第4話 スーベニール「未来の子供達のために」 =14=
ああ、俺が梶谷武史だよ。で、アンタタチ、なんだよ。 え? 水野弥生の古い友達から依頼を受けた。 水野弥生・・・、 俺には関係ないよ。 昔付き合った? ああいうのはね、付き合ったとは言わないの。 俺は一生懸命想いを伝えたよ。だけど、裏切られた。遊ばれていたんだ。あいつには別に男がいたんだ。 いや、それはいいんだ。あいつに他に男がいるってのは知ってたからね。だから、俺の方がいいってわからせてやろうってね。いつかはそうなるだろうって思ってた。けど、あいつは俺と寝たかっただけなんだ。 裏切られたってのは、そういう意味だよ。 同窓会? ああ、呼ばれた。 冗談じゃない。どうしてあいつの昔の男が一堂に会しなくちゃいけない? 大田原だろ、青山だろ。 ああ、知ってたさ。俺はね、あいつのことは全部知ってるんだよ。だけど、奪い取れると思ってたんだ。だってよ、あいつ、俺の誘いにノコノコついてきたんだぜ。ほとんど俺になびいてると俺が思っても、不思議じゃないだろう? 結局、一方的に振られたけどな。 あいつはそういうやつなんだ。おれとやりたかっただけなんだよ。人の心をもてあそびやがって。あいつは俺だけのものになるはずだったんだよ。 爆弾? そうさ。あのおかげで、青山は弥生に逢えなかったんだ。ま、俺も会えなかったんだけどさ。でも、そんなのどっちでもいい。青山と弥生が逢って、昔語りするところなんて見たくもないからな。それを阻止出来ただけでも爆弾の効果があったってわけだ。誰が何の目的でそんなことしたか知らないけどね。 え? だったらなぜ同窓会に行ったのかって? 誘われたら断れないだろう? 変な断り方したら、俺の方が「昔にこだわってる変なやつ」ってことになるだろう? だから、大阪までは青山と一緒に行った。けれど、気が進まなくて、やっぱりやめた。トイレを理由にあいつだけ行かせて、俺はもう帰ろうと思ったのさ。 |
先回りして爆弾を仕掛けたって? 何を言ってるんだよ、あんたたち。 名誉毀損って言うんだぜ。そういうの。警察だって何も言ってこないのに。 完全犯罪? アリバイ工作? アリバイって、なんだよ。まさか俺が弥生を殺したとでも思ってるのか? ああ、彼女の死については知ってるよ。親切なバカが電話で教えてくれた。だけど、俺はあの日、大阪から先へは行ってない。引き返したんだ。 そうかよ。そこまで言うんなら、証拠はどうした? そんなものありゃしない。だいたい俺に爆弾なんか作れるか。 インターネット? 榊原チエ? ふうん、お前らよく調べたなあ。俺がチエと付き合ってること、なんで知ってるんだよ。ああ、あいつのところにも行ったのか。 ふん、お喋りな女だ。 俺と付き合ってるのが嬉しくて、べらべら喋ったんだな。 だけど、それとこれとは無関係だからな。 俺のまわりには、もうあいつしかいないんだよ。サークルの女達は、つまらない男達にチヤホヤされていい気になってるくせに、俺の良さにちっとも気が付かないし、バイト先のヤツラは俺のことをカスみたいな目で見やがるし。不景気じゃなければ正社員の数をそろえてお前みたいなバイトはクビだ、なんて言いやがる。ちょっと女に声をかけただけなのにな。 だけど、本当は俺があいつらをバカにしてるのさ。つまらない会社でつまらない事しやがって。そのくせ、俺を屑あつかいしやがって。 定時にきたって仕事なんてろくに出来ないくせに、俺の遅刻を責めるなよ。 女にもてないからって、「人の女に手を出した」だなんて、いいがかりだぜ。 給料日になればちゃんと返すって言ってるのに、会社の金がどうこうとかうるせえし。 使ってない部屋の空調を切り忘れただの、鍵をかけ忘れただの、書類の届け先を間違えただの、ハードディスクを消しちゃっただの、ゴミの分別が出来ていないだの、そんなことはどうだっていいんだ。そんな些事を気にしてたら、俺は実力を発揮できないっつうの。 