余韻   8 

 

◆破る(やぶ・る)

「い、い、いたぁぁいぃぃ……やめてえぇぇ……ぎゃあぁぁぁぁッ!!」
「死にそうな声だすな……ほら……すぐよくなるって……んッ……んぅ」
 女の壺と粘膜で隔たった一方通行の穴で、祐一はゆっくりと抽出を始める。
 ワタシが叫ぶたびに、手のひらで口を押さえ込んで腰を突き出す。
 そして、とろんとした目でワタシの唇に吸い付き、舌を捻じこんできた。
 覚醒しきったワタシのカラダは、毛穴中から脂汗を噴き出していた。ただ悪寒に支配されたカラダ……食いしばった勢いで下唇を噛み切った。

 興味本位で同級生と初めてセックスをした時
「おれが初めてなのに、なんで血がでないんだ……」
と、呟いた彼とはそれきりだった。
 あれから、ワタシは何人もの男とまぐわった。その誰もが、意志とは関係なく濡れるワタシを歓んでくれた。

 ワタシの肛門に指を添えたあと、ちょっと切れてるけどそのうち直るよ……
 と、唾液をつけて、やっぱりズンズンと切り裂いていった。
 初めて男根を迎え入れた、処女をられた痛みなどと比べようもなく。

 

◆緩む(ゆる・む)

 目が覚めると、アナタがお湯で洗ったタオルで、ワタシを清めてくれた。
 涙と涎と精液の痕のついた、顔やお尻を丁寧に。
「腹……へっただろ?」
 ワタシは首を左右に振ったが、アナタはワタシをベッドに起こした。
「俺が腹へったんだよ」
 にっこりと微笑むアナタの目は何故笑ってないのだろう?
 いや、もともとアナタは表情が乏しい人だった。

 迷子になったら大変だ、とアナタが鞄から赤い首輪を取り出した。
 一見、パンキッシュなファッションに見えなくもないワタシの喉元。
 ジャキジャキ……下着は工作用のはさみですべて切り刻まれた。
 そのかわり、ガーターベルトとストッキングは、つけてもいいと許してくれた。
 彼がえらんだ薄い紫のノースリーブと膝の見えるタイトスカート。
 肩に羽織ったシースルーのボレロは、優雅な羽衣にも見える。
 けれど、現実のワタシは空にも帰れない似非天女だから。
 承諾する代わりにワタシは唇をませて、アナタの笑顔を真似てみせた。

 

◆酔う(よ・う)

 宿(ふつか)いの懺悔のように。
 どうにでもなればいいと思っていた……もはや……

 傾き掛けた真昼を、二人で歩くのが夢だった。すれ違う誰もが、ワタシから視線を反らして通り過ぎる。
 そのくせ、舐め回すような好奇の眼差しを痛いほど感じた。
 意思とは裏腹に、ノースリーブの生地を突き上げる乳首。
 スカートだって、見ようによっては恥毛の存在を知らしめるに、十分すぎる薄さだ。
 凡庸な住宅街には不釣合いな、情欲を晒けだした娼婦も同然。

 耐えかねたワタシが、祐一の背中に隠れようとすると、アナタが耳元で囁く。
「ちゃんと、上向いて歩かなくちゃ……ね?」
 また、あの抑揚のない声……瞳の奥に意地悪い光を跳ね返して。
 どこへ向かうのだろう……ワタシは?
 どこを目指すのだろう……アナタは?
 ペタン……ペタン……
 素足に履いた黒のミュールが、歩くたびに踵を鳴らした。

 

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