「俺があんまり長い間ここにいても変だから、もう帰るよ」 増田がそう言ったのは、2度のセックスのあとだった。わたしは彼に2度も抱かれてしまったのだ。 わたしも増田もこの頃には全裸になっていて、衣服が回りに散乱していた。テーブルの上も片付けきれなかったカップやグラス、中途半端に残った食べ物が放置されていて、宴の後と言うより退廃的な雰囲気だった。金田君はピクリとも動かない。 わたしはすっかり酔いが醒めていて、結構後悔していた。肉体が高められていく中で、アルコールのほてりが醒めてゆき、何度も何度も「こんあことしてちゃダメ」と、わたしは罪悪感に見舞われた。にもかかわらず、されるがままになっていたのは、既に一度、完全に抱かれてしまっていたからだろう。そうでなければ、どんなに感じたって、拒否したに違いなかった。 金田君が寝ながら観ていたビデオは既に終わり、画面は真っ青になっている。わたしはビデオの再生を止めた。 増田が部屋を出てすぐ、わたしは大切なことに気がついた。 (口止めしとかなければ!) 増田がこのことをべらべら喋るとも思えなかったけれど、万が一ということもある。なにかの拍子に口に出してしまうかもしれない。ひとこと「誰にも言わないでね」と言っておけば、そういうことはないだろう。 わたしは増田を追った。 下着を付ける暇もない。わたしはシャツを羽織り、スカートの裾を引っ張りながら、階段を下りた。 「内緒だよ」と、わたしは彼の背中に叫んだ。 「当たり前じゃないか」と、彼は振りかえりながら言った。 本当はもうひとこと、「今夜のことは忘れてね」と言いたかったけれど、言えなかった。わたし自身が忘れられそうになかったからだ。 シャツのボタンを止めながらトントンと階段を上る。「当り前じゃないか」と増田が答えてくれたことでわたしの気持ちは軽くなった。罪悪感がほとんどなくなっていた。軽快にステップを踏みながら階段を上がると、着地のときにシャツの裾がフワリと揺れて、下着を着けていない肌が見え隠れした。 山之内君が起きるまでに、少し片づけでもしておこう、そう思いながらドアを開けると、金田君が立っていた。 (どうして?) わたしは悪い予感がした。わたしの足音に彼が目を覚まして、音のする方へ様子を見にやってきただけかもしれない。なのに、悪寒にも似た何かがわたしの神経を逆なでしたのは、彼が部屋の入口でわたしを通せんぼするかのように仁王立ちになっていたからだ。しかも、思いつめた表情で。 「俺にもやらせろよ」 「え?」 わたしは耳を疑った。 「だから、俺にもやらせろって」 わたしは硬直した。 まさか、という思いと、やっぱり、という気持ちが交錯した。彼のただならぬ様子をわたしは警告と感じていたのだ。これが悪い予感の原因だった。 「見てたんだ」と、金田君はボソリと言った。 「嘘!」 「嘘じゃないよ」 わたしは目の前が真っ暗になった。わたしには山之内君という恋人がいる。にもかかわらず、単なる友人でしかない増田に抱かれた。それも強姦ではない。なんとなく雰囲気に流されて・・・。しかも思いっきり感じて、2回もした。 そして、それを金田君に見られた。 「やらせてくれたら、誰にも何も言わない。」 どうしていいかわからずただうろたえるわたしに、金田君は交換条件を出してきた。 やらせてくれたら、誰にも何も言わない、と。わたしに選択肢は、あるのだろうか? 多分、ない・・・ |
酔いが醒めたせいかもしれないけれど、増田の時のように、「こいつなら嫌じゃない。ま、いいか」なんて気持ちにはなれなかった。けれど、山之内君にこのことを知られないためには、言いなりになるしかないのだろうか? でも、「いいわ、やらせてあげる」なんて言えない。言えるはずもなかった。 身動きできないでいると、いきなり抱きしめられた。 「俺、好きだったんだ。由美のこと、ずっと好きだったんだ」 冗談じゃない。わたしは彼からそんなそぶりを感じたこともないし、もちろん好きだと言われてハイそうですかと返事が出来るわけがない。好きだというのならこんな卑劣な方法を選ばずに、正面からぶつかってくればいい。 「一度でいい」と、彼は言った。 一度だけ抱き合うことに、何の意味がある? わたしは彼の言っていることが理解できなかった。 思わず金田君を突き放していた。すると金田君はニヤリと笑って、もう一度抱きしめてきた。 「ばらすぞ」と、耳元でささやく。 「いや。それだけはいや。何もかもめちゃくちゃになってしまう」 わたしは抱きすくめられたまま「いやいや」をした。 「だったら」 金田君は無理矢理唇を押しつけてきた。 またキスしちゃった。 まあいいやと思った。