最終話 ノンストップエレベーター「一緒に暮らそー!」 =5=
中間報告に基づいて今後の調査方針を決める。そんなちょっと「堅苦しい」ミーティングが持たれた。出席者は、5人。社長、清花、僕、杉橋、そして、あおいさんだ。 オフィスの入り口ドアは施錠し、「3時まで不在です」の張り紙。今は10時なので、社長は5時間もかけて会議をするつもりなのだろうか。 「風の予感」の電話も留守録にセットし、各位の携帯電話も電源を切るように指示された。 「あ、杉橋さんはいいんですよ。大切な電話があるかもしれませんし」と、社長。 杉橋は便利屋で、内部のスタッフじゃない。 「ちゃんとメッセージに『顧客様と打ち合わせ中につき、ただいま電話に出ることができません』と入れてありますから、大丈夫です。それに、うちの売り上げの8割が『風の予感』さんじゃないですか」 「それにしても、ものものしいですね」と、僕。 「誰かが電話や来客の対応をする間、ミーティングは進みませんからね。その間、他の4人は待たなくちゃいけないでしょう? それが度重なると、いつまでたってもミーティングなんて終わりません。結局、この方が効率いいんですよ」 「だけど、その間に新たなお客さんを逃すかもしれないわ」 サービス業出身のあおいさんらしい意見だ。 「今の依頼をこなせなくて、新しいお客さんもないでしょう。ここは宿屋さんと違って、目に見える定員というのがありませんからね。歯止めは自分たちでしなければいけません」 |
あおいさんが人数分のコーヒーを運んできたところで、社長の仕切りによるミーティングが始まった。社長は「調査方針会議」と言った。 まず、テキヤの跡目の件。 2代目が現在勤める会社が「危ない」という独自情報により、最終的には依頼者本人が決断することではあるにしろ、「テキヤを継いだ方がいい」という方向で進めることになった。つまり、「初代の本心は、2代目に跡目をついで欲しかった」というデータを集めることに集中しよう、ということだ。 注意しなくてはならないのは、それが「無理やりでっち上げた調査結果」であってはならないということだ。 しかし、初代が「こんな仕事、息子には継がせられねえ」と思っているのでなければ、口に出したか出していないかは別として、自らが築き上げたものを我が子についで欲しいと思うのは自然だろう。 ポスやプリペイド構想があったのだから、自分のなきあと、遺志を継いでくれるものが現れるのは、嬉しいことに決まっている。それが我が子なら、なおさらだ。 僕たちはそういったことをディスカッションした末、「無理やりでっち上げられた調査結果」にはならないと共通認識を持った。 次に、浮気男の件。 依頼者の妻の浮気歴を依頼者に知らせるのは酷だ、という意見が大勢を占めた。死者に鞭打つことはできないし、まして妻に対して持っている綺麗な思い出を打ち砕く必要などない。 ならば、出すべき答えはふたつだ。「始まりが浮気だったかどうかは関係ない。今、その人を愛しているのなら、一緒になればいい」か「私への裏切りで始まった愛なんて認めない」かのどちらかである。この妻なら、どう思うのだろう。 僕たちの調査は生者のためにあるのだから、実際にその妻があの世でどう感じるかなどは関係ない。けれど、僕たちが出した答えに対して依頼者が「うんうん、あいつはそういうヤツだったよ」と思ってくれなくてはならない。 簡単に言えば、亡き人が「さっぱりした性格」だったか「ねちっこい性格」だったかを判断すればいい。 「じゃあ、生前に交流のあった人にインタビューして、彼女の色々な側面を集めて分析する。そういう調査方針で行きましょう」 社長の一言で決まった。 そして、芸能プロダクションの件。 僕が一通り報告をすると、社長が「そういうわけで、調査は終了です」と言った。