余韻 7
◆跨る(またが・る) 寂しげな川沿いに空室のネオンをみつけたラブホテル。 ソファに座った汀の前で、勢いよくワンピースを脱ぐ。ストラップのないピンクのブラジャーはまるで踊り子のビスチェ。 後ろ手ではずして床にポイっと投げ捨てる仕種を、汀が目で追った。 今度は俯いたその手でショーツを押し下げると、最近手入れをしてない恥毛の陰から、ねばっこい体液が糸を引いた。 酔ったワタシの悪い癖。昔はちょっと激しいオナニーをすれば眠れた。 火照りが止まないのは、何度目かのセックスで男の味を知ってから。 ショーツもやっぱり脚でポンと蹴飛ばすと、汀がぎょっとした顔でワタシを見た。 そして、ひとなつっこい笑みをみせたかと思うと、両手でワタシを引き寄せる。 向かい合わせのまま唇を吸いながら、ゆっくり汀の太腿に跨った。 ひとしきりキスを楽しんだあと、汀はワタシの乳房に顔を埋めてきた。 それは男がよくする愛撫よりも単調な舌の動き。 けれど、母親を求める赤ん坊みたいに一心に。 |
◆淫(みだら) どんなに癇癪(かんしゃく)を起こしたって汀は逆らわない。 だから、ワタシは疼きをなだめる道具に彼を選んだのだ。 彼の愛撫にもどかしくなって、勢いあまってソファに汀を押し倒した。そして待ちきれずに肉棒を支点に腰を上下に振り始めた。 にゅく……にゅく……鈍い肉の擦れる音が響き始める。横に張ったカリが肉襞を押し広げながら出入りする感触。 あれが何より好きで、汀にもっともっとと叱咤したのだ。 「と……とうこさん……はやく動いたら……おれ……でちゃう」 「イヤぁ……もっと、ついて……汀のおち●ぽでおま●こ、ついてぇ……」 そういえば。 汀はワタシを怖いといった。セックスに取り付かれた鬼だと。 汀の肉も骨もしゃぶり尽くさんと躍起になる情欲の鬼。二人の向かう果てのない旅が怖いと…… そうね……男の果てと女の果ては根本的に違うもの。 なんて今更どうだっていいこと……ああ……もっと……もっと…… 遠慮がちな汀に、さらに淫を強いて、獣のようによがり続ける。 |
◆噎せる(む・せる) ワタシは噎せたタイミングでつい、汀の亀頭に歯を当ててしまった。 げほげほとワタシが咳き込んでいると汀が背中を軽く叩いてさすってくれた。 ごめん…… いいんですよ、おれなんかに気を使わないで。 うん……でも…… おれ、菫子さんが呼んでくれて嬉しかった…… みぎわ…… 好きなんでしょ? そのひと…… ……ん……わかんない…… そのひとにね、思ってること言わなくちゃ……おれにはできるでしょ? 菫子さん。 うん……汀にはいえるのに……なんでだろ? 汀が立ち上がってワタシにペラペラのガウンをかけてくれた。ブルーとピンクのお揃いの……ホテル名の入った一枚布の安っぽいヤツ。 そのまま汀はワタシを背中からぎゅっと抱きしめてくれた。 ワタシは時折咳き込みながら、汀の粘液を口からこぼした。 そして、床に俯いたままポタポタと涙が落ちるのを眺め続けた。 |
◆瞑する(めい・する) マンションの手前で、ワタシは汀の車から降りた。 汀も運転席から降りてきて、ワタシの前で立ち止まった。ワタシは汀の唇に、そっと人差し指を伸ばす。 差し出した人差し指を彼はかりっと噛んだ。 これがワタシたちの契約。昨夜の懺悔を共有しあった…… 噛まれた指先からワタシは、ビリビリと痺れたままになる。 そして、しおらしい様子でその胸にもたれかかり、汀を見上げる。彼の瞳は吸い込まれそうなほど澄んでいて…… いつか雑誌でみた南洋の海のように凪いでいた。 ワタシはうっとりと睫(まつげ)を伏せてみる。 祈りを捧げるように瞑するワタシに、汀が啄ばむようなキスをくれた。 「おやすみのキスね?」 「そう……おとうさんがよくするみたいな……ね」 ワタシは無邪気に再び"そのキス"をせがんで目を閉じる。 真夏の明け方が一瞬冷え込むのを祐一は知らない。 |
◆縺れる(もつ・れる) エレベータで5Fのボタンを押し、汀の触れた唇を思い出していた。 そして、今日が土曜だったことを思い出し、なおホッとした。 いつもなら、祐一が来ないことを寂しがったが今は違う。 気まずさの内訳は彼に手をあげたこと、そして汀と過ごした夜。 501のドアの前、ドアノブに鍵を差し込んだときだった。鍵を回す右手をぐっと掴んだ大きな手にワタシは喉を詰まらせた。 「ゆ……祐一……どうして?」 アナタはそのままドアを開けさせ、羽交い絞めのままベッドに縺れこんだ。 「酔っ払いには来て欲しくないんだろ?」 「でも……今日は土曜日……なのに……」 アナタは覆い被さりながら、一気にワタシのショーツをずり下ろす。そしてワタシの足首を両肩にかけ、捲れあがったワンピースから腰を掴んだ。 昨夜、何度も汀とまぐわった秘口に二度三度、亀頭が入ったかと思うと、それはもうひとつの穴へと照準を定めた。 ワタシはいつもと違うことにようやく気がつき、祐一の背中に爪をめりこませた。 |