「キスぐらい構わない」というのでなく、「キスぐらいで大騒ぎしても仕方ない」という気持ちだった。なにしろ、貞操の危機にあるのだから。 「見たんでしょ? だったら、わかるでしょ? わたしは汚いわよ」 なんとか思いとどまらせようとした。でも、わたしと増田の濡れ場で金田君は歯止めが利かなくなっているみたいだった。彼の興奮した息づかいがすぐ耳の傍で響いている。 わたしは押し倒され、止めたばかりのボタンを外された。 そして、胸を乱暴に捕まれた。 いつもなら痛いだけなのに、2度のセックスで身体が熟れてしまっていた。感じてしまったのだ。 わたしは急速に上り詰めていった。 「わかった。でも、約束して。これっきりよ。それから、誰にも言わないでね。言ったら、あなたにレイプされたって言うから」 「わかってるよ。わかってるよ」 金田君は壊れた人形のように上下に頭をがくがくさせながら言った。 「それから、乱暴もいや」 意外なことに素直に金田君は「悪かった」と言った。 金田君はネチネチとわたしの身体を触ったり嘗めたりした。 あ〜あ、こいつともするのか、全く。 気持ちは冷めていたけれど、身体は敏感に反応した。 セックスって、こんなに気持ちいいの? わたしは目を閉じて、山之内君にされているんだと思うことにした。 肝心の山之内君は酔いつぶれて眠ったままだ。わたしと金田君の発する色々な音の隙間に、寝息が届く。焼けただれたアスファルトに落ちた一滴の水があっというまに消え行くように、わたしの色々な感情は蒸発して見えなくなる。焼けたアスファルトは、いうまでもない、わたしと金田君の絡み合った身体だ。 「なあ、このドロドロ、増田のだろう?」 わたしのアソコから、何度かにわけて、増田の置きみやげが流れてくるのは分かっていた。 「しょうがないじゃない。さっきやったばかりだもん。嫌ならやめれば?」 どうでもいいや、と思った。 そっちが勝手に興奮して、脅迫して、レイプしてるんだから。わたしの知った事じゃない。 「こっちに入れるぞ」 わたしが何か考える暇もない、金田はお尻に指先をあてがった。 「やめて!」 「そんなこと言える立場じゃないだろ? 約束通り優しくするから」 グイっと指先が皺を切り裂いた。激痛が全身を駆け抜ける。 「痛い、痛い、痛い」 「がまんして」 冗談じゃない。何で、、、、。そう思いながら抵抗をしなかったのは、彼の脅迫に怯えていたのか、それとも本心では彼を拒否していなかったのか。とにかく正常な精神状態でないことだけは確かだった。 痛みが少しづつ収まってきた。消えない痛みが残るものの、指が根本まで入ったのか、それ以上の痛みを感じなくなった。 それどころか、変な気持ちになってくる。 金田の指が動き始めたのだ。 少し、気持ちいいかも。どこ触ってるのよ。 考えて、わたしは全身が熱くなった。金田君の指はわたしの直腸の内側をこねくり回している? 直腸の内側? どうして、そんなとこ! 今まで誰も、そうわたし自身も触れたことのない場所。 そう思うと異様に興奮してくきた。そんなバカな。わたしは自分の意思に反して、蹂躙されているのよ。感じたり、興奮したりするわけがない。 金田君はただ指で直腸の内壁を悪戯しているだけじゃない。肛門を意識的にこじ開けようとしていた。ここに入れるつもりなのだ。 まさか、そんな。入るわけない。でも、入れたらどんな感じがするのだろう。 自分でしたことのあるヴァギナと違って、全く想像がつかない。 指を入れられて、今までの快感とも違う、異質な気持ちよさ。お腹の中をかき回されるような感じ。 「わかったわ。そこでいい。でも、これっきりよ」 冷たい口調で言うわたしは、本当は少し期待感が膨らんでいた。拒否反応はほとんどなくなって、この先自分がどうなるのかという気持ちが芽生えている。 指を抜いた金田君にわたしは両足を持ち上げられた。 目を開けると、金田君はねらいをさますようにわたしの恥ずかしいところを凝視している。 こんな男に。 こんな男に見つめられるなんて、いやなのに、いやなのに興奮してくる。 金田君は先っぽをわたしのお尻にあてがった。 ぐいぐい突いてくるけれど、なかなか入らない。 無意識のうちに肛門をきゅっと閉じている事に気が付いたけれど、どうすれば開くのか分からなかった。 そして、開いてあげたい、受け入れてあげたいと思っている自分に、わたしはもはや観念した。この男とセックスするしかない。全てを受け入れよう。それで終わるんだ。 金田はわたしの足から離した手をお尻の両側に添え、ぐいと肛門を開いた。 先端が入ろうとする。 わたしはびっくりして、排便の時のように力んだ。 入りかけた彼を排泄しようとしたのだ。それで、逆にお尻が開いてしまった。 グググーっと一気に押し込まれる彼のもの。 わたしは絶叫していた。 恐怖感と、痛みと、そしてついに挿入されたという喜びで。 こんなヤツにお尻を犯されてなんで喜ばなくちゃ行けないのと心の隅で思っていたけれど、こんな所でいいと言ってくれたことに心が動いていたのも確かだったし、身体も反応していた。 普段何者にも触ることが出来ない場所を掻き分けられて、気持ち悪い、という感覚と、気持ちいい、という叫び声がごっちゃになった。わけわかんない。 わけわからないうちに、金田君は射精を終えていた。 |
