プラットホームは淋しげだった。
長くて重厚な印象を与える夜行列車が身を横たえているだけで、人通りというものがほとんどない。
隣のホームでは通勤電車が発着し、わずかな停車時間にたくさんの人が吐き出され、そして乗り込んで行く。
夜汽車のホームに人影が少ないのは停車時間が長いのと、そもそも利用者が少ないからだろう。
「心配しないで」と、ユキちゃんは言った。
「心配なのは、キミのお母さんだよ」
「大丈夫よ。一週間もすれば良くなる」
ユキちゃんの母親が入院することになり、そのかわりに彼女が実家に帰って家族の面倒を見ることになった。
「浮気...」と、ユキちゃんが言葉を漏らす。
しないでね、と言われるのかと思えば、「したかったら、今のうちにね」だって。
僕がユキちゃん以外の女の子と寝るのが平気なわけはないだろうけれど、彼女はそのことを「浮気」とすら思っていないのだと、僕はわかりはじめていた。僕にはユキちゃんしかいない、そのことを彼女は知っているのだ。
もちろんユキちゃんは、僕のことを信用なんかしていないと思う。ただ、僕にとって最終的にはユキちゃんしかいない、そのことを知っているのだ。
それはとてもはかなく淡い繋がりのように思えた。
傷を舐めあうように、僕とユキちゃんは惹かれ合っている。決してポジティブな仲じゃない。
だから僕は他の女の子と機会があるごとに寝てしまうのだ、と言えば、言い訳だろうか?
ユキちゃんを見送った後、僕は部屋に戻った。
すぐに眠りについたものの、何度も目が覚めた。目が覚める度に、隣に誰もいないことを思い知らされる。
最近はほとんどひとりで眠ることはなかった。ユキちゃんが隣にいて、手を伸ばせば届いたのだ。
朝になり、やはり僕は完全にひとりだった。
小林でも呼ぼうかと思った。彼女とはもはやセックスフレンドである。お互いに異性の身体が欲しいときに連絡を取り、都合が付いたら会って抱き合う。ただそれだけだ。他には何もない。
キャンパスですれ違ってドキドキすることもなければ、微笑み合うこともない。知らないフリをすることで、僕たちのセックスフレンドという関係は成立していた。誰にも知られてはいけない。
少し迷った末、僕は小林に電話するのをやめた。
この部屋はユキちゃんと僕との巣だし、小林とはあふれんばかりの性欲を携えてグチャグチャのセックスをするのが常だった。今はそこまでたまっていない。
でも、何となく、女を抱きたい。
「自分から声なんかかけたらダメよ。そこまでもてないんだから。でも、自分から誘ってくるような女ならいい」と、小林は言った。
そんな女、そう簡単に見つかるだろうか?
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