語り部は由美
大学1年生 淫ら(8)





 この日は、夏合宿の最終日。
 朝食をとりながら、部長が今日の日程を発表する。発表と言ってもあらかじめ組まれたスケジュール通りである。毎朝部長がスケジュールを伝えるのは、確認でもあり、儀式でもあった。
 毎朝のこの儀式では凛とした空気が張り詰める。しかし、今日は違う。皆の頬の筋肉は弛緩しており、穏やかな笑顔。のんびりした雰囲気が漂う。
 というのも、これまでは夜間にどんなにインモラルで破廉恥な行為が繰り返されていたとしても、日々のプログラムはきっちりとこなして来なくてはならなかった。クラブ活動としての公式スケジュールがあり、それは部内だけで全てが決められているわけではない。例えば「農業実習」とか「肢体不自由児の施設でのボランティア」などは事前に「いつお伺いします」なんて打ち合わせがしてある。
 でも、最終日の今日は全てが部内のみで行われる。だからどんな事態になってもオッケーということなのだ。
 今日のプログラムは夕方からだ。まず、バーベキュー。そして、キャンプファイヤー。最後が星空の下での混浴露天風呂だ。今日一日、全てはそれらの準備に費やされる。

 バーベキューのためのかまどはコンクリートブロックをコの字型に積んだものだが、一年間放置されており、あちこちが欠けたり崩れたりしている。まずはこれを補修しなくてはいけない。ここは貸しコテージだから私たち以外にももちろん使う人はいるんだけど、誰も修理なんてしない。もっぱら私たちが手入れをすることで安く貸してもらっている。
 とはいえ所詮素人工事。本格的なメンテナンスなんて出来っこない。欠けたり崩れたりした場所に適当な大きさの石をあてがい、ホームセンターで買ってきた補修用のチューブ入りコンクリートを塗りつけるだけである。
 部室にはバーベキューセットがあるのだけれど、それでは雰囲気が出ないので、夏合宿だけは使わないのだ。
 同時に、倉庫にしまいこんであった網や鉄板のさび落とし、食器類の洗浄なんかも進める。食材の買出しや仕込みもしなくてはならない。
 キャンプファイヤーの薪は鉄道会社から譲り受けた古い枕木だ。これを井の形に積み上げ、さらにそのまわりを8角形に積み上げて囲む。木っ端と丸めた新聞紙を真ん中に詰め込む。準備が出来たらビニールシートで覆っておく。
 そして、もうひとつが露天風呂の準備だが、これが大変なのだ。
 コテージの裏の林にしつらえられた露天風呂は湯船に湯と水のそれぞれの蛇口があるだけのシロモノで、ジャグジーどころか洗い場もない。野趣が溢れている。メンテナンスが大変なのでオーナーは管理を放棄している。貸しコテージのパンフレットにはもはや「露天風呂あり」とは記されていない。先輩から後輩に受け継がれているので私たちはその存在を知っているが、「使いたければご自由にどうぞ、でも、掃除は皆さんでして下さいね」というシロモノなのだ。だから年に一度、私たちが使うだけだ。
 つまり、実体は泥水プール。
 栓を抜けば簡単に排水できるが、そんなことをすると、アッという間にゴミが詰まってしまう。だから最初は木の葉や枯れ枝、虫の死骸などを手で取り除くことから始めなければいけない。栓を抜いてからも、底にたまった大きなゴミ類を手で取り除きながら、時には排水を中止して床をさらえる、ということを何度か繰り返しながらの作業だ。
 その後はデッキブラシでごしごしこする。水を流す。この繰り返しだ。プールを小さくしただけのような愛想のない形をしているからこの作業は力任せに進める事が出来る。
 そして、いよいよ、お湯を張る。

「作業は大変だけれど、静寂に包まれた暗闇の林の中で、湯に浸かる気分は最高だ!」
 そう言われれば、とても入りたい気分になる。お風呂の掃除なんて、農作業や登山に比べれば楽勝に思われた。私は風呂係を自ら買って出た。
「ただし、気分は最高でも条件がある!」と、部長は強調した。
「全員で、もちろん裸ではいる。しかも、このサークルはこういう雰囲気のところだから、その後のことは想像が付くだろう?」