「報告書はまだこれから仕上げるんですけどね」 この案件が一通り終わったことはみんな知っているけれど、社長から改めて「調査は終了です」と宣言されるとやはり違う。 ホッとしたと言うのだろうか、みんなの顔が安堵の表情に彩られた。 それから、会社の派閥争いの件は、「法外なキャンセル料を頂きました」と社長が報告して、終わった。 キャンセルまでの間に使った経費その他を含めてだけれど、そんなものはもらったキャンセル料と比べれば桁がひとつ違う。当面の運営費には全く困らない状態になった。 「せっかくですから、風の予感そのものを強化するような何かにも、このお金を使いましょう。貯金しておいたって何も生みませんからね」 後半の意見には賛成だけれど、「風の予感そのものを強化する」ってなんだろう? 「とりあえず、研修旅行にでも行きましょうか。ま、慰安旅行とも言いますけどね」 最後が、交通事故で子供を失った両親からの依頼。加害者は業務上過失致死としての判決を受けた。 「恨みつらみがあってひき殺した、というのならともかく、出会い頭の事故であってみれば『単なる不注意以上の落ち度があった。殺人だ』などと上告しても、殺人罪の判決は難しいでしょう」 これが社長の意見だ。でも、そうすることで、両親の気がまぎれるのなら・・・ 「気がまぎれることなどないでしょう。むしろ、傷口を塩で揉むようなものですよ。どんなことをしたって死者は還って来ないのですから」 もっとも、依頼の動機はそんなところにはない。加害者が殺人罪に問われなかったことを、命を失った我が子が無念に思っているのなら、あくまで戦いたい。そういうことだ。同時にそれは、両親こそが「無念に思っている」ということになるのだが、それを「息子が望むのなら」という気持ちに転化しているのである。 どういう調査結果を出してあげるのが生者、つまり残された両親にとって良いことなのか、ミーティングでは結論が出なかった。だから、依頼を言葉どおりに受け取り、基本に忠実に調査を続けることになった。手に入れた日記や、彼の友達からの証言を元に、彼が普段、どんなことを考え、どのように行動していたのかを収拾して、分析をして・・・ 「まだまだ時間がかかりそうですけれど、がんばりましょう」と、社長は言った。 |
調査方針会議が終わったのは12時13分だった。約2時間あまり。昼食にすることになった。僕が弁当を買いに行っている間に、あおいさんが味噌汁を作ってくれていた。 「ところで、立花さんに橘君、一緒に住むことにしたんですってね」と、社長が言った。 僕は吹き出しそうになった。 「どうしてそんなことを知ってるんですか」 「あれ? 秘密だったんですか? そんなことないですよね。立花さんがぺらぺら喋ってましたよ」 「あ、あのなあ。清花・・・」 これはきわめてプライベートなことだ。他人に吹聴するようなことではない。 咎めようとしたした僕を社長は遮った。 「でも、秘密にされても困るんですよね。ふたりはうちの社員ですから、ちゃんと居住地は届けといてもらわないと」 「そういうのは事務的に扱って下さったらいいんです」と、僕。 「こんなちっぽけな会社で、事務的もなにもないでしょう。いいじゃないですか。隠さなくても」 「そうよ」と、あおいさんが言った。「想い、想われるもの同士、なるべく近くにいたほうがいいわ」 「想い想われるだなんて、あおいさん古風な言い方するのね」と、清花がまぜっかえす。 「ごまかすなよなー。べらべら喋っちゃって」 「あら、いいじゃない。どうせ居住地は会社に申告しなくちゃいけないんだし」 「だからー。そういうことは事務的に・・・」 話が同じところをめぐっているのに気付いて、僕は口を閉じた。 そう、確かに「風の予感」に『事務的』な扱いは似合わない。とても家族的なカンパニーなのだから。 「と、まあ、そういうことで、家探しに苦労されているようですから、ひとつ紹介してあげようかなと思いまして」 社長は紙片を取り出した。 