バカばっかりだよ、ほんと。 俺の周りでまともなのはチエだけだから。 もう俺にはあいつしかいないんだよ。 そういや、チエから最近連絡ないな。あ、お前ら、なんか余計なこと言ったんじゃないのか? そうだろう。ああ、そうに違いない。 え? しつこいな。だから、大阪で引き返した俺がどうして弥生を殺せるんだよ。 ああ、殺されたって聞いて、ま、しょうがねえな、あんな女とは思ったよ。 あいつ、おかしいよ。昔の男集めてさ。笑いものにでもする気だったんじゃないの? ホントおかしいよ、あいつ。 証拠? 警察? ああ、好きにしてくれ。 俺は何一つミスはしてないぜ。 「ああ、好きにさせてもらうさ。あんたみたいなクズがどうなろうと、知ったこっちゃないからな」と言って、僕は梶谷のもとを後にした。 「かわいそう。どうしてそんなに歪んでしまったの?」と、清花は哀れみの表情をした。 僕達は梶谷のもとをあとにした。 |
「どうしてそんなに歪んでしまったの、か。立華さんも言いますね」と、社長は言った。 「だって、そう感じたんです」 「そうですか。でも、どうして歪んでしまったかは、私にはわかりますよ」 「わかるんですか?」 「ええ、わかります。 今までに何度かありますけど、突然この事務所に中学生や高校生が駆け込んで来るんですよ。私はパーテーションの奥にいて、事務所に入っただけなら無人に見えます。それをいいことに、かどうかはわかりませんけど、彼ら彼女らはさらに奥に入ってくるんです。で、私と目が合います。無視してさらに奥へ行こうとします。 『なんですか、あなたがたは。強盗ですか』 『トイレだよ、トイレ』 『ふざけたことを言わないで下さい。トイレを借りるなら、まず最初にそう言うべきでしょう。黙って入ってきて、聞かれてからトイレとは、どういうことです』 『トイレ使われるのが嫌なら、入り口を閉めておけ。ガードマンでも立たせておけ』 『随分勝手な言いぐさですね。ここにはあなた方に貸すトイレはありません。出て行きなさい』 『だから、トイレだって言ってるだろう』 『すいません、トイレを貸して下さい、と言うべきでしょう』 『初対面のヤツになんで敬語を使わないといけないんだよ』 『何を言っても無駄のようですね。とにかく、出て行きなさい。あなたがたにトイレは使わせません』 『ああ、出て行くよ。出て行ったらいいんだろう。け、馬鹿野郎』 と、まあ、こんなことがありました。ここまで言い争いになることは珍しいんですが、挨拶無しにトイレを勝手に使おうとする人は多いんですよ。僕は絶対使わせませんけれど。 でも、どうしてだと思いますか? 彼らは、自由の名の下に、野放しなんです。 僕が子供の頃は、よく叱られました。色々な大人達に。顔を知っているとか、知らないとか、そんなこととは関係無しにね。 どこの家の近所にも、子供を見たら怒ってばかりいる名物ガンコ親父、なんてのもいましたし」 「今は、いませんね」と、僕。 「そうでしょう? 子供の教育って言うのは、親や学校の先生の仕事じゃないんです。世の中全ての仕事なのです。新入社員を担当者が研修するのとは違うんです」 「じゃあ、社長はいわゆる昔のガンコ親父になるのですね」 「いやあ、それを言われると辛いですね。僕にはとても出来そうにない。世の中が悪いとか言いながら、自分も世の中のひとつの構成要素なんですけれどね」 社長はニコニコしながら言った。「僕にはとても出来そうにない」と口にはしたものの、そこには「でも、僕なりに出来ることはやっているんですよ」という自信のようなものを、僕は社長の笑顔の中に感じ取った。 「ねえ、社長。社長はどうしてこの仕事を始めたんですか?」と、清花。 「な、なんですか、突然に」 「あ、それ、僕も知りたいですね」と、僕。「そうそう、そう言えば、社長、なにか心境の変化でもあったんですか? 電話帳広告を出そうとしたり、会社組織にするから社員にならないかと誘ってくれたり」 「いや、そんなことより、青山さんへの報告書は出来てるんですか? 調査そのものは終了したんでしょう?」 「はい、終了しました」と、清花。 「報告書は、これです」と、僕はわずか3枚のA4用紙を差し出した。 |