 このサークルはこういう雰囲気、とはよく言ったものだ。ようするに、みんな揃っての露天風呂からお楽しみ乱交パーティーははじまるのだ。
「馴染めないものは、帰るように」
 あらためて言うまでもなかった。
 もともとナンパなサークルだということは、入部して少しすればわかる。夏合宿がどんな修羅場(あるいは阿鼻叫喚)になるか予想も付くだろう。でも、その乱れ具合が想像を上回っていたのか、6人いた女の子のうち既に2人がリタイヤしている。
 残ったのは、私と、同室の成美サン、岡寺先輩の彼女のサツキさん、参堂さんのGFの愛子チャン。以上である。

「覚悟しなくちゃ」と、キョウスケが言った。
「なんで?」
「だって、お前、ずっと俺専属だっただろう? その間、残りの3人が輪姦されまくってたんだぜ。その分、今夜はみんなに狙われるって事だ」
 大勢の男たちに輪姦されるのは平気だった。これまでに何度でも経験はある。
 けれど、不安もあった。
「キョウスケは、平気なの?」
 私が心配なのはむしろキョウスケだった。自分の彼女が10人もの男達に次から次に犯されるなんて、どんな気分なんだろう。
 最初から男子部員の玩具という存在だったら私だって何も考えなかっただろう。けれど、私はキョウスケの彼女なのだ。
「平気って、何が?」
 何がって、アナタの彼女が大勢の男に次から次へ挿入されるのよ。
 それともキョウスケは、自分がたくさんの女の子と出来ることばかりに意識が行っていて、私のことなど眼中にないのかしら。
「だからあ」
 と、私は言った。
「キョウスケはたくさんの女の子と出来て嬉しいかもしれないけど、それって同時に、自分の彼女だって色んな男と寝るってことなんだよ」
「俺はまともじゃないんだよ。由美がいろんな男にやられてると思うと、それだけで興奮する」
「あ、そ」  と、素っ気なく私はこたえた。なんだかあれこれ心配したのが馬鹿馬鹿しくなった。
 いや、そうじゃない。キョウスケが本当に彼の言うところの「まともじゃない」んなら私だって何も気にしない。けれど、彼はそういうタイプには見えないんだよね。表面どうつくろっても、もっとナイーブな気がする。
「お前はどうなんだよ」
「どうって?」
「俺が他の女とやっていても平気なのか?」
「好きなようにしたら? 私はただの淫乱だから」
 キョウスケとの仲もこれで終わるかも知れないな、と私は思った。自分の事がきちんと理解できていない人って、あとで大きく傷つくものだから。

 露天風呂は見事な泥水槽だった。観光旅館のお風呂のように広くはない。せいぜいタタミ三枚分ぐらいだろうか。
「これ、深さはどれくらい?」と、私は訪ねた。
「ううん、お尻ぐらいだったかなあ」と、羽原クンが言った。
 彼のお尻だと、私の腰ぐらいだ。
 部長の話の通り、とても栓をぬいただけでなんとかなりそうな汚れ具合ではない。あっという間に排水口が詰まるだろう。こんなに汚い水に浸かるのは気が進まないが、中に入って大きなものからまず取り出さなくてはなるまい。深さが腰までもあるなら、スカートをたくし上げてというわけにはいかない。私は裸になる覚悟をした。
「脱ぐわ」と私は言った。どうせここには羽原クンと愛子チャンだけだ。脱ぐことに抵抗はない。
「あ、ちょっと待って」と、羽原クンは蛇口をひねった。水も湯も全開にする。ボイラーのスイッチを入れていないからどちらからも水しか出ない。
「溢れさせよう。少なくとも表面に浮いているものは流れ出すはずだ」
 しかし、あまりうまくいかなかった。
 水平に見えた浴槽だったが、微妙に傾いていた。水がたまって溢れ始めると、周囲から平均的に流れ出すのではなく、一番低くなっているところからだけ水が流れ出る。そのせいで浴槽全体に水流が行き渡らず、一部分の表面は確かに浮遊物が流れ出して綺麗になったが、それ以外のところは澱んだままなのである。
 浴槽の周囲は、縁から50センチくらいはコンクリートで固めてあるけれど、その外側は地面である。何の舗装もしていない。水が溢れ出る部分だけがどんどんぬかるみ状態になっていく。