その紙片にはマンションの見取り図が記されていた。 ダイニングとリビングが分かれていて、それ以外にも部屋がふたつある。キッチンだってダイニングとカウンターで仕切られていて独立しているし、お風呂もユニットじゃない。 「ふーん、これなら僕と清花と、それぞれ部屋が持てるじゃんか」 言ってからしまったと思った。これから同棲しようという恋人同士が、どうして別々に部屋を確保しなくちゃならないんだろう。一人暮らしになれてしまって、自分の部屋があるのが当たり前になっていた。いや、家を出るまでだって、僕は自分の部屋を持っていたのだ。 「いじわるいわないで。寝室と仕事部屋じゃない」と、清花が言った。 「ごめんごめん」 僕は冗談にしてしまうことにした。 「だけど、清花は家に帰ってまで仕事をするのかい? 僕はごめんだよ」 「だから、書斎って言う意味よ」 リビングに寝室に書斎か。なかなか贅沢だ。 「ちょっとまって。これ、場所はどこで、家賃はいくらするんだ?」 コンスタントに仕事さえあれば、4年制大学新卒のサラリーマンより収入がある。清花だって同等のギャラをもらっているんだから、二人合わせれば結構な額だ。だが、だからといって、家賃なんかに必要以上の支出をしたくない。 「秋月君の紹介でね。安いんですよ」 秋月というのは「風の予感」のメンバーで、本職が土建屋である。 「で、いくらなの?」と、清花。 社長が値段を教えてくれる。 「ふーん、確かに安いな」 僕が今住んでいる所の2倍程度だ。 「どこか辺鄙なとこじゃないの?」と、清花。 「いや、ここから駅でふたつです。しかも、風の予感よりも東京にむかってふたつだから、悪くないですよ。快速は止まりませんけど、その分、駅前にごちゃごちゃいろんなビルがあんまりなくて、このマンションも駅から徒歩3分だそうです」 「すごい。お買い得」と、清花が叫ぶ。 「そのかわり、少し古いです」 「古くってもいいですよ」と、清花。 「古くても、しっかりした造りだそうです。なにしろ、手がけた本人がそう言ってますからね」 「うえー。秋月が手がけたマンションなのかあ」 清花が少し嫌そうに言う。 「そんな言い方は良くないと思うわ」と、あおいさんがたしなめる。 清花は生理的に秋月を受け付けないのだ。 「彼の口利きのおかげで安いんですよ」 もとはといえば、秋月が社長夫妻のためにと持ってきてくれた話だった。けれど、「子供ができたら集合住宅はちょっと」ということで、僕たちに回ってきたらしい。 社長とあおいさんは郊外に一戸建ての住宅を手に入れた。これも秋月の紹介によるもので、中古だけれど破格値だそうだ。 「子供って、もしかして!」と、清花が目を輝かせた。「出来ちゃった結婚?」 「僕たちが結婚になかなか踏み切れずにぐずぐずしていたのは立花さんもよく知っているでしょう? 子供が出来ていたらとっくに生まれていますよ」 「じゃ、じゃあ、ハネムーンベビー?」 「ハネムーンにはまだ行っていません」 「なあんだ」 「でも、出来るだけ早いうちに子供は欲しいと思っています」 「じゃあ、今までみたいにダラダラと夜中まで仕事してちゃダメですよ、社長」 「余計なお世話です。それより、3時まで休業と決めましたので、今のうちに物件を見に行ったらどうですか?」 駅でふたつなら十分往復できる。 「そうね。そうするわ。ね、そうするでしょ、和宣」 「うん、そうしよう」 |
