朝寝坊をしてから安曇野に向かい、道祖神めぐりのサイクリング。
 僕に反対する理由はない。
「気まぐれで出てきたけれど、けっこういい旅になりそうね」
 清花が笑った。
 仕事中に見せる笑顔とは全く種類が異なっていた。

 浅間温泉までの往復を終えた僕と清花は、戸隠行きのバスに乗っていた。約2時間のバス旅である。
 女の子と二人で泊まりに出かけるなんて、考えてみれば(考えなくても)初めてだなと思った。
 混雑する市街地を抜けてしばらくバスは走り、やがて目の前に開けた風景は雄大だった。
 戸隠山から広がるでかい裾野。その裾野をバスは走る。
 果てしなく広がる視野は木々に時々遮られ、木の連なりが切れると再び、なだらかな傾斜がどこまでも続く風景を見ることが出来る。そんなことの繰り返しだった。
 山側の風景を窓越しに見ると、裾野の傾斜は山頂へ向かって急峻さを増し、凛と僕たちを見下ろす山が確かにある。だが、バス道はやさしい傾斜の中だった。
 それでも高度と共に道もカーブが段々きつくなってくる。
 風景が閉ざされ、深く山中に分け入ると、さらにカーブが連続するようになり、そして逆に人の匂いがするようになる。
 歩行者に出逢うことはまず無いけれど、別荘や企業の保養所の看板が散見されるようになり、ペンションがあり、戸隠の町にはいるとそば屋と土産物屋(兼業のところも多い)と旅館が道沿いに並んでいた。
 僕たちは中社前のバス停で降りた。
 宿に荷物をおき、中社にお参りをする。信心するものなど何もないけれど、神社の空気は嫌いじゃない。
 中社からスキー場まで徒歩で10分くらい。
 リフトの支柱が連なる夏のゲレンデをしばらく散歩して、僕たちは宿に戻った。
 肺を介して僕の身体の中は戸隠の冷涼で新鮮な空気で満たされた。


「楽しかったね」と、清花が言った。
「それに、おいしかったし」と、僕が後を継いだ。
 それほど規模の大きくない民宿だったが、食堂のテーブルは家族連れを中心に賑わっていた。
 ほかには老夫婦が一組。それから先生と子供達のグループ。
 小学校4年生か5年生くらいの子供達6〜7名をひとりの大人が引率している。きけば自分が担任するクラスから希望者を募って自然教室的な合宿にやってきているとのことだった。
 それにくらべて、僕らは場違いな客層だった。どう見たって婚前旅行(死語か?)だ。なにしろ当日予約で空いているところを案内所で探してもらったのだから仕方ない。
 しかも同じ部屋である。
 昼間温泉に行ったにもかかわらず僕たちはもう一度風呂に入り、浴衣に着替えてビールを飲みながらテレビを見ていた。
「一晩中飲むのは遠慮するからな」と、僕は言った。
「わたしも、ちゃんと寝るつもりで、今はオーバーペースで飲んでるもん」
 寝る、というフレーズが頭の中に残る。
 何かあるはずもないし、あってはいけない。
 意識する僕の方がどうかしている。
 僕のこころを読んでいるのか、清花はお酒のために半分崩れた表情で質問する。
「ねえ、和宣は彼女、いるの?」
「いまは、いない」
「いまは、っていう注釈つけるところが、かわいいわね」
「どうして」
「あははー。オンナぐらい知ってるよってさりげなく主張してるでしょ」
 そんなの、してないって。
「でも良かった。彼女いなくて」
 ドキ!
 そのこころは「わたしが彼女になれる可能性もあるんだ」ということだろうか?
 そんなはず無かった。
「わたしと泊まりで旅行してるなんて彼女が知ったら傷つくもんねえ」
「余計な心配だよ」
「そうだね。だって、彼女いないんだもんねえ」
 アハハハと清花が笑う。
 ま、いいか。仕事から開放されて酔っぱらってるんだから。
「そういう清花はどうなんだよ」
「どうって?」
「恋人、いるの?」
「あははー。いるに決まってるじゃない。こんないい女にいないわけないでしょー」
 訊くんじゃなかった。
「死んじゃったけどね」
「え?」
「でも、心の中では、いつでも逢えるの」
「.....ごめん」
「なに謝ってんのよ。死んじゃったもの仕方ないでしょう? でも平気よ。本当にいつでも逢えるんだから」
 恋人が死んでしまったことと、この仕事をしていることは、何か関連があるの? とは訊けなかった。
「でも、困るのよね。生きてたら、『別れましょ、はいさようなら』って言えるのに、いつまでもわたしの心の中から出ていってくれないのよね。抱いてもくれないくせにね」
 僕はどう答えていいかわからなかった。
 こういう時は良い考えが浮かぶまで黙っているべきなのだと、つまらないことを言った後で思いついた。
「いつか、いいことがあるよ」
「バーカ。わたしはいつもいいことに恵まれてるわよ」
「ごめん。また余計なこと言った」
「ううん、余計なことじゃないわ。ありがと。でも、わたしはこうして、ちゃんと生きてるから。これからもちゃんと生きるの。いいことなんていつだって周りに転がってるんだから。だって、ここには和宣だっていてくれるし」
 清花は僕の胸に顔を埋めた。
 かすかに、肩を抱かないとわからないほどのかすかさで、清花は身体を震わせていた。
 泣いてる?
「泣いてるんじゃないわよ。あなたの優しさに、ほんのちょっと感動しただけ」
 優しさ?
 僕は優しくなんか無い。優しいそぶりを装ったこともない。いつだって、清花の前でおろおろしているだけだ。
「今迫られたら、わたし抱かれちゃうね、きっと」
「こんな時に、何を言ってるんだよ」
「だって」
「恋人にはいつでも逢えるんだろう?」
「そうよ。もう、出ていってほしいんだけど」
「彼が出ていかないんじゃない。きみが追い出さないだけなんだ、きっと」
「そんなの、わかってる」
「だったら抱けるわけないだろう?」
「ばか。意気地なし。あなたが追い出してくれてもいいのに」
「できないよ。....そんなこと」
「優しさって、罪よね」
「そうだね」
「でもいまは、そんな和宣の優しさに、わたし、救われてる気がする」
「僕は偽善者なんだ」
「そんなことない。。。。。そうかな、そうかもしれないね」
 僕は清花の髪に口づけをした。これくらいなら彼も許してくれるだろう。