「ダメだわ、これじゃ」
 昼食に呼ばれたのでとりあえずこのままにして食堂に向かった。チャーハンの簡単な食事を済ませると私たちは露天風呂に戻ってきた。
 相変わらず浴槽は泥水だったが、私は下半身裸になり、上半身はTシャツをまくってオッパイの下で結び、水の中に入った。冷たくて気持ちよかった。ただし、目を閉じて汚れた水を見なければ、だけれども。
 私はバケツを手に、バシャバシャと水を外へかきだした。すくった水を遠くへ放り投げるようにして。
 羽原クンと愛子チャンは、水浸しでぬかるんだ地面の水はけを良くしようと、斜面に向かってスコップで溝を掘り始めた。家庭菜園用の小さなものだから、あまりはかどらない。なんだか幼稚園児が砂場に水を流し込んで泥遊びをしているみたいだ。
 おおよそ表面に浮かんだ木の葉や枯れ枝、虫の死骸や、なんだかわけの分からないものを掻き出した。水路もまずまずできた。幅10センチ深さ5センチというたわいのないものだが、それでも溢れた水をどんどん斜面に導いてくれていた。
 蛇口を閉め、浴槽の栓を開ける。ゴポ、ゴポポポと音がして、水が排出される。ゆっくりと水位が低くなってゆく。
 お風呂の底には、小さな砂や小石が沈んでいて。足の裏がジャリジャリしていた。
 私は水の中に手を入れて、小石を拾い上げた。砂は自然と流れるだろうし、残った分はホースで水をぶっかけて、水圧とモップか何かで排水口へ誘導するしかないだろう。
 水位が下がっても、元がかなり汚れていた水だ。私の身体の表面にはなにか得体の知れない気色の悪さが残ったままだった。私は蛇口の傍により、水道をひねって水を出し、その下で巧みに身体の位置を変えたりひねったりして、水流を浴びながら気持の悪い部分を手で擦った。
 普段の入浴でもこんなに真剣に身体を洗ったことはあまりないような気がした。
 ツルリとタオルで肌を撫でるだけで終わっている。
 洗い残しがないように隅から隅まで神経を使いながら身体をくねらせていると、なんだか男の人に愛撫を受けているような気分になってきた。
「あ、由美ちゃん丸見えー!!!」
 羽原クンが叫んだ。
 彼は浴槽のヘリに腰掛けて私をじっと見つめていた。
「やだあ、どこ見てるのよ」
「ア・ソ・コ」
「なによ、のんびり座って見物?」
「俺も中に入ろうと思ったんだよ」
 言い訳がましくも聞こえたが、確かに羽原クンは靴と靴下を脱ぎ、ジーンズの裾をまくっている。彼も浴槽内の作業に加わろうとしていたのだ。
「そしたら、目の前に由美ちゃんのアソコがあるだろ? ついつい、ね」
「見たければどうぞ。さんざん弄ばれた後だから、もう平気だもんね」
「あ、そ。じゃ、もっとよく見せてよ」
 羽原クンは浴槽に降りて私に後ろから近づき、お尻からアソコにかけて掌をあてがった。
「あん」
「濡れてるよ」と、耳元でささやく彼。
「ばか。汗かいてるだけよ」
 汗じゃなかった。男の人に愛撫されている自分をさっき想像したものだから、愛液が染み出してきたのだ。
「へえー。こんなとこ汗かくんだ」と言いながら、羽原クンは指の先をクリトリスにまで伸ばしてくる。 「あ、いやあん、感じたらどうするの」
「もう感じてるくせに」
 その通りだった。
 
 羽原クンの指先が、クイクイって、悪戯を仕掛けてくる。
 私は体を起こした。羽原クンは手をアソコから離し、うしろからそっと抱きしめてくれた。
「優しそうなそぶりをしてもダメ。わかってるんだから」
「何が?」
「隙を見てやろうと思ってるでしょ?」
「うん、やろうと思っている。お風呂のそうじをね」
 羽原クンは私を離し、浴槽の脇に置いてあったホースに手を伸ばす。蛇口にホースをつなぎ、何事もなかったように水栓をひねった。
 これまでこういうシチュエーションになったときはほぼ間違いなく、お互いの本能の赴くままにむさぼり合うようにセックスした。なのに今日は、中途半端なまま放置されてしまった。
 羽原クンに後ろから抱きついて彼の股間に掌をあて、男性自身をもみしだきながらジッパーをおろして彼のものを引っ張り出して・・・
