エピソード7 アルターネイティブ |
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北海道では、秋と冬が一緒にやってくる。 |
4時が近づき、さてそろそろ、と手元のコーヒーを飲み干したとき、カップルが席を立った。 |
その日の客は一組だけだった。夕方のバスで運転手と一緒に着いた。男性二人組みである。両人とも大きなカメラ用のカバンを持っている。 |
写真撮影が終わって再び戻ってきた3人に恵は茶を出した。どういう加減か二人組みがドライバーと仲良くなっており、ロビー兼ダイニングのテーブルのひとつに座り、談笑を始めたからだ。いつもなら運転手にしか茶は出さないが、同じテーブルに座っているのにそれも変だろう。 |
「ここです」と、皆川がペラペラとページをめくり、該当記事が掲載された部分を広げて運転手に差し出した。 |
「手のかからない客だなあ」と、庵の主はボソリと呟いた。 |
ビールを飲みながら聞いたところによると、この二人は東京の有名な私大のうちのひとつに通っている。就職も既に内定済みだ。単位のほとんどもとり終えていて、卒論もめぼしはついている。後は時間が過ぎるのを待つばかりだという。 |
バスマニア二人組みのテーブルを片付けていると、他のテーブルで庵の主と妻が難しい顔をしていた。 |
主は白紙の紙に大きくアルファベットの「Y」を書いた。その一番下の部分に黒丸をつけ、「帯広」と文字を添える。 |
「皆川さんと佐々木さん、もう一泊することになったから、恵ちゃん、今日はそのへんを案内してあげてくれない?」 |
皆川と佐々木は翌日旅立った。 |