社長は報告書を手に取り、黙読した。 「なるほど、大田原さんの証言を全面的に採用するんですね」 「そうです」 「でも、何かそれを裏付ける証拠はあるんですか?」 「あはは、証拠物件、今までたくさんでっち上げましたよねえ」と、清花は笑う。「でも、今回はそういうのは無しです。これを受け取った青山さんが大田原さんに電話一本すれば済むことですし、そもそも彼はそんなことしないと思いますよ」 「どうしてですか?」 「和宣、いえ、橘クンともよく話し合ったんですけれど、青山さんは、純朴というかバカ正直というか、きっとわれわれの調査に疑問なんか抱かないと思うんですよ。それが彼の良いところであり、悪いところであり、そしてそれ故に、こんな依頼をしなくちゃいられなくなったんです」 「うん、ま、いいでしょう」 「それに、もし青山さんが大田原さんに電話を入れたら、大田原さんはちゃんと全てを話してくると思いますし。彼はすごくいい人ですから」 「そうですか。良かったじゃないですか。ま、形としては本来は説明にたる証拠品と報告書を添えて依頼者に提出して業務完了、ということなのですが、まあいいでしょう」 「形にこだわることはないわ」と、清花はしれっとしている。 「じゃあ、仕事は終わりということで、例の件は、どうしますか?」 「どう、って?」と、清花。 「ここの、社員になりますか? それとも、今の状態をしばらく続けますか?」 |
そうだった。社長から誘われていた僕たちは、この案件が解決するまで時間が欲しいと言った。いいかえれば、この依頼が終わった今、結論を出さなくてはならない。 僕は清花を見た。清花はどうするつもりなんだろう? 清花も僕を見た。彼女も僕の動向が気にかかるのだろう。 「せっかくのお話なんですが」と、僕は言った。「もう少し考えさせてもらって良いですか?」 「それは構いませんが、もし差し支えなかったら、理由を教えていただけませんか?」 「いえ、理由と言うほどのものじゃないんですが、ただ、決断がつかないんです。大学を本当に諦める決心も、社会に飛び込むことにも」 「ううん、なんか、いかにも青春の悩みって感じですね。決めかねる、っていうのは、それだけたくさんの選択肢があるって事ですから、それもいいでしょう」 続いて清花も言った。 「ねえ、社長。わたしももう少し時間を頂いて良いですか?」 「はいはい、わかりました」と、社長はあっさりと返事した。 これではこれまでと何ら変わりない。 「でも、来年の4月には、きちんとしますから」と、清花は付け加える。 「きちんと、って言いますと?」 「『風の予感』に入社する。でなければ、この業界から去ります」 「ほお。それはまた、思い切った宣言をしましたね」 「その間に、わたしは私自身のことにも決着がつけられそうな気がするんです。もし決着がつけられなければ、これ以上ここにいても意味がないでしょう」 私自身のこととは、事故で死んだ清花の恋人の事だなと、僕は察しがついた。 「もちろん、それまではこの仕事を続けたいんですけれど、雇ってもらえますか?」 「もちろんですよ」 「良かった。ありがとうございます」 「ありがとうございます」と、思わず僕も言ってしまった。 「あら、どうして和宣がお礼を言うのよ」 「あれ? どうしてだろう。きっと社長の暖かいお心に感動したからでしょう」 適当なことを言ったが、本心は清花と一緒にいられることに安心したからだ。きっと社長にはわかったに違いない。僕は赤面した。 「はいはい、よく舌を噛まずに言えましたね。おべんちゃらはいいんですよ」 「ま、とにかくこれで、めでたしめでたしね」と、清花は言った。 