 そんな衝動に駆られたけれど、まじめに掃除を続ける愛子チャンの姿を見るとそうもいかない。
 私たちは3人して、浴槽壁に洗剤をかけてたわしで擦り、水で洗い流すという作業を繰り返した。
 壁が綺麗になると床をデッキブラシで磨いた。磨きながらホースの先端を絞って水圧を増した水で汚れを押し流し、また洗剤をまいてデッキブラシで擦った。床がどんどん綺麗になってゆく。風に舞って葉が落ちてくると「コンチクショー」と思えるほど綺麗になった。
 
 氷を詰めたバケツに麦茶の入ったペットボトルを突っ込んで木陰においてある。私はそれをとってごくごくとラッパ飲みをした。こめかみにキーンとくるほど冷えた麦茶が喉元を通り過ぎる。火照ったからだが急速に冷えていった。
 地面を大きく持ち上げながら盛り上がった木の根元にため息を付きながら腰をかける。
 羽原クンは私から受け取ったペットボトルを「間接キッスー」と叫びながら唇をあてた。
 間接キスをどうこういう年齢でもなければ、そんなものにときめくにはあまりにも色んな経験をしすぎた私だけれど、その語感の響きにはなにか心をドキドキさせるものがあった。
 羽原クンは飲み終えたペットボトルを愛子チャンに渡すと、私の隣に座った。
 来るな、と私は思った。
 予想通り彼は私に身体を密着させてきた。
 彼の腕は私のオッパイに重なり、Tシャツ越しに乳首が微妙に刺激された。
 お風呂掃除をしながらも妄想を膨らませていた私はあっという間に乳首が固くなった。
 彼の腕にそれが伝わったかどうか。
 性的な興奮の度合いが増していくのを、彼に感じ取って欲しいと願った。
 けれど羽原クンはそれっきり無反応だった。作業に疲れた身体を木の根元と私の身体に預けながら、一息入れているように思えた。
 じれた私は「ねえねえ、さっきの続きはしないの?」と訊いた。
 
「慌てなくても、今夜はむちゃくちゃになるぜ」
 羽原クンは私の耳たぶに唇で擦りながら言った。
 多分「擦る」なんて意識はなかったのだろう。そっと唇を当てただけ。でも、その言葉を発するために唇は動く。そのときの触覚が微妙な官能を導いた。おまけに言葉と一緒に耳坑に流れ込んでくる息。お尻の穴の中がゾクゾクした。
 耳たぶに唇をあてて喋るだけなのに…。シンプルな高等テクニックだった。
「だって…、もうむちゃくちゃになりたい……」
 私は羽原クンの手を取り、太股の付け根に導いた。相変わらず私は下半身丸出しだ。Tシャツだって濡れて透けている。
「あ」
 ぐっしょりと滴る雫に、彼は少し驚いたようだった。
「我慢できない?」と、彼が訊く。
「我慢できない」と、私はこたえる。
「淫乱なんだ」
「そうだよ。いっつもいやらしいことばかり考えてるの」
「だれが由美ちゃんをこんな女の子にしたんだい?」
「ううん、私を通り過ぎていった男達」
「何人ぐらい?」
「わかんない」
 彼から発する言葉の一つ一つが私の官能を上昇させていく。耳たぶの表面を、まるで産毛を愛撫するようなわずかな彼の唇の動き。耳の奥をくすぐる言葉達。相変わらず彼は体勢を変えようとはしない。彼の掌は私が導いたときのまま。クリやヴァギナを刺激したりはしないけれど、確かに男の人の体温がそこにある。
 溢れ出る愛液は彼の指を濡らし、そのことによって羽原クンは私が上り坂にあることを敏感に感じ取ってるに違いなかった。
 会話を交わしながら、私は羽原クンのズボンからオチンチンを引っぱり出して、しごいた。
「うう」
 羽原クンの先端からもスケベ汁が溢れてきた。カリを指先で丁寧になぞってあげると、ピクピクと反応する。
 ふと視線をそらすと、湯船のへりに座った愛子チャンがせつなそうな目つきでこっちを見ている。足がぎゅっと閉じていて、アソコを自ら圧迫しているのがわかった。
 
「愛子、アレを持ってきてくれ」と、羽原クン。
「・・・はい・・・・でも・・・・」
 はい、と返事をしたものの、愛子チャンは躊躇していた。眉間にしわが寄る。何か不満そうな表情だった。
「いいから」