すぐ近くだと思うと逆に案外時間がかかるものだ。3時までという時間制限が余計そう感じさせる。「風の予感」のオフィスは駅前ではない。駅から伸びる商店街の外れだから、駅までそれなりの時間がかかる。いつもは歩いて通う道だが、気がせくとそれがじれったい。自転車でもあればいいのになと思う。 駅に着くと僕たちが乗ろうとしていた普通列車は出たところだった。 普通はだいたい10分おきにある。 しかし、だいたい、だ。1時間の間には確かに6本あるのだが、その間に様々な上位列車が混じるので、その辺の加減で中5分で次の普通が来たり15分も間が開いてしまったりする。これら普通もあっちこっちで上位列車の待ち合わせをしているうちになんとなく10分間隔に整ってしまうから不思議である。それはともかく、僕たちが乗るべき列車は運悪く15分後だった。 「うーん。時間がかかるなあ」 「何言ってるのよ。すぐ来るわよ」 「だけど、部屋を見て3時までに戻らないといけないんだぜ」 「だから、十分時間あるって」 「そうかなあ」 「わたしたちのラブラブな新居にもうすぐ対面できるとか思ってドキドキしてるでしょ? だから気がはやるのよ」 「心理分析ならいらないよ」 「だって、和宣の心の動きなんて手に取るようにわかるもの」 「ちょっと、それは、こわいな」 「わたしの気持ちだって、手に取るようにわかるくせに」 そうか? そうなんだろうか。そうかもしれない。 「だけど、普通はそんなこといちいち意識しないだろ?」 「あえて意識しようとはしないわよ。だけど、そう感じるの。ああ、和宣はわかってくれてるのね、って」 「だから、清花は僕になつくの?」 「馬鹿ね。愛してるからでしょ」 |
普通列車しか止まらないその駅は、駅の表裏もどっちときめかねるような、典型的な郊外住宅地ご用達のステーションだった。 どっちが表かわからない、というのは多分にその駅を発着する路線バスがないせいだろう。 線路の両側にはどちらも線路に並行する道があったけれど、いずれも広くはない。タクシー乗り場の案内はあったが、客待ちをしているのは一台だけだった。 かといって閉塞状態にある駅前ではなく、少し行けば幹線道路があり、そこにはバス停もある。ただし、その系統のバスに乗るには、普通しか停車しないこの駅を使うより、もっとたくさんの列車が止まるきちんとしたバスターミナルを従えた駅から乗るほうがはるかに便利に思えた。 8階建てのマンションはこの駅前にあってはちょっとばかり目立っていた。古いよ、と言われてきたけれど、それ以外の周りの建物がもっと古いので、むしろ「ちょっと新しいマンション」という印象を受けた。 当番が決まっているのか管理人がしっかりしているのか、マンションの入り口はきれいに整っている。自転車置き場の自転車も整然と止められていた。ざっと見回した限りでは駐車場はなさそうだ。ま、今のところは支障ない。 |
5階506号室。 僕たちはエレベーターで5階へ、そして506号室の鍵穴に貸してもらったキーを差し込んだ。 ドアノブに触れた僕の手の上に、清花が掌を重ねた。ノブを回そうとした僕の手の動きを制御する。 「待って」と、清花。 「なんだよ」 「秋月さんが、もともとは社長夫婦のために用意した部屋よ」 「うん、わかってる。それが?」 「見るまでもなく、良い物件だと思うわ」 「その意見には賛成だけど、気に入るか気に入らないかは別問題だと思うな」 「わかってるわ。だから、この部屋が良いか悪いかの判断はいらない。まさに、気に入るか気に入らないかで、あっさりと即決しようってこと」 「即決?」 「だから、これだったらもう少し家賃を安くして欲しいなとか、5階だからもっと景色がいいと思ったのにイマイチだからもっと上の階ではあいてないのかとか、柱の位置がよくないとか、廊下に段差があるとか、壁にしみがあるとか、エアコンの吹き出し口が気に入らないとか、リビングにもうひとつコンセントがないと困るとか、冬場の日当たりはどうなっているんだろうとか・・・」 「ストップ」 僕は清花の唇に人差し指を当てた。ドラマや小説などでは珍しくないのかもしれないけれど、僕自身が他人の唇に指を当てて「シー」を表現したのは、おそらく生涯初めて? 「よくまあそれだけ、色々思いつくよな」と、僕は笑った。 「だって。わたし達の住む家だもの」 ・・・わたし達の住む家・・・ なんだか、ジーンときた。 清花の心の動きを気遣うあまり、好きだと言う気持ちすらはっきりと伝えることのできなかった僕が、清花と一緒に住む。 ずるずると大学を休んでバイトに明け暮れていた僕が、仕事を定め、愛する人と一緒に住もうとしているという事実。 僕自身が成長したわけじゃない。僕が変わったわけじゃない。けれど、状況は、少しづつ動いて、唯一僕が変わったことと言えば「覚悟を決めた」ことだ。 |
