余韻 4
◆撓む(たわ・む) 「あっ……だめぇ……も……もぅおねが……」 アルコールが入ってるせいか、久しぶりに会ったからか? 祐一の胡座の上で弾み続ける怖さに懇願した。 「……でも菫子……ここ、こんなに……」 祐一は背中に回した手をワタシの股間に滑り込ませた。 そしてワタシの目の前で人差し指と中指をニチャニチャと動かした。祐一の指にねっとりと絡みつくワタシの蜜。 何度契ろうともセックスに対する後ろめたさが抜けない。 だから、いくつになっても恥ずかしさに泣きそうになる。アナタの濡れた指がそのままワタシの唇をなぞらえた。 突き上げるタイミングにあわせてワタシは指を舐る。 時折、グッと奥をこじ開けられる感触に反り返ると、アナタの腕がワタシを支える……その歓びにまた打ち震える。 しなやかに撓み続ける二人の宴。 人目をしのび月からも逃れ、熱の繭に閉じこもる。 |
◆散る(ち・る) シャワーが溜まり始めた浴槽から、祐一が両手を広げた。 ワタシは祐一に背を向け、伸びた足の上にそっと乗る。 「重くない?」 「ぜんぜん……」 祐一がワタシの左耳に舌を挿し入れながら笑った。 すると、彼の手のひらがワタシの両腿の下から伸びる。まるで小さな子供に排泄を促すような格好。 今にも祐一の強張りが未開の穴を突き破りそうな勢い。 身を硬くしていると祐一がすぼまる入り口で指をくねらせた。 「嫌ぁ……そっ……そこはだめ……ぁっ」 「大丈夫……大丈夫だから……」 アナタの声はトンネルのエコー。 こんなに響いているのにワタシは空っぽの躯(むくろ)のようで。 勢いあまった飛沫がワタシを濡らしアナタを濡らし…… 肩を背中を食い散らす野蛮なアナタの唇に叫ぶ。 「ゆ……ゆういち……もっと……もっと噛んで……」 |
◆啄ばむ(つい・ばむ) もう祐一は、ホテルを出なければならないはず。 なのにワタシは、浴槽のへりに腰をかけて泣いていた。 日頃見せないような子供っぽい仕種。 俯いたまま鼻をすすり、しゃくりあげていた。 祐一がワタシの顔を覗き込んだ。 ゆさゆさと、ワタシの両肩を掴んで軽くあやすように。 ワタシはそれでもあふれる涙を手で拭いながら首を左右に振った。 どうして、夜は短いの?どうして、家に帰るの? 判ってるのに……アナタはワタシを一人にしてしまう。 「まだ、痛む?」 祐一はワタシの前に膝まづき、唇をペロっと舐めた。 その唇は首筋から鎖骨、そして白い双丘にたどり着く。 柔らかな果実を下から持ち上げ、交互に啄ばんでみせた。 ハチドリよりも丸い刺激……軽く歯をあてられただけでワタシは白い喉を仰け反らせる。 |
◆呈(てい) 週の真ん中は、人も街もウンザリした顔つきをしている。そんなワタシを目ざとく見つけたのは、いつかの子犬だった。 いきつけのバーで、男を漁るコトだけはしたことがない。 そこに二度と行けなくなる方が切実な問題だから。 だから偶然とはいえ、契った相手と再会するのは面映かった。 子犬は、ワタシの隣に腰掛けて「ファジーネーブル」を頼んだ。 そんなにお酒は強くないと、聞きもしないのにぼそぼそと呟く。 「おれ……また菫子さんに会えて……嬉しい……」 ガチガチになった子犬が、震える手で乾杯をせがんだ。 「また寝てみたかったから?」 ワタシはライムをぎゅっと搾ったコロナの瓶を振って見せた。 子犬は必死で首を左右にブンブンふる。 ワタシを見つめるまっすぐな目。懐かしいな……こんな瞳。 多分、ワタシが祐一に全てを呈するように…… 子犬は一夜の契りで、ワタシに全てを差し出そうとしている。 |
◆棘(とげ) 子犬はとても我慢強い子だった。 床にはいつくばった子犬の尻を何度もピンヒールで蹴り上げたが呻き声ひとつ出さなかった。 そう、畜生は声をあげれば死ぬことを知っている。 ワタシは子犬の腰から引き抜いたベルトで狂ったように打ちすえた。 子犬はくぐもった声を喉から漏らしたが両手で頭を覆って耐え続けた。 口答えもしないその様子が、そしてこの異常な行為ではちきれんばかりにエレクトしているのが許せなかった。 そんな子犬の姿はいつか祐一に捨てられるワタシに見えた。 「と……菫子さん……ヘン……に……なるぅ……ぐぅ……」 子犬の哀願を無視して今度は素足の土踏まずでぐいぐいと股間を踏みつける。 今のワタシ。きっと砂漠のサボテンよりも鋭い棘でびっしりのワタシ。 誰も信じない……誰も信じられない……けれど愛されたくてもがき続ける。 人を傷つけ、自分も傷つけ……いつかこの棘も朽ちるのだろうか?。 |