「でも、だって、・・・あれは今晩私に使ってくれるって・・・」
「お前にも使ってやるよ。それに、な、言うことをきいてくれたらお前には今夜もっといいことをしてやるから、な」
 もっといいこと、のところで愛子チャンはわずかに顔を赤らめた。
「わかった。約束よ」
 浴槽から1メートル程度のところに羽原クンのウエストポーチが投げ出されている。愛子チャンはその中から何かを取り出した。
 彼女がこちらに近づいてきて、おずおずとそれを差し出す。つるりとした石だった。煙草の箱と同じくらいの大きさ。扁平な楕円形。角がまあるくなっている。
「へへ。さっきそこの小川で拾ったんだ。長い間川の中で色々なものにぶつかっているうちに角が落ちて、こんな形になったんだろうな。ほら、ちょうどいいだろう?」
 何がちょうどいいのか、私にはピンときた。
 これを玩具にして、私をいじめようというのだ。
 これから起こる出来事にワクワクしている自分がわかる。同時にアソコがゾクゾクした。
 羽原クンは愛子チャンから手渡された小石をじっと見つめて「イヒヒヒ」と笑った。
 いつもの彼の笑顔とはまるで違った。
 私は背筋がぞくっとした。
 邪悪なものに憑かれた別の人格のように思えた。
 細長い舌が彼の唇を割って這い出し、獲物を隅から隅まで嘗め尽くさんとしているようですらあった。
 羽原クンのいつもの表情はきえている。狂気が目の端に浮かんでいた。
 イヤ!
 悪い予感がして、私は彼の顔から視線を外した。そこに愛子チャンがいた。
 恐ろしいことに、彼女の表情も変化していた。
 目がトロンとして、どこか遠いところを眺めていた。唇は半開きで、いまにもよだれが垂れてきそうだった。
 そうか。彼と彼女は、この先に展開する恍惚な世界を既に何度も何度も味わっていて、知り尽くしているんだと、私は思った。
 だから、これから行われるプレイに既に突入してしまっている。
 ちょっと怖いような気がした。きっと私の知らない世界が展開する・・・
 羽原クンと愛子チャンは私などが知りえない狂喜と狂気が入り混じったものすごいセックスをいつもいつもしているんだ。そのための新しいツールがさっき彼が拾ったという楕円の扁平な石。
 愛子チャンはそれを自分より先に私に試されることが不満だったのだ。
「さあ、Tシャツも脱いで、で、そこに立つのよ」
 愛子チャンは浴槽の中を指差した。
 なんとなく命令口調なのが気になった。愛子チャンの人格が変わってしまっている証拠だ。私はもはや対等な立場ではないのだと悟った。私は獲物なのだ。
 けれど逃げることは出来なかった。逃げたらこの先に展開する新しい世界は味わえない。私は言われたとおりにした。
 
 私は目隠しをされた。
 アイマスクではなく、タオルをはちまきのようにして目を覆い、頭の後ろでくくっただけだから、なんとなくモゴモゴする。
 泥やゴミをすっかり取り除かれて綺麗になった浴槽の中で、私は視界のないまま突っ立っていた。
 視覚を失うと、それ以外の感覚が鋭くなるという。まさしくその通りで、水栓をひねる音、蛇口から水が流れる音などが、手に取るようにわかった。
 浴槽に水が張られようとしているのだ。
「じっと立っていないとダメだよ」と、羽原クン。
 立っていることが出来なくなるような何かが起こるんだと私は思った。
「うん・・・」と、私はこたえた。
 返事をすると、早速愛子チャンが抱きついてきた。
「ね、じっとしててね」
 愛子チャンは私に身体を密着させたまま、しゃがんだり立ち上がったりした。
 肌と肌がこすれ合う。
 男の肌もいいけど、女の柔らかくて暖かい感触もいい。
 そう、とっても柔らかい。お互いの乳房が2人の身体に挟まれてつぶれる。つぶれたまま上へ下へと揺り動かされる。
 お互いの立った乳首が、相手の身体をなめ回すようにこすれていく。
「はああん」
 私は思わず声を出した。
 私はじっと立っているだけなんだけど、愛子チャンが微妙に身体を震わせながら肌を合わせるので、あっというまに全身が性器になって感じ始めた。