 僕達はしばらく寄り添っていた。
 清花の気持が落ち着きを取り戻したようなので、僕はそっと身体を放し、テレビに向き直った。
 そこには僕達の心境とは全く無関係に、予定通りのプログラムで番組を放送している異次元世界があった。
 ドラマがあり、ニュースがあり、深夜のバラエティー番組に移行していった。
 僕達はいつしかその異次元世界の中に感情移入をしていた。
 もうさっきの話題に触れることもない。
 「そろそろ寝ようか」という僕の提案に、「寝込みをおそったら承知しないから」と、清花が答えた。
 「その台詞、そのまんまお返しするよ」
 「ひどーい」
 こころの深いところを隠して、表面上だけで成立している会話。
 それは時には大切で、必要なことでもある。
 明日になればいつもの清花に完全に戻っているだろう。僕もそうする。それを約束するための会話。
 妙な照れ笑いをしながら電灯を消し布団に潜り込んだ時である。
 清花の携帯電話が鳴った。
 なんだろう、こんな時間に。
 「え? 警察につかまった? 何? 何を言ってるの? 信用してもらえないって、社長には連絡したの? 連絡が付かない? 迎えに来て欲しいって、それは無理よ。今、長野県の山の中なの。わかった。朝イチでそっちへ向かうから、それでも昼頃にはなるわよ。一晩泊まるのもいいんじゃない?」
 「何? どうしたの?」
 「杉橋がつかまった。人にあれこれ聞いたり尾行したりしているうちに、怪しい人がいるって通報されたみたい」
 「はあ?」
 「別に犯罪をおかしたわけじゃないからどうってこと無いだろうけれど、仕事の内容も行動の目的も怪しいじゃない、私達って」
 「まあ。怪しいよな」
 「だから信用してもらえないみたい。誰も迎えに来ないんなら一晩泊まってもらうって言われたんだって」
 「迎えにくるったって、未成年じゃあるまいし」
 「迎えに来た人にも事情聴取しようってことかもね」
 「それでも、行かなくちゃまずいの?」
 「多分ね。余計に怪しまれたら、仕事がやりにくくなるもの」
 「そうだね」
 「安曇野はお預けになるけど、いい?」
 「かまわないよ、そんなこと」
 「それにしても」と、清花は言った。「杉橋のこと、すっかり忘れてたわ」
 「僕も」

 

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