「さ、開けるよ」と、僕は言った。 |
ドアを空けた瞬間、僕はここにしようと思った。 ここがいいと感じた。 何も見ていない。目に入らなかった。 運命的な何かを感じた、というといかにも大げさだ。けれど、それに近い。 そう、僕と清花はここで一緒に生活を築くんだ。 そう感じた。 後に清花に聞いたところでは、「和宣は玄関を入った瞬間に呆然と立ち尽くした」のだそうだ。清花は靴を脱いでとっとと室内を見て回った。 「いいよ、ここ。すごくいい。ねえ、和宣、どう思う? ここにしようよ。ね、何やってるの? こっちおいでよ」 遠くで清花の声がした。 無数の部屋がある中世の王宮にやってきたわけじゃない。ささやかな3DKのマンションだ。なのに、清花の声がどこから聞こえてくるのか認識できなかった。 冷静になってみれば、僕が立っていたのは生活臭のまだないただの「空間」であることがわかるはずだ。けれども僕は何か特別な感慨にとらわれていた。 好きな人と一緒に暮らす・・・ 「ちょっとお、何やってるのよ」 清花が戻ってきた。 「わたしはここでいいと思うけど」 「僕も、そう思うよ」と答えた。 「えー? 何も見ていないじゃない」 「うん、でも、いいんだ。家が僕たちの生活を作るんじゃない。僕たち自身で作るんだ。住むところなんて、どこだっていいんだ」 「うえー。よく言うよ。似合わないよ、そんな台詞」 清花は両手を広げ、「おいおい」という表情までした。 「ま、いいけど。気持ちはわかるから」 「だろ?」 「じゃ、事務所に、戻ろ。休憩時間は3時までだもんね」 |
エレベーターホールで「下り」ボタンを押す。 エレベーターの到着を待つ。 扉が開く。 中には誰も乗っていない。 僕と清花はそっとケージの中に入り、「1」のボタンを、続いて「閉」のボタンを押した。 エレベーターのボタンには「B」があり、地下に駐車場があるんだとわかった。 くん。 静かな衝撃があり、エレベーターが降下し始める。 「ここで暮らすのね、ふたりで」 清花が言った。 「わたしで、いいの?」 「もちろんだよ」 清花は僕の肩に両手をかけて、背伸びをする。 僕がうなずくと、清花は目を閉じた。 重なる、唇。 エレベーターが1階に着くまでのほんの短い、キス。 一瞬唇が離れ、「ずっと、こうしていられたら、いいのにね」と清花が言い、再び唇が触れ合う。 僕も唇をそっと離して、「1階についたら止まるにきまってるだろ。ノンストップのエレベーターなんてきいたことない」 言い終えて、もう一度、清花の唇に触れようとした。 近づく僕の顔を、唇同士が重ならないように清花は少し避けて、言った。 「馬鹿。エレベーターのことを言ってるんじゃないの。わたしと和宣が、いつまでも、ふたりで、いられたら、ってことじゃないの」 単純な僕の勘違いに文句をつけたが、さりとてそのことを怒っているわけではなかった。 避けたはずの顔を元の位置に戻して、三度目の、キス。 そうして、エレベーターは1階についた。 扉がひらく。 目の隅でちらと確認する。だれもいない。扉は開いたまま。 そして、扉が閉じる。 エレベーターは動かない。 所定の開扉時間を過ぎてしまったので、扉は自動的にしまったのだった。 僕と清花は、キスをしたまま・・・・ |
「風の予感」おわり
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