わたしは身繕いをする気力もなく、金田君にやられたままの格好で、目を閉じ寝そべっていた。 悲しいのか、悲しくないのか、分からなかった。 金田君はとうに帰って、やがて山之内君が目を覚ました。 「ど、どうしたんだよ」 どうしたと言われて、一目瞭然。 わたしは隠し立てする気も失せていた。そして、わたしは悪魔のような女だなと思った。こんな事になって、誰が悪いのかと言えば、わたしがいちばん悪いに決まっている。 増田の誘いに乗ったのがそもそもいけないんだし、拒否することは簡単に出来た。 増田に抱かれたいと思ったのは真実なのだ。 でもわたしは山之内君との仲を壊したくなかった。 「犯されちゃった。かわりばんこに。女の子はみんな帰っちゃうし、あなたは寝てて気が付かないし」 山之内君のせいにする事を思いついたのだ。 「ぶっ殺してやる」 形相を一変させて部屋を飛び出そうとする山之内君をわたしは飛び起きて羽交い締めにした。 「やめて、そんなことしないで」 「どうして! 由美チャンは悔しくないのか!?」 「だって。みんなにばれたら何もかも無茶苦茶になる」 山之内君の力がわたしの腕の仲で抜けていく。 「わたしは何も言わない。だから、黙っていて」 彼はわたしが半ば増田の誘惑に乗りわたしも求めていたということを知らない。額面通り、輪姦されたと思っている。 その事実がまわりに知れ渡ったら、わたしがどうなるか。 そのことについて考えたのだろう。 「でも、俺は」 「お願い、何もなかったことにして」 わたしは彼の手首をつかみ、そして哀しみに満ちた目で彼をじっと見た。 「わかったよ」 彼はわかってくれた。これで一安心だった。わたしは悪魔になりきろうと決心した。この期に及んで、山之内君を失いたくなかったのだ。 「でも、あなたとはもう終わりかもね」 「どうして」 「だって、レイプされたような女、いやでしょう?」 彼がイヤと言うはず無いことをわたしは知っていた。本心がどうあれ。 「そんなことないよ」 無理して言っている。わたしには分かっていた。 けれど、それでも、わたしは山之内君に抱かれなくてはいけない。 この機会を逃したら、彼のことだから永遠にわたしを抱こうとはしないだろう。友達にレイプされて汚れた女を。そして、いつその口から、その事実が漏れるかも知れない。 「だったら、抱いて。わたしはあなたに抱かれるためにここにいるのよ」 「うん」 そうして、山之内君は泣きながらわたしのことを抱いてくれた。 自分が迂闊にも眠ってしまったために、恋人を輪姦されてしまったんだという罪の意識にさいなまれながら。 ごめんね。山之内君。 他に方法があったかも知れないけれど、わたしにはこれしか思いつかなかったの。 心の中で詫びながら、わたしの中の悪魔は、山之内君のセックスにも歓喜の声を上げていた。 |
結局わたしと山之内君の恋は、この日を境に事実上終わった。 山之内君は約束通り誰にも何も言わなかったけれど、増田や金田君との付き合いもそれっきりになったようだ。 お互い触れたくない話題だろうし、当然だったかも知れない。 増田はあのあとのことを全く知らないから、今まで通りわたしと接してくれていた。 増田に抱かれるのは心地よかった。 けれど、増田と咲ちゃんは徐々に心が離れていった。 「由美に取られちゃったね」と、咲ちゃんはあっけらかんと言う。 彼女は何も知らないのだ。 「ごめんね。そんなつもりはなかったんだけど」 「いいのよ。由美と彼はものすごく気が合うみたいだったし、もしかしたらいつかはこうなるのかな、なんて気がしてた」 「わたしは友達でいられると思っていたの」 「いいの、いいの。気にしないで」 咲ちゃんには新しく好きな人が出来た。それも咲ちゃんと増田が別れる原因の一つではあったようだ。そして、これがきっかけで付き合うようになったらしい。わたしとしてはひとつ肩の荷が下りた感じだった。 「増田は、スケベだし、一度許したらズルズル迫ってくるから、簡単に許しちゃダメよ」 咲ちゃんはこういってくれたけれど、もうわたしと増田はズルズルのグチャグチャだった。 「うん。ご忠告感謝」 |