通信室に向かったのには理由がある。これから仲間の船達に作戦を伝達すると同時に、本星へもそれを通知することである。第一艦橋からでも通信は可能だが、複雑な暗号化を行おうとすれば通信室を使う必要がある。
戦闘時はそれぞれの持ち場できっちりと役割を果たすわけだから、第一艦橋と通信室が離れていても問題はない。だが、僕達は実習中である。将来、どの部署についてもいいように、実習時は半自動操縦を行いながら、色々な持ち場を巡りながら、模擬戦闘をするのである。通信室はだから、今は無人だった。
しかし、僕には気がかりがひとつあった。教科書にこんなくだりがあったからだ。
「新しい暗号とその解読は、永遠のいたちごっこである。暗号は作った時点で解読されていると思うくらいの注意深さが必要だ」
通信室へ向かって走りながら、僕はこのことをイシュル先生に伝えた。
「99%大丈夫よ。これから行う暗号送信は、最新鋭の技術だもの。正式な国家の軍隊ならまだしも、海賊船団なんかに解読できるわけないわ」
イシュル先生は、走りながら、かつ僕の疑問に答えながら、インカムを使って艦内の生徒達に指示を与える。
イシュル先生がインカムに発する声によると、生徒達は僕達のいた第一艦橋の他に、弾薬庫にもうひとりの先生と生徒5人がいたはずだが、ピークとライナによってスタンバイされたアローンゼロに搭乗を完了したと思われた。
「自動操縦プログラム、打ち込み完了」
先生の耳に差し込まれたイヤホンから、ワグナの声が僕の耳まで届く。よほどの大声で叫んだのだろう。
「じゃあ、ワグナ。あなたもアローンゼロにスタンバイして。作戦実行の許可がおりたら、直ちに教官船へ待避よ。いいわね」
「先生とベッシャーは?」
「アローンゼロの船内での整備実習は、さっき終えたばかりでしょ? 発進前の点検の手続きを省くわ。あなたたちが出た後だったら、ルートオールグリーンの仮定で、目視発進もできるはずだから、管制もいらないしね」
「わかりました。それぞれの機のパイロットになったつもりで、起動と始動も済ませておきます」
起動とは、コンピューターを完全に作動させておくこと。始動とは推進エンジンをアイドリングの状態にしておくことだ。
「ありがとう。助かるわ」
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