 次のステップは、舐め回しだった。
 足首に羽原クンの舌があてがわれ、這い上がってきた。
 膝の裏や太股の内側のように、特に私が感じるところは、スピードを変えながら何往復もした。
 じゅるじゅると流れはじめたラブジュースを、羽原クンは舌でからめ取って、それから塗りつけるようにまた舌を動かす。
 上半身の愛子チャンも、舌攻撃を始めた。
 私の身体を2枚の舌がはいずりまわった。それはでかいナメクジが右往左往しているかのようだった。
 羽原クンと愛子チャン、2人とも規則的な動きは一切しなかった。意識的にそうしているのか、それとも欲望の赴くままに動くとそうなるのか、私にはわからない。わかっているのは、受身の私にとってそれは限りなく興奮を高揚させるテクニックであるということだけだ。
 たまんない…。
 乳首は入念にいたぶられた。唇ではさまれてコリコリされながら、しかも先っちょをペロペロされる。これで感じないわけがない。膝からがくっと力が抜ける。立っていられなくなりそうなのをじっと我慢する。だって、命令は守らなくちゃ。
「ああ、もっと、もっと乱暴にして!」
 優しすぎる愛子チャンのマッサージにじれったさを感じて、私は思わず叫んでしまった。
 愛子チャンは掌で乳房を覆い、ぎゅ、ぎゅっと揉んでくれた。
 ああ、とろけそうに気持ちいい。でも、もっとなの。
「ああ、もっともっと。掴んでねじってエ。お願いいいい!!」
 途端に、下半身を攻める羽原クンが乱暴になった。
 それまでは指先や舌でこねくり回していただけだったが、いきなり指を突っ込まれた。
 1本、2本、3本・・・
 おまんこのなかで、指がぐちゅぐちゅ動き回る。
 アナルにあてがわれた指がスウーと肛門に吸い込まれた。
 合宿中、前も後ろもさんざん入れまくったから、ちょっと刺激すれば簡単に開いちゃう。ここのところ下着が汚れ気味で、緩くなっているみたいだ。
「はじめっからここまですごいオンナ、お前が初めてだよ。高校時代、無茶苦茶やってたんだろう?」
 ストレートに訊かれて、私は「はい」と答えた。
 エッチの最中じゃなかったら一応否定したりするんだけれど、全身が恍惚にとろけはじめていたので、あまりものが考えられなくなっている。
「今までで一番すごかったエッチについて、自慢話をしなさい」と、愛子チャン。
 しなさい、といわれても、私は考えをまとめて言葉にすることが出来なかった。
「ほら、あんあん言ってるだけじゃ、わからないだろう?」と、羽原クンも一緒になって責めてくる。
 水位が膝のあたりまで上がってきていた。
 最初は冷たく感じたけれども、温度もそれなりになっている。誰かがボイラーのスイッチを入れたんだろう。そろそろ夕食の下ごしらえをはじめる時間なのかも知れない。
 足もとだけだけれど、身もだえすると水圧を感じる。思い通りに動かせないもどかしさが興奮をつのらせた。
 もくもくと愛撫していた愛子チャンは、感じすぎて崩れそうになった私を、抱きとめるようにささえてくれた。そして、唇を重ねてくる。
 どちらからともなく舌を絡め合い、ぬめぬめした暖かさを感じていると、前のめりになって突き出し加減だった私のお尻に、角が取れて丸くなった石をあてがわれた。
 え? いきなりアナル・・・。
 背筋を戦慄が走った。けれど、私にはそれを拒絶することは出来なかった。身体は力が入らないほどネトネトに感じていたし、口は塞がれていた。
 愛子チャンは舌を巧妙に動かし、歯茎の裏表を入念に舐めてくれた。同時に、ただあてがわれていただけだった例の石がアナルに押し込まれる。
「ああー! いやああ〜〜〜」
 肛門の襞を逆進してくる異物の感触に、私は思わず声を上げた。
 いやと言いながら、すぐに私は感じていた。
 お尻に力が入り、押し込まれた石が外に出ようとする。それをまた羽原クンが挿入する。
 何度か繰り返すうちに、本格的にアナルの快感を呼び覚まされてしまった。
 ガクガクと身体が震えて、ぴょうんと跳ねるように勢いよく前に倒れかかった。
