痴漢

 

 

 通勤電車の中、声をかけられた。
「毎日、見てますよ」って。

 そりゃあそうよ。男の視線の集中砲火。それを楽しんでいるんだもの。
「触らせて、ください」
(え?)

 思わず男の顔をみた。
 声の感じはそこそこ渋めだったのに、小太りの脂ぎったオッサンが目の前にいる。
 幻滅。

 男の手がスカートの中に忍び込んでくる。
「いや、やめてください……」
 抵抗する暇もなく、かすかな声でそう言うのがせいいっぱい。

 めくらなくてもアソコに手が届くほどの短いスカート。
 しかも今日は、ノーパン。
 ピアスを開けてから、下着をつけるのが辛い。定着してしまえば平気だってお店の人は言っていたけれど。

「そう。何かキラキラ光ってると思ったら、このチェーンだったんだ。いったいどこにつけているのかな?」
 顔に似合わない声が息とともに耳の中に吹きかけられる。
 いやだ。こんなオッサンなんかと。
 そう思えば思うほど、羞恥の中に秘められた悦びが溢れてくる。
 だめ、感じちゃ。

「すごく、濡れてるね。僕に触られる前から、濡れてたんだ。誰かに触られるのを期待して?」
「チェーンにお汁がしたたってるよ。辛かったんじゃない? こんなになるまで誰も助けてあげないなんて」
「ほうら、すぐに良くなるよ。おっと、もう十分良くなってるのかな?」

 あぁ………


 男に手を引かれるままに途中下車。
 駅裏の寂しくて小さな公園。
 ロクに手入れもされていないようで、ベンチが雑草の茂みの中に埋もれていた。
 ベンチに座った男の上に、あたしはゆっくりと腰を沈めてゆく。
 携帯電話で、会社に遅刻の連絡を入れる。頭痛がするので、病院によっていくから、と。
 その間も、小太りの脂ぎったオッサンは、あたしの中で……。

 会社に向かうために改めて電車に乗る。
 時々思い出したように、ドロリとした液体が太ももを伝う。

 

もどろっか

それとも、先に進む?