助手席、という考え方は日本独自のものらしい。
「私の車でお送りしましょう」などと言われたとき、海外では、前の席に座るのが常だそうだ。自分一人しかいないのに後ろの席に座るのは、「おまえは、職業ドライバーだ」と言ってるのと同義語なのだと教わった。
海外では、という説明の仕方に僕は少し不安を覚えた。なぜなら、おしなべて海外ではそうだ、という保証なんてないだろうと思うのだ。こういう習慣は国によって違うはずだ。
「だって、彼女を乗せるとき、君は後ろに座らせるか? 違うだろう? 隣に座らせるに決まっている。日本で言うところの助手席は実は特等席なんだよ」
確かにそうだろう。しかし僕は今、その特等席に嫌なヤツを座らせているのだ。
教習所の教官である。
「脱輪して平気なのは教習所だけだからね。踏切で脱輪したら大変なんだよ。わかるよね。路肩すなわち蓋をしていない溝、ということだってあるんだからね。気を付けなさいよ」
気は付けていても運転技術が伴わないのだから仕方ない。
「危ない危ない。それは本当に下手ですよ、あなた」
下手だから教習所に通っているのだ。僕がちっともうまくならないのは、あなたの教えかたが下手なのですよ、とは言えない。
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