「何がめでたしなんだよ」と、僕。 「社長は結婚するし、わたしはもう電話帳広告を書き直さなくて済むし、和宣も私ももうしばらく考える時間をもらえることになったし」 「なるほど」 「それじゃ、私は今回の件を報告に警察へ行って来ますけど、お二人はどうしますか?一緒に来ますか?」 「どうする、和宣?」 「うん、僕は行ってもいいなって思うけれど」 「じゃあ、わたし達も行こうよ。事件の一部始終を知った者の責任として、社長任せにせずにきちんとしない?」 「うん、それがいいと思う」 「じゃあ、行きましょう」 席を立ちかけたとき、電話が鳴った。清花が受話器を取る。 「はい、オフィス風の予感です。はい、はい、はあ? 電話帳広告? え? 締切? いえ、それは、あの、無しということで。は? スペースを押さえてあるから、もうキャンセルできない? そうなんですか」 清花は受話器をぐいっと社長に突き出した。 「だ、そうですよ」 「そんな」 受話器を取った社長は、電話に向かって頭を下げている。 「はい、はい、わかりました」 話を終えて受話器をおろした社長に、清花は「わたし、広告文章なんて書きませんからね」と追い討ちのように言った。 「そうですか、困ったな。なんとか明後日まで待ってもらったんですが」 社長が僕を見た。 「僕もできませんよ、そんなこと」 「しかたありませんねえ」 社長はため息をついた。そして、口を開いた。僕はてっきり「しかたありません。僕がやりましょう」と言うのかと思った。 けれども社長は「とりあえず警察へ行きましょう」と言った。 |
次の日、僕と清花は依頼者に調査報告をした。 青山健二は、「どうもありがとうございました」だけ言って去っていったが、その表情はまんざらではなかったようだ。 そのさい、大田原のことは全て話した。水野弥生と以前彼が付き合っていたことも、健二の告白がきっかけで別れることになったことも、そして、その後は良い友達関係でいることも。でも、爆弾事件や殺人事件、そして、梶谷武史が原因で別れることになったなどのことには触れなかった。もっとも、いずれテレビや新聞のニュースなどで、一連の事件の犯人が梶谷だと知ることになるだろう。 けれども、水野弥生と梶谷健二が付き合っていたことを教える必要は何もない。これが僕と清花の共通した意見だった。 梶谷のことがニュースになったのは、それからさらに3日後だった。 重要参考人として任意同行された梶谷健二はすぐに自供、裏付け捜査の結果、逮捕、マスコミ発表という手順だったらしい。 ニュースは、彼の行動が我々の推理通りだったことを伝えた上で、犯行動機が曖昧であること、無関係な人間を巻き込んだことなどから、彼の性格が破綻している可能性について言及した。僕たちはこのニュースを事務所で見た。 |
「あなた方は、彼の精神が本当に破綻していたと感じましたか?」と、社長が僕と清花に訊いた。 「歪んでいる、とは思いましたね」と、僕は言った。 「でも、精神が破綻しているかどうかは・・・それって、精神鑑定をウケさせるって事なんでしょう?」と、清花。 「多分そうだよ。で、責任能力無しとかっていう判定がされたら、犯罪にならない?」 「そんな簡単なものでもないでしょうけれどね」と、社長。 「社長、この前、トイレを黙って使う若い人がいるって話をしていましたよね。で、まわりに叱ってくれる人がいないって」 「はい、言いました。それが?」 「心が歪むって、そういう事だと思うんですよ」と、僕は言った。「トイレの話、あれはあくまで一例だと思うんです。自分さえよければいい、そんな大人達が作る世の中に浸って、子供達の心が歪まないはず無いですよ。もちろん心が歪んでゆくその課程で、そりゃあ本人に一番責任があるのかも知れない。自分で善し悪しを判断できなくなるわけですからね。けれど、世の中が歪んでいるから、人の心も歪んで行くんじゃないでしょうか?」 「そうですね。