エピソード5 朝霧 |
---|
北海道の夏は短い。8月も下旬になると、昼間の陽射しはギラギラと強いのに、夕刻になるとすっと太陽が傾き、まるで初秋の趣だ。 |
帯広からの最終バスが到着するのは19時。このバスに今日の宿泊客は乗ってくるはずだった。男女合わせて7人のグループ。久々に「杜の庵」も賑わう。 |
19時。バスが到着した。乗客は9人いた。しかも、9人とも「杜の庵」に入ってくる。 |
予約内容は、男性5人、女性2人の合計7人。だが、やってきたのは、男性5人、女性4人だった。いずれも20代前半と思われたが、中にはもしかしたらまだ未成年かもと思える顔立ちの者もいた。多分若く見えるだけだろう。「杜の庵」に2ヶ月半滞在して、様々な人に出会い、恵も少しはわかるようになってきたのだ。 |
とにかく双方譲らない。ひどいのは5人の男達で、宿のキャパも確かめずに女の子を引っ張ってきたくせに、「俺達は客なんだからナントカしろ」だの、「予備の部屋ぐらいなくて宿なんかするな。万が一のことがあったらどうするつもりだ」とか、言いたい放題だ。 |
気まずくなったために、結局7人組と2人組は、食事中も相互に会話を交わすことはなかった。 |
扉を開けると、熱気がむっと飛び出して来た。かといって開けっ放しにしておくとあっという間に虫達がじゃんじゃん侵入してくるので、2人をリビングスペースに上がらせるとさっと扉を閉めてエアコンのスイッチを入れる。ぶうーんという音とともに、一条の冷風が流れ出して来るが、これが部屋全体に行き渡るには少し時間がかかりそうだ。 |
2人組は荷物を開けて風呂の用意をはじめた。会話がないのも気まずいな、何かしゃべらなくちゃと恵が思っていると、向こうから声をかけてきてくれた。 |
「杜の庵」は、入口を入ったところがロビー兼ダイニングである。7人組の宴会は盛り上がっており、惨憺たる状況だった。 |
ダイニングが片付いたのは12時を回っていた。 |
翌朝、恵は気になって、早起きをした。 |