 支えてくれていたはずの愛子チャンを押しのけてしまう。
 このままお湯の中に突進するのかと思ったとき、後ろから手を捕まれた。
 前のめりになったまま私の転倒はそこで止まる。お尻を突き出した中途半端な格好のまま、斜め後方に上がった手を羽原クンに持たれて、全体重が腕にかかった。痛い・・・。
 足の位置を変えて体勢を立て直そうとしたけれど出来なかった。後ろから見れば丸出し状態のヴァギナに羽原クンがチンポを力強く突き刺してきたからだ。
 アナルには石が挿入されたまま。ヴァギナの圧迫感がまるで違う。異物感と快感が、いつの間にかダブルで挿入されているかのような錯覚へ誘ってくれる。石は入りきっているので肛門の拡張感はない。
 羽原クンの手は、私の腰に添えられた。腰より上の上半身は折れた状態で、最初90度の角度を保っていた私も、羽原クンの激しい攻めで、力を入れていることが出来なくなった。
 思わず水面に顔を突っ込んでしまう。どんどん湯量が増しているのだ。
 慌てて顔を上げるけれども、そのままの状態でいられない。羽原クンは私の腰に添えた手を前後に動かし、もちろんそれにあわせて突いてくるから、押し寄せる快感につい身をゆだねてしまう。
 直腸の中で石がゴロゴロと動き回って、人の手やバイブでは得られない感触を味あわせてくれる。石はどこともつながっていない独立したものだから、自由に動き回るのだ。
 快感に身をゆだねていると、どうしても顔が湯に沈む。
 そんなことを何度か繰り返していると、いちいち顔を上げるのが面倒になってきた。というよりも、気持ちよすぎて、息をするのを忘れてしまうのだ。  気持ちの良さに陶酔し、そして、息が苦しくなってやっと水面に顔を出す。
 やがてタイミングを逸して水を思いきり吸い込み、せき込むようになった。なんとか顔を出しても、一息つく間もなく快感の渦に巻き込まれて、陶酔してしまう。
 羽原クンは腰の動かし方が不規則になった。荒々しくなったと思うと、時々停止する。射精が近そうだ。
 再び愛子チャンが参加して、私のオッパイのマッサージをする。
 私の身体はそれ自体が快感の増幅器になっていてささいな刺激でピクピク震えてしまう。
 羽原クンが、おそらく出す直前の最後のダッシュをかけた。
 ドオンと激しい重圧が子宮口に何度も何度ものしかかり、固く太くなった彼のペニスが膣壁を激しくこするった。私の快感曲線も急上昇した。私の膣や腸はどうなっているのだろう。アナルの中の石は私の動きに弄ばれて暴れ回り、それが私をまた翻弄した。
「ああー、もうだめー」
 息継ぎに顔を上げようとした瞬間だったが、私はそのまま息をすることなく、水中に崩れた。ゴボゴボと肺の中に湯が入ってくる。
 それでも私は叫ぶのをやめられなかった。
「イクイクイクイク〜〜〜〜」
 自分がどういう状態かも忘れて思いきり声がはじけ飛ぶ。
 がぼがぼがぼと音を立てて肺の中に湯が追加注入される。
 どれくらい息をしていないのだろう。苦しくなってもがくが、湯が出入りするだけだ。息をしているのに息が出来ない。
「げほお!」
 喉の奥が鳴った。
 がぼがぼと悲壮な音が響く。本当に聞こえているのか、イメージの音なのかはわからない。
 溺れ死んでいく人って、こんな状態なのかしら。
 私はお湯という空中を漂う性器となって、4本の手と2枚の舌と一本のオチンチンに快楽を与え続けられる。呼吸できない苦しさはどこかへ消し飛んでしまった。
「なーんだ、水の中って息が出来るんだ」
 首を絞められながらエッチをしたときのように、私は恍惚となった。
 ふわふわと酩酊する。
 どこかがトロケて湯と同化し、また別のどこかが小刻みに痙攣をしていた。ぴゅーと液体が放出されるのを自覚したのは、失禁か潮吹きか。
 極限状態にまで感じさせられた私は体内のわずかに残された酸素を使い果たし、身体中をペニスが駆け巡った。
 いま、私は、男の人の性器によって生かされている。
 脳みそをペニスでかき回されながら私は意識を失った。
 その最後の瞬間に、光がはじけ、細胞が飛び散り、宇宙に飛散して行った。