でも」と、社長は言った。「その世の中というのを構成しているのも、人の心ですからね」 「ちゃんと彼女がいて、希望の大学に合格して、経済的な不自由もなく、学業とサークル活動を両立させている。それでいったい、なんで心をゆがめなくちゃいけないのかしらね」と、清花。 「和宣なんて、彼女はいないし、卒業見込みはないし、仕事も不定期だし。ねえ、キミの方がよっぽど不幸よね」 「ほっといてくれ」と、僕は言った。 社長はひとつ咳払いをした。 「辛いこと、悲しいこと、悔しいこと、苦しいこと。人をマイナーな感情に導くことはこの世にいっぱい溢れていますよ。不条理なこと、納得のいかないこと、何を信じて良いかわからなくなるような出来事、そんなことも心が歪むには充分なほどあります。 けれど、例えば、橘君、あなたを例に挙げましょうか? あなたには決まった仕事がない。『風の予感』の仕事は、依頼がなくては失業者と一緒です。今は特定の彼女もいない。身分が定まらなくて、故郷にも帰れないかも知れない。だけど、あなたは悲観していないでしょう? 人のまわりには色々な人がいて、色々な出来事や物があって、例えマイナーな感情に支配されても、それを乗り越えることが出来ます。自分のことを温かい目で見てくれる人がいる、夢や希望がある、癒したり励ましたりしてくれる本や音楽や映画なんかもある。 だからそんなに簡単に心って歪まないんですよ。なのに、心が歪むって言うのは、そういうものが受け入れられなくなる事なんでしょうか。それとも、何にも感じなくなってしまうことなんでしょうか。私にもそれはわかりませんけれど」 「じゃあ社長は、本人だけの責任じゃない、そうおっしゃるのですね?」 「もちろん、社会が悪い、世の中が悪い、なんて叫ぶつもりはありませんけれどね。ただ、わたし達は、思いやりや優しさこそが、傷ついた心を癒し、歪んだ心を元に戻してくれるんだっていうことを、未来に、ことに子供達、そして子供達を育てる大人や社会に、伝えていく義務があるんじゃないですか?」 「未来の子供達のために?」と、清花。 「そう、そうですよ。未来の子供達のために。一般に、大人と言われる人達が歪んでいたら、子供達は間違いなく歪みますよ。そして、子供達は自らの力で歪みを正すことが出来ません。でも、大人なら、自分でそれを正すことが出来るはずです。そのことに、気が付きさえすればね」 「僕や清花は気が付いていますか?」 「さあ、それはどうでしょう。大切なのは、常に心にとどめておいて、常に考え続けることでしょうね。だって、いつだって心は歪み始めるんです。油断をすればね」 社長の言葉を僕は噛みしめていた。いつもと違った社長の熱弁に。 「ガラにもなく、あれこれと語ってしまいました。お詫びに、まずいコーヒーでも入れましょう」 「まずければお詫びにならないから、たまには美味しく入れて下さい」 清花は小さくウインクした。 「いや、コーヒーだけではお詫びとは言えないね」と、僕は言った。 「まだなにかあるんですか?」と、社長。 「色々知りたいですね、社長のこと。どうしてこの仕事をはじめたのかとか、そんな社長と結婚するのはどんな人か、とか」 僕はあまり期待していなかったし、冷やかし半分だったのだけれど、社長は以外にもそれに応じてくれた。 「いいでしょう。長くなるので、覚悟して下さいね。それから、『結婚』については、君たちの前でカッコつけすぎました。明日にでも結婚するようなことを言いましたけど、実はひとつ厄介な問題が残ってるんですよ」 「厄介な問題、わたしたちは得意です」と、清花が言った。 |
※社長がこの仕事をはじめたきっかけは、番外編で発表します。結婚に関する厄介な問題は、第6話で登場予定です。なお、トイレを勝手に使いに来る人の話は作者が日々体験している正真正銘の実話です。言い争いはほぼ現実に起こったことを再現しています。が、無作法なのは若い